REPORT

シャムキャッツ活動10周年、
シグネイチャーモデルのギターを作るのだ。〈後編〉

岐阜県

活動10周年を迎えたシャムキャッツが、岐阜県美濃加茂市のギターブランドVINCENT主宰の小川浩司さんとともに、シグネイチャーモデルのギターを制作しています。このプロジェクトは、元ギター職人の小川さんと、シャムキャッツのボーカル&ギター夏目知幸さんの出会いをきっかけに始まりました。


前編では、夏目さんとギターとの出会いまでさかのぼりながら、小川さんとギター共同制作に至るまでをお伝えしました。続く後編は、シグネイチャーモデルの仕様を決めるべく、具体的にどんなギターが作りたいのか、2人の対話がはじまります。


小川さんが職人として働いていた岐阜県のヤイリギターの工場へ訪れた夏目さん。実際に職人さんたちの手でギターが作られていく現場を体感することで、鳴らしたい音のイメージが湧き出る、ものづくりの時間になりました。ギターを、音楽を愛し、それをとりまく世界を育む2人が今、作りたいギターとは?


 

写真:大森克己 文・イラスト:夏目知幸

〈前編〉活動10周年を迎えたシャムキャッツ が、〈VINCENT〉小川さんと出会い、ギターを共同製作するはじまりのエピソード。


thアルバムVirgin Graffitiのツアーを見にきてくれた小川さんは、終演後興奮気味だった。「めちゃくちゃ音太いですね!アコギの音!良かったです!」と目を大きくして言った。小川さんを興奮させることができて、僕も興奮した。でしょでしょ、僕たち、いいサウンド作れましたよね!がっちり握手した。

現状に満足していたけれど、満足すると他の音が欲しくなってくるのが音楽家。「もう一本ちょっと違うタイプのアコギをVINCENT〉に作ってもらおうかなと考えているんです」と、小川さんに伝えたところ「そしたら、シャムキャッツ のシグネイチャーギターを作りましょう!」と答えが返ってきた。

僕は驚いた。シグネイチャー?やべー。でもちょうど10周年だしいいかも!って。

いいサウンドは広めるべきだし、ライブでアコギを使っているミュージシャンたちにVINCENTの存在をもっと知って欲しい。それって、世界に一石を投じるってことだよな。やりましょう、ぜひ、いいの作ってみんなにも弾いてもらいましょう!そういうわけで新たにギター作りが始まった。

さあ、どんなギターが作りたい?

僕が思う、いいアコースティックギターは“芯が太く、倍音に華やかさがありつつもレンジが広すぎない”ギター。それがどういう音なのか、もっと説明しろと言われると、ちょっと難しい。

バンドサウンドの中で鳴らしても存在感があって、リズムでアンサンブルに推進力をつけていけるアコギの音って、僕なりの表現だとそういうことになる。そのサウンドを目指すためにどんな工夫が必要かという話になると、もっとマニアックになってくるから難しいし、わからない。小川さんは“そこんとこ”を詰めていくプロフェッショナル。

僕からのオーダーは、ギブソンの「J-50」や「J-45」の型のギターが欲しいということだけだった。

ちなみに、最初にVINCENTに作ってもらったのはMartinのD-28とか35のカタチのギターだった。「D」は“ドレッドノート”の略で、この言葉は大型戦艦の名前から取られたそう。ボディのくびれが少なくて厚みがあり音も大きい。今では普通だけど、発売当時(確か1920年ごろ)は本当に規格外にでかかったらしい。Martinの「D」シリーズ以外も、このようのタイプのギター全般を“ドレッドノート”と言うようになってるくらい、スタンダード化した。

「J-50」の「J」は「ジャンボ」の略。これは、Martinのドレッドノートがめっちゃ流行ったことにGibsonが対抗して作った、いわばGibson版のドレッドノートシリーズ。J-200をエルヴィス・プレスリーが使ったりして人気になった。

僕の好きな「J-45」「J-50」は1942年発売みたい(さっき調べた)。別名「ラウンドショルダー」と言われていて、その名の通り「なで肩」の可愛いカタチをしてる。比べてみるとMartin「D」の方が角ばっているのがわかると思う。

