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松山へ移り住んだ音楽家・中ムラサトコさんが生み出すコミュニティ、町と人を結ぶ表現とは?

“ぼくのいる場所はすべてローカル”がモットーの編集者、
ミズモトアキラさんが愛媛から発信するカルチャートピックス


先日、関西から来た友人を連れて、おなじみの喫茶店「田中戸」へ行ったら、三津在住の音楽家・中ムラサトコさんとバッタリ会った。 田中戸名物のかき氷を食べながら、ぼくの友達や中ムラさん、居合わせた常連のナオミさん、店主の田中くん夫妻も混じって、いつものようにくだらないおしゃべりを楽しんだ。 帰り際、中ムラさんが一枚のフライヤーをくれた。道後にある四国唯一のストリップ小屋「ニュー道後ミュージック」で、彼女が仲間のミュージシャンとともに開催する『真夏のエロの夢』というイヴェントのものだった。

 

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中ムラさんとはこんなふうに偶然顔を合わせたときなど、短く言葉を交わし合うくらいの間柄だったけれど、音楽制作やライヴ活動のほか、子どものためのワークショップを全国各地で主宰したり、テレビドキュメンタリーや映像作品に音楽やナレーションを提供したり、子育てと平行して(なんと四人のお子さんがいるお母さんなのだ)精力的に活動していることを、SNSなどを通して知っていた(しかも、この春にパートナーと入籍も果たされたばかり!)。

岐阜県出身で、東京や神奈川などで暮らし、2012年の春に松山へIターンで移住してきた中ムラさん。イヴェントについてはもちろん、彼女自身のことも非常に気になっていたぼくは、さまざまなことを根掘り葉掘り聞かせてもらった。

 

───まずここはどういうスペースなの?(※インタビューは三津浜商店街の入口にある「アトリエ・ココ/つくりたいものせいさくしょ。」という場所で行った)

 

中ムラ「陽平くん(佐々木陽平さん。彼女の夫で『真夏〜』のフライヤーデザインも担当している)が借りてるアトリエなんだよね。基本的には土日、わたしたちのスケジュールが空いてるときに来るんだけど、それ以外の日も常に開放してるから、誰でも勝手に遊んだり、絵を描いたり、自由に使っていいことにしていて」

 

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───すごいな。完全に開かれた空間なんだね。商店街を通るたび「ここはなんなんだろう?」っていつも思ってたから、積年の疑問が解けた(笑)。ところで基本的な質問だけど、岐阜生まれの中ムラさんがこの町で暮らすようになったきっかけってなんだったの?

 

中ムラ「わたしは岐阜県の飛騨高山ってところで生まれ育って、18歳で東京へ出たのね。で、3年くらい劇団にいたんだけど、つまんなくてやめちゃって。別のバイトしながら紙漉きとか木工とか植木屋とかやってたの。それで最初の子どもを生んだ頃、東欧のジプシーを描いた映画がたくさん公開されてたんだけど、めちゃくちゃカルチャーショックだったのね。わたしのやりたいことはこういう生き方だ! って映画を見てすぐに影響受けちゃって(笑)。1995年くらいだと思うんだけど、自分で太鼓を作って好きなように叩いて、それにあわせて歌ってたんだよね。イヴェントとかお祭りとかで。めっちゃ人に褒められるし、お金もお客さんからどんどんもらえたから「これで喰っていけるかも!」って勘違いしちゃって(笑)。そのときわたしが歌ってる横にまだ二歳くらいだったうちの娘がいたわけ。そんな姿を不憫に思って、お客さんたちはお金をくれたのかもかもしれないって、今になって思うけど(笑)」

 

───でもそこから本格的に音楽を生業とするようになったわけだ。

 

中ムラ「はじめはバンドを組んで、ツアーしたりしてたんだけど、メンバーだったバイオリンのHONZI(※フィッシュマンズやUAらとの活動で知られる女性バイオリニスト)が癌で亡くなっちゃって。音楽をバンドで表現することに疲れちゃって、ひとりでやることにした。足踏みオルガンや太鼓を叩きながら歌うという今のスタイルに落ち着いたのね。もちろんバンドはやめたけど、波長の合うミュージシャンやアーティストとの出会いも多いから、彼らとコラボレーションするような企画を立てたりするようになった。たとえば今度の『真夏のエロの夢』なんかは、東京にいた頃に出会った強烈におもしろい人たちと、松山で知り合ったおもしろい人たちを出会わせたいな、って思ってやってるのね」

 

───ニュー道後ミュージックでのイヴェントは何回目?

