REPORT

多摩と島。東京の大自然をフィールドに観光資源を掘り起こす。
「新たなツーリズム開発支援事業」キックオフイベントレポート

東京都
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東京の自然をどれだけ知っているだろうか——。
世界有数の大都市・東京は、最先端のビジネスや文化が行き交う街という誰もが知る顔の一方で、東京都の西側にある多摩地域や伊豆諸島をはじめとする島しょ地域には手つかずの豊かな自然が広がるという意外な側面を併せ持っています。

そんな東京の自然資源を活用した新しい余暇の過ごしかたを生み出すべく、2017年に始まったプロジェクトが、「Nature Tokyo Experience」(以下、NTE)。東京都公益財団法人東京観光財団はこのプロジェクトに新たなスキームを加え、この秋、「新たなツーリズム開発支援事業」をスタートさせました。これは、多摩・島しょ地域の自然を活用した新たな体験型・交流型ツーリズム事業を、主に民間企業から募集するというもの。小さな企業でもユニークなアイデアと意欲さえあればチャレンジできる、夢のあるプロジェクトです。

2018年9月12日(水)、東京・大手町の「3×3 Lab Future」で同事業のキックオフイベントが行われ、会場一体となって、多摩・島しょ地域の新たな観光事業の可能性を探るさまざまな意見が交わされました。なかでも盛り上がりを見せたのが、実際に地域資源を活用した事業を展開する3組のゲストスピーカーによるケーススタディの発表とトークセッション。東京の自然という新たな側面に思いを巡らせる機会となったイベントの様子をお伝えします。

地域に根ざす資源を生かした
三者三様のアプローチ

まず、イベント前半では3名のゲストスピーカーがそれぞれの事業のケーススタディを発表。最初に登壇したのは、株式会社NOX Intervillage代表取締役の石山学さん。2017年、NTEに応募し、採用され、モデルプランとして実現した奥多摩町の常設型グランピング施設「Circus Outdoor TOKYO」発案の過程や、NTEへの参画で得られたメリットについて語ってくれました。

株式会社NOX Intervillage代表取締役 石山学さん。グランピングを「テントであること、ストーリーがあること、冒険心にあふれていること、フォトジェニックであること」と位置づけ、さまざまな土地でオリジナリティあふれるグランピングを展開中。


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石山学さん(以下、石山):「東京の森で“世界で一番美しいアウトドアフィールドをつくる!”を最終目標に掲げ、3年ほど前から全国各地を巡りながら、グランピングのイベントを開催してきました。そんな時、ちょうどNTEの取り組みを知り、応募してみようと。グランピングを展開するにはどこがいいだろうと、多摩・島しょのいろんな場所に足を運んだ結果、奥多摩の森のすばらしさに触れ、この地をベースに事業計画を提出しました。

グランピングのいいところは、小規模の予算でチャレンジできるところ。ホテルをつくるとしたら200億円はかかるけれど、グランピングは2500万円くらいでつくれます。そして客単価が高い。普通のキャンプ場は3000円ですが、我々の『Circus Outdoor TOKYO』の場合、一番高い部屋で15万円。アクセスが悪い場所でも開業できるし、というか、むしろ車も通らず、いろんな建物がない田舎がいい。ただ、常に台風や雨、雪といった自然環境の影響を受けやすいというデメリットもあります。

それでも、NTEに参加したことで、会社として得るものの方が大きかったですね。“東京都と取り組む事業”ということで、外部からの信用度が一気に増し、それによって協賛金をいただけたり、大手企業がスポンサーについてくれたり。自分たちだけでは出会えない、さまざまな人や企業との繋がりを持つことができました」

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Circus Outdoor TOKYOのグランピング施設。

続いて、NTEのプロジェクトではないものの、地域ツーリズムの成功事例として2組の事業者が登場。そのうちのひとつ、NPO法人earth cube Japan・代表理事の中村功芳さんは、倉敷まちなか居住「くるま座 有鄰庵」創始者で、現在はゲストハウス開業支援やまちづくりを全国各地で行っています。中村さんは街全体をひとつの宿とみたて、街のパブリックなプレーヤーを育成しながら、そのプレーヤーと共に宿泊客をもてなすことで地域が活性化していった事例を紹介してくれました。

