ある視点

特徴のある物件だけが並ぶ、ちょっとマニアックな不動産屋「R不動産」。
彼らが住まいの次に注目したのは、日常の風景をたのしむ“旅”でした。
暮らしの中にある美しさや、手付かずの自然が残る風景を旅するために、土地の日常に入り込んで、まるで家にいるみたいにくつろげる宿がほしい……
そんな思いからはじまった「R不動産」の金沢での宿づくりの様子やコツを、
6回にわたりレポートしていきます!
vol.2 物件選びのポイント
お宝!?ボロ物件
「おーっ!!これヤバくない!?」
「1軒目だけど、もう決めちゃうか!」
いきなりハイテンションで始まった、物件探しツアー。
実際、最初に見たこの物件が、ここ金沢でボクらが運営する宿の第1号になるわけですが……。
とはいえ、普通の人から見たら「何!?このボロ物件!!?」
みたいなことになるのかも。
雨漏りはしてるし、ふすまも壁も、至る所がビリビリのボロボロで、今どき見かけないトタンの外壁は、これでもかってぐらいに錆びています。
でも、ボクらにはそれが掘り出し物の“お宝”に見える。
「庭まで付いてるぞー!」と、向こうで窓を開けたメンバーが歓喜の声を上げています。

(これがボクらのお宝物件。ボロボロだけど、入った瞬間にみんなが可能性を感じてしまいました。)
物件選びにはポイントがある
3月の初め、まだ肌寒いこの日。
お昼を過ぎた頃、「金沢R不動産」のオフィスにパラパラと集まり始めたメンバーたち。その数、総勢10人ほど。金沢メンバーとの挨拶もそこそこに、さっそく車に乗り込むと物件探しツアーがスタートです。
あいにくの雨模様。
時にザーッと、冷たい雨が降る中でのツアーに、メンバーのテンションも少し低め? と思ったら1軒目からいきなりのハイテンションに、自分たちでもちょっとビックリ。
この日、金沢のメンバーが集めてくれていた物件は、全部で4つ。ボクらは事前にいくつかの条件を挙げて、物件のセレクトを頼んでいました。
そしてこの条件の設定こそが、建物を宿として使おうとするときに重要なポイント。逆に、最初の段階でいくつかの基準をクリアしておけば、その後の手続きなどがグッと楽になるのです。
ということで、今回はそんなポイントを簡単に紹介します。

(下見だけど、その場であれこれブレスト状態。すでにかなり気持ちが盛り上がっちゃってます。)
「住居専用」に注意
まずは立地。
というと、なんだかいかにも不動産屋っぽくて、普通のことを言うなぁ、と思うかもしれません。もちろんアクセスや周辺環境などはとても重要ですが、そういう一般的な条件と別に、宿にする上で絶対に外せない条件があります。
それが「用途地域」というやつです。
特に街中で宿をやろうと思ったら、この用途地域はまず初めに見ておく必要があります。なぜって、後からどんなに手続きをしても、ダメなものはダメ。こればっかりは変えることができないからです。
用途地域は、指定されている場所とそうでない場所があるのですが、指定されている場合には「工業地域」とか「商業地域」とか、12種類ある中のどれかになっています。
で、宿ができないのは「住居系」と呼ばれる4つの用途地域。
どれも「○○住居専用地域」という名前になっているので、「住居専用」ってなってたらダメなんだな、と覚えておけばOKです。
そして、確認の方法も簡単。
市役所など、管轄の役所に電話して「用途地域教えて」と言えば、担当の部署につないでくれます。あとは建物の住所を伝えれば、すぐに教えてくれるはず。最近ではネットでも確認できるところが大半です。

(そして現場が始まりました。8月初旬オープンに向けて頑張ってます。後半はDIYで……。)
大きくてもいけない
もうひとつのポイントは面積。
これも普通っぽく聞こえますが、広くて安いのがいい、という話ではなくて100平米を越えない建物がいいのです。
建物を新築するとき、必ず役所に申請をするのですが、その時に建物をどんな用途で使うのかを、あらかじめ決めます。例えば、この建物は家として使うとか、事務所として使うとか、あるいは店舗とか。で、その用途で使わなければいけない、というのが基本のルール。
だから、ボクらのように一軒家をまるごと宿で使おうと思ったら、家だったものを宿としての用途に変更しなければいけません。これを「用途変更」といいます。
で、真面目にやろうとすると、これがけっこう大変で……。
特に、ボクらみたいに古くて味のある建物で用途変更をしようと思っても、建てられた時の申請内容がほとんど分からない。だから変更のしようがない、なんてことがしばしば。
でも100平米以下の用途変更の場合には、特別な手続きが必要なくて簡単に変更できる、という、うれしいルールがあるのです。
ま、そうじゃなくても一軒家をまるっと貸し切りで泊まれるようにしようと思ったら、大きくなるほど改装などのお金がかかるし、広いから10人で泊まれますよっていっても、そんな大人数で旅する人は少ないので、面積が余ってしまう……。ということになるのです。
そんな意味でも、建物は100平米まで、ということで。

