INTERVIEW

アイデアと行動力を
湧き出るエネルギーで繋ぎ、
別府の町を変えていく

大分県
鶴田宏和さん
「ホテルニューツルタ」経営企画室長
「NPO法人YUKAI」代表理事 
「音泉温楽」イベント統括プロデューサー
居住地: 福岡県→東京都→福岡県→大分県
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大分県・別府市、最大の観光資源である「温泉」をメインに、新たな観光客を呼び込もうと奮闘している鶴田宏和さん。別府の老舗温泉旅館ホテル「ホテルニューツルタ」を拠点に、今までにないアイデアと行動力で、世界で戦える国際的な温泉リゾートを目指している……というと、壮大なプロジェクトを手がける経営者かと思うけれど、決してそれだけの人ではない。鶴田さんの行動原理は「楽しい」「おもしろい」「心地よい」こと。だから、決して無理はしない。ただ思いついたことはどんどんやる。

もともとあるすばらしい地域資源を、価値あるものにどう掘り起こすか。そのために必要な、新しい視点。そのカギを握るのは、別府の外から来た「移住者」や「外国人留学生」たちだと、鶴田さんは言う。そんな彼らとともに、新しいプロジェクトを手がけ、別府の町の魅力を再定義する。

今年で38歳、人生半分折り返し。自分がどこで、どう生きて行くかは、自分で決める。
「だったら、楽しい方がいいじゃないですか」
そう言って、鶴田さんは楽しそうに、にっこりと笑った。

写真:熊谷直子 文:薮下佳代

本物の温泉が持つ
土地のエネルギーに心惹かれる

「音泉温楽」という音楽フェスティバルを2009年からやっています。全国の温泉地を舞台に、「湯」をテーマにした新しいコミュニティをつくる活動なんですが、この「ホテルニューツルタ」に入社する前は、もともと、音楽関係の仕事をしていたんですよ。
大学を卒業した後、レコード会社で3年ほど勤めてから、音楽配信や音楽著作権の管理をやるベンチャー会社に入ったんです。その頃はITバブル真っただ中で、今考えると、僕もその波に乗ってバブリーな暮らしをしていたなあと(笑)、ですがそんな時期はあっという間に終わり、業界自体も斜陽に……。このままではいけないと思い立って、30歳のときに独立しました。

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新たな会社は制作系のプロダクションで、メインは映像作品のプロデュース。ある時、温泉をテーマにリラックスできるような映像作品をつくってほしいという依頼があり、温泉に詳しいDJ/クリエイターと、下見と称して全国の温泉地を一緒に回りました。ロケーションを選ぶ基準は、純粋な源泉から湯が湧き出ている掛け流しの“本物の温泉”。そこではエネルギーが常に満たされていて、都市とは違う特別な時間の流れがありました。お湯は数百年もの間、日々変わることなく湧き出し、そこで暮らす人たちはお湯の恵みをありがたくいただく。そんな生活を代々繋いできていた人、土地。

土着の温泉映像とアンビエントサウンドを融合させた「Naturally Gushing(ナチュラリーガッシング)」という環境音楽映像集をプロデュースしました。1作目は長野県の渋温泉、2作目は石川県の中宮温泉、3作目が宮城県の鳴子温泉を舞台にしています。
その作品集の発売記念パーティをやることになり、せっかくなら温泉地で開催しようと、『千と千尋の神隠し』の油屋のモデルのひとつといわれている渋温泉の温泉宿「金具屋」の大宴会場を借りて、音楽フェスティバル形式で行いました。それが2009年11月に開催した「音泉温楽」の第1回目で、それから毎年12月頭に開催する、恒例の温泉冬フェスになったんです。

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長野県・渋温泉にある老舗温泉宿「金具屋」で開催された温泉フェス「音泉温楽」は、この旅館の大宴会場が舞台。

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オフィシャル手ぬぐいがイベントのパス代わり。宴会場の畳の上で浴衣姿、日本酒片手に音楽を楽しむのが「音泉温楽」。