NPO法人earth cube Japan・代表理事 中村功芳さん。古民家活用、地域おこし協力隊のメンター、DMO やインバウンドに関する講演やセミナー等全国で活動している。主催する「地域と生きるゲストハウス開業合宿」「地域で生業をつくる合宿」からは、実際にゲストハウスを開業した人が100名を超え、全国モデルになるまちづくりの拠点や生業を多く輩出している。


earth cube japan・中村功芳さん(以下、中村)
:「ゲストハウスを始めたのは、私が住んでいる岡山県倉敷の町に空き家が増え、地域の活力や魅力が停滞し、経済活動が落ちて滞在者が減少してしまったことがきっかけでした。どうにかしなきゃと。そこで空き家だった古民家を活用してゲストハウスにすることにしたんです。

施設の開業と同時に、倉敷をアピールする動画を海外の観光客目線でつくりました。こだわったのは、観光地化されたスポットよりも、地元の人の暮らしに溶け込んでいる風景やものを多く散りばめること。その方が海外の人には魅力的に思えたりするんですよね。

その結果、開業から3年で52カ国、計12万人の方が来てくれました。一軒のゲストハウスの開業が街の再興の足がかりとなったんです。ゲストハウスに集まった観光客を、街全体でもてなすことで界隈の商店が元気になり、空き家が活用され始め、滞在者が増え、地産地消が進む。こうした地域を巻き込んだ新しい宿のかたち=“地域まるごと宿”の可能性は、各地で展開できるんじゃないかなと思いますね」

 

地域と生きるゲストハウス開業合宿となりわい合宿を各地で開催し、100以上の事例が創業に成功している。

最後に登壇したのは、東京・伊豆大島初のインバウンド向け宿泊施設「CARAVAN FLAKE」を展開する株式会社CARAVAN JAPAN代表の近藤佑太朗さん。幼少期をルーマニアで過ごし、日本の大学在学中にクロアチアのビジネススクールで観光学を学ぶなど、国境を超えたコミュニティの中に身を投じてきた近藤さんは、「多様化した場づくりこそ、地域の活性化に必要」と話します。

株式会社CARAVAN JAPAN代表 近藤佑太朗さん。大学1年の夏に国際系の学生団体NEIGHBORを創設。在学中に「インターナショナルカフェ住み処」を開業。2017年に株式会社CARAVAN JAPANを創業し、代表取締役に就任。伊豆大島初のインバウンド向けの宿泊施設をオープン。地域の人と協力しながら“グローカル(グローバル+ローカル)”の場をオフラインで構築中。


CARAVAN JAPAN・近藤佑太朗さん(以下、近藤)
:「今、日本が元気じゃないのは、地方の衰退が原因。東京の地方ともいえる島しょ地域に多様化した場をつくることで、日本各地の地域活性化に繋がっていくんじゃないかという思いから、都心からのアクセスが特に便利な伊豆大島に、外国人観光客を主なターゲットにしたゲストハウスをつくりました。島に暮らす人、島外から来る観光客、運営に携わる若者の三方を間接的につなぐリアルな場をつくってみたら、開業1年目から、2631人、32カ国の人が来てくれました。これは人のプラットフォームだからこそ成し得る結果だと思います。

今後も、国内外の人が行き交う宿泊施設をつくり、将来的には日本で多拠点生活というライフスタイルを定着させたい。従来の“泊まる”という概念から、自分の家に“住む”ような感覚で利用できる場へとアップデートしていきたいですね」

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伊豆大島のゲストハウス、「CARAVAN FLAKE」の内観。

サテライトオフィス、ロケ地、フェス……
考えかた次第で広がるアイデア

後半は、3名のゲストが「多摩・島しょ地域の観光ビジネスの可能性」をテーマにトークセッションを展開。実現したらおもしろそうなこと、他の国や地域で実践されているユニークな事例、地域の人たちと良い関係性を築く秘訣……などが語られ、会場の参加者が熱心にメモをとる姿も見られました。一部を抜粋してご紹介します。

