ある視点
特徴のある物件だけが並ぶ、ちょっとマニアックな不動産屋「R不動産」。
彼らが住まいの次に注目したのは、日常の風景をたのしむ“旅”でした。
暮らしの中にある美しさや、手付かずの自然が残る風景を旅するために、土地の日常に入り込んで、まるで家にいるみたいにくつろげる宿がほしい……
そんな思いからはじまった「R不動産」の金沢での宿づくりの様子やコツを、
6回にわたりレポートしていきます!
vol.3 気になるお金の話を少し
なんとか夏休みにオープン!
金沢の宿、先日なんとかオープンにこぎ着けました。
当初は、7月中旬を予定していたのですが、ジワジワとずれ込んで……。7月中にはなんとか、と思っていたけれど、最終的には8月第1週の終わりに。
きっと、皆さんすでに旅行の予定を立てちゃってるだろうけど、夏休みに少しでも使ってもらえたらと思って、頑張りました。
名前は「橋端家(はしばや)」。
橋場町というところにあって、ひがし茶屋街へ5分、兼六園が7分、近江町市場まで10分ぐらいと、街歩きが楽しめる場所です。
浅野川が近いので、川べりを散歩するのも雰囲気が良くてお薦め。
小さくてボロボロだった町家をリノベーションしてつくった、一棟貸し切りスタイルの宿で、人数は6人まで泊まれます。
ご興味ある方、金沢行こうかと思ってた、という方は、こちらからぜひ。
ご予約お待ちしてます。
地獄のDIY合宿
しかし、スケジュールのギリギリ度合いも厳しいものがあったのですが、なんといってもつらかったのは、連日35度を超える猛暑の中でのDIY作業でした。
色を塗ったり、庭をつくったりと、今回は最後の仕上げを自分たちの手で。
ほぼ熱中症の状態でクラクラしながら、なんとか完成の日を迎えました。
で、なんでそこまでしてDIYをしたかというと、工事費を抑えるため。
といいたいところなんですが、東京から行っちゃってるし、宿泊費もかかるし、何よりも人件費いくら? って考えたら、コスト削減の効果は怪しいところ。っていうか、むしろコストアップ?
ですが、何が足りないかとか、宿のオペレーションどうするかとか、あれこれ考えたり話し合ったりしながら、みんなで作業したのには、多少の意味があるかもしれません。
いや、ウソでもいいから、意味があったと言ってほしい……。
そんな猛暑の日々でした。
いくら掛けるか?
当初、ボクらは工事費の目標を300万円と設定していました。
それは、これまでの経験からこのぐらいはいけるだろうと踏んでいた、ということとは別に、もう一つの理由があります。
物件探しツアーを終えた夜、みんなで集まって、利用してほしいお客さんの層や、1泊あたりの単価と掛かるコスト、そして稼働率などを想定して、このぐらいがギリギリだろうと計算をしていたのです。
もちろん、もっとお金を掛けて高級感を出すという手もあります。
でも、ボクらがつくりたかったのは、家で過ごすように気軽に泊まれる宿。
だから押さえるポイントは押さえながら、コストも抑えて、宿泊費があまり高くならないようにしたい。そう考えていたのです。
ちなみに、金沢なので300万円ぐらいを目指しましたが、他の場所だともっとコストを下げなければ宿泊費と合わない場所もあるでしょう。
今回は、ボロボロで風呂もない状態の物件に、自分たちで手を入れましたが、もっと状態の良い建物じゃないと採算が取れない場合もあるかもしれません。
あるいはまったく逆で、すごくお金を掛けて、宿で過ごす時間を旅の目的にしてもらうことで、成立しているという例もあります。
泊まる人に何を楽しんでもらうのか、そのためにどんな空間であるべきか、コンセプトを考えるところから宿づくりがスタートです。
気になるお金の話をもう少し
さて、工事費のことはけっこう気になるのでは、と思うのでもう少し補足を。
今回、一番お金が掛かっているのは設備の部分。
風呂のない物件でしたが、スペースとコストの関係で浴槽を付けずにシャワーだけを設置しました。このユニットバスが30万円ちょっと。
それから保健所の許可の関係で、洗面所が要るのですが、もともと台所だった部分にステンレスのキッチンを入れて、洗面所にしてます。これが10万円強。シャワー、脱衣所と、この洗面所を合計して70万円ちょっとというところ。
そして、地味にお金が掛かっているのが、非常灯とか非難ための誘導灯などの電気関係。30万円ちょっと掛かってますが、これも役所から指示があるので必要な出費です。
他は大きくドカンと掛かっている部分はないですが、例えば解体工事が25万円とか、廃材処分も8万円ぐらい。扉を新規で付けるのは1カ所2~3万円、とか。
ちなみに、ガスをプロパンガスにしたので、配管とかガス器具を無料で提供してもらうことができました。といってもその分はランニングのコストに乗ってくる計算ですが、初期費用を抑えたい場合の手としては有効です。
削るものと、足すもの
こまごまと工事費のことを考え始めると見失いがちですが、何を削るか、あるいは何をお客さんに提供したいか、というのを考えるのは重要なポイントです。
例えば、今回は無理をしてでも整えたかったのが庭。
小さいけれど庭が楽しめるのは、町家ならではかなと思ったので頑張ったポイント。知り合いの桝井淳介さんにデザインをしてもらいました。
あとは自転車も置いていて、これも小さいけれど好評のよう。
逆に削ったもの。
風呂はシャワーのみにしました。スペースのバランスもあるし、歩いて6~7分のところに、浅野川に面していい感じの銭湯があるので、ここを使ってもらうのも良いかなと。
キッチンは、洗面所という扱いだし、コンロを付けてないので、食器は洗えるけど料理はできません。ここは少し迷ったポイントですが、金沢にはおいしい店が山ほどあるので、カット。
ちなみに銭湯の川向かいに、金沢R不動産の人たちがやってる「嗜季」という素敵な料理屋さんもあってお薦めです。
食事の提供はしないけれど、その分一棟を独り占めして気ままに楽しんでもらいたいし、何よりも街の中に欲しい機能は充実しているので、無理に宿で全てを満たそうとしない方が楽しめるはずです。
金沢のように充実した街じゃなくても、例えばあそこに行くとおいしい野菜を分けてもらえるよ、とか、ちょっと足を延ばしてあの店でパンを買って朝ごはんに、とか、そんな情報を頼りに地域全体の魅力を感じてもらうのがポイントかなと思います。
そうやって一棟貸し切りで、住むようにその場所を楽しんでもらう。
そんな旅をしてもらえたらと思うのです。
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千葉敬介
ちば・けいすけ/1972年、東京都・大田区生まれ。大学で建築を学んだ後、建築家に師事。設計事務所、CGプロダクション勤務を経て、フリーランスに。グラフィックデザイン、CG製作などを行う。2005年より東京R不動産で活動。他に密買東京、団地R不動産などの運営に携わる。
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