夏フェスの楽しみがアウトドアやキャンプだとすれば、冬フェスは温泉で宴会。日本人が長く続けてきた「温泉」という昔ながらのエンターテインメントを、音楽フェスの手法でアップデートする試みでした。当初、山奥の温泉地のフェスなんかにお客さんが来るわけがないといわれたけれど、事業としてきちんと初年度から利益も出せた。なので、そのフォーマットを生かして、ほかの温泉地でも開催したのですが、温泉地が持っている泉質も町のルーツも、そこで暮らす人たちの意識も違う。同じフォーマットを水平展開することはできなかったんです。結局ノウハウをすべて持ち込んでも、そこで暮らす人たちに求められるものでない限り、一過性のもので終わってしまって、新しいコミュニティとして根づかないということを痛感しました。

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そんな時に、東日本大震災が起こって。あの状況の中で、東京で暮らすことの意味を僕なりに考えていた。震災前にさまざまな温泉地に行くようになってわかったのは、都市とは、人が外から持ち込むエネルギー、アイデアとか情熱、活動の源になるものと時間を掛け合わせることで、効率的にお金や電気に変えるシステムを内包しているということ。けれど温泉地は、土地そのものがエネルギーを持っているので、人が持ち込むエネルギーは少なくて済むし、時間の概念が都市とは異なります。
この理論でいくと、都市に住んでいてすり減っていくのは当たり前。大半の人はエネルギーを吸い取られつつも、それがお金という対価に変わっているから、納得している部分があると思うけれど、僕は自分の時間や活動が「都市」というシステムに組み込まれて消費されるのが嫌だったんですよね。それが震災、原発事故を通してはっきりわかったんです。

何かに導かれるかのように
たどりついた別府という町

2012年に実家のある福岡へ戻り、福岡と東京の2拠点をベースに生活を始めました。そして、地方にある温泉地の観光産業を盛り上げる事業を興すため、NPO法人YUKAIを設立。まず下見に訪れたのが大分県の別府でした。実は小さい頃、親族の別荘が別府にあって、年末年始に親族で集まって、温泉に入って、ごはんを食べて、遊んで、お年玉をもらって……家族ですごくしあわせな時間を過ごした場所が別府でした。僕にとっての温泉の原体験はここだったんです。

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別府には「立命館アジア太平洋大学(APU)」という国際大学があります。「音泉温楽」を手伝ってくれていたスタッフがそこの学生で、ぜひ別府でもフェスをやってほしいと言われていて。彼の案内で、別府に来た初日からたくさんの人に会いました。そこで出会ったひとりが、実は今の奥さんなんです。スナックでアニソンを歌っている姿が「かわいいなあ」と思って(笑)。まさか彼女が「ホテルニューツルタ」の一人娘だなんて知らず。けれど、その時点で、別府の町と彼女に恋をしてしまっていた。きっとこれはもう別府に住むんだろうなと覚悟していました。出会ってすぐにプロポーズして、1年足らずで結婚。2013年の春に移住してきました。

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「ホテルニューツルタ」のロビーにて。

 

別府の人の行動原理は
楽しい、おもしろい、心地よい

別府に住んでみてわかったのですが、僕の周りの人たちは、世代にかかわらず人と人との垣根がない。ノーボーダー。まったくと言っていいほど境界がないんです。
別府は九州の東海岸にある港町ですが、西にある福岡や熊本からは山があって来づらく、地勢的には瀬戸内海の西の端っこに近い。だから山を越えて陸路で来るよりも、船に乗って海から来る方が楽だったんです。140年前に港ができてからは、船で四国や中国地方、関西の人たちが来て湯治をするという「船湯治」の文化があったそうで、温泉に行く人たちのために港が開かれていたんですね。別府には、「ひと」「もの」「こと」「かね」が、全部「外」からやってきた。ただの港町でしかなかった場所に、海の向こうから人がやってきて、温泉という資源をベースに「一大温泉文化都市」になったという歴史があるんです。だから、観光のために開かれた港町特有の、どんな人をも受け入れてきた土地が持つマインドが、別府の人にもありますね。

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ホテルの正面に広がる、緑の景色。その奥は港につながる。

ある意味、僕はよそ者で、“コンテンツプロデュース”というわけのわからない仕事をしているにもかかわらず、そんな人間の話を周りの人が聞いてくれるんです。別府の人たちの行動原理は「楽しい」「おもしろい」「心地よい」とシンプル。みんなワクワクしたくて、何かしたいし、楽しく生きたい。おじいちゃん、おばあちゃんもハイカラでお洒落な方が多くて、みなさん「楽しけりゃOKよ」って。それは昔、別府が栄えていた楽しい時代を知っているからなんでしょうね。

