特集 淡路島の食卓

淡路島の食卓MOVIE③ ハチミツと哲学の集い 「ハチミツクラブ」 映像・文/茂木綾子

2009年秋、スイスの小さな村ラコルビエールから、縁もゆかりもなかった土地・淡路島に一家で移り住んだ写真家の茂木綾子さん。スイスでは、湖のほとりのワゴン車に暮らしながら、生活・製作・交流を行うアーティストのコミュニティをつくり、淡路島では、廃校となった小学校でアートコミュニティ「ノマド村」を立ち上げ、そこで暮らしながらカフェを営んでいた。

それらの活動で共通しているのは、生活そのものが基盤となっていること。だから淡路島で暮らす一家のすぐそばにはいつも、みんなで取り囲む食卓があった。

3回にわたって茂木さんに淡路島を撮影してもらった「島の食卓」。誰と、どこで、どんなものを食べて生きていきたいか。食料自給率110%の淡路島の人々が、暮らしと向き合い新たに取り組む試みは、これからどんなふうに広がっていくのだろう。最終回となる今回は、淡路島のちょっと大人なはちみつの集い「ハチミツクラブ」について。

映像・文:茂木綾子

地元の豊かな手料理に美味しいワインとハチミツで
気の合う仲間が語り合う贅沢なとき

 

今回は、数年前から淡路島の友人たちとゆるゆると続く不思議な集い「ハチミツクラブ」についてご紹介します。

淡路島に移住してまだ間もない頃、陶芸家で洲本市五色で「楽久登窯」というお店をしている西村昌晃くんに、料理の撮影を頼まれて以来、彼らの集まりやイベントによく顔を出すようになりました。

それは彼の周りに集う島の料理人たち(寿司、郷土料理、割烹、イタリアンなど)がそれぞれ一品ずつ思いを込めて創り、西村くんの器に盛り付けてコース料理として出すという一日だけの料理イベント「器と料理~このときにこめる」でした。

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その集まりにはたくさんの料理人がいるので、いつも美味しい料理やお酒があり、様々な業種の人たちが集まってくるのでいろいろな話ができるのがとても楽しい会です。その中でも、元々神戸でバーをやっていてソムリエでもあり、今は淡路島に移住して自然農をやっている橘さんは、農家というよりは思想家のような人。いつも難しい話を噛み砕いて楽しく話してくれる皆の先生的存在で、あるとき彼が話した養蜂にまつわる話がとても面白く、「ハチミツいいね!じゃあ次はハチミツを持って来て、ハチミツに合う料理を食べながらまたしゃべろう」ということになり、この「ハチミツクラブ」の会が始まりました。スクリーンショット 2017-02-01 10.48.28

そのとき「ハチミツクラブ」と名付けたのは私でしたが、会の目的や主旨等は特になく、田舎暮らしでもたまにはちょっと哲学的な小難しい話もしたい。気の合う仲間が集まりお酒を飲み、たまにはそういう大人な話をする集いもいいなという思いから始まり、気付けばもう4、5年も不定期に続いている。でもただの飲み会じゃ何なので、養蜂についても勉強しちゃおうということで、少しまじめな橘さんがつくる巣箱の採蜜の見学会をしたりもした。
その後、それぞれ巣箱作りに挑戦し、気付いたら何でも熱心な西村くんは巣箱に蜂を入れるのに11箱も成功して、先生の橘さんよりすごいことになっている。南あわじ市で「民宿南海荘」をやっているイタリアン料理人の竹中さんも、何度も失敗しながらもついに巣箱に蜂を入れるのに成功して、自分のハチミツで天然酵母パンを焼いたりするようになった。もう一人の料理人、「食のわ」というゲストハウスの中でオーガニック料理のお店をやっている神瀬くんも、畑に巣箱を置いてしっかり成功している。ちなみに恥ずかしながら巣箱を全く作らなかった私は、この映像で少し名誉を挽回しようとしています。

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ハチミツってよく考えたら、巣箱を裏山や畑に置いてしばらく放っておけば、いつのまにか蜜蜂たちが一生懸命集めたハチミツがいっぱい溜まっていって、それをごっそり横から奪うというちょっと野蛮な行為だと改めて思うわけです。そんなこと言ったら、魚や肉や卵も全て他の生き物の命を奪っているわけで、人間って本当に怖いものなんだなとか、養蜂をしてみることで気付く様々なことや、普段あたりまえに思っていることを少し視点を変えて考えてみたり、そういった話をすることって実はとても大事だなと思います。料理人だからわかる食材の有り難さや、農家さんだからわかる自然の有り難さ、物づくりする人だからわかる世界の見え方、いろんな見方や知恵を共有していくことが、この会の楽しさでもあるのだと思う。

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ある時、橘さんが贈与論について語ったことがあった。「ハチミツはまさに自然からの贈与として頂く象徴的なものだから、この集まりも贈与してくれた自然への感謝の祝祭だね」「だったらやっぱり頂いた物は、金儲けなんかを考えずにぱーっと使うのがいいよね」「じゃあハチミツ売ってヨットでも買って、皆でヨットに乗ろうか! 」「でも、ヨットっていくらくらいするん?」こんな会話をしていたら、最近東京の南青山で飲食店を始めたメンバーのキムくんが、すぐにスマホで検索し、「中古なら100万円くらいで買えるから、1個1000円のハチミツを1000個売ればすぐ買えるやん! うちの店で売るよ! 」と急に話が具体的に盛り上がり、本当にヨットが買えそうな気がしてきたのでした。夜の海の上で満点の星空を眺めながら、海風を感じながら、非現実的な時間を皆で共有したい。酔っぱらってそんな妄想をしながら楽しく過ごした夜だった。

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「ハチミツクラブ」の集まり自体、この空気感が、非現実的なものに見えるかもしれない。竹中さんや神瀬くんの最高の料理に、美味しいワイン、西村くんの集めた骨董皿、淡路島の豊かで新鮮な魚や肉や野菜にハチミツ。そして楽しくて深くていい話。日常から少し離れて、少し別の次元を感じてみる。そして世界を別の角度から見てみる。そんな集まりがこの「ハチミツクラブ」なんです。

 

<<映像「ハチミツクラブ」>> 

淡路島の食卓MOVIE① オーガニック・マーケット「島の食卓

淡路島の食卓MOVIE② 心と体と魂のための植物「心に風

 

茂木綾子
もぎ・あやこ/1969年、北海道生まれ。写真家、映画監督。東京藝術大学デザイン科中退。92年キャノン写真新世紀荒木賞受賞。97年よりミュンヘン、06年よりスイスのラコルビエールに 暮らし、ジュパジュカンパニーを設立。多彩なアーティストを招待し、生活、製作、交流を実験的に行うプロジェクトを企画実施。09年淡路島へ移住し、アーティストコミュニティ「ノマド村」をヴェルナー・ペンツェルと共に立ち上げ、様々な活動を展開。写真集『travelling tree』(赤々舎)、映画『島の色 静かな声』(silent voice2008)、『幸福は日々の中に。』(silent voice/2015)高知、山形、札幌、関西各地にて上映予定。

(更新日:2017.02.02)
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誰と、どこで、どんなものを食べて生きていくか。映像作家・茂木綾子さんが食料自給率110%の兵庫県・淡路島の食卓を撮影。そこから暮らしの姿を考える。
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