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写真家・大森克己さんの連載がはじまります!

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昨年の夏の終わり頃、写真家の大森克己さんから「素敵なクラシックの楽団があるんだよ!」という便りが編集部に届きました。それは、ヴァイオリニスト・森悠子さんが主宰する「長岡京室内アンサンブル」という室内楽団。

この楽団が奏でる音楽に出会い、魅了されたという大森さんによる「長岡京室内アンサンブル」をテーマにした新連載が今月よりスタート! 森悠子さんとメンバーたちの練習、次の世代をになう音楽家たちの育成教育、コンサートなど、さまざまな現場から、長岡京室内アンサンブルが“音楽”と向き合っている姿を、写真と文章でお伝えしていきます。

写真・文    大森克己 

 


 

1961年、自動車産業真っ盛りのアメリカ、ミシガン州の南東部、デトロイトの ブラック ミュージック レーベル、モータウンからの初めての全米 No. 1ヒットとなった マーヴェレッツの “ Please Mr. Postman “ という曲を知っていますか? 戦場に赴いた恋人からの手紙を首を長くして待つ若い女性の気持が切なくもエネルギッシュに歌われるその歌が、2年後海を渡り、ガールフレンドからの手紙を待つ少年の立場から歌われた曲に姿を変え、イギリスの港町、リヴァプールのロックンロールバンド、ビートルズによってシャウトされ、さらにその11年後、再びアメリカに里帰りして、カリフォルニアのカーペンターズによってカヴァーされる。

 

恋人からの便りを待つ若者の胸がドキドキしている状態は普遍的なものに違いないのだけれど、それぞれのヴァージョンからは、それぞれのバンドが活動する土地の空気感や息吹が伝わってきて、音楽から立ち上がってくる風景や時間はそれぞれにユニークだ。( 聴けば瞬時に感じ取ることのできるその違いを、ことばで記述することは、なかなかに難しいのだけれど)

 

もちろんクラシック音楽の世界にも、世界中のいろんな場所にさまざまな楽団があって、それぞれの土地に根ざした独特の響きを持っている。2015年2月16日、東京文化会館で開催された「長岡京室内アンサンブル」という楽団のコンサートは、ボクにとって音楽というものの捉え方を根本から変えてしまった事件だった。

 

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黒を基調に統一されたシックな衣装で登場した彼らが最初に奏でるのは、モーツァルト(1756〜1791)が弱冠20歳の時に書いた セレナード第6番 ニ長調 「セレナータ・ノットゥルナ」 K.239。

 

まずびっくりするのはメンバーの並び方。指揮者を中心に半円形に客席に向かって並ぶのではなく、ステージ上に14人のミュージシャンが3つのかたまりに分かれて、ゆるやかな円を作って向かい合って立っている。チェロはステージの左側から中心に向かって座り、つまり客席からは彼の右側が真横から見えている状態だし、ほとんど客席に背中をむけているプレイヤーもいる。指揮者の姿は見当たらないのだが、一体どうやって音を合わせるのだろうか? この並び方にはどんな意味があるのだろうか? そんな疑問が浮かんだが、晴れがましいティンパニーの連打とともに音楽がはじまるやいなや空中に浮遊する透明な音の重なりがステージ上だけでなくホール全体を包み込んで行く。

 

そのハーモニーは決してぼんやりとした塊ではなく、ひとりひとりが弾いている弦楽器のフレーズの躍動を明確に聴き取ることができる。主旋律を奏でる第一ヴァイオリンの音だけでなく、内声部のさまざまな音もはっきりと。若い楽団員同士が生き生きとした表情、そして自在なアゴーギク(テンポやリズムの変化)で音楽によって会話しているさまは、とてつもなくスリリングで音楽とは言語なんだな、ということを改めて思う。

 

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いままで、何度もモーツァルトや数多のクラシック音楽を聴いて美しいと感じたことはあったけれども、それはどこかしら自分から遠いもので、音楽と自分を隔てる薄い膜のようなものの存在をいつも感じていた。しかし、200年以上も前のフランス革命前夜のヨーロッパで書かれた音楽が、いままさに、遠く離れたこの日本で生々しく現代的に響いていることにとても不思議な、新鮮な気持ちになる。まるでモーツァルトが直接自分に語りかけて来ているようだが、既にモーツァルトという呼び方はよそよそしく、会ったことはないけれど、親愛なる気持ちを込めて友人に話しかける時のように「ヴォルフガング!」とファースト・ネームで応答したい。プログラム最後のバルトーク(1881〜1945)の「弦楽のためのディヴェルメント」が終わり、楽団員の弓が弦から離れて宙に上がった状態は、永遠のように感じられ、その美しい響きの残像に圧倒されたボクは夢見心地でいた。その場にいる演奏家と観客の全員が、見たことの無いとても清い場所に一緒に行って帰ってきたかのような素晴らしい時間だった。こんなに凄い楽団が日本の、しかも長岡京という地方都市に存在する事にびっくりして、うれしくなった。それまで彼らによって録音されたヘンデル(1685〜1759)やモーツァルト、ブリテン(1913〜1976)、ヒナステラ(1916〜1983)などの演奏に CD を通して親しんでいたので、期待していたのはもちろんなのだが、予想をはるかに上回る生演奏の輝きに触れたボクはその時以来、彼らの音楽がどのように作られ、生み出されるのかをどうしても知りたくなった。その音楽の現場を見たくなった。確実にそこは何かの最前線であるように思えるから。

 

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さて、きたる2月6日(土)京都府長岡京記念文化会館にて長岡京室内アンサンブルのコンサートが開催されます。(11月には東京、松江などを巡る結成20周年ツアーも予定!)

 

 L.モーツアルト(E.アンゲラー)「おもちゃの交響曲」、ハイドンの「ヴァイオリン協奏曲 第1番 ハ長調 Hob. Ⅶ a-1」(ソリスト・石上真由子さん)と「チェロ協奏曲 第一番 ハ長調 Hob. Ⅶ b-1」(ソリスト・金子鈴太郎さん)、モーツァルト「ディヴェルメント ニ長調 K.136」「音楽の冗談 K.522」という挑戦的なプログラム。

 

「おもちゃの交響曲」は、長岡京室内アンサンブルの音楽監督、ヴァイオリニストの森悠子さんが主催されている、こどものためのワークショップ「プロペラプロジェクト」に参加した40数名のこどもたち(幼稚園児から中学生まで)との競演。サッカーの選手入場のときに選手たちがこどもたちと手をつないでフィールドに姿を現すのを、いつもうらやましく思って見ていたという森さんが「そうだ、音楽ならば一緒に演奏することができるじゃない!」と2013年からはじまったプロジェクトで、年2回行われ、1月10、11日の2日間、第6回目の講習が、今回のコンサートのための練習も兼ねて行われたばかり。(今回掲載している写真はその時に撮影されたものです)

 

初日の朝には、ただ「ヴァイオリンを持つこどもたちってかわいいな!」と感じていたのですが、2日間の講習が終わる頃には、彼らの奏でる弦の音が、森さんの指導とアドヴァイスによって、みるみるうちに「音楽」に成長していくのを目の当りにしたのです。そんなメンバーが一堂に会する演奏会、ぜひその音楽を体感しに訪れてみてください。

 

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(更新日:2016.02.02)
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