INTERVIEW
  • 初めて暮らす“山形”で、 ひたむきにデザインを考える

山形県・山形市

「とんがりビル」の住人たち

山形の新しいカルチャーの拠点「とんがりビル」。多彩なクリエイターが集う場から、エリアリノベーションがはじまっている。

初めて暮らす“山形”で、
ひたむきにデザインを考える

山形県
難波知子さん、佐藤裕吾さん
デザイナー
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ロゴ、冊子やチラシ、ウェブサイト、パッケージなど、世の中にある多くのものは“デザイン”が施されている。人はその外側の“見た目”にとらわれがちだが、そこに至るプロセスに重きを置き、一つひとつ、時間をかけてじっくりと向き合いながらデザインする人たちが山形にいる。それが、デザイン会社「アカオニ」だ。

アカオニが手がけたものを見ていると、その多様さ、固有さ、おもしろさに目が釘付けになる。どうやって、そのデザインが生まれるのか。そのプロセスに、アカオニならではの作り方ともいえる、“考える”時間が含まれている。パソコンの前に座り手を動かすまでに、どれだけ考え抜いたか。それがカタチになって表れると考えているからだ。

そんなデザインのあり方に憧れて東京から山形へ移住し、アカオニに入って間もない2人のデザイナーに取材をした。「東京にいた時よりも忙しい」と2人は口をそろえる。しかし、本当にうれしそうに話してくれた様子から、その忙しさは、東京のそれとは違うのだとわかる。

2人は迷いながらも、考えることをやめない。クリエイティブとは何か、デザインとは何かを、山形で考え続けている。

写真:志鎌康平 文:薮下佳代

“デザイナー”という働き方を
もう一度考え直す。

難波知子(以下、難波)東京工芸大学芸術学部のデザイン学科を卒業して、デザイン会社ではなく印刷会社に就職してデザイナーになりました。紙が好きだったんです。アシスタントを経て、4年目からは1人でカタログや冊子、チラシなどを作るようになりました。

佐藤裕吾(以下、佐藤) 僕は仙台のデザイン学校を出て、デザイン制作会社に入社しました。その制作会社は東京にも支社があったので、1年仙台で働いてから東京に行きたいと希望を出しました。デザインを仕事にするなら東京だと思ったんですよね。仙台にいた時は、デザイン力を問われるデザイナーというよりも、指示通りに作業するオペーレーターの仕事が多くて。おもしろいことをやるなら、東京に行かなきゃなと。でも、東京に行ったら、クライアントの会社の規模が大きくなっただけで、仕事は変わりませんでした。

難波 私も印刷会社での仕事は、思い描いていたデザイナーの仕事ではなかったですね。カタログ制作を担当していたので毎年似たようなものを作るし、部分的なところを担当するだけで仕事が細分化されすぎていたんです。ある時、月刊の情報誌を担当することになって、写真やスタイリングも含めてデザインできることが楽しくて。もっと自分なりにデザインをしてみたくて、会社を辞めました。ウェブの仕事に興味があったので、次は通販サイトを運営している会社に入って、バナーやチラシを作っていました。そんな時、知人が、アカオニでデザイナーを募集しているよと教えてくれたんです。

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とんがりビルの2階にある「アカオニ」のオフィス。ひとつの大きなテーブルをスタッフみんなで囲んで仕事をする。

とんがりビルの2階にある「アカオニ」のオフィス。ひとつの大きなテーブルをスタッフみんなで囲んで仕事をする。


佐藤 
兄が山形にある芸工大(東北芸術工科大学)出身なので、山形にもデザイン会社があるよと、アカオニの存在を教えてくれました。2014年の山形ビエンナーレ第1回の時に「みちのおくつくるラボ」という市民講座があって、それに東京から参加したのですが、そこでアカオニのアートディレクターの小板橋さんと会って。第1回目の芸術祭は、荒井良二さん、いしいしんじさん、梅佳代さん、坂本大三郎さん、トラフさんなどが参加していて、宣伝美術をアカオニが担当したのもあり、自分が興味ある作家たちが一同に集っていました。だから、どうしても参加したくて、東京から山形に通うことにしたんです。

2016年にアカオニに入社した難波さんと佐藤さん。初めてづくしの山形での暮らしとアカオニでの仕事を楽しんでいる真っ最中。

2016年にアカオニに入社した難波さんと佐藤さん。初めてづくしの山形での暮らしとアカオニでの仕事を楽しんでいる真っ最中。


難波
 アカオニが作るデザインは、いままで自分がやっていた仕事とはまったく違いました。いままでは、情報を整理するためのデザインが多かったのですが、アカオニのデザインは感情があるというか、見て楽しいとか、明るい気持ちになったり。わかりやすいとは別の“何か”があって。デザイナーってもっと自由でいいんだ! って思ったんです。



