特集 “創造的過疎地”
神山町で暮らす

「スローライフは忙しい!」“今、神山町で暮らすこと”座談会

この町の人たちは、みんな何かと“忙しい”。仕事も生活も遊びも、すべてがごちゃ混ぜ。オンもオフもない、そんな暮らし。“創造的過疎地”と呼ばれることもある徳島県・神山町。この町に暮らすことは、いわゆる田舎暮らしにイメージされるようなスローライフとは、ちょっとだけ違う生き方をすることなのかもしれなくてーー

神山町の移住者の窓口になっているNPO法人「グリーンバレー」が、2013年に開いたコワーキングスペース「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」(以下、コンプレックス)で、町に関わりながらそれぞれのスタイルで仕事をする4人の男女に、神山町の暮らしについて話を聞いた。

写真:森本菜穂子 文:根岸達朗

木内康勝/徳島県出身の26歳。香川県で電気設計の技術職をしていたが、「まちづくりに関わりたい」と考え、神山町のNPO法人グリーンバレーに転職。事務局スタッフとして、コンプレックスの管理・運営のほか、全国から訪れる視察者への対応など、幅広い業務に従事する。今回の座談会メンバーでは唯一となる生粋の徳島人。

木内康勝/徳島県出身の26歳。香川県で電気設計の技術職をしていたが、「まちづくりに関わりたい」と考え、神山町のNPO法人グリーンバレーに転職。事務局スタッフとして、コンプレックスの管理・運営のほか、全国から訪れる視察者への対応など、幅広い業務に従事する。今回の座談会メンバーでは唯一となる生粋の徳島人。

寺田天志/カーモデリングなどを手がけるフリーの3Dモデラー。何となく「楽しそう」という直感から神山町を訪れ、2014年にグリーンバレーを経由して知人から紹介された古民家物件に入居。コンプレックスで仕事をしながら、同町で鹿肉の解体、マムシ酒づくりなど、野性味あふれるアクティビティを満喫中。

寺田天志/カーモデリングなどを手がけるフリーの3Dモデラー。何となく「楽しそう」という直感から神山町を訪れ、2014年にグリーンバレーを経由して知人から紹介された古民家物件に入居。コンプレックスで仕事をしながら、同町で鹿肉の解体、マムシ酒づくりなど、野性味あふれるアクティビティを満喫中。

鈴木麻里子/2015年7月にオープンする短期滞在型宿泊施設「WEEK神山」の立ち上げスタッフ。千葉県出身。2014年2月、同町で行われていた半年間の人材育成プログラム「神山塾」へ参加。プログラム終了後も同町に残ることを決め、「WEEK神山」を運営する株式会社神山神領に就職。

鈴木麻里子/2015年7月にオープンする短期滞在型宿泊施設「WEEK神山」の立ち上げスタッフ。千葉県出身。2014年2月、同町で行われていた半年間の人材育成プログラム「神山塾」へ参加。プログラム終了後も同町に残ることを決め、「WEEK神山」を運営する株式会社神山神領に就職。

本橋大輔/株式会社ダンクソフト所属のプログラマー。埼玉県出身。前職の仕事を通じて、14年前に徳島市に移住。2年前に転職した同社がサテライトオフィスの実験プログラムを行っていたことから、コンプレックスへの入居を提案し、自身も神山町に転居。上司も部下もいない“一人サテライトオフィス”を立ち上げる。

本橋大輔/株式会社ダンクソフト所属のプログラマー。埼玉県出身。前職の仕事を通じて、14年前に徳島市に移住。2年前に転職した同社がサテライトオフィスの実験プログラムを行っていたことから、コンプレックスへの入居を提案し、自身も神山町に転居。上司も部下もいない“一人サテライトオフィス”を立ち上げる。

中の人はいたって「平熱」
内外の温度差がある神山の“今”

木内:神山町は人口約6,000人の小さな町ですけど、一昨年は1,700人、昨年だけで2,200人の視察者が来ました。グリーンバレーで働いていて実感するのは、この町ってすごく注目されているんだなってことで。

