COLUMN
あの子が故郷に帰るとき
仙田なお

ヨガ講師

第6話 『あたいを変えた、タイウーマン』

ケンカの人生だった。

10コ上の姉の影響で一緒に見ていた『ビー・バップ・ハイスクール』があたいのマニュアルだった。保育園の頃からタイマン、って言葉を使っていたらしい。

でもさ、あたいタイマンって言葉が嫌いなんだよね。いかにも男のための言葉じゃない? 対マン。女だって喧嘩するんだよ。

だからあたいはタイウーマンって言うんだ。

思い出って人それぞれ、色々あると思うんだ。思い出すことって言ったほうがいいか。
修学旅行だとか、免許取って初めて車乗った日のことだとか。あたいにはケンカ以外の思い出がない。寝るとき目つむるとさ、今までのタイウーマンがほんとついこの前のことみたいに頭に出てくるんだ。

節目節目にタイウーマンがあった。

あの、殴られた感触を忘れないうちに、あたいの中で特に忘れられない3人とのタイウーマンをここに書いてみようと思ってる。

 

『横浜 人生初めてのタイウーマン E田U子』

人生初めてのタイウーマンは小学校1年生の時の担任のE田U子。

誰かに殴られたのもあの日が初めてだった。今だったら大問題だよ。小学校の入学式で新1年生を殴るなんて。もちろんあたいが悪かったのはわかってる。隣の机の男の子がトイレに行きたいっていうのを羽交い締めにしておしっこもらさせたんだ。泣き叫ぶ男子を見て笑っている私の頬に走ったあの衝撃、未だにはっきり覚えてる。顔が取れたかと思った。取れたのを誰かが拾って戻してくれたのかもしれない。それくらいの衝撃だった。

入学式の次の日、あたいはE田U子に人生初めてのタイウーマンを申し込んだ。いいわよ。E田U子はそう答えた。あの、いいわよ、の時のあたいを見下ろす顔。夜店のお面屋さんの前を通る時、いつもあの顔を思い出す。

タイウーマンの場所は小講堂。あたいはゴミ捨て場から処分前の蛍光灯を持って行った。メッタ刺しにしてやるつもりだったんだよね。今よりタチが悪い。

E田U子は白いひらひらしたシャツに花柄のスカートで小講堂に現れた。あたいは、やーっ!と叫んで蛍光灯を振り上げて向かって行った。

すごい衝撃がまたあたいの顔面を襲った。

顔が取れたのかと思った。小講堂の天井だけがあたいの目に映っていた。

鬼のお面があたいの視界に入って来た。

「こんなもんタイマンに持って来るんじゃないよ」

そう言い残しE田U子は小講堂を去って行った。
E田U子からあたいは殴られることの痛みを教えてもらった。

 

『山形 進路を決めさせたタイウーマン O野K子』

中学校の時あたいは山形に引っ越した。

そこでも忘れられないタイウーマンがあった。

山形では敵なしだった。山形はハマより田舎だし、あたいのケンカの仕方って都会っぽかったんだよね。まず殴らせる。痛みを噛み締めて自分の拳に答えを乗せる。E田U子に殴られてからケンカの仕方が変わったんだよね。でもさ、転校二日目には番長になって、あたい天狗になってた。すぐに町で一番悪いと言われてる中学校の番長から呼び出された。

タイウーマンの場所は山間にある草むら。いかにも田舎っぽいよね。

そこに行ったらさ、すごい人数いたのよ。でもあの時はひとつもビビらなかった。1対30くらい。そしたら小学生が制服着てるみたいな小さいやつがさ、こっちに来なって呼ぶわけ。あたい、群れの中で粋がってるチビがほんと嫌いなんだよ。生意気にモスグリーンのゆったり目のパーカ羽織ってさ。で連れていかれた先が森の中。負けたらここで殺されて誰にも見つかることなく肥料になると思ったよね。

確か寒くて日が落ちるのが早い季節だったとは思うけど、にしても森の中はどんどん暗くなって、ほとんど周りが見えないくらいのとこまで連れていかれたんだよ。怖さをかき消す意味もあったと思う。あたい叫んだんだ。

「O野K子!さっさと出て来な!」って。

そしたら暗闇の中に光る目が見えたんだ。絶対に目だったと思う。人間を食べる獣の目だ、って本能で感じた。

逃げたよね。全然そんなつもりなかったんだけど、逃げてた。真っ暗の森の中を。必死に駆け抜けた。

周りが何も見えない暗闇の中、走ったことあるかい?ないだろ?ほんと真っ暗なんだ。漆黒。どれくらいの時間走り続けたかわからない。1分だったのか、1時間だったのか。この世じゃないところを延々走らされてたのかも。

気がついたらあたいは傷だらけで草むらで気を失っていた。殴られた傷じゃないんだ。草とか枝とかで切れた傷なんだよ。制服もズタズタ。保護されてもいいレベル。

目の前にあたいを案内したチビが立っていた。
「東京もんがうちらの町で好き勝手やってるって聞いてさ。これがうちらのケンカの仕方」

あのチビがO野K子だったんだ。

殴られることなく負けたのはあの時だけ。

O野K子は30人を引き連れて帰って行った。一番小さかった。あたいは泣いた。情けなくてさ。

泣いてたら、たぬきが寄ってきた。初めて見た野生のたぬきだった。たぬきはあたいに近寄ってきた。傷口でもなめてくれるのかと思ったら、クワァー!って尻尾を逆立てて威嚇してきやがった。狸にも出直してきな、って言われた気がした。あのたぬきがO野K子だったのかもね。