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まなびあテラス

東根に新しく建てられた図書館・美術館などを含む複合文化施設のロゴマークデザイン。膨らむ想像力と東根のシンボルである、大ケヤキが、遊びのある自由な曲線で表現されていた。簡単にかけそうでかけない。(難波)

東根に新しく建てられた図書館・美術館などを含む複合文化施設のロゴマークデザイン。膨らむ想像力と東根のシンボルである、大ケヤキが、遊びのある自由な曲線で表現されていた。簡単にかけそうでかけない。(難波)

ささ結

ササニシキを継承する、新しいお米の品種「ささ結び」のロゴマークとパッケージ。名前がストレートに力強く伝わり。白とシルバーのコントラストが目をひく。かっこいい。(難波)

ササニシキを継承する、新しいお米の品種「ささ結」のロゴマークとパッケージ。名前がストレートに力強く伝わり。白とシルバーのコントラストが目をひく。かっこいい。(難波) 写真:akaoni

赤鬼豆カレー

2016年の山形ビエンナーレ「みちのおく商店」で販売した「赤鬼豆カレー」。真室川産の伝承豆や古代米、スパイスなどが赤い紙で包まれています。商品名は一枚ずつ手書き。にじみ出る味が素敵。(難波)

2016年の山形ビエンナーレ「みちのおく商店」で販売した「赤鬼豆カレー」。真室川産の伝承豆や古代米、スパイスなどが赤い紙で包まれています。商品名は一枚ずつ手書き。にじみ出る味が素敵。(難波) 写真:akaoni

 


 

佐藤 2015年の春に、アカオニの求人を見て応募しました。本当は前の会社を辞めて、カナダにワーキングホリデーに行こうと思っていたんですけど、アカオニに行きたくて予定を急遽変更しました。応募の時、エントリーシートが4枚ぐらいあって、根掘り葉掘り、いろいろ聞かれましたね。

難波 私も募集を知ってからすぐに応募しようと思ったんですけど、エントリーシートを書くのに、ものすごく時間がかかってしまって。パーソナルな内容のものが多かったです。職歴よりも人柄重視というか。休日の過ごし方を教えてくださいとか、好きな本を3つあげてくださいとか、理由も考えなくちゃいけなくて。〆切りまでの時間をフルに使って、自己を見つめ直すじゃないですけど、「私ってなんだっけ?」と考えたり、「29歳まで生きてきちゃったけど、だれかに紹介するほど“自分”ってあるかな?」とか、「なんで、この仕事してるんだっけ?」とかまで考え始めてしまって、結構大変でした(笑)。このエントリーシートを書くことで、暮らしとか仕事とか、自分自身を考えるいい機会になりましたね。

憧れのデザイン会社へ入社。
デザインの捉え方の違いへの戸惑い


佐藤 
アカオニに入ってから、仕事しかしてないですね。この1年、あっという間でした。アカオニが手がけるデザインは、僕が東京で見てきたデザインとは違っていて。ここに来てみたら、僕はぜんぜんデザイナーでも何でもなかった。そう思うくらい、デザインというものを扱う、人としてのレベルの高さを求められる。その現実に打ちのめされながらも、デザイナーとしてどうやっていけるのかというのを毎日考えています。

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難波
 アカオニでの仕事は楽しいです。自分で考えて、形にするっていうのが、単純におもしろい。ひとつの仕事に毎回課題があって、それに対して、どうすればいいのかを考える時間がすごく増えましたね。

佐藤 作業する時間じゃない、考える時間のほうがめちゃくちゃ多いんです。アカオニの人たちは考え方が緻密というか、あらゆる角度で客観視する。だから考える量が僕らとはケタ違い。“ある程度いいのができたな”っていうふわっとしたところでは終わらない。とことん客観視して、いいのか悪いのかというジャッジをしようとする。だから、いろんな人の意見を聞けって言われるんです。デザインをやっている人かそうでないかにかかわらず。

難波 とは言っても、消化しきれないことはしょっちゅうあります。でもやっぱりいろんな意見や材料をもとに、自分で考えるしかないんですよね。見た目がかっこいいからとかじゃなくて、何のためにデザインしているのかというのがまずないと、ただ手を動かしてるだけになる。それってなんの意味もないんです。デザインしたものでちゃんと表現しないと。

佐藤 アカオニにいると、デザインに関して意図や説明をすごく求められます。そもそもの意図が間違っているってこともありますし、その解釈は効果的じゃないんじゃないかと指摘されることもあります。東京にいた頃は、そこまで掘り下げることはなかったですね。

難波 たとえば、ロゴデザインだとみんなで案出しすることがあって。頭の中だけで考えていたことに、デザイナーたちの手が加わって、実際の形になっていく。そのプロセスがおもしろいし、楽しいですね。

