REPORT

シャムキャッツ活動10周年、
シグネイチャーモデルのギターを作るのだ。〈前編〉

岐阜県

今年、活動10周年を迎えたシャムキャッツ


新作のリリース、アジアツアー、全国ツアー、そして1213日に開催されるバンド最大規模のライブ10周年記念公演 Live at Studio Coastでは、クラウドファンディングを通じて映像作品を残す企画を行うなど、この節目をみんなで楽しもうと、猛ダッシュで日々を駆けぬけている彼ら。


そんなシャムキャッツより、10周年プロジェクトのひとつとして、バンド初のシグネイチャーモデルのギターをリリースするとの報せが!  現在、STUDIO COASTのライブでお披露目&販売スタートに向けて、製作中です。


このプロジェクトは、ボーカル&ギターの夏目知幸さんと岐阜県美濃加茂市のギターブランド〈VINCENT〉主宰・小川浩司さんとの出会いをきっかけにスタート。今やシャムキャッツのロックサウンドにアコギの音色は欠かせないものになっているけれど、「もっとシャムキャッツにバッチリはまるアコギがあるはず」と、バンドは鳴らしたい音にぎゅっとフィットするギターを探し続けてきたのだと言います。


そんな中で偶然出会った理想のギター、そしてバンドのシグネイチャーモデルとしてリリースするまでのエピソード。まずは、夏目少年とギターの出会いまで遡ってお届けします。


 

文・イラスト:夏目知幸 写真:大森克己

夏目少年のギターとの出会いから
マイ・ギターを手にするまで。

ギターを初めて触ったのは中学1年生の時。母が青春時代に弾いていたモーリスのアコギを譲ってもらった。サイドに銀色のマジックで「ETSUKO」と書いてあるナチュラルカラーのギター。ネックも反っていたしフレットも減っていて、とても弾きずらいギターだった。そこのことに気づくのはだいぶ後になってからだけど。最初はとにかく、ギターという存在に惹かれて、音に惹かれて、夢中で触っていた。

小さい子が電車とかロボットに夢中になるのとおんなじ感覚だと思う。どうして好きなのか、理由はないといえばない。

母は日本のフォーク世代ど真ん中で、さだまさしやかぐや姫が大好きで、彼らの歌本(歌詞とコードが載っている本)を何冊も持っていた。その影響で僕はリアルタイムで聞いていたゆずの曲と「神田川」とか「案山子」なんていう昔の曲を同時に覚え始めるのだった。テレビ番組「速報!歌の大辞テン」の影響も強かった気がする。当時のトップテンと、かつてのトップテンを同時に発表する音楽番組だ。4チャンでやってたな。

父もまた音楽好きで、ギターは母より全然うまかった。若い頃は洋楽志向だったようで、サイモン&ガーファンクルやジム・クロウチ、PPMとか、アメリカのミュージシャンをいっぱい教えてくれた。二人の親から教わる曲の多くは「アルペジオ」と呼ばれる奏法で弾かれていた。右手の指で弦を一つずつ、つま弾いてギターをポロンポロンと鳴らすやり方。

団地暮らしだと、自分の部屋でピックを使ってガシャーン!と鳴らすのは難しい。怒られちゃう。家ではもっぱらアルペジオでポロポロ鳴らしていた。音色を聴いていると気持ちがちょっと柔らかくなる気がして好きだった。

ガシャーン!とやりたいときは近くの防波堤までギターを持って出かけて行った。海沿いで練習していると気持ちがいいけど、夕方になると唇が塩辛くなるのだった。声を出すのも好きだった。とにかく大きい声を出すとスッとするから。防波堤や高架下はいろんな人がいて面白かった。トランペットを練習する人と話したりして。

中2の誕生日だった。自分のギターが欲しくなった。高いしなあ、ダメだろうなあと思いながら親にアピールしてみた。すると、すごく飽きっぽい僕がギターだけはやたら熱心に弾いているのを見ていたんだろう、案外あっさりオッケーが出た。この時のワクワクを未だに忘れない。ついに、マイ・ギターだ!

