特集 手を動かす人たち

「からだはすべてを知っている」 東北の地でボディワークの未来をひらく

山形県 ロルフィング 大友勇太 フェスタ rolfing festa

普段の生活であまり意識することのない重力。この重力と自分のからだをバランスの取れた状態にするボディワークのことを、ロルフィング®という。日本ではまだまだ聞きなれないこのロルフィングを、色濃い文化と自然に囲まれた東北の地ではじめた人がいる。
元トレーナーで、神戸から山形に移り住んだ大友勇太さんは、神戸の整形外科で、トレーナーとしてリハビリを担当していた時、ロルフィングに出会った。ビビビときたというその出会いから半年後には渡米。技術を習得後、神戸で「ロルフィングハウス フェスタ」を開業した。昨年8月、“場”が大事だというロルフィングを、山形を中心に東北で展開しようと拠点を移動。自分の畑を耕しはじめたばかりの大友さんに、地域の働き方について話を聞いた。

写真:志鎌康平 文:森 若奈

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経験と時間がすれ違った
トレーナー時代

僕は、メジャーリーグのトレーナーになることが目標だったので、大学卒業後はインターンで1カ月ほどアメリカに行き、その後、尊敬しているトレーニングコーチに紹介してもらった、神戸の整形外科で働き出しました。

そこの院長は、野球のチームドクターだったんですが、兵庫県は野球が盛んということもあり、一日中患者さんが絶えないほどとにかく忙しかった。

そこで経験を重ねていくと、「この人は肘を痛がっているけど、問題は下半身だろうな」とか、問題点が見えてくる。そうやって自分の目は育っていくけれど、忙しくてひとりの患者さんにかけられる時間は減っていく。それは自分が引き裂かれるような思いでした。それで、独立をしようと思ったんです。

歯車が噛み合い出す
ロルフィングとの出会い

そんな時、アメリカ在住のトレーナー・佐藤博紀さんが、大阪にセミナー講師として来ることを知りました。彼はトレーナーとしてすごい方で、ずっと会いたいと思っていた。だからすぐに会いに行って、「来年また日本でセミナーする時は教えてください」と言ったら、「10年間アメリカにいたけど、もう日本に戻ってきて活動するんだよ」と。「トレーナーとしてですか?」と聞くと、「ロルフィングっていうのをするんだ」と。

その時、「ロルフィングって何だ?」と思い、一度受けてみることにしました。そうしたら、自分のからだがものすごく変化したんです。僕はずっとヨガをやっていたんですけど、例えば「背骨を一個ずつ動かす」ということを、「きっとこういうことなんだろうな」と頭ではなんとなく理解していたけど、ロルフィングをやってみて、自分のからだでちゃんとできているという実感があった。ロルフィングは本物だと。求めていたものはこれかもしれないと、ビビビときました。

おもしろいのは、これまでメジャーリーグのトレーナーという目標に向けて行動をしても、なぜかうまくかみ合わなかったことが、一気にがしゃんとはまっていって、半年後にはもうアメリカでロルフィングの勉強をしていました。

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内臓やからだの声を聞く
ロルファー™の仕事

人のからだの形や姿勢って、楽器みたいなものなんです。楽器の形が違えば、音質や音色も変わってきます。だから、からだの形自体をちょっと変えてあげると、いつもとは違う質の動きができたり、違う気持ちになったりする。例えば、上を見上げれば気持ちが楽になるような。

人が生まれたばかりのころは、からだの感覚、もっと言うと内臓感覚に従って生きているんです。「おなかすいた」は胃が空腹、「うんちしたい」は腸が老廃物でいっぱいになったから出したいということだった。素直にからだからのメッセージや要求を聞いているんですね。でも、いつからか僕らは、頭でそれらをコントロールして、「しちゃけない」と我慢することを覚えるんです。

ロルフィングは、触っている人の頭に話しかけるのではなく、からだそのものに話しかけます。それで、生まれたばかりのころのようなからだの素直な反応が出てくるのを待ちます。

「からだはすべて知っている」というのが、僕のロルフィングの基本的な考えで、からだはちゃんと自分で整っていく術を持っているんです。それをさせない制限があったら、それを取り除いていくというのが僕らロルファーの仕事です。

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からだと重力とが調和の取れた関係にあると、動くことがいつもより心地良く感じられたり、からだの不調が改善されてきたり、からだの声が聞こえやすくなるという変化が起こる。

自分と一体化した肩書きや実績を
はがしていく作業

ロルフィングを学ぶ上で一番障害になったのは、昔の自分、トレーナーだった自分です。たとえば、「某野球チームが優勝したときに3年間トレーナーをしてました」、「ワールドカップでだれだれを世話していた人の友達です」という実績や人脈だったり。そういうことで自分を大きく見せていくのが、いいトレーナーだと思っていたんです。

