特集 淡路島の食卓

淡路島の食卓MOVIE① オーガニック・マーケット 「島の食卓」 映像・文/茂木綾子

2009年の秋、写真家であり映像作家でもある茂木綾子さんは、スイスの小さな村ラコルビエールから、縁もゆかりもなかった土地、淡路島に家族4人で移り住んだ。

スイスでは、ワゴン車を住まいにしていた茂木さんと夫のヴェルナー・ペンツェルさんは、湖のほとりにアーティストのコミュニティを立ち上げる。それは、生活・製作・交流を行う実験的なプロジェクトだった。
淡路島では、廃校となった小学校でアートコミュニティ「ノマド村」をつくった。リノベーションしながら自分たちもそこで暮らし、カフェをオープン。そこでは音楽や食のイベントも積極的に行っていた。
それらの活動の共通点は、生活そのものが基盤となっていること。だから一家のすぐそばにはいつも、みんなで取り囲む食卓があった。

今回茂木さんに撮影してもらった島の食卓。誰と、どこで、どんなものを食べて生きていきたいか。食料自給率110%の淡路島の人々が、暮らしと向き合い新たに取り組む試みは、これからどんなふうに広がっていくのだろう。

映像・文:茂木綾子

森の中でみんなで囲む食卓は、
「オーガニックの島、淡路島」
という夢への始まりの第一歩。

この夏初めて淡路島で開催されたオーガニックマーケット「島の食卓」は、淡路島で増えつつある、自然農や有機農業をされている農家さんたちと、オーガニック素材で作る料理人、そして島にオーガニックマーケットがあったらいいのにな、と思う主婦や友人たちの間で、少しづつ温め、膨らませていった思いが、ようやく実ったものだ。

週に一度仲間たちで集まり、マーケットの趣旨を話し合い、独自の出店基準をつくり、什器や日除けテント、看板、テーブルを全て手作りするなど、会場作りにも丁寧な思いが込められている。

この日「島の食卓」の会場となったのは、淡路市にある「ファミリーインペンションコサージュ」の敷地内にある「里山プレーパーク淡路島マンモス」として、普段は子供たちの遊び場となっている森の中だった。

澄んだ夏の空気と木漏れ日が揺れる早朝7時、マーケットは開催された。ゆったりと彩り美しく並んだハーブやオーガニック野菜たち。焚き火を囲んでくつろぐ人、そこかしこで走り回り、木の上によじ登る子供たち。天然酵母のパンに自家焙煎コーヒー、淡路島特産の鳴門オレンジのプレスジュース、有機米のおにぎりに鴨汁。

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淡路島はそもそも農業と漁業の生産で成り立つ島。一番有名なのは玉葱で、米、様々な野菜に果実、肉や牛乳、魚介類と食料自給率110%の島なのだが、あまり世間では知られていない。しかし長い間それらの生産品を生み出してきたのは高齢者であり、若者たちは学校を卒業すると多くは島を出て行く。典型的な地方農村地の少子高齢化の課題を抱えてきた。

6年前に私たち家族はヨーロッパから淡路島に移住し、小学校の廃校を借りて「ノマド村」というアートコミュニティを始めた。廃校をリノベーションし、そこに暮らし、週末のカフェ、アートや音楽や食のイベントを企画しながら、ノマド村はアーティストが運営する一風変わった観光スポットとなり、週末にはたくさんの人々が訪れるようになった。

震災後は少しづつ増えはじめた移住者や島暮らしの悩みである仕事不足について考えるようになり、何人かの仲間が主体となって、厚生労働省の雇用対策事業の予算を受け、行政の人々も巻き込み「淡路はたらくカタチ研究島」という事業を計4年間行った。会社に就職するだけが仕事じゃなく、自らやりたい仕事をプロデュースしていくような人材を育て、互いに刺激し合うコミュニティを作ろうという趣旨で始まり、大勢の島の参加者と島外からくるクリエイターたちによるサポートや交流によって、徐々に島の空気感も変わり、移住者も増加していった。

そして今、どんなふうに自分たちが家族と暮らしたいか、どんな仲間とどんなコミュニティの中で、どんな環境で、どんな食べ物を食べていきたいか。そんな疑問や夢を思い、一つ一つしっかり考え、選び取り、作り上げていくことはとても大変なことかもしれない。

オーガニック農業という理想と、商売としてなかなか成り立たない現実。売り先や安定した生産量の確保や長い間農薬で汚染された土壌の改良、手間ひまがかかり売値が高くなるなど、障害は数多くある。でも子供たちや自分たちが、いつまでも農薬や添加物が多く含む食品を食べ続けることをただ受け入れて生きていくのか。それよりは自分たちが食べるものをまずは自分たちで作ろうと、徐々にオーガニック農家さんも増えてきている。

夢は「オーガニックの島、淡路島」。この小さなオーガニックマーケット「島の食卓」は、心ある人たちの日々のチャレンジと思いの詰まったとてもとても美しい活動で、私自身が実現させたい願いのひとつでもあったように思う。

<<映像「島の食卓 2016夏」>> 


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茂木綾子
もぎ・あやこ/1969年、北海道生まれ。写真家、映画監督。東京藝術大学デザイン科中退。92年キャノン写真新世紀荒木賞受賞。97年よりミュンヘン、06年よりスイスのラコルビエールに 暮らし、ジュパジュカンパニーを設立。多彩なアーティストを招待し、生活、製作、交流を実験的に行うプロジェクトを企画実施。09年淡路島へ移住し、アーティストコミュニティ「ノマド村」をヴェルナー・ペンツェルと共に立ち上げ、様々な活動を展開。写真集『travelling tree』(赤々舎)、映画『島の色 静かな声』(silent voice2008)、『幸福は日々の中に。』(silent voice/2015)岡山、愛知、広島、群馬、新潟など各地で上映中。

次回の「食卓をかこむオーガニックマーケット」
shimanoshokutaku2「島の食卓 2016秋」
日時:2016115日(土)8:0012:00
場所:里山プレーパーク淡路島マンモス(兵庫県淡路市木曽下1267
マップ: https://goo.gl/maps/D2Y6tmhF1a42
FACEBOOK:https://www.facebook.com/organicawaji

(更新日:2016.10.19)
特集 ー 淡路島の食卓

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淡路島の食卓
誰と、どこで、どんなものを食べて生きていくか。映像作家・茂木綾子さんが食料自給率110%の兵庫県・淡路島の食卓を撮影。そこから暮らしの姿を考える。
淡路島の食卓MOVIE① オーガニック・マーケット 「島の食卓」 映像・文/茂木綾子

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