新浦安の島村楽器でヤマハのアコギを買ってもらった。どうせ弾いてもわからないのに、一丁前に試奏して、やっぱりわからないから見た目で選んだ。タバコ・サンバーストのアコギ。

小学生の頃、ピアノは挫折していた僕だったけど(ドラマ「ロング・バケーション」を観ていたら「やってみたい」と言い出したらしい)、ギターはなぜだろう、すごく親しみやすくって、毎日弾いた。これも理由はわからないけれど多分、脇に抱える感じが好きなんだ。よっこいしょって自分の前に横たわらせてネックを掴んで弦を弾く。椅子に座ってなくてもいいし、寝っ転がってても弾けるし。

高校に入ってからはバンド志向になったけど、傍らにはいつもアコギがいた。月並みだけれど相棒みたいな感じ。上手くなりたい気持ちももちろんあったけど、ストイックに練習するのはあんまり性に合ってなくてできなかった。なんとなく適当にぽろんと弾いて、ああ、綺麗な音だなー、かわいい音だなーと感じるのが好きだった。ギターはそういう付き合い方も許してくれるから。

カッコいいギターが欲しい夏目、
御茶ノ水に走る。運命の出会い、それから。

大学を出てシャムキャッツを始めたもののパッとしない日々を送っていたある日、半蔵門にあるバイト先で弁当を食べならがらなんとなく考えた。「実家暮らしで、バンドをやってて、アコギは中学の時に親に買ってもらったやつだなんて、なんかカッコわり~」と。

考えれば考えるほど自分が許せなくってイライラした。バイトを終えた足で新しいアコギを求めて御茶ノ水に走った。衝動!

とはいえ予算はそんなにない。でも、いいのじゃないと嫌。5万くらいのがほしいなってイメージ。色々ギターを出してもらって弾いたけど、音も見た目もしっくりくるのがなかった。「うーん」と思い悩んでいたところ、「長く弾くつもりならちょっと高くてもいいんじゃないかな?ヤイリのギターなら長く弾けるし、音もいい意味でどんどん変わっていくよ、これなら8万」と、ヤイリのギターを勧められた。これが運命の一本だった。弾いた瞬間「あ、これだ!」っていうやつ。「R1RB」という、小ぶりで丸みを帯びてて赤っぽい色のかわいいやつ。すぐにはお金がなかったから、取っておいてもらって給料日に買った。

見た目が焼きリンゴみたいだから「りんごちゃん」というあだ名をつけた。ギターの裏側に黒いマジックでりんごの絵をささっと描いた。新しいギターを買った記念に、こいつのために曲を書かなきゃなと思って「りんごのうた」という曲を作った。1stアルバムの「はしけ」に収録されている甘いバラードがそれだ。

りんごちゃんは2015年リリースのEPTake Care」までメインのアコギとして活躍した。「GIRL AT THE BUS STOP」でその音が聴ける(アコギを2本録って重ねてる。一本はりんごちゃんでもう一本はレコーディングエンジニア所有のMartin D-35。)。

レコーディングはもちろん、ライブでも使っていた。ボディが小さいと持ち運ぶのも楽だし、バンドでステージに立った時に音のコントロールがしやすいのだ。ただ、ちょっと物足りないのは低音があまり出ない。家で静かに弾いたりソロの弾き語りには十分なパワーだが、バンドに混ざると音が細く、ひっこんで聞こえてしまう嫌いがあった。僕はもっとシャムキャッツにバッチリはまるアコギがあるはずだと思い始めるんだった。

このころから、僕はバンドの理想像から逆算して楽器を求め始めた。直感的に好きな音を見つけてそれをバンドに持ち込んで音楽を作っていてもシャムキャッツとしての良さを存分に出せていないかも、と感じていた。メンバーの個性がより活きて、それが一つになった時に威力を発揮する表現って何だろう。そして、それに合う楽器って何だろう。そう考えているうちに、自分の音楽の根っこの部分にはアコギがあることを思い出した。親から最初にギターをもらって、部屋で弾いていた時のことを。

もうこうなったら、僕はアコギだけガシャガシャ弾くアルバムを作ってもいいかもしれない。そのほかの楽器も、超シンプルにしてみよう。ドラムがいて、ベースがいて、ギターが二本いて、歌があるだけのアルバムを作ろう。説得力のあるサウンドが必要になるな。ジャーンと鳴らしただけでかっこいい楽器じゃなきゃいけないな。ビンテージだな!ということで僕は、Gibson J-50 64年製を手に入れた。

かくしてFriends Again」のサウンドは作られた。



アルバムを作ると、それをもってバンドはツアーに出る。全編アコギで作ったアルバムのライブのために、ライブ用のアコギが必要になった。りんごちゃんより音が太くて、バンドサウンドと混じっても負けないヤツが必要だ。