また、「J」タイプは「ギブソンスケール」といわれる、Martinよりも短いスケールで作られている。簡単にいうとネックの長さが短いってこと。ネックが短いと弦の張力が弱まるのでサウンドにも違いが出るわけ。輪ゴムを5cmひっぱった時と、10cmひっぱった時では音が変わるのと同じに。一般的にはネックが短いとサスティンも短くなる。サスティンというのは音の残響のこと。

Martinのギターは繊細で伸びやかなサウンドなのに対して、Gibsonは無骨でアタックが強く感じられるのはこのネックの特徴によるものが大きいかなと感じる。バンドサウンドの中でよりアタックの強さを求めると、Gibsonのの「J」タイプがベターかなと思ってそっちの型でオーダーした。

あとのことは、ヤイリギターの工場を見学しながら小川さんと話して決めることになった。

 

クラフトマンシップすごい!
ギター工場すごい!手作業すんごい!

ヤイリの工場とVINCENTの工房は岐阜県の隣町同士にある。VINCENTが監修したギターはほぼヤイリで作られいてて、仕上げに小川さんの手によって調整されてオーダーした人の手に渡る。

今年の夏、ギターの素材を決めるため、またギター作りがどう行われているのかを知るために工場見学へ行った。小川さんは「実際どうやって作られているかを知ると、ギターに対する付き合い方や、弾き方まで変わってくると思います」と工場に向かう車で話してくれた。

ヤイリの工場は静かな町の中に突然、ポツンとあった。背の高い看板こそあるものの割合小さな入り口で、外観からギターが作られていることは想像しづらい印象だった。

「町の人でも中の広さを知らない人もいます。ギターを作ってるってことも知らない人もいるくらいです」と小川さんが僕を笑わせた。

VINCENTの小川さんと、夏目さん。せっかくなので、世界のK.ヤイリとともに、記念写真パチリ。

一歩中に入ると、そこはもう、やばかった。バカみたいな表現だけど「やべ~!」という言葉しか最初出てこなかった。“ギター工場”と聞いてイメージしていたのは「機械が並んでいて、ベルト式になっていて、各セクションに担当の人がいてそれを動かしている」って感じだったのだが、全然違った。ほとんど機械がないのだ。想像していたよりも、もっともっと手作業で、ヤイリのギターは作られていた。ベルト式なんてとんでもない。

ギタートップの“木取り”という行程。木材の特性を見極めながら、手作業でカットします。ほとんどのギターメーカーは、オートメーションでやっているこの作業、もちろんヤイリは手作業です。

細やかな手作業に欠かせない道具は、職人さんそれぞれ自前のものを使用。道具ひとつとってもクラフトマンの個性が出てきます。道具のメンテナンスも欠かしません。

ネックの成形作業。この道30年以上の職人さんによる感覚によって、ヤイリのネックは作られています。削りに使う道具の小刀も自作で、この作業のみに使われるもの。常に研ぎ澄まされた刃で木の厚みを調整し、美しいネックラインを描きます。

職人歴50年以上になる、チーフクラフトマン。国内外のトップアーティストが奏でるギターを、この手で何本も作ってきました。常にヤイリブランドとしての技術を高め、そして多くの職人たちに継承してきたレジェンド。「本当に日本の宝だと思っています」(小川さん談)

そして、想像していたよりももっともっともっと、多くの木材がストックされていて、しかも、それが10年なんてザラ、中には30年もギターになるを待ている木がある。

「日本の気候に順応した木材じゃないとギターになった時に長く持たないから、ヤイリはまず木材を長く保存してからギターにするんです」「ギターブームの時に多くのメーカーは機械化を進めて生産効率を上げたんですが、ヤイリは機械導入より木材の確保に力を入れたんです。だからいい木が残っているし、職人の手作業でギターが作られています。こういうやり方でギターを作っているのはもう日本でここだけです」。

小川さんの言葉と、黙々とギターを作っている職人さんたちの姿がズシンと胸にくる。ああ、僕はこの手仕事を経て作られたギターを弾いていたんだな。すごいな。気が遠くなった。そして、そんなギターを弾いている自分が誇らしく思えた。