(2軒目は犀川から程近い平屋へ。あの物件も面白く使えそうだった。2軒同時進行も本気で考えたほど。)
コストも大事
さて、話を金沢に戻します。
今回4軒見た中で、ボクら的には最初の2軒が大ヒット。
「どっちにするかー?」、「いや両方やっちゃおうよ!」なんて、早くもアツく議論しながら物件ツアーが終了。さすが金沢R不動産、いいセレクトで楽しませてくれます。
で、ボクらの場合は一応プロの端くれなので、バカみたいに盛り上がっているように見えて、全員がコストのこともその場でめちゃめちゃ考えながら検討してます。
もう全員の頭の上には、吹き出しがホワホワと出ているのが見えるよう。ツアーが終わるとさっそく会議です。
「普通にやると1,000万近く行っちゃうねー」
「でも、収支考えると300万に抑えたいよね」
「できるか?」
「やるでしょ」
まぁ、このあたりはもう10年も一緒にやってるので、みんな感覚に大きなずれがないのが楽なところですが、普通の人の場合にはそうもいかないところでしょう。
なので、次回はボクらがどんなことを考えて、どんな工事をしたかを中心に、コストのことを考えてみようと思います。
ちなみに、金沢の宿は8月初旬のオープンに向けて、現在絶賛工事中。きっとこの記事が公開される頃、ボクも金沢でペンキを塗ったりしてると思います……。
そんな様子や、オープン前の「お試し宿泊モニター」の募集など、ご興味あれば東京R不動産のサイトものぞいてもらえたらうれしいです。

(兼六園の裏手には、こんな素敵な物件も。真剣に検討したけど、広すぎてうまく生かせなかった……。)
-
千葉敬介
ちば・けいすけ/1972年、東京都・大田区生まれ。大学で建築を学んだ後、建築家に師事。設計事務所、CGプロダクション勤務を経て、フリーランスに。グラフィックデザイン、CG製作などを行う。2005年より東京R不動産で活動。他に密買東京、団地R不動産などの運営に携わる。
バックナンバー
-
vol.1
-
vol.2
-
vol.3
ある視点
-
それぞれのダイニングテーブル事情から浮かび上がってくる、今日の家族のかたち。
-
一番知っているようで、一番知らない親のこと。 昔の写真をたよりにはじまる、親子の記録。
-
「縁側」店主河野理子どんなものにもある、“ふち”。真ん中じゃない場所にあるものを見つめます。
-
「読まれるつもりのない」言葉を眺めるために、“誰かのノート”採集、はじめます。
-
不確かな今を、私の日々を生きていくために。まちの書店さんが選ぶ、手触りのあるもの。
-
美術作家関川航平ほんのわずかな目の動きだって「移動」なのかもしれない。風景と文章を追うことばの世界へ。
-
徳島県・神山町に移り住んだ女性たちの目に映る、日々の仕事や暮らしの話。
特集
最新の記事
-
ニュース【ウェブマガジン「雛形」更新停止のお知らせ(2022年4月30日)】ウェブマガジン「雛形」は、2022年4月30日をもって、記事の更新を停止いたしました。 (「ウェ […]
-
特集迷いながら、編む。 ーメディアの現在地どんな人にも、暮らしはある。すぐには役に立たないようなことも、いつかの誰かの暮らしを変えるかもしれない。/雑誌『暮しの手帖』編集長・北川史織さん北川史織さん(雑誌『暮しの手帖』編集長)
-
特集迷いながら、編む。 ーメディアの現在地立場をわきまえながら、どう出しゃばるか。「困っている人文編集者の会」3名が語る、本が生まれる喜び。柴山浩紀さん(筑摩書房)、麻田江里子さん(KADOKAWA)、竹田純さん(晶文社)