INTERVIEW

【平田オリザさん、兵庫県豊岡市・移住計画】負ける気がしない。豊岡が世界と戦える理由。(後半)

兵庫県
平田オリザ
劇作家
居住地: 東京都→兵庫県豊岡市

「平田さん、これ全部実現可能な夢ですね」
とある晩、兵庫県豊岡市の若手経営者が、飲み会の席で平田オリザさんの構想を聞き、発言したことばだ。

世界的に活躍する劇作家・平田オリザさんが2019年、兵庫県豊岡市に移住をする。平田さんは生まれも育ちも東京。目黒区駒場にある「こまばアゴラ劇場」を活動の拠点にしていることから、生粋の東京人というイメージを持つ人もいるかもしれない。

「田舎暮らしはオリザさんには無理ですよ」、冗談半分でそんな風に言われることもあるそうだ。ではそもそも、平田オリザさんはなぜ豊岡市に移住を決めたのだろうか。

それには、冒頭の「全部実現可能な夢」が多分に関係してくる。
地方の小さなまちに、日本トップクラスの劇団が所属する小劇場をつくる。
フランスのアビニョン演劇祭に匹敵する世界最大の国際演劇祭を開催する。
演劇やダンスが本格的に学べる日本で唯一の国公立大学を開校する。
これら夢のような構想を、平田さんは本気で実現させようとしている。

「負ける気がしない。勝ち目があるから移住するんです」
その真意を聞いた。

写真・文:山根 晋

>>【前半】平田オリザさんインタビュー:「演劇」はまちの在り方を変えていく。

演劇界トップクラスの劇団ごと移住
その先に見えること

豊岡は非常にリベラルでオープンなまちです。僕の仕事からすると、まちの規模が適正で、教育にしても手応えを感じやすい。そういう意味で、まず個人的な仕事のやりがいを求めて、豊岡に移ってくるというのがありますね。

また、豊岡は地方とはいえ、劇団員が食べていくための職もあります。劇団をメインにしながらも、城崎の旅館で働いたり、農業をしたり、他の仕事をしながらも食べていくことができる環境です。いま、城崎の旅館のみなさんとも、劇団との両立を配慮していただける雇用形態について協議をしています。うちの劇団員たちは、接客はうまいので、城崎の旅館で働きながら演劇をする劇団員も出てくるんじゃないかと思っています。

今回は、僕だけでなく、僕が主宰する劇団「青年団」ごと引っ越すので、まずは、劇団員が20人ほど移住する予定で、家族を入れると4、50人になります。それで成功すれば、もっと移住してくると思います。

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市民劇みたいなもののお手伝いできると思いますが、具体的に劇団が地域に貢献できる事例をあげると、例えば城崎温泉から車で40分ほどの場所にある、出石(いずし)という地域があります。そこの課題は、観光客の滞留時間が極端に短いこと。名物である出石そばを食べたら、すぐ城崎温泉に行ってしまうことです。
そこで、出石にある近畿最古の芝居小屋「永楽館」を活用して、うちの劇団員に講談ができる人がいるので、講談をしようという話が出ています。そういう事例が増えると、お客さんが滞留して消費が生まれることにも貢献できるのではないかと考えています。

ローカル線徒歩圏内に
誕生する
小劇場

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キャプション

昭和10年に建設されたモダンな建物。ここが、劇団「青年団」の事務所と劇場に生まれ変わる。

「青年団」の事務所を移転しようと予定している場所は、豊岡市日高町にある豊岡市商工会館です。JR山陰本線の「江原(えばら)」駅も近く、利便性も良いので、案内されてすぐに決めましたね。事務所としてだけでなく、小劇場としても活用できる。

実は、ほかにも駅から徒歩5分圏内に複数の小劇場をつくりたいと思っています。近くに立派な旧酒蔵と米蔵があるので、そこを改装できればと考えています。

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創業約250年の歴史を持つ『友田酒造』の酒蔵の改装を検討中。「酒造りの道具などを残して、趣きのある空間にできたらいいですね」と平田さん。

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「利用価値を見出していただいて、使ってもらうのは喜ばしい」と、友田酒造のご主人。

お酒の醸造技術って当時とても貴重ですごいものだったんです。今でいう、化学の知識がないとできなかった。だから醸造業というのは、知的な産業だったんですね。しかも、おそらく但馬杜氏というのは、日本一の杜氏の集団じゃないですかね。
冬の農閑期は、杜氏として出稼ぎに行くので、最先端の上方の情報を見て帰ってくるんです。それが、但馬の文化を支えてきているんです。

先日、この地域の長老の方々と飲む機会がありました。以前はグンゼの工場があって、駅のこっち側とあっち側に多くの商店があったようです。その方々は、当時の賑わいを知っています。なので、うちの「青年団」の移転は最後のチャンスだと(笑)。
ただ、外国のアーティストもたくさん来ることになるので、少し不安そうな空気になったのですが、ある方が「昔はグンゼの工場があって、日本中からたくさん働き手が来て盛り上がっていたのがそもそもの江原なんだから、それが海外からに変わるだけだ」と言われたんです。それは頼もしかったですね。
でも、僕は江原の方たちに言ったんです。「うちの会社は零細企業なので、経済波及効果はそんなにないです」と。「ただし、劇団員は宵越しの銭は持たないので、消費はします」と(笑)。

