特集 “創造的過疎地”
神山町で暮らす
「スローライフは忙しい!」“今、神山町で暮らすこと”座談会
この町の人たちは、みんな何かと“忙しい”。仕事も生活も遊びも、すべてがごちゃ混ぜ。オンもオフもない、そんな暮らし。“創造的過疎地”と呼ばれることもある徳島県・神山町。この町に暮らすことは、いわゆる田舎暮らしにイメージされるようなスローライフとは、ちょっとだけ違う生き方をすることなのかもしれなくてーー
神山町の移住者の窓口になっているNPO法人「グリーンバレー」が、2013年に開いたコワーキングスペース「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」(以下、コンプレックス)で、町に関わりながらそれぞれのスタイルで仕事をする4人の男女に、神山町の暮らしについて話を聞いた。
写真:森本菜穂子 文:根岸達朗
中の人はいたって「平熱」
内外の温度差がある神山の“今”
木内:神山町は人口約6,000人の小さな町ですけど、一昨年は1,700人、昨年だけで2,200人の視察者が来ました。グリーンバレーで働いていて実感するのは、この町ってすごく注目されているんだなってことで。
本橋:元々、お遍路さんで観光客が来るところではあるけれど、それに加えてビジネス客も増えたという感じですよね。お花見の時期とか、シーズンごとに人がたくさん来るんですよ。
木内:近くの道の駅が視察者でいっぱいになってしまうこともあるんです。なるべくそういう風にならないようにするのが僕の仕事でもあって……。でも、基本的には静かな町です。昔から住んでいる人からすれば、雰囲気は変わったと思うんですけど。
鈴木:メディアからは注目されていますよね。でも、町の人はずっとマイペース。自分たちが楽しくなるように、長い時間をかけてコツコツと形にしてきた。それが今このタイミング、この時代にマッチして注目され始めた、ただそれだけ、という感じがする。だから、中と外の雰囲気に温度差みたいなものを感じていて。
寺田:自分は毎日が忙しすぎて、そういうのあんまり考えたことないですね。「鹿を解体しないか?」とか「マムシ持ってけ!」とか、神山にいなくちゃ経験できないようなことが多すぎて、それやってるだけで、毎日パツパツなんすよ(笑)。みんなマイペースに好き勝手やってる感じがいいんじゃないかなって。
一同:笑
目的意識と行動力をもつ人々
都会以上に、誰かとつながる町
本橋:そうなんだよね。神山の人ってなんかみんな自由で。スローライフっていう言葉があるとしたら、むしろそれに追いかけられてるような感じ。都会と同じように仕事ができるIT環境は整っているし、自然も豊かでいろんな遊びも満喫できる。さらに日々さまざまな人がやってくるから、コミュニケーションの機会も多くて。こんな田舎なのに、毎晩のようにどこかで飲み会やイベントがあるってすごいよね(笑)。
鈴木:確かに面白い人が集まる場所ですよね。ほかの町がどうなのかは分からないけど、こんなに全国からいろんな目的を持った人がやってくる町もないのかなって。しかも、みんなアンテナの感度が高くて、行動力もある人たちで。東京にいると自分の趣味嗜好に近い人にしか会わなかったりするけど、こっちにいると思いがけず面白い人に出会うことも多くて。
木内:町もコンパクトだからすぐにみんなが顔見知りになりますよね。僕も徳島市内にいた頃より、いろんな人に会うようになりました。それは移住に関心のある人が国内外から来るところだからっていうのもあるけど、神山の人たちがすごくフレンドリーで優しいから、というのもあると思います。困っている人がいたらそれをみんなでサポートするような、支え合いの精神も感じて。ただ、毎日あんまりいろんな人と会うので、話すだけで「今日一日終わった」なんてときもありますけど(笑)。
寺田:神山ってお遍路文化があるし、昔から人が交差する場所だったみたいですよね。そのせいか分からないけど、とにかく人が集まる。人が集まるから情報も集まる。そういうなかでそれなりにアンテナを張って生きていると、仕事も生活も遊びもすべてのことをスーパーマルチタスクで裁いていかないといけなくなるんですよ。3Dモデリングしながら、家の回りをうろついている猟犬からどう身を守るかを考えたり……。
本橋:まあ、それは寺田君だけかもね(笑)。でも、コンプレックスで仕事をしているだけでいろんな人に会いますよ。それも、都会以上に。僕の会社は本社が東京にあるのですが、東京の営業よりプログラマーの僕の方が名刺を配ってる(笑)。そんな田舎ってなかなかないんじゃないかなと。
仕事も生活も混ぜちゃってOK!