一通り作業工程を見学した後に、ヤイリギターのショールームへ案内してもらった。いろんなモデルの、いろんな木材で作られたギターが並んでいるところ。

ギターは素材によって音がかなり変わる。硬い素材だと音も硬くなるし、逆も然り。柔らかいばっかりがいいわけでもないし硬すぎてもダメ。でも個性的な音が欲しかったらそれもあり。

例えば、これはエレキギターの話だけどジョージ・ハリスンが愛用していたローズウッド(木材の種類)だけで作られたテレキャスターはとっても硬いし重い素材で作られているが、彼のオリジナルになってる。要は、形と素材のバランスでオリジナリティのあるギターが作れる。ショールームではそのおもしろさを存分に感じることができた。

小川さんはまず、僕が弾きなれた素材で作られたギターの試奏を勧めてくれた。

「ジャーン」

なるほど、聞きなれた音で、収まりがいい。ただ今回はもうちょっと華やかさが欲しいし、音の太さももっと分かりやすいほうがいい。

次に小川さんが3本、サイド板が違うギターを持ってきた。サイド板というのはその名前の通り、ギターの側面の木のこと。硬い素材がつかわれる部分だ。正直僕はあんまりサイド板に関心を持ったことがなかったから、そんなに違うもんかなあと思いつつ弾いてみた。すると、全然違うのだ。こんなに違うのか?というほど違う。

浦安で最初のギターを買ってもらう時に、見よう見まねで弾いてみても全く音の違いがわからなかった自分が、ヤイリの工場まで来てサイド板の違いで感動している。また果てしない想像が始まってしまう……ダメダメ、集中集中。耳に神経を集中。

一本、「おや、こいつはおもしろいな。明るさもあるし、倍音も感じやすい。新品なのに、自分が持ってるビンテージと同じような響き方をしてる。これいいなあ」ってのがあった。何度弾き比べても、やっぱりそいつが気になったので、それを小川さんに伝えた。「これ、いいですね、このサイド板で作ったらすごく好きな音が出そうです」。小川さんはにんまりしながら「実は、それがいいと思ってたんです。やっぱりこの鳴り方、いいですよね!」。ソムリエかよ!と僕は思った。やっぱすげえ!

こんな風にシグネイチャーモデルの仕様が決まっていった。

さてどんなギターになるでしょうワクワクだよ、早く弾きたいな聞かせたいな、お楽しみに!

今回作るシグネイチャーギターは、小川さんも実物が出来てみないとどんな音がするのが想像できないような新しい仕様になった。僕の趣味と理想と、小川さんのクラフトマンシップが合わさった一本がどんな音を出すのか、ワクワクしながら待っている。このわからない感じがたまらない。きっといいものになると信じてる。僕と小川さんの勘は多分当たるのだ。

ギターは一期一会だと思う。人に借りたものがしっくり来たり、思い入れなく買ったギターの方がメインになったり、憧れていたけれど自分のスタイルとは合わずに手放すことになったり、人間同士の付き合いと同じく、その時その時の出会いが導いてくれる。

シグネイチャーギターを出すにあたって、「せっかく出すならば良い質のものを!世の中に一石を投じられるものを!」という気持ちはもちろんあるけれど、作っていく過程で僕が強く感じているのは、誰かとギターの未来の出会いに加担できることはとても楽しいってこと。

音楽を生業にしていると、物語の強さを感じることが多い。権力やお金よりも人の心を動かすことができるのは物語だと思う。真剣に作られたモノには全て物語がある。シグネイチャーギターの物語が誰かの人生に合流することを想像する。とても素敵なことだと僕は思う。この先に起こることを想像しながら僕もギターを弾く。

 

 

写真:大森克己 文・イラスト:夏目知幸


シャムキャッツ デビュー10周年記念公演「Live at Studio Coast」


 

日時: 2019.12.13(金)
OPEN/START 18:00/19:00
場所 : 新木場STUIO COAST 


http://siamesecats.jp/shows/


(更新日:2019.11.27)
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