 

中ムラ「数えきれないくらいやってるんだけど、この『真夏の〜』シリーズは3年目かな。夏と冬にそれぞれやってた頃もあるから、通算5回目だと思う。友だちの白石伸吾くん(ギタリスト、松山のハワイアンバンド”ブルーラグーン・ストンパーズ”主宰)が、もともとニュー道後ミュージックの社長と仲が良くて、いろんなコラボ企画をやってたの。でも地元のメンバーだけじゃなかなか賄いきれなくなってきたみたいで、彼から『サトコさんも何かやってくれない?』って頼まれたのがきっかけだったんだよね」

 

真夏のエロの夢

 

───中ムラさんがここで暮らすようになったのは2012年って聞いてるけど、どういう理由で松山を選んだの?

 

中ムラ「三津の前に住んでたのが横浜の寿町(※戦後、多くの港湾労働者たちが集まった有名な”ドヤ街”)だったのね。「ヨコハマホステルビレッジ」っていうユニークな場所でスープカフェを経営してたんだけど、東日本大震災がきっかけで関東から離れることを決めて。どうせ移住するなら、過去にライブツアーで訪れた場所の中でおもしろかったところにしようかな、と」

 

───それが三津だったんだ。

 

中ムラ「うん、ハッと田中戸を思い出したんだよね。アキくん(※田中戸の店主、田中章友さんのこと)とはずっと昔から仲良しで。彼が以前働いていた三重県のオーガニック・レストランへしょっちゅうライヴしに行ってたんだけど、スタッフの中であきらかに異質な空気を出してたの(笑)。それですぐに親しくなって。彼から自分のお店を始めるって聞いたあと、ツアーのついでにちょっと寄ってみたら、ちょうど店がオープンした日だった。その日はぜんぜん時間がなくて、一瞬しかいられなかったんだけど、田中戸や三津の風景にはすごく感動した。それが頭のなかに蘇って。あそこに住んだら絶対楽しそうだっていう直感だけで移住してきた(笑)」

 

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───実際に暮らしてみて、どうだった?

 

中ムラ「いざこっちへ住んでみたら、生活にそれほどお金もかかんないし、食べ物もおいしいし。そのうえ人との繋がり方も、わたしが理想としてたイメージに近かったんだよね。ジャンルに関係なく、すぐ誰かと繋がれちゃうところとか。東京にいる頃にずっとモヤモヤしてたことが移住でいっぺんに解決したと思う。断然フットワークも軽くなったし。都会の良さはもちろんあるけど、そういう部分は必要なときだけ出かけて行って、いただいてくればいいし」

 

───その心地良い距離感が得られる場所だったらどこに移住してもよかった、っていうわけではない?

 

中ムラ「昔は三津もすごく賑わってる港町だったでしょ。その時代の名残で、よそ者が行き来しやすい空気感が残ってるんだと思う。寿町もそうだけど、きっとそういう町がわたしは好きなんだろうね。アキくんもさ、出会った頃からセンスのいい人だなあと思ってたんだけど、怒和島(※松山からフェリーで二時間ほど離れた忽那諸島のひとつ。人口は現在400人ほど)の出身じゃない? 高校の頃はこのへんに住んでたけど、そのあとはアメリカとかいろんなところを放浪して、よそ者目線を養ってから、三津に帰ってきた人だよね。Uターンしてくる人って、よそに住んでみたけどうまく馴染めなくて帰ってきたっていうパターンと、よその町の暮らしもめっちゃ楽しかったけど、あえて戻ってきたっていうパターンのふたつあるでしょう。彼は完全に後者じゃない? きっと、彼にとって、どう楽しく生きていきたいかっていうヴィジョンとかテーマがはっきりしてるんだと思う。彼はそういうものを自分のお店から発信しているよね。イヴェントのアイディアなんかも、町おこしするぞみたいな肩に力の入った呼びかけ方じゃなくて、ここにいる人たちで楽しくなにかやろうよ、っていうオープンな感じだから、いろんな考えの人たちが気軽に参加できる。そんなアキくんに引き寄せられたわたしも三津の魅力を周囲に発信することで、友だちが東京から引っ越してきて、レストランを始めちゃったり、ヨコハマホステルビレッジをやってた人も「ミツハマル」を始めることになったり」

 

───結局、人って魅力的な人の生活に感化されていくんだよね。

 

中ムラ「三津に住んでからのことをふりかえっても、わたしが子どもの頃から願ってたやりたいように生きるっていう生き方が毎日体現できてるなあって思う。お金に追われず、無理なくラクチンに暮らしていくことを主軸に置いて生活することが、いかに大切かを日々確認してる(笑)。そうやって生きていると、やりたい仕事だけがどんどん舞い込んでくるようになったし、子育てや生活に困っても繋がりのある人たちがいつも見守って、助けてくれるんだよね」

 

───そういえば、もうすぐ新しいアルバムができるんでしょ?