レコーディングとライブで違う楽器を使うの?と思う方もいるだろう。もちろん、同じ楽器を使ってツアーに出ることもできる。けれどこれはちょっと専門的な話になるのだが、僕が持っているJ-50はギターの構造が原因でピックアップっていう音を拾うマイクの役割をする機材が装着できなかった。だからと言って、ビンテージのギターに手をかけて改造するのがちょっと嫌だった。だから、ツアーが始まるまでにライブ用のアコギに出会わなきゃならない。

こういう時は運が味方してくれる。

アコースティックギターの“鳴りの良さ”を求めて。
小川さん(VINCENT)との出会い。

2016年の秋。富山のフェスに出演した際、出店エリアにアコギが並んでいるのを見つけた。フェスの出店でご当地の食べ物屋や観光協会のブースとかならわかるが、楽器屋さんが出店しているのは珍しい。しかし、よくよく考えると音楽フェスに楽器屋さんが出店するのってすごく理にかなってる気がする。新しい匂いがする。PAとスタッフを誘って見に行った。色とりどりのギターが並んでいた。とても綺麗な色。弾いてみると音もみんないい!これが僕らとVINCENT、そして小川さんとの出会い。

何本か手にとって試奏しながら小川さんと話した。これいいですね!とか、やっぱこっちはパワーがあるなとか、弾き語りならこれかなとか、こっちはおじさんぽいかなとか感覚的なところから始まって、僕がライブ用のアコギを探していることを伝えたり、VINCENTというブランドについて聞いたり。対話の中から何となくだけど、考え方とか社会との関わり方がシャムキャッツと近い人だと感じとれた。僕はその日もう一回、メンバーを連れてVINCENTのブースに行った。「ねえねえ、この音良くない?」「ギターのブランディングはVINCENTで、制作する工場はヤイリっていうやり方、面白くない?」など講釈を垂れながら、やっぱり素敵だよなあと反芻したのだった。

家に帰ってからも小川さんのことが気になったから、ネットで調べてインタビューを読んだ。やっぱり、すごく風通しのいい考え方をされているし、音の捉え方が自分と近い人だなと思った。

僕は小川さんにライブ用のアコギをオーダーすることに決めた。既製品もいくつか試したけれど、納得するものに出会えなかった。納得できなかった理由を小川さんなら理解してくれる気がしたし、シャムキャッツの今の音を聞いてもらった上で、どういうギターが必要なのかバッチリ判断して、モノとして仕上げてくれるだろうという、直感があった。メールや電話で何回かやり取りした。見た目に関しては僕の趣味も入れてもらったけど、音に関することは全部小川さんに任せた。

3ヶ月後、オーダーギターは届いた。独特な風合いの色味と、白いピックガードが特徴的な一本。まず生で弾いてみた。若々しいキリッと前に出るサウンド。とてもいい。「Friends Again」の世界観にぴったりだと一瞬で感じた。ライブでの音作りはPAと相談しながら実験を繰り返した。様々なアーティストがライブでアコースティックギターを使っているけれど、いい音だと思えたことが僕もPAもほとんどないというのが共通認識だった。

“生の鳴りの良さ”が全く伝わってこなかったり、そもそもアコギを弾いている風なだけで全然音が聞こえてこないバンドが多いのだ。あれではギターがかわいそうじゃないか。僕たちは自分たちのアイデアで「ライブのアコギの音」の既成概念を変えてやろうという意気込みで音を作った。ライブのバンドサウンドの中でもアコギの音にしっかり存在感を持たせたかった。

VINCENTのギターは、ラインで繋いでも嫌なライン臭さが全くない。ピックアップで拾っているはずなのに、まるでマイクで撮ったような自然な鳴りで前に出てきてくれるから、それを生かすシステムを作っていった。その素直さをもっと伸ばすようなイメージで機材を選んだ。そして、「Friends Again 」のツアーを経て、目指すサウンドは納得できるとこまで完成した。

 

後編へつづく

 

〈後編〉シャムキャッツ+VINCENTのギター作りがスタート!ギター工場で職人の手仕事を体感しながらイメージする、今、本当に作りたいギターとは?

 

写真:大森克己 文・イラスト:夏目知幸


シャムキャッツ
デビュー10周年記念公演「Live at Studio Coast」


日時: 2019.12.13(金)
OPEN/START 18:00/19:00


場所 : 新木場STUIO COAST 

http://siamesecats.jp/shows/

(更新日:2019.11.22)
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