O野K子からあたいは自然の偉大さを教えてもらった。


『オーストラリア 巨神とのタイウーマン J』

高校出たあと海外を転々とした。森林保護のボランティア団体に入ったんだ。

団体の会長さんから、「ボランティア史上最も気性の荒い女だ君は」って言われたよね。口より先に拳で会話がしたい、それだけなんだよ。

オーストラリアに行った時、すごくむかつくやつがいたんだ。あたいさ、外人にはあまりむかつかなかったんだよ。何言ってるかわかんないし、日本人のむかつくやつのほうがよっぽどむかつくから。同じ人間なんだけど、違う生き物として接してる感じってあるじゃん。むかつくむかつかないの対象に入れてなかったんだと思う。でもあいつは違った。Jって呼ぶよ。あいつの名前なんか知らないんだ。ただYAWARAに出てくるジョディにそっくりなんだ。だからジョディのJ。

Jはあたいにとにかくいやがらせをしてきた。向こうもあたいを生理的に受け付けなかったんだと思う。食べられないキノコを食べさせようとしたり、あたいが書いた書類をヤギが食うように仕向けたり。100頭くらいの羊をコントロールしてあたいを追い込んできたこともあった。あたいが愛する自然をことごとくいやなことに使ってくるんだ。それが許せなかった。背がでかくて太ってるのに陰気なのも気に入らなかった。おおらかだろ?  普通は。

だいぶ我慢したんだよ。でももう拳で語り合うしかないと思った。あたいは何も言わず、時間と場所が書かれた自分の拳をJの前に突き出した。

次の日とうもろこし畑にJは来た。赤と茶とオレンジのネルシャツにディッキーズのチノパンだった。こいつにはコンクリの冷たさよりも大地の温もりを感じさせないとダメだって思ったんだよね。

言いたいことを日本語で全部言った。伝わったか伝わってないかは関係ない。向こうも英語でなにか言ってきた。ファックだけは聞き取れた。

あたいは自分の頬を突き出し、ほら、殴りな、とジェスチャーをした。

あたいの行動が予想外だったのか、Jは動揺してた。目を見たらそいつがタイウーマンしたことがあるかないかはすぐわかる。Jは絶対になかった。陰気なやつって一回もタイウーマンしたことがないもんなんだよ。だから陰気なんだ。

ひるんだJをあたいは追い込んだ。ほら、ほら、こいよ。殴ってこい、そこからだろ?って。

顔が取れたかと思った。

Jはおそらく人を殴ったことがなかった。力のコントロールの仕方がわからないやつのビンタほど痛いものはない。それにあの体格。

意識が戻った時、Jは泣きながら私を抱きかかえていた。

ソーリーソーリー言ってた。あたいはナイスパンチ、って言って親指を立てた。Jは自分だけが殴ったのが納得いかなかったらしく、私も殴って、とお腹を突き出してきた。あたいは殴り返すのが礼儀だって知ってるから思い切りJのふっくらしたお腹にパンチをした。そして手首が折れた。悶絶するあたいを見てJはまたソーリーソーリー号泣した。

その日からあたいとJは親友になった。

Jとのタイウーマンからあたいは外人との接し方が変わった。

Jからあたいはみんな同じ生き物、同じ人間なんだ、って教えてもらった。

 

色んなタイウーマンを経てあたいはハマに帰ってきた。タイウーマンがあたいを成長させてくれた。人としての幅を作ってくれたと思うんだ。勝った負けたじゃないんだよ。

インド滞在中にタイウーマンして仲良くなった女僧侶に教えてもらったヨガを今は日本で広めようと思ってる。

ヨガの可能性ってほんと無限でさ、ヨガを通して自分の人生振り返ったり、今の若い人たちに色々伝えたりできるんだよ。

あたいが考案したポーズが沢山あるから是非試しにきて欲しいよね。

お面屋の怖いお面のポーズ。威嚇だぬきの逆毛のポーズ。巨神に殴られ顔が取れたポーズ。他にもたくさんあるんだ。

タイウーマンヨガ、生徒募集してる。面倒くさい手続きは一切なし。

自分の拳に『入会希望』ってだけ書いてきて。

よろしく。

 

 

あの子が故郷に帰るとき
じろう

青森県弘前市出身。2006年4月に結成したシソンヌのボケ担当。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。東京NSC11期生。2014年第7回キングオブコント王者。演技力の高いコントを得意とする。著書に“川嶋佳子”名義で自身初の日記小説として書籍化した『甘いお酒でうがい』(KADOKAWA)がある。また7月からTBSドラマ『カンナさーん!』にレギュラー出演、11~12月には舞台『スマートモテリーマン講座』の出演も決定。2018年8/1~26まで赤坂RED/THEATERでシソンヌライブの一カ月公演も決定している。
http://sissonne.jp/

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