特集 山形県・村山市 
暮らし・働き体験記

山形県・村山市の暮らし体験記vol.1《物件さがしの巻》

みなさまはじめまして、東京を拠点にグラフィックデザイナーとして働く、北原可菜と申します。デザイナー歴9年、働き始めたころから週刊誌のデザインをしている私。性格上ゆっくりマイペースなのだが、そんなことはおかまいなし! 週刊誌の現場のスピードはとても早く、怒涛のように過ぎゆく日々……気がつけば、あれ!? 32 歳。「あと何年もこのままの生活を続けられるのかな。体力も落ちてきたし、自分のペースで、空気のきれいな場所で仕事がしたい……どうせなら自然に囲まれて……でも東京以外の場所でグラフィックデザインの仕事ってできるのかなあ……う〜〜〜む」と、今、自分が暮らしている東京で悶々としていた。
そんな矢先、『雛形』編集部から声をかけてもらい、山形県・村山市で試住体験をすることになったのだ。「自然に囲まれて暮らした〜い!」「地方でデザインの仕事をした〜い!」この2つの夢を抱き、導かれるように新幹線で村山市へと向かったのです。

 
イラスト・文:北原可菜

イラスト・文:北原可菜

東京駅からたった3時間たらずで着いた村山駅。「え……空気…美味しい……」。駅に降り立った瞬間、まぎれもなく空気の鮮度が違う。さっそく山の恩恵を感じながら、今回お世話になるゲストハウス「こめやかたゲストハウス 」へ向かうことにした。バスの本数が少なく、かといってタクシーに乗るのもなあ……せっかくだし歩いてみることに。完全にクルマ社会の村山は、駅前に駐輪場ではなく、広大な駐車場がただただ広がっていた。(あとから聞いた話だと駐車場は無料らしい)

「こめやかたゲストハウス 」に到着すると、スタッフの「おしまさん」が迎えてくれた。いろいろと話していると、今年結婚したばかりで、旦那さんと住める家に引っ越しを考えているという。明日、市役所の人と物件を見にいくとのことだったので……「初めて会ったのに図々しいお話かと思いますが、物件探しに同行させてもらえたりしませんか??」こんなチャンス逃すべからず!、さっそくグイグイ攻める私に対して、穏やかすぎる笑顔で「もちろんいいですよ! せっかく村山に来たんだしねぇ」と答えてくれたおしまさん。「あたたかい……村山の人ってあたたかいなぁ」。これが私の村山で暮らす人へのファーストインプレッション。山の恩恵は、人のあたたかさにも影響しているのでしょうか。

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さっそく翌日、おしまさんと、案内をしてくれる村山市役所の丹野さんと一緒に、物件探しに同行させてもらい、 村山での暮らしについて話を聞いてみることにした。

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私「おしまさん、ずばり、今住んでいるところの家賃は?」

おしまさん「 10部屋ある一軒家を3万円で借りて暮らしています」

ええ!? 一軒家の家賃が尋常じゃなく安い……これなら私の未来も明るい! と思ったのだが、 村山市にある空き家の数に対して、賃貸に出している家はとても少なく、今回も2軒しか目ぼしい物件はなかったという。大体150〜600万円で一軒家が買えてしまう村山市では、“家を貸す”という文化があまりないようで、少し手を加えれば使えそうな空き家だと、家主はあまり貸したがらないことが多いそうだ。すぐ借りれそうなのは駅前のアパートで、家賃は月5万ほど。(エッ…… 一軒家を借りるより家賃が高い)ただ、今回は「自然に囲まれて暮らしたい」を叶えるべく、少し山の方にある貸家の物件にクルマで向かった。

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丹野さん「なんで、キレイな新しい家ではなくて、古い家がいいんですか?」

おしまさん「味わいがあるし、落ち着くし……かわいいじゃないですか」

市役所の担当の方は、良いと思ってキレイで住みやすそうな新しい家を勧めてくれるそうだが、おしまさんが求めている家は、歴史があって、自然と溶け込むような、ほっとする雰囲気の古い一軒家なのだ。 東京でせせこましく暮らす私にとっても、のびのびと家族みんなで暮らせて、その土地らしさや、どこか懐かしさを感じるような一軒家に住むのが理想だった。丹野さんと、私やおしまさんとの間の“家”に対しての理想のズレを車中の会話の中で感じていた。

山の方に向かうにつれて、クルマの中にいながらも空気が澄んでいくのがわかった。空が広くなって、遠くに山の連なりが見えた。稲穂の金色がずっと続いていた。福岡の田舎で育った私は、こういう場所が一番落ち着くことはカラダでは覚えていたが、田舎でデザインなんて絶対できないと思って上京した。でも、もしこんな場所で働くことができたら……東京で10年暮らした私は、この風景にとても大きな価値を感じるようになっていた。ここで暮らしてみたいという思いが高まる。でも、ひとつ気になることが……