佐藤 この仕事のおもしろさはまさにそこで。いままで名称だけだったものが、デザインされて、ロゴができてウェブサイトができてという過程がすべて見られること。いままでは、ロゴが支給されて「こういうブランドがあるから、そのイメージで作ってください」という仕事の流れが多かった。けれど、ここでは、社会に出していくものすべてを骨格から作っていくというか、考え方から形になるまでのプロセスに携われるのがおもしろい。



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工房ストロー

山形県真室川町を拠点に藁細工文化の発信をつづける、工房ストロー。 ロゴデザイン、WEBデザイン、パッケージデザイン(現在鋭意制作中)をアカオニで担当した。 写真:◯◯◯◯

山形県真室川町を拠点に藁細工文化の発信をつづける、工房ストロー。ロゴデザイン、WEBデザイン、パッケージデザイン(現在鋭意制作中)をアカオニで担当。(佐藤)

山形七煎(結城米菓)

読み方は「山形七煎(やまがたななせん)」。山形らしい七つの味と形が、一度に楽しめるお煎餅。パッケージも紅花色に仕上げ、まさに山形づくし。「やまがたおみやげ菓子開発プロジェクト」のひとつ。(佐藤) 写真:akaoni

山形の野菜と果物のチップス(モミの木)

こちらも「やまがたおみやげ菓子開発プロジェクト」のひとつ。 山形県産の野菜と果物を、風味や素材感を損なわない低温真空加工で仕上げたチップス。新鮮な作物と同じように、パッケージも段ボール箱を採用。(佐藤) 写真:akaoni

 


 

難波 いまやっている仕事は、病院の広報誌、市役所の展示の企画とか。やったことないことばかりで楽しいですね。残業はありますけど、自分で調整してバランス取るしかないので。

佐藤 僕もウェブ、紙問わず、いろいろやれてうれしいですね。忙しいですけど、修業だと思ってやっています。山形にいると、終電の感覚がないんですよ。チャリで通っているので、10分あれば家に着くし、すぐに会社にも来られる。東京で残業していた頃は、我慢して仕事していたから辛かったのかなって。山形には来たくて来て、やりたい仕事を好きな人の下について仕事をしているのでストレスはないですね。

難波 私もそうですね。

佐藤 東京より忙しいんです(笑)。東京のほうがスローですよ。

難波 分業じゃなく、あらゆることをやりますからね。

佐藤 でも、帰り道に一歩外に出ちゃえば、車も通ってなくてほとんど人もいない。山に囲まれたのどかな場所なので、オンとオフのメリハリがあって、切り替えがしやすいんです。

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佐藤くんのお気に入りは、山形名物「鬼がらし」の納豆ラーメン。残業中の夜食としてしょっちゅう食べにくるのだとか。

佐藤くんのお気に入りは、山形名物「鬼がらし」の納豆ラーメン。残業中の夜食としてしょっちゅう食べにくるのだとか。

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とんがりビルの横にある「大福まんじゅう」は、おばちゃんが毎日手焼き。小腹がすいたら買いにくる。

とんがりビルの横にある「大福まんじゅう」は、おばちゃんが毎日手焼き。小腹がすいたら買いにくる。

難波 私は考える時間がどうしても長くなってしまうんです。図書館に行って調べたりもしますし、紙に書きながら考えたり、家でテレビを見てる時にふと思いついたり。でも、ぜんぜん考えが足りないってよく言われますね。アイデアの数も足りないし、もっといろんな角度から考えられるでしょうって。

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週末は近くの温泉まで車を走らせるという難波さん。1人でゆっくり長風呂を楽しむ。お風呂上がりに食べる、玉こんにゃくは1本100円!

週末は近くの温泉まで車を走らせるという難波さん。1人でゆっくり長風呂を楽しむ。お風呂上がりに食べる、玉こんにゃくは1本100円!

佐藤 僕もそうですね。PCに向かって考えるだけっていうのは、あまり良しとされないので、手を使って、ものを見て。

難波 だから仕事の間も、そうじゃない時間もずっと考えているんです。もっと器用にやりたいんですけど。

佐藤 今はまだ、何十個、何百個考えてアウトップトしていきながら、自分のオリジナルがだんだんとできていくのかな。だから頭はいつもフル回転です。でも、外に出ればすぐ山が見える。だから、やっていけるんでしょうね。

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初めて暮らす“山形”で、 ひたむきにデザインを考える
難波知子さん、佐藤裕吾さん なんば・ともこ/1985年、千葉県生まれ。都内の大学を卒業後、印刷会社にデザイナーとして就職。その後、通販会社に転職。2016年1月より、山形に引っ越し、アカオニに入社。

さとう・ゆうご/1990年、宮城県生まれ。仙台のデザイン学校を卒業後、デザイン制作会社に就職。東京支社に異動後、アカオニの求人を見て応募。2015年10月より、山形に引っ越し、アカオニに入社。
(更新日:2017.04.19)
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