INTERVIEW
  • 思い通りにならない部分を取り入れる。ガラス窯をつくるため、来春、能登島へ移住

手仕事から育まれる島暮らし

石川県·能登島

石川県・能登半島の穏やかな内海に浮かぶ、人口約3000人の能登島。島と半島が橋でつながっているため、金沢まで車で1時間半、能登空港まで45分と、街へのアクセスの良さも魅力です。そんな能登島では、日本全国から100組以上の作家さんが集まるクラフトマーケットをはじめ、楽しいことを自分たちの手でつくる、島暮らしがはじまっています!

思い通りにならない部分を取り入れる。ガラス窯をつくるため、来春、能登島へ移住

石川県
有永浩太さん
ガラス作家
居住地: 大阪府→岡山県→福島県→東京都・新島→石川県
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黒い瓦屋根の民家が立ち並ぶ石川県能登島の曲地区。七尾湾の穏やかな海景色を望むこの小さな集落で、来年からガラス作家・有永浩太さんのものづくりと向き合う暮らしが始まる。

住まいとなるのは、かつてシルクロードの遺跡発掘に同行する絵描きとして世界を巡っていた叔母が、能登島の暮らしに魅せられて移り住んだ一軒家。書棚からあふれるほどに積み上げられた美術書や歴史書は、そんな叔母が残してくれたかけがえのない宝物で、有永さんはそうした貴重な文献を日常的に読みながら幼少期を過ごしたという。

現在有永さんは、奥さんの史歩さんがカフェを開いている金沢市東山の住まいと能登島の家を行き来しながら、市内の伝統工芸継承施設「金沢卯辰山工芸工房」の専門員として、若手工芸家の指導に尽力。作家としても、ベネチアングラスの技法「レースグラス」から着想を得た「gaze」シリーズなど、独自のガラス表現と向き合いながら、全国各地の展覧会で作品を発表している。そして来年3月、かねてからの目標だった自分の窯をつくるため、能登島に移住をする。

繊細な作品からにじみ出る知性、純朴な人柄のなかに宿る匠の魂はどこに向かうのか。古きを愛し、未来を見つめながら表現活動をするガラス作家の「今」に迫った。

写真:阿部 健 文:根岸達朗

ものに宿る「時間」への憧れ

僕は叔母の影響もあって、子どもの頃から古いものに触れる時間が多かったんです。だからなのか、現代のものも好きなのですが、特に絵画に描かれているような器や、発掘されるようなガラスなど考古学的なものには昔から興味がありました。つくった人がすでにこの世にいない古いものには、今それを見ている自分との間に時間的な隔たりがある。自分のところに来るまでにかかった時間には、自分が考えている以上にきっといろんな要素が詰まっていて、そこに思いを巡らせるのが好きなんです。

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僕はもしガラスをやっていなかったら、織物をやっていたと思います。布の質感も好きなのですが、何よりも織物が持つ「時間」が好きで。織物というのは、作業時間が数分間の吹きガラスとは違って、完成までにとても長い時間がかかる。そうやって時間をかけてつくられていくものに、憧れがあるんですよね。

だから「gaze(ガーゼ)」という作品では、ガラスのなかに細かい線が織り込まれているような模様をつくりました。早さが求められるガラスの手法のなかに、織物が持っている「時間」を込めたかったんです。

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思い通りにならない部分を残す
作家としてのものづくり

僕はずっと目標にしていた自分の窯を持つために、来年の春から本格的に能登島へ移住することにしました。そして、そこで自分の窯をつくることができたら、僕は自分の生活から出るものを作品に転化していきたい。例えば、ガラスの色は釉薬と同じで、自分で調合することができるので、そこに生活から出たストーブの灰を使ってみても面白いなって。それに、薪の種類が違えば灰の色も違ってきますから、毎年同じやり方でつくっても、決して同じものにはならない。