私「やっぱり、ここらへんは雪が多そうですよね。冬は大変ですか?」

おしまさん「少なくても1mくらい、山の方だと6mくらいは積もりますよ」

360度見渡す限りの美しい山々!な風景に気持ちが高ぶったと同時に、家の周りが全て雪に覆われるという体験をしたことがない私にとって、6mも雪が積もる山形の冬を越せるんだろうか……大きな壁が現れたのだった。

ただ、震災以降、自然の脅威や、自然の偉大さ、自然にさからえない人間のもろさを感じていた私にとって、ここで暮らすことで「自然と共に暮らしていくにはどうすればいいか」を、この大きな山々から教えて貰えそうな気がした。

それは、これから生きていく上で絶対必要な感覚だと思っていたし、東京ではどうしても実感するのが難しい感覚でもあった。だから、この場所で暮らすことはとても意味がありそうだ。

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私「おしまさんが、村山に移住したのって、なんでだと思いますか?」

おしまさん「農業をしたいという理由もあったけど、村山の 30〜40 代の働きざかりの自営業の人たちにパワーがあって、その流れに自然と導かれてきた感じかな」

ゲストハウスや農家、パン屋、工芸品の職人など、自営業の人たちがお金を生み出して地域にいい流れを作っているという話を聞いて、この場所での暮らしにさらに魅力を感じた。自分の持っている技術や経験で、自分のまわりの人たちの暮らしを豊かにできることは本当に幸せだと思う。私の場合はグラフィックデザインということになるが、私ならここで何ができるのか、とても興味が湧いてきていた。

私と同年代のおしまさんはこれから養鶏で生計を立てていくそうだ。とても生き生きとお話をしてくれた。人それぞれ、自分の得意分野で勝負できるこの場所は本当にすがすがしく、 それは、今の自分の求めている環境のような気がした。「自然に囲まれて暮らす」ということは、自然と共存しながらも、人間がきちんと自立して生きる=働くことにもつながっているように感じた。

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「暮らす」を少し垣間見たところで見えてきたのは、「働く」ということ。 次回は、山形市のデザイン事務所「akaoni」で実際に「働く」ことになった私の体験を語ります。

 

つづく

 


 

山形県村山市移住体験プログラムがスタート!

今回、レポートしたこめやかたゲストハウスにて、移住体験者を募集中! 村山市への移住を考えている方を対象に、ゲストハウスで宿泊しながら「村山暮らし」を体験するプログラム。農家暮らし体験や地元食材を使った自炊、無料のレンタカ ー・レンタサイクル等で自由行動ができる内容です。おひとり様、友人同士、ご家族(最大 5 名まで)のご利用大歓迎 ! 興味ある方はぜひお申し込みください。

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期間 平成 28 年 11 月〜平成 29 年 2 月末日 (申込み多数の場合は、終了日前に受付を締め切る場合があります)
受入期間 1回あたりの滞在期間は 3 泊以上とし、7 泊まで。(宿の状況により応相談)
参加費 無料(期間中の食費等は自己負担/自炊可)
申し込み先|こめやかたゲストハウス
電話:070-5326-5663
E-mail  komeyakataguesthouse@gmail.com
http://komeyakata-gh.wixsite.com/komeyakataguesthouse


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問い合わせ|山形県村山市役所 政策推進課 地方創生係
電話:0237-55-2111(内線 274)  FAX:0237-55-6443
E-mail seisaku@city.murayama.lg.jp
http://www.city.murayama.lg.jp/


すまいる山形暮らし情報館
https://www.pref.yamagata.jp/ylife/
編集協力:山形県

きたはら・かな/グラフィックデザイナー、イラスレーター。1984年、神奈川県生まれ、そののちすぐに福岡県へ。高校まで北九州市で育つ。東京造形大学を卒業したのち、CONCENT、Capを経て、現在デザイン事務所Cumuに所属しながらフリーランスのデザイナーとして働く。マガジンハウスの雑誌のエディトリアルデザインを中心に活躍しながら、自費出版の書籍、店舗のグラフィック、雑誌のイラストレーションなども手掛ける。食べることが大好きで、山形で出会ったシャインマスカットの虜に。kitaharakana.tumblr.com

 

山形県・村山市の暮らし体験記vol.1《物件さがしの巻》
(更新日:2016.11.11)
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東京を拠点に活動するグラフィックデザイナー・北原可菜さんが山形県・村山市で暮らし、働いてみた!現地で体験した物件探し、食、仕事をゆるやかに綴ります。
山形県・村山市の暮らし体験記vol.1《物件さがしの巻》

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