REPORT

今だからこそ、この人と一緒に。
向かい合うものづくり。
夏目知幸(シャムキャッツ)×小川浩司(VINCENT)

岐阜県
シャムキャッツの夏目知幸さんと、ギターブランド〈VINCENT〉の小川浩司さんによる共同プロジェクト、シグネイチャーモデル制作。偶然の出会いからスタートした、一本のアコースティックギター作りは、それぞれがこれまで育んできた、ものづくりへのスタンスを表すものになりました。今、お互いが作りたいもの、届ける先にイメージするものは? 岐阜県美濃加茂市ある小川さんの工房にて話を聞きました。

 

写真:大森克己 文:菅原良美

「シャムキャッツ活動10周年、シグネイチャーモデルのギターを作るのだ」
前編:ふたりの出会い、ギターを共同製作するはじまりのエピソード。
後編:ギター工場で職人の手仕事を体感しながらイメージする、今、本当に作りたいギターとは?


“鳴らしたい音”で通じる
コミュニケーション

夏目知幸(以下、夏目):ヤイリギターの工場見学をさせてもらって、納得したことがあります! 二十歳くらいの時、楽器屋で店員さんにヤイリのギターをオススメしてもらって初めて弾いた時に、触感的に「おもしろいな〜」って思ったの。柔らかい感じで、これまで弾いてきたギターと感触が違うのが気に入って、買って弾き始めた。今回、ギターが作られている現場を見てそれを思い出しました。あれだけ職人の手で作られていて、そりゃ感触違うよ、って。昔の俺ナイス!って思った(笑)。

自分の頭の中には、“こういう感じの音”っていう理想のギターの音があるんだけど、それを鳴らせる楽器にはなかなか出会えなくて。初めて小川さんに会って話した時、“ステージで使えるアコギを探してるんです”って言ったら、すごく的確にアドバイスしてくれことが記憶に残っていました。ある時それを思い出して、一本目のギターをオーダーして。小川さんに頼めばバッチリじゃん?って。

小川浩司(以下、小川):ステージ上でアコギを弾いて、生の音がその通りに鳴るわけではないですからね。ピックアップや、ライン、スピーカーを通して音が鳴る。それを見越した上で“アコギの生音はこういう感じがいいですかね”という話をしましたね。

シャムキャッツのこれまでの作品を聴くと、ある程度好みの音が想像できるし、ステージで再現したいだろうなって音像も浮かびます。実際のライブでは、まずドラムやベースの音がバンっと前に出てくるので、ギターはそこに負けない音が求められる。ライブ用のギターは、重音がぐっと強調される感じが合うのかなと思いました。

〈VINCENT〉の工房の隣にある、ミーティングルームにて。〈VINCENT〉ギターに囲まれながら、作りたいイメージをじっくり話し合うふたり。

 

夏目:うん。小川さんは、ステージ上で鳴らす音と、そのために必要な楽器のあり方を分かっている人だから。なかなかそういう話ができる方はいないんです。

小川:僕は、ヤイリギターに所属していた時、ギター作りだけでなく、アーティスト担当の窓口もしていました。実際に作ったギターが、ライブの現場でどんな風に鳴るかチェックして。どうやったらミュージシャンが理想の音を気持ちよく演奏できるか、安心して2時間ライブができるか、そこを専門に話ができないといけなかったので。独立したきっかけの一つも、ステージ上で使う楽器の話についてなど、じっくり話せる環境を作りたいという思いがありました。

夏目:本当に貴重な存在。小川さん、ギターソムリエなんすよ!(笑)

小川:ありがとうございます(笑)。夏目さんにギターをオーダーいただいた後、前作『Virgin Graffiti』のリリースツアーの名古屋公演に行って。そのライブがすごく良くて。特に音作りに感動したんです。全体のサウンドを聴いた時、「音、太いっ!」と思って。アコギの音もメンバーやPAさんと一緒にこだわって作ってくれたんだなと。なんていうか、すごく美味しい音が出てました。

夏目:美味しい音ですね(笑)。僕らが思う、“アコギらしい音”を鳴らしたくて。

小川:軽い音ではないんですよね。言葉にすると、シャリーンが、ジャリーンって鳴っていて……なかなか言葉では表現できない(笑)。正直、ここまでできたんだ!と、思いました。これまでも色々なミュージシャンのライブを観てきましたが、すごく難しいことだと思います。もちろんみんな音作りに試行錯誤してますが、どちらかというと綺麗な音を求めていく印象があって。そのせいで、ギターの音が全然聞こえてこないな、とか。

そういうことを終演後に夏目さんに伝えたら、「もう一本ギターを作りたいと思っているんです」と言ってくれたんです。それならば「シグネイチャーモデルを作りませんか?」ってお誘いしました。


どんな人と、どうやって
ものづくりをするか

ーー小川さんもまだ独立してまもない中で、信頼できる音作りをしてくれるシャムキャッツのシグネイチャーモデルが制作できるのは、うれしいですね。

小川:すごくありがたいです。一本目は夏目さんが個人的に購入してくださって。二本目はシグネイチャーモデルとして〈VINCENT〉で製品化して販売させてもらうので一本ご提供するのはどうですかと相談して。お互いにとって良い条件でやりたかったんです。

夏目:2016年に小川さんと最初に出会って、ヤイリギター出身の職人が独立して始めた〈VINCENT〉の事を知って。独立しても、制作はヤイリにお願いしていることもいいなと思ったんです。実際にギターの制作をお願いする時に、色々理解したいから小川さんのインタビューをウェブで読んで、小川さんの考え方を知って。