 

中ムラ「わたしには生活が音楽だ、っていうポリシーがあるんだけど、ここに住んでからは三津の風景や人に支えられてるっていう感覚があったから、それを音楽に反映させたかったのね。だから自分が商店街を歩いている音とか、渡し船のエンジン音とか、アキくんがかき氷を掻いている音とかをフィールド・レコーディングして、そこにいろんな演奏や、わたしの得意なハナモゲラ語(※タモリ、中村誠一、坂田明といったジャズ・ピアニスト山下洋輔周辺の人々が駆使する言葉遊び)の歌なんかをかぶせていくっていう作り方をした。出会った音を少しずつ貯金するみたいに加えていって、結局、完成までに三年かかったんだけど。音だけじゃなく、三津の風景を知っている人たちに参加してもらった本をCDとセットにして発表するんだよね」

 

───移住してからの中ムラさんの生活がパッケージされたような。

 

中ムラ「三津という町を素材に作ってるけれど、どこでもないというか、聞く人によってイメージする場所が変わってもいいような作品になってると思うんだけどね」

 

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彼女の話に耳を傾けながら、いつか見たなつかしい風景を思い出した。 それは中学校のとき。仲の良かったYくんの家に遠回りして帰ると、ちょっと怪しげな一角をかならず通り抜けていた。 間口の狭い二階建ての小さな飲み屋が、短い路地の両側に数軒ずつみっちりと肩を並べて立っている。昼間はひと気がなく、しんとしている。しかし、二階の軒下には女性ものと思わしき洗濯物が風に揺られていて、窓越しにテレビの音が小さく聞こえてくる。 たまにシュミーズ姿のおばさんが植木にジョーロで水をやっているところに出くわしたりして、すこしドキリとした。 遅い時間になると、ポツンポツンと一階の店に灯りがつき、ジョーロのおばさんたちが派手な花柄のワンピースなどに着替え、路地と表通りの角っこあたりに立っている───

 

子どもは近寄っちゃいけないよ、と、大人たちからやんわり注意されるような場所が昔はあったように思う。誰にはばかることなく足を踏み込めるようになった頃には、そんな場所はすっかり漂白され、気がつけば、コンビニやコインパーキングばかりの街並みへ変わってしまった。 三津も道後も、かつてはそんな怪しげな賑わいをはらんだ街だった。そんな時代が良かったからといって、巻き戻すことは誰にもできない。今を受け入れ、楽しむことだけが、よそ者のぼくらにできる唯一のことだろう。 また中ムラさんへのインタビューを終えて、帰り支度をしていたら、小学三、四年生くらいの女の子ふたりがふらりとアトリエに入ってきた。

 

女の子のひとりが中ムラさんに「プラスティックの屋根を作りたいんやけど……」と言った。中ムラさんもぼくも「プラスティックの屋根って一体なんだろう?」と疑問に思ったけど、詮索はしなかった。 中ムラさんは「用事があってすぐここを出なきゃいけないから、土曜日か日曜日に来てくれたら、わたしも手伝えるんだけどな」と答えたら、ふたりはモジモジしていたが、どうしても今すぐにやりたそうだった。 彼女たちの気持ちを察した中ムラさんは「じゃあ電気は消しとかんといかんけん、暗くなるまでやったら好きに使ってもいいよ。ここにあるものも適当に使っていいからね」と言い、けっきょく彼女たちを残して、ぼくらは帰った。

 

その「プラスティックの屋根」とやらの材料は、どう見てもアトリエには無さそうだった。女の子たちも手ぶらだったし、彼女たちが望んでるものがその日に完成する見込みはかぎりなくゼロに思えた。 けれど、彼女らが作りたいものを作ろうとすることを許してくれる大人たちや、自由に使えるさまざまな道具、イマジネーションを広げるための空間が、ふたりのすぐそばにあることが、どれほど幸せなことかということを、いつかきっと彼女たちは気づくはずだ。プラスティックの屋根が完成することなんかより、はるかにそれは素晴らしいことなのだから。

写真、文・ミズモトアキラ

 

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松山へ移り住んだ音楽家・中ムラサトコさんが生み出すコミュニティ、町と人を結ぶ表現とは?
ミズモトアキラ 1969年、愛媛県松山市生まれ、松山市在住。エディター/DJ。2013年、関東からIターン。音楽、映像、写真、デザインなどを多角的に扱い、文、編集、デザインを手がける傍ら、トークイベントやワークショップの主催も精力的に行っている。
www.akiramizumoto.com

INFORMATION

「真夏のエロの夢」
日程:2016年7月7日(木)
場所:ニュー道後ミュージック(愛媛県松山市道後湯之町18-1)
時間:20時25分〜(約1時間50分の公演。前後には通常のレギュラーショーあり)
料金:男性4,000円、女性3,000円(チラシ持参の男性に限り1,000円引き)
出演:中ムラサトコ(ヴォイスパフォーマー、足踏みオルガン)、タカダアキコ(エキゾチックダンス)、safi(バーレスク)、白石伸吾(ギター)、ささきようへい(映像,OHPJ)、おこたんぺ(コンタクトジャグリング)
https://www.facebook.com/events/137376543333552

(更新日:2016.06.27)
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