「楽しくなる」方向に身を委ねる
鈴木:普通に仕事をしていても、何気なく町の人が関わってくること多いですよね。最初は「ちゃんと仕事しなくちゃ!」と思ってたから、誰かが来ると「え、話しかけてくるの? どうしよう」みたいな(笑)。でも、やってくうちに「あ、これも仕事の一部なんだ!」って思うようになって。
木内:いきなり町の人から「間伐するから手伝って」とか、声かけられますからね。それで手伝うとご飯をお腹いっぱい食べさせてくれるという(笑)。まちづくりに関わりたいと思ってここに来たけど、ここまで周りの人のお世話とか、生活面に入り込むことになるとは思わなかったから、始めはそういう人付き合いにびっくりしましたね。でも、お陰ですごく生きる知恵が付いたなって。
本橋:物々交換じゃないけど、労働力の交換っていうか。そういうのが自然に生まれるような空気があるよね。
寺田:そうですね、ここにいたら飢えることはないだろうなっていうのはありますよ。仕事が無くなっちゃったら、誰かの家を訪ねて「木、切りますよ」みたいな。そしたら多分ご飯食べさせてもらえるから(笑)。
鈴木:自然にそういう循環型の関係ができていくようなところがあるような。そんな人付き合いのなかで暮らしていると、いつの間にか仕事も生活も全部ごちゃ混ぜになっていて。でも、ここでの暮らしって、それを分けて考えるのが難しいんですよね。とにかく「混ぜちゃってOK!」とした方が楽しいなって思う。
本橋:みんな、自分が楽しいと思うことをひたすらやっている(笑)。仕事も遊びも全部そう。だからこれだけやったら終わりっていうのがない。“田舎暮らしはのんびりスローライフ”なんて思う人もいるかもしれないんですが、神山のスローライフって超忙しいんです。
寺田:ただ、流れにまかせてひたすら転がっていくだけ。そして、雪だるま式にやることがどんどん膨らんでいくという。楽しいことがありすぎてヤバいんですよ、この町は。
一同:笑
神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス
住所:徳島県名西郡神山町下分字地野49-1
HP
閉鎖された元縫製工場を改修したコワーキングスペース。広さは619平方メートルで、建物内にはオフィス、ミーティングルーム、マルチスペース、ラウンジなどがある。1ギガbpsの無線LANと100メガbpsの有線LANを完備。施設の向かい側には2015年7月、短期滞在型宿泊施設「WEEK神山」がオープン予定。
神山町で暮らす
特集
神山町で暮らす
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- “創造的過疎地”で、 流れに身をまかせながら、 世界に一足の靴を作る
- 金澤光記さん ( 靴職人)
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- 築100年の古民家で自給的な暮らしを目指し、 土地の恵みでピザをつくる
- 塩田ルカさん ( ピザ店「yusan pizza」オーナー)
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- 「スローライフは忙しい!」“今、神山町で暮らすこと”座談会
- 寺田天志さん、 木内康勝さん、 鈴木麻里子さん、本橋大輔さん ( 神山のサテライトオフィス で働く人々 )
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- ゆるく元気でタフな土地。 移り住んだ神山町で始めた “実験する宿”
- 樋泉聡子さん ( 宿泊滞在施設「WEEK 神山」スタッフ)