トークセッションのファシリテーターは、「Nature Tokyo Experience」モデルプロジェクト支援事業事務局の石川慶二郎さん。

石山:「今の時代、大体の仕事はどこでもできますよね。打ち合わせだって直接会わなくてもできるし。だから、ゴミゴミした都会ではなくて、多摩の森の中にオフィスがあってもいいと思う。一社だけではなく、たくさんの企業が集まればシナジー効果を得ることができるはず」

近藤:「『WeWorkに代表されるコワーキングスペースのような、コーリビング型の施設が多摩・島しょ地域にあったらおもしろいと思います。1階は大きな企業のサテライトオフィスで、上階はみんながシェアできる居住スペース。ビジターも宿泊施設として利用できるような。そんな施設を誰かやってくれたらいいなと思っています」

中村:「お二人の話と少し繋がるのですが、私は1つのスポットだけを打ち出すのではなく、多摩と島しょ、それぞれのエリアでまとまった“面”としての価値をつくってインターネットで世界に配信すると、インパクトがあるんじゃないかなと。6カ所くらい魅力的なスポットがあれば、互いに高めあったり紹介しあったりして6倍のパワーが得られる。そして、そのすべてを巡ることが、観光客のステータスにもなっていくはずです」

 

石山:「参考になるかどうかはさておき、僕がおもしろいな〜と思った地域活性の事例が、アメリカ・オレゴン州ペイズリーという小さな村で行われている通称“蚊フェス”。この地域は全米一蚊が多いことで知られ、蚊が多い夏場になると、住民が山の上に避難するほど(笑)。それを逆手に取り、『蚊に刺されるのが好きな人集まれ!』と世界中に呼びかけたところ、何と7万5千人もの人がこの村を訪れたそう。考えかた次第で地域のどんな資源にも光を当てられるということですよね」

近藤:「僕が観光学を学んでいたクロアチアは、ロケツーリズムで観光客誘致に成功した国なんです。『スターウォーズ/最後のジェダイ』や『ゲーム・オブ・スローンズ』はクロアチアがロケ地。島しょ地域で言えば、伊豆大島の砂漠や、青ヶ島の珍しい二重カルデラとか。多摩にもロケ地となる魅力的な場所があると思うので、ハリウッド映画のロケ地として誘致をすれば、かなり盛り上がると思います」

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中村:「地域の人とのコミュニケーションについて言えば、『僕1人ではできません』と積極的に言うことを覚えました。外部から来て、あまりにも仕事ができるところを見せたらダメ(笑)。街の方々に、『先輩が協力してくれないと事業が成功しません』と言ったら、『俺が育ててやる』と、すぐに関係各所に根回しをしてくれましたね。自分たちだけで完結しないこと、が大切」

近藤:「あぁ、それはよくわかります。僕も島の人に頼るようにしています。借りたいものは借りる。必要なものはネット通販で買わず、島内の商店で調達するように心がけています。そうすることで徐々に自分たちに心を開いてくれる。島の外から来て、いきなり『島を変えたい! 盛り上げたい!』なんて言うと、地元の人から反感を買うだけ。だから僕は、『多様化した場所を作りたい』としか言わないようにしています」

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多摩・島しょ地域の自然をフィールドに未知の魅力を探る「新たなツーリズム開発支援事業」プロジェクトは、現在参加事業者を募集中!(〜2018年10月19日まで)
都心とはまた違った“あたらしい東京時間”のつくり手になるチャンス。気になる人は、ぜひチェックしてみてください。

◎応募要項の詳細はこちらから

文:高羽千佳 写真:小宮山 桂

Nature Tokyo Experience

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豊かな山々に囲まれた多摩、青空と海が広がる島。日本の中心都市の顔とはちがった「東京の自然」という今までにない魅力を感じることができる多摩・島しょエリアに注目し、体験型・交流型の新たなツーリズムを開発するプロジェクト。  http://www.naturetokyoexperience.com

問い合わせ先:公益財団法人東京観光財団地域振興部 事業課
TEL/03-5579-2682
Email/chiiki@tcvb.or.jp

(更新日:2018.10.03)
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