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職人を支えていた足場が、暮らしを支える家具へ。「世界は “ここ”だけじゃない」と、思いを馳せる家具@愛媛県・今治市

瀬戸内海に面した愛媛県今治市は、タオルの生産で有名ですが、日本でも屈指の造船所が集まる「造船のまち」であることはあまり知られていないかもしれません。そんな今治の地で、70年以上に渡り世界を往来する船をつくり続けている「浅川造船」をはじめとする3社の共同プロジェクトとして、船の建造過程で足場板として活用されてきた木材を使った新しい家具ブランド「瀬戸内造船家具」が誕生しました。

浅川造船が本社工場を構えるのは、古くから造船が盛んで、海運の拠点であった波止浜(はしはま)という地域(※旧波止浜町・昭和30年に今治市へ編入)。波止浜港内には「今治造船」「新来島どっく」「檜垣造船」など主要な造船会社の本社や工場が集まり、瀬戸内海に面する港町には今でも古い町並みが残っています。

そんな船のまちでつくられた新造船が初めて海に浮かぶ儀式である「進水式」は、毎回地域をあげて、お祭りのように盛大に執り行われます。
一方で、船の誕生と共にその役目を終える存在、それが「足場板」です。今ではアルミ製の足場板を使うことが増えたものの、狭い場所での作業には短く切って使うことができる木の足場板が必須で、その消費量は一隻につき約10,000枚にものぼるといいます。

そして、建造の過程で職人さんの命を支える足場板は、少しでも割れが発生するとすぐに廃棄に回されます。そんな足場板の古材を新しく生まれ変わらせられないかと考えたのが、「浅川造船」で東予製造部部長を務める村上賢司さんでした。

「造船の現場で使われる足場板は一般的なものよりも厚みがあり、また、ワイヤーで縛った跡やペンキが飛び散った跡など、独特の風合いを持っています。そんな造船所の足場板だからこそ、魅力的な家具として、今度はたくさんの人の暮らしや生活を支えるものにしたい。そうして生まれたのが『瀬戸内造船家具』です」(村上さん)

造船業は「船」自体にスポットライトが当たりがちですが、華やかな船は、造船所で働く職人さんたちの技術と努力の賜物であることを忘れてはいけません。足場板は、そんな職人さんたちの命を守るためのものであるからこそ、少しでも割れが発生すれば定期的に取り換え、結果的に廃棄に回される板が増えてしまいます。そんな足場板の古材一枚一枚が、「職人さんの命を守る」という使命を全うした証なのです。
その古材が生まれる背景が、足場板にあって、他の古材にはない魅力なのかもしれません。

ある本の一節に、こんな言葉があります。

“私が東京であわただしく働いている時、その同じ瞬間、もしかするとアラスカの海でクジラが飛び上がっているかもしれない。”

引用:『旅をする木』/星野道夫

日常の中でふと、ここではないどこか遠くのことを想うと、きゅっと縮まって硬くなっていた心が不思議なほど柔らかくなることがあります。それはきっと、「世界は自分が目にしている“ここ”だけではない」ということに気づくことができるからなのかもしれません。

瀬戸内の強い潮風にさらされながらも職人の命を支えた足場板の家具から、どこかの海に浮かぶ船へ想いを馳せる。「瀬戸内造船家具」は、日常生活にそんな気持ちの広がりをもたらしてくれるでしょう。

目まぐるしい日々の中、例え部屋から出られない生活が続いたとしても、大海原を旅するようなおおらかな気持ちで過ごせる。そんな家具と共に暮らしてみませんか。

(更新日:2020.06.30)
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