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僕は作家として同じものをつくり続ける必要性は感じないですし、そのときに一番いいと思うやり方で、一番いい形を表現できたらいいと思っています。例えば、ピンブロウという技法を用いたワイングラスのシリーズでは、自然のなかに発生する泡のように、一つとして同じ形にならないような作り方も考えました。
どうやっても自分の思い通りにならない部分を製作工程に入れていく。それによって、器一つひとつに個性が生まれますし、自分も飽きずにつくり続けることができるんです。

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自分のスタイルを見つめ
慣れ親しんだ場所を離れる

僕は石川県に来る前、東京の新島にあるガラス工房でスタッフとして働いていました。僕の好きなガラス作家で工房のディレクターをしていた野田收さんから声をかけてもらい、7年くらいお世話になりました。新島は「新島国際ガラスアートフェスティバル」など、世界的なイベントを開催している場所で、海外の作家さんとのつながりも大きいところ。広く活動している工房の手法はとても勉強になりました。

島の人とも仲良くなって、子どもも生まれて、そこでずっとやっていくという選択肢もあったのかもしれません。でも、離島という環境が、僕には少し動きにくかった。
地元だけで作品を売っていくには、販路が少ないですし、そもそもガラスはたくさんの量が売れるものではありません。僕の作品はつくるのにも時間がかかりますし、外に展示をしにいくにも、島を出るだけで時間もお金もかかってしまう。作品づくりと生活のバランスが取れなかったのです。

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もっと自由に作品づくりと向き合える環境を求めて、次の場所を探していたとき、叔母が亡くなって5年間ほど空き家になっていた能登島のこの家に辿りつきました。能登島は島ではあるけれど、2つの大きな橋で半島とつながっているから、ほかの地域への移動もしやすい。北陸はガラス工房も若手を育てる教育機関も多く、より環境が整っているところに身を置きたいと思い、2009年に一度ここに来たんです。フリーの作家として活動する一方で、島のクラフトマーケット「のとじま手まつり」などでも作品を発表しながら、工房の専門員になって金沢に移動するまでの約2年間、この家に住んでいました。

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次の世代につなげる「小さな窯」

ガラス窯には熱量が必要で、1000度以上の温度を24時間キープしないといけません。大きい窯だとそこまでの温度に上げるためには4〜5日、温度を下げるためにも同じくらいの日数がかかります。温度の上げ下げだけで、時間も光熱費もかかるというなかで、大きな窯を使って個人が仕事をしていくのは非常に大変です。だから、僕は1日単位で火を止められるようなコンパクトな窯をつくりたいと思っています。

僕たちのようなガラス作家のつくるものは、生活に即したものでありながら、決して安いものではありません。大量生産された商品は世の中にあふれていて、消費者にとって“これじゃなくてもいい”という部分がどうしても大きくなってしまうなかで、どういう風に作品を使ってもらうかを考えていくことは、作家活動を続けていく上で大切なことだと考えています。

石川や富山には、若いガラス作家も多いのですが、彼らの多くは、今の僕と同じで1日貸しのレンタル工房を使っている。僕が能登島に小さな窯をつくり、それを使って、自分がコントロールできる範囲の仕事を生み出していければ、後から始める人たちもきっとスタートを切りやすくなるんじゃなかなと。

能登島は工房や美術館もあって、ガラスと縁が深い。金沢から車で1時間半で来れる近さですが、刺激にあふれた都会とは違って、静かに集中してものづくりと向き合える環境がある。次の人たちのことも考えて、僕がこの島に、ガラス作家としての前例をつくっていけたらいいですね。

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思い通りにならない部分を取り入れる。ガラス窯をつくるため、来春、能登島へ移住
有永浩太さん ありなが・こうた/1978年、大阪府生まれ。倉敷芸術科学大学在学中からガラス制作をはじめ、卒業後、福島と新島のガラス工房でスタッフとして勤務。制作・工房運営の経験を積む。2009年、石川県に移住。金沢の伝統工芸継承施設で若手工芸家の指導を行いながら、フリーのガラス作家として全国各地の展覧会で作品を発表する。2016年春、能登島に移住予定。
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(更新日:2015.10.09)
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