でも、ロルフィングの授業では、人のからだを「ただ触ってください」と言われるんです。トレーナーだった僕は、せっかくだったら治してあげたいと思ってしまう。そういう思いがあるほど優秀だと信じていたから。だから、“ただ触る”ってことがなかなかできなかったんです。でもそうすると先生が後ろからきて、「自分を空にしてやりなさい」と。

肩書き、実績、資格、人脈も含めて“自分”になっていたから、肩書きひとつ取るのも、自分の身を引きちぎられるような感じですごく痛かった。僕たちは、そうやって自分の周りにある余計なものがすべてはがして、ロルファーになっていくんです。

「からだは自然だ」
本質を追求するために山形へ移住

神戸などの都市部では、頭が喜ぶことを優先されるところがあり、一種のステータスになっているところがありました。
だから、頭よりからだが本当に喜んでくれる本質的なことを、もっと追求したい、“からだは自然”と自分で言ってるんだから、もっと自然が多いところでロルフィングをやりたいと思って、山形県に移住してきました。

ここにきてから、“自然”の概念自体も変わりはじめています。神戸での自然は、整頓されたきれいなものだったけど、こちらの自然には厳しさもある。東北の信仰も、いろんな考え方が混ざり合っていて、それが文化なんですよね。この土地の流れや文脈の中で、ロルフィングができることってなんだろうと、今は東北でのロルフィングを模索しています。僕自身のタッチも変わってきていて、それはおもしろいところだなと。

山形県 ロルフィング 大友勇太 フェスタ rolfing festa

住む場所の選択肢は
もっと軽やかでいい

日本は、土地の縛りつけが、良くも悪くもあるなと感じています。ここで生まれたんだから、ここで暮らしていかなきゃみたいな。

アメリカでは、会社勤めをずっとしていたけど、自然に還りたいからコロラドに移り住むという人がよくいましたし、そういう人が気軽に借りられる家もたくさんあった。家を建ててもこの家に一生住もうと思っていない人が多くて、日本でいうと中古車の感覚に近い。ひとつの車に長く乗る人もいるし、昔からジープにこだわってずっとジープに乗る人もいるし、ころころ変える人もいる。住む場所もそういう選択肢があってもいいんじゃないかなと僕は思っています。

指先や手のひらを使うさまざまなタッチに、自分のからだがどんな反応をするか観察するのもロルフィングのおもしろさのひとつ。

指先や手のひらを使うさまざまなタッチに、自分のからだがどんな反応をするか観察するのもロルフィングのおもしろさのひとつ。

“からだに働きかける”ボディワークを
もっと身近な存在にするために

ヨガやピラティスなど、“からだに対して働きかけをする”ボディワークを、東北で仕事にしている人はいるけど、それだけで生活ができている人はなかなかいません。僕はそこにもうちょっと動きが出てくればおもしろいなと思っているんです。岩手の人に山形でやってもらったり、僕が青森にいったり、人がちょっと動くだけでも違ってくるかなと。何か特別新しいことをしなくてもいいから、ちょっと動く。

僕は最終的にはロルフィングだけをやりたいと思っているんじゃなくて、ボディワークに携わっている人たちみんなが、もうちょっと循環するようになって、この業界が元気になったらいいなって思っています。

「今回は整形外科にまで行かなくても、からだをちょっと動かしたら楽になりそうだからヨガを受けよう」とか、もうちょっと踏み込んで、気分でヨガじゃなくてピラティスを選べたりとか。ボディワークを、その時の自分のからだに合わせて気軽に選べる、みんなの身近な存在になったらいいなと思っています。

 

ロルフィングハウス フェスタ Rolfing House festa
住所:山形県山形市南二番町12-32 宮ハウスⅡ102号室
電話:090-2954-8207
料金:10,000円/1回(90分)
時間:10:00~20:00
服装: Tシャツ、ハーフパンツなどの締めつけない楽な服装
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「からだはすべてを知っている」 東北の地でボディワークの未来をひらく
大友勇太さん おおとも・ゆうた/1984年、秋田県大仙市生まれ。中京大学体育学部を卒業し、神戸市須磨の藤田整形外科・スポーツクリニックでトレーナーとして2年半勤務。2010年4月にアメリカのコロラド州ボルダーに渡りロルフィングを学び始める。2011年11月にRolfer及び、Rolf Movement Practitionerの認定を受ける。2012年1月より、神戸の岡本にて「Rolfing House festa」を始め、2014年8月から山形に拠点を移し活動中。一児の父。
(更新日:2015.01.04)
特集 ー 手を動かす人たち

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手を動かす人たち
壮大な自然と色濃い文化が暮らしに根付く、東北の地、山形県。ここに移り住み、自ら手を動かして「暮らし」と「仕事」をつくる人たちに会い、話を聞いた。
「からだはすべてを知っている」 東北の地でボディワークの未来をひらく

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