音楽が好きで、ギターが好きで、職人としてやってきたけど、もっとギターのことを広めていきたい。広めなくちゃいけないって思っている。だから、独立してもヤイリと共同して、自分で新しいスタイルを作ろうとしているんだなって。ちゃんとリスペクトがある。すごく共感したし、こういう考え方の人なら、思い描いているギターの音についても理解してくれるんじゃないかなって思った。

〈VINCENT〉の工房にて。東京のミュージシャンからメンテナンスのために届いたギターを確認中。

小川:シャムキャッツは、バンドで独立してメンバーでレーベルを作って、音楽活動以外の運営の部分もメンバーが役割分担してやっていることを、なんとなく知っていたので。僕も〈VINCENT〉を1人で始めて、シャムキャッツのスタイルに共感する部分があった。同じように戦っている感じというか。だから今回も大きな会社に頼らずに協働して、お互いにとって良い方法でやりたくて。きっとシャムキャッツがメジャーレーベルに所属していたら、権利関係のことや予算、進めるスピード感など考えると難しかったと思います。お金も時間ももっと必要になってくる。でも今回は僕とバンドが話し合って納得できればすぐに進められるんです。だから、バンドには僕からはギターを提供して使ってもらう。僕はそのモデルを販売して制作費をまかなえばいい。何より良いギターを一緒に作りたい、チャレンジしたいと思って。

夏目:うん、僕もまず「おもしろそう!」って思った。まさか自分がシグネイチャーモデルのギターを作ると思って生きてきてなかったから(笑)。でも、せっかく作れるなら、ギターが好きな人、もっと広く、音楽好きな人に好かれるような、手に取ってもらえるものにしたくて。僕らのファンじゃない人にも届けられるものにしたいなあって。絶対に損をさせないやつ作る!って思ってた。

今、カルチャーを
作り続けていくために

夏目:中学の頃にちゃんとロックを聴き始めて。 70年代、80年代のものを聴いて、当時の音に触れたんです。でも、高校生になって自分で家で録音しようとMTRを買ってやってみても、全然違うのよ。全く思い通りの音じゃない。宅録だからこんなもんかーと思ってたけど、その後、スタジオでレコーディングエンジニアとやっても、イメージの音に近づかなくて試行錯誤して…楽曲制作に携わる人は初期に体験することなんじゃないかな。全世界共通で(笑)。

小川:例えば、70年代はじめのニール・ヤングの音とかは、二度と同じようには録れない。その当時の脂の乗ったギターで録音してるので。日本でいうと、井上陽水さんが、〈ギルド〉というメーカーのギターで録音してて。その頃のギルドはすごく良い音なんですよね。〈はっぴいえんど〉でも、細野さんが使っていました。でもそれは、その時のベストな音。だから、今は今のベストな音について見直すタイミングに来てる気がします。レコードの売り上げも伸びていますしね。僕の感覚だと、少しデジタルの音にみんな飽きてきてるのかな、という気もしていて。

夏目:そうですね、今、気持ち良い音を鳴らしたい。

ーーシグネイチャーモデルは、どんな人に手にとってもらいたいですか?

夏目:自分たちでレーベル運営しているので、作りたいものとアプローチしたい層を考えながら決めました。商売人の心を持って(笑)。“VINCENTらしい顔”と“シャムキャッツらしい姿”のバランスを大事に。ステージで鳴らす楽器として作ったけど、もちろん家やスタジオで使えるもの。親父世代が家でも弾いて楽しめるのがいいなって。ちょっと自慢したくなるような。うちの親父もギター弾くけど、たまに自慢してくる(笑)。でもそういうのいいですよね……うん、多分親父は買う気がする(笑)。女性でも、触れてみて、ああアコギの音ってこういうものなんだって知ってほしい。

シャムキャッツのファンって、“ちゃんといいものである”ことを大切にしてる。バンドのTシャツとかグッズを作っていても、簡易的なものを欲していないというか、単純にいえばロゴが入っていればそれでいいという人たちではない。素材やデザイン、その背景とかね。そういう人たちに信頼してもらえるものをちゃんと伝えることができれば、そこから自然と広がっていくから。

小川:シャムキャッツの活動も、レーベルのあり方も、自分たちでいろんなアイデアを持ってやっていこうしているのを感じます。そういう人たちと一緒に作れることが何よりうれしくて。単に人気があるバンドのシグネイチャーモデルを作るというのではない。ちゃんと音楽とその周りのカルチャーを作っていこうとしている人たちだから。これを発売して、シャムキャッツを知らない人も買ってくれたら「よっしゃ!」って思う。

夏目:そうですよねえ(笑)

小川:きっと5年くらい前だと、まだ僕もシャムキャッツも、お互いやっていることがリンクしていなかったと思うけど、今だからできた。この時代にあったやり方だと思います。
ギターの販売に関しては、楽器屋さんがものすごく減っていて。弦もネットで買えるから、わざわざ楽器屋に行く事がなくなって。ただギターに関しては、僕の感覚では対話をしながら買いたい人が増えていると思います。高級な楽器だということだけではなく、ちゃんと自分が手に入れるまでのストーリーを掴みたいというか。そこに納得して買うこと。先日も、うちのギターを購入してくださったお客さまに、発送の連絡をしたのですが、直接受け取りに来てくれました。せっかくだから、って。うれしいですね。ギターも3,40年使えるものなので。

夏目:うん。あとは、ギターそのものにパワーがあるものを作れたと思うから、手にとってストーリーを感じてもらえたらうれしいな。

 

 

 

写真:大森克己 文:菅原良美


シャムキャッツ デビュー10周年記念公演「Live at Studio Coast」


 

日時: 2019.12.13(金)
OPEN/START 18:00/19:00
場所 : 新木場STUIO COAST 


http://siamesecats.jp/shows/

(更新日:2019.12.06)
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