本橋:元々、お遍路さんで観光客が来るところではあるけれど、それに加えてビジネス客も増えたという感じですよね。お花見の時期とか、シーズンごとに人がたくさん来るんですよ。

木内:近くの道の駅が視察者でいっぱいになってしまうこともあるんです。なるべくそういう風にならないようにするのが僕の仕事でもあって……。でも、基本的には静かな町です。昔から住んでいる人からすれば、雰囲気は変わったと思うんですけど。

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コンプレックスは、地域発の先進的なサービスやビジネスを生み出すことを目的としたコワーキングスペース。町内を基盤にクリエイティブ産業に関わる事業を展開している利用者が多く入居する。技能を持った個人と地域住民がフラットにつながる創造的な空間。全国各地から視察者が訪れる。

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鈴木:メディアからは注目されていますよね。でも、町の人はずっとマイペース。自分たちが楽しくなるように、長い時間をかけてコツコツと形にしてきた。それが今このタイミング、この時代にマッチして注目され始めた、ただそれだけ、という感じがする。だから、中と外の雰囲気に温度差みたいなものを感じていて。

寺田:自分は毎日が忙しすぎて、そういうのあんまり考えたことないですね。「鹿を解体しないか?」とか「マムシ持ってけ!」とか、神山にいなくちゃ経験できないようなことが多すぎて、それやってるだけで、毎日パツパツなんすよ(笑)。みんなマイペースに好き勝手やってる感じがいいんじゃないかなって。

一同:笑

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寺田さんがつくっているマムシ酒。体内の老廃物を抜くため、生きたまま水につけているところ。マムシは生命力が強く、この状態でも数週間は生きているとか!

寺田さんがつくっているマムシ酒。体内の老廃物を抜くため、生きたまま水につけているところ。マムシは生命力が強く、この状態でも数週間は生きているとか!

専用のソフトを使ってモデリング作業をする寺田さん。壁に貼ってある写真は、現在改装中の住まいの“理想型”をCGで表現したもの。

専用のソフトを使ってモデリング作業をする寺田さん。壁に貼ってある写真は、現在改装中の住まいの“理想型”をCGで表現したもの。

目的意識と行動力をもつ人々
都会以上に、誰かとつながる町

本橋:そうなんだよね。神山の人ってなんかみんな自由で。スローライフっていう言葉があるとしたら、むしろそれに追いかけられてるような感じ。都会と同じように仕事ができるIT環境は整っているし、自然も豊かでいろんな遊びも満喫できる。さらに日々さまざまな人がやってくるから、コミュニケーションの機会も多くて。こんな田舎なのに、毎晩のようにどこかで飲み会やイベントがあるってすごいよね(笑)。

鈴木:確かに面白い人が集まる場所ですよね。ほかの町がどうなのかは分からないけど、こんなに全国からいろんな目的を持った人がやってくる町もないのかなって。しかも、みんなアンテナの感度が高くて、行動力もある人たちで。東京にいると自分の趣味嗜好に近い人にしか会わなかったりするけど、こっちにいると思いがけず面白い人に出会うことも多くて。

木内:町もコンパクトだからすぐにみんなが顔見知りになりますよね。僕も徳島市内にいた頃より、いろんな人に会うようになりました。それは移住に関心のある人が国内外から来るところだからっていうのもあるけど、神山の人たちがすごくフレンドリーで優しいから、というのもあると思います。困っている人がいたらそれをみんなでサポートするような、支え合いの精神も感じて。ただ、毎日あんまりいろんな人と会うので、話すだけで「今日一日終わった」なんてときもありますけど(笑)。

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寺田:神山ってお遍路文化があるし、昔から人が交差する場所だったみたいですよね。そのせいか分からないけど、とにかく人が集まる。人が集まるから情報も集まる。そういうなかでそれなりにアンテナを張って生きていると、仕事も生活も遊びもすべてのことをスーパーマルチタスクで裁いていかないといけなくなるんですよ。3Dモデリングしながら、家の回りをうろついている猟犬からどう身を守るかを考えたり……。