外国人留学生のやりたいことが
別府の町を変えるきっかけになる

さらに、別府を特異な町にしているのは、「APU」という大学の存在。全学年で6,000人近くいて、そのうちの半数程度が世界80カ国から来た外国人留学生なんです。別府の人口は約12万人なのですが、外国人留学生居住率は京都に次ぐ人数で、東京都港区と同程度。これは地方都市としては考えられないくらい国際色豊かな町だということ。しかもそのほとんどは10~20代の若い世代なんです。2年前くらいから、学生たちが町にもっとコミットしたいと僕に相談してくれるようになりました。たとえば、空き地を活かして学生達がシェアして住める物件をもっと増やしたいとか、町が衰退していくことに対して、何か具体的にアプローチをしたいとか、観光産業の手伝いがしたいという学生もいます。

今、そこから生まれたプロジェクトが2つあり、1つはAPUの学生たちと地域におけるさまざまな課題を改善するためのコミュニティづくり。
ネットワーク上の「結節点」を意味する「node(ノード)」というプロジェクトで、この町に住むあらゆる国と世代の人たちが出入りする“場所”をつくりたくて。まずは、別府にたくさんあるスナックの空き店舗を使ってコミュニティをつくる実験をしています。また、7月からはじめたソーシャルスペース「スナックわたりどり(仮」では、東京から来た僕の知人の蔵人(くらんど)君が、9月中旬までの期間限定で女将をやっています。彼はゲイですが、強烈なパーソナリティを持つ、とても文化的で繊細な人物です。彼に会おうといろんな人が関東やさまざまなエリアから別府に訪れるようになりました。これからは、そうした「人に会いに行く旅」が増えていくと思うし、人がその土地の魅力になるべきです。

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「スナックわたりどり(仮」 にAPUの学生と集合!

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東京から夏季限定の短期移住者として別府に滞在中の蔵人さんが、女将として切り盛りするソーシャルスペース「スナックわたりどり(仮」。毎夜、彼に会いにさまざまな人が集う。

もうひとつは、APUを卒業する学生や現役の学生たちと進めている「Experience Beppu」というベンチャープロジェクトです。主に外国人ツーリストや日本の新しい世代のツーリストをターゲットにした観光アクティビティ開発をしています。日本では、観光地に行ってその土地のことをより深く楽しむオプショナルツアーがとても少ないのが現状。特に温泉地では、宿で「ゆっくりすること」が主目的で、基本はそれで終わり。別府を世界的な温泉リゾートにするために、温泉以外の特色のあるアクティビティを提示していく必要がある。

たとえば、別府を拠点に車で90分圏内、少し北には国東(くにさき)半島という原初的な日本の仏教文化が色濃く残る自然溢れるスピリチュアルなエリアがあり、少し南に行けば沖合に野生のイルカが群生する手付かずの島があったり。別府には、日本一の湯量と泉質を誇る温泉と、そして幸いにもAPUがあり、世界中から来た若者たちがここで暮らしています。国が違えば、観光に求めるニーズも変わってきますから、彼らの視点を活かして国際的な価値にまで地元の観光資源をブラッシュアップして、引き上げていくことを目指しています。

別府から車で約1時間で行ける国東半島・真玉(またま)海岸の美しいサンセット。別府とは異なる文化圏でスピリチュアルなエリア(写真:本人提供)

別府から車で約1時間で行ける国東半島・真玉(またま)海岸の美しいサンセット。別府とは異なる文化圏でスピリチュアルなエリア(写真:本人提供)

APUの学生たちのやりたいことが、この町を変えるきっかけになれば、それはとても素敵なこと。彼らが目指すものと、この町がこれから求めるべきことがイコールになれば、お互いにとって「心地よい」と考えています。僕らが目指すべきことは、ローカルの強化だけではなくて、“グローカルな場”を作ること。APUの学生たちのグローバルな意識を、別府というローカルな町に落とし込んでサービスに変えていくことが、別府の新しい価値につながっていくはず。そしてその手法は日本各地にあるまだ手付かずの観光資源や、ひとつのサイクルを終えたと思われている観光資源を、再びそのエリアの新たな価値に変えていけると信じています。