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世界最大の演劇祭を。
豊岡なら世界と戦える。

具体的に構想しているものとしては、2019年から豊岡で国際演劇祭の開催です。それを20年かけて「アビニョン演劇祭」(南フランス)に匹敵する演劇祭にするというのが目標です。「アビニョン演劇祭」というのは、世界最大の演劇祭なんですが、アビニョン自体は、人口9万人ほどの小さな城壁都市です。一方、豊岡も人口8万人ほどですから、規模としても似通ったイメージが持てます。

その「アビニョン演劇祭」では、1カ月間に1,000以上の演目をやるんです。そのうち、演劇祭がお金を出して正式招待作品として呼んでいる演目は、20、30ぐらい。それ以外は全部フリンジと呼ばれる自主参加の劇団による演目です。朝の9時から3時間おきに演目があって、まち中の納屋とか教会が全部時間貸しをしていて、それらが全部劇場になるんです。

その期間中は、建物の所有者は外にバカンスに出ていて、そのあいだ家賃収入も入ります。そこに世界中のアーティストが集まってきて、ちょっと評判になるとブロガーたちが見に行きブログに書いて、世界中のプロデューサーも来ているのでその情報を聞きつけて、実際に演目の内容が良いと翌日アビニョンのカフェで商談が始まる。そういうフリンジ型のフィスティバルを豊岡につくりたいと思っています。

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城崎国際アートセンター」には、世界各国の識者が訪れますけど、誰が見ても「ここなら、アビニョンのような国際演劇際ができるかもしれない」と言うんです。なぜなら、規模が適正で、宿泊施設があるから。例えば、同じ豊岡市内の神鍋(兵庫県北部を代表するリゾート地)は、スポーツ合宿のメッカなので、宿泊施設が充実してる。そういうのが揃っていて、これだけのコンパクトさにまとまっているというのは、世界中探してもそうそうありません。

“負ける気がしない”。勝ち目があるから移住するんです。だから、ここでのんびりして引退するつもりはさらさらありません。もはや、僕は東京の演劇界の中で競争することに関心はない。それよりも、豊岡を拠点にすれば、ダイレクトに世界と戦える。そして、演劇は豊岡で観光、鞄、農業に次ぐ第四の輸出産業になると思っています。

日本で唯一、演劇やダンスが本格的に学べる
国公立大学が豊岡に開校 

2021年の4月になりますが、豊岡に県立大学が新設されることになっています。観光とアートに特化した専門職大学で、わたしはその大学の学長候補となっています。

この大学の売りのひとつとして、日本ではじめて国公立の大学で演劇やダンスが本格的に学べるというのがあります。かつ、観光とアートや文化をクロスした事業をマネジメント出来る人材を育てていくのが大きな目的です。観光とアート、それにスポーツ。それらを一体とした観光文化政策を立案できる人材が日本にはまだまだ不足していますから。

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しかも、専門職大学ができると演劇のワークショップなどができる教員が20人くらい地域に来るわけです。今、高大接続といって、大学の教員が高校に教えに行くのは普通の事ですので、そういった大学教員が高校にも教えに行くことになります。そうすると、高校においても、おそらく日本で最も高度なアクティブラーニング(生徒が受動的ではなく、能動的に学ぶことができる学習プログラム)ができる地域になると思います 。

また、城崎国際アートセンターに国内外のアーティスト達が常に滞在することで、それがまちの新たなコミュニティ層となり、おもしろい化学反応が生まれているように、大学ができることで、アートを志す学生が1学年80人の4学年で320人、加えて教員も合わせると400人くらいのコミュニティが新たに入ってくるわけです。
多様性を受け入れ、それをまちの活力にしていくという方針の豊岡において、このことは、ただ大学ができるといった意義以上に、新たな展開を生むだろうと思っています。

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>>【前半】平田オリザさんインタビュー:「演劇」はまちの在り方を変えていく。
>>【募集中!】平田オリザさんが指導する「コミュニケーション教育」ワークショップ@東京、12月21日(金)22日(土)参加者募集中!

 

【平田オリザさん、兵庫県豊岡市・移住計画】負ける気がしない。豊岡が世界と戦える理由。(後半)
平田オリザ ひらた・おりざ/劇作家・演出家・「青年団」主宰。こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。1962年東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。大阪大学COデザインセンター特任教授、東京藝術大学COI研究推進機構特任教授、その他多数の機関で役職を務める。主な著作に、『演劇入門』(講談社現代新書)、『芸術立国論』(集英社新書)、『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書)、『下り坂をそろそろと降る』(講談社現代新書)など多数。
「青年団」HP:http://www.seinendan.org/
(更新日:2018.12.05)
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