本橋:まあ、それは寺田君だけかもね(笑)。でも、コンプレックスで仕事をしているだけでいろんな人に会いますよ。それも、都会以上に。僕の会社は本社が東京にあるのですが、東京の営業よりプログラマーの僕の方が名刺を配ってる(笑)。そんな田舎ってなかなかないんじゃないかなと。

大家さんからの依頼を受けて、そろばんのごみ取りをする本橋さん。ふらっと立ち寄る地域住民との交流も多い。

大家さんからの依頼を受けて、そろばんのごみ取りをする本橋さん。ふらっと立ち寄る地域住民との交流も多い。

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複数台のモニターを使い分けながら、立ち仕事をする本橋さんの“一人サテライトオフィス”。デスクの回りにはOculusやドローンなど最先端のガジェット(おもちゃ)がゴロゴロ。

仕事も生活も混ぜちゃってOK!
「楽しくなる」方向に身を委ねる

鈴木:普通に仕事をしていても、何気なく町の人が関わってくること多いですよね。最初は「ちゃんと仕事しなくちゃ!」と思ってたから、誰かが来ると「え、話しかけてくるの? どうしよう」みたいな(笑)。でも、やってくうちに「あ、これも仕事の一部なんだ!」って思うようになって。

木内:いきなり町の人から「間伐するから手伝って」とか、声かけられますからね。それで手伝うとご飯をお腹いっぱい食べさせてくれるという(笑)。まちづくりに関わりたいと思ってここに来たけど、ここまで周りの人のお世話とか、生活面に入り込むことになるとは思わなかったから、始めはそういう人付き合いにびっくりしましたね。でも、お陰ですごく生きる知恵が付いたなって。

本橋:物々交換じゃないけど、労働力の交換っていうか。そういうのが自然に生まれるような空気があるよね。

寺田:そうですね、ここにいたら飢えることはないだろうなっていうのはありますよ。仕事が無くなっちゃったら、誰かの家を訪ねて「木、切りますよ」みたいな。そしたら多分ご飯食べさせてもらえるから(笑)。

鈴木:自然にそういう循環型の関係ができていくようなところがあるような。そんな人付き合いのなかで暮らしていると、いつの間にか仕事も生活も全部ごちゃ混ぜになっていて。でも、ここでの暮らしって、それを分けて考えるのが難しいんですよね。とにかく「混ぜちゃってOK!」とした方が楽しいなって思う。

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本橋:みんな、自分が楽しいと思うことをひたすらやっている(笑)。仕事も遊びも全部そう。だからこれだけやったら終わりっていうのがない。“田舎暮らしはのんびりスローライフ”なんて思う人もいるかもしれないんですが、神山のスローライフって超忙しいんです。

寺田:ただ、流れにまかせてひたすら転がっていくだけ。そして、雪だるま式にやることがどんどん膨らんでいくという。楽しいことがありすぎてヤバいんですよ、この町は。

一同:笑

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神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス
住所:徳島県名西郡神山町下分字地野49-1
HP




_NMC2145閉鎖された元縫製工場を改修したコワーキングスペース。広さは619平方メートルで、建物内にはオフィス、ミーティングルーム、マルチスペース、ラウンジなどがある。1ギガbpsの無線LANと100メガbpsの有線LANを完備。施設の向かい側には2015年7月、短期滞在型宿泊施設「WEEK神山」がオープン予定。

「スローライフは忙しい!」“今、神山町で暮らすこと”座談会
「スローライフは忙しい!」“今、神山町で暮らすこと”座談会
寺田天志さん、 木内康勝さん、 鈴木麻里子さん、本橋大輔さん 寺田天志さん Iターン 居住地:東京都→徳島県
木内康勝さん 徳島出身 居住地:徳島県徳島市→香川県→徳島県神山町
鈴木麻里子さん Iターン 居住地:千葉県→徳島県
本橋大輔さん Iターン 居住地:埼玉県→徳島県

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(更新日:2015.06.17)
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靴職人、自給自足のピザ職人、宿で働き始めた人、起業を目指す人……新たな暮らしや働き方を模索する人たちが、徳島県・神山町に導かれる理由とは。
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