ここ数年、別府の町にはヨガのマスターや、SUPなどのマリンアクティビティのスキルを持ったさまざまな人が移住して来ていたり、マクロビオティックやナチュラルフードを提供するレストランやラボが出来たり、昭和が色濃く残る商店街のど真ん中にAPUの学生たちを中心としたスタッフがエレクトロ・ダンス・ミュージックをガンガンかけるナイトクラブをつくったりと、カオス的に町の意識が急激に増幅している実感があります。

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温泉フェスの仕事を始めた当初は、1年365日あるなかで、イベントを開催する日だけが華やかであれば良いと思っているところがありました。その1日に人が多く集まれば、地域が喜んでくれるだろうと。だけど、観光地で実際に暮らしてみると、そうしたイベントは365日分の1日でしかなくて、その1日の売上がいくら大きくなったとしても、継続的にこの町に富をもたらすわけではない。そこに暮らす人たちの日々の暮らしに根ざしていないと価値は続いていかないんです。

以前、「音泉温楽」で成功したフォーマットを他の温泉地に持ち込もうとして失敗、挫折しました。だからこそ、その経験を活かし、焦らず、別府の地でともに暮らす人たちと一緒に、日々の「暮らし」を“観光”という「ビジネス」に変えていく1人の移住者/プレイヤーとして、自らのスキルを活かしていきたい。そうして、ここにしかない新しい成長のためのモデルをつくり続けていけたら、それはとても幸せなこと。

僕は、長期移住だけでなく、短期移住もあっていいと考えています。「ここに一生暮らさなきゃいけない」ってハードル高いですよね。必要な時に、必要な場所にいればいい。うちが管理しているビルが2つあるのですが、来年、そこの一部フロアをゲストハウスにリノベーションする計画をしています。同じビル内にスナックとして貸していた空き物件がいくつかあるので、期間限定で貸し出すポップアップストアにもしようかと。短期移住者が一定期間そこで商売してみて、自分のスキルを発揮できる場所として開放してみたらおもしろいんじゃないか。

たとえば貿易だったら、ものがないところに、ものを移動させることで初めて価値が生まれるでしょう? だったら、スキルがある人は、そのスキルが求められるところに移動すればいい。世界中からバラエティ豊かなスキルを持った人が集まって交易をしていけば、別府という町がもっともっとおもしろい場所になっていくはずです。そうだ、雛形編集部も何か一緒にやってみませんか(笑)?

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ホテルニューツルタ
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住所:大分県別府市北浜1-14-15
電話:0977-22-1110
http://www.newtsuruta.com/

音泉温楽
お湯をテーマに、新しいコミュニティをつくる音楽フェスティバル。毎年12月に、長野県・渋温泉で開催。
http://www.onsen-ongaku.com/

NPO法人YUKAI
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-26-5 代々木シティホームズ709
問:info@onsen-ongaku.com

EVENT プロデュースイベント

  • 夜の海地獄
    8月29日(土)、30日(日)、9月20日(日)、21日(月・祝)、22(火・祝)
    別府を代表する観光施設「海地獄」の湯けむり、伝統的な門などをプロジェクションマッピングで映像演出する企画をプロデュース。
    23日(水)には同所で、「THE HELL」というオープンエアのDJパーティーも実験的に開催予定。

    会場
    住所:大分県別府市大字鉄輪559番地の1
    電話:0977-66-0121
    時間:8:00〜17:00(イベント開催中は22:00まで営業)
    年中無休
アイデアと行動力を 湧き出るエネルギーで繋ぎ、 別府の町を変えていく
鶴田宏和さん つるた・ひろかず/1977年、福岡県生まれ。大学進学を機に上京。卒業後はレコード会社へ入社。ITベンチャーに転職後、30歳で独立し、制作会社を立ち上げる。2009年より全国の温泉旅館で開催される音楽フェスティバル「音泉温楽」を主宰。温泉地の価値を高めるプロジェクトを手がける傍ら、2012年より実家のある福岡と東京の2拠点をベースに生活、観光をメインとする事業を運営するNPO法人「YUKAI」を設立。同年、視察に訪れた別府で奥さんと出会い、老舗ホテル「ホテルニューツルタ」へ2013年に婿入り。現在は、別府の魅力を再定義するさまざまな活動を手がける。http://www.newtsuruta.com/
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(更新日:2015.08.20)
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