REPORT

イースト・ミーツ・ウェスト!
〜北海道・別海町編〜

北海道
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北海道野付郡別海町で暮らしている山本圭一さんは現役の漁師でありながら、DJでもあり、グラフィックデザイナーでもあります。松山市在住の編集者、ミズモトアキラさんの古くからの友人で、昨年、札幌から地元へUターンした唯さんと結婚をしました。そんな彼の「ミズモトさん……新婚旅行に行きたくて」というひとことからはじまった、広島→愛媛→鹿児島を巡るダイナミックな津々浦々の旅、イースト・ミーツ・ウェスト! そんなハイレベルな旅のコーディネーターを仰せつかったミズモトさん…… さあどうする! だって北国でアクティブに暮らすふたりは、観光だけではものたりないッ! おもしろい体験がしたいッ! はず。新しく訪れる土地で、どんな人々と出会い、どんな暮らしを見るのでしょうか。ミズモトさん、よろしくお願いします!

あなたは別海町を知ってますか?

名前は聞いたことがあるかも……たぶん北の方にあったような……オッケー、じゃあ、ぼくが別海町がどのへんにあるか、ごくかんたんに教えてあげましょう。

まず、北海道の形を思い浮かべてください。ちょうどこんな感じ(と指で小さく宙にひし形を描く)をしてますよね? で、その右の角っこ一帯が道東というエリアです。

全国的に有名な道東の街としては、釧路、根室、十勝、網走、中標津、北見、知床、羅臼。あるいは摩周湖、阿寒湖、屈斜路湖にサロマ湖。そしてオホーツク海を挟んで、すぐ真正面に北方領土があります。まあ、そのへんがぜんぶ道東と呼ばれています。

で、その右のカドからすこし上にあがったあたりが別海町です。

別海町は日本で三番目の広さを持つ町で、総面積は約1,300平方キロメートルにも及びます。この町の大きさだけで、東京23区を全部足した面積の2倍以上あるんだって。

でも住んでるのは約16,000人。東京23区のなかでいちばん人口が少ない千代田区(約54,000人)と比べても3分の1以下しかいません。かわりと言っちゃあなんですが、中央区の住人とほぼ同じ数の牛(約12,000頭)が住んでるんだけどね。

写真:前田利彦(MAG. HOUSE)

 

───さて、そんな野付郡別海町をぼくがはじめて訪れたのは、今から7年前、2009年3月末のこと。

イベントのDJとしてオファーを受け、羽田から中標津空港へ。そしてぼくを呼んでくれたみなさんが住む別海町まで車で向かいました。まだ、いくらも走っていないのに、ひと気はまったく無くなり、車を路肩に停め、エンジンを止めてしまえば完全な無音の世界。

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雪で覆われたゆるやかな丘陵地にはシミのようにぽつぽつと、乳牛たちが放牧されているのが見えます。また白く澄み切った空にはオオワシやタンチョウヅルが縦横無尽に飛び交い、森の奥からはエゾシカやキツネが顔を出す……

つい数時間前までいた世界とのギャップというか、目の前に広がる光景の非日常感に圧倒され、言葉も出ませんでした。

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そのあとオホーツク海に案内してもらえば、流氷、アザラシ、しまえび、ホッキガイ。
市街地はといえば、寒冷地仕様で造られた、低層のシンプルな建造物が、マッチ箱を並べたかのように整然と立ち並んでいて……。四国育ちの自分にとって見るものすべてが新しく、あっというまに道東の自然や別海町という場所に心を奪われてしまいました。

それ以来、イヴェントのゲストとして何度もお招きいただいてるほか、別海町の文化的拠点であるレコードショップ&カフェ「PICKUP+oncafe」では、ぼくが作った本やCDなどを商品として取り扱ってもらうだけでなく、ぼくが選書した古書を別海町メイドのオリジナルブックスタンドで展示・販売する「19books」というプロジェクトを共同企画したりしてきました。

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お互いけっして行き来のかんたんな場所ではないのに、心の距離は常にご近所というつもりで関係を保ってきた町なのです。

冒頭に書きましたが、別海町は日本の酪農のメッカです。乳牛の数だけでなく、生乳の生産量も日本一。いつも定宿にしているホテル「MAG.HOUSE」の食堂で朝食を食べていると、ぼく以外の宿泊客が全員、日本中から集まってきた畜産専門の獣医さんで、飛び交う会話がずっと牛の便通についての話だった……なんてこともあったほど。

じつはぼくがこの町の名を知ったきっかけも、少なからず「牛」と関係しています。
ぼくの大好きなアーティスト、大竹伸朗さんが若かりし頃、大学に無事入学したにもかかわらず、自分の道に疑問をいだき、大学を休学。ある牧場に一年間住み込みで働きながら、デッサンやスケッチや写真を撮りながら生活したことを、彼のエッセイなどで読んでいました。

大竹さんがそのとき暮らしていた牧場こそ、別海町にあるウルリー牧場なのです。

2006年、大竹さんは東京都現代美術館で大規模な回顧展『全景』を開催しましたが、彼はそのサテライト会場としてウルリー牧場を選び、彼を当時受け入れた牧場主・渡邉東二さんが手作りで建てたサイロ小屋に、別海時代の作品などを展示したことも、大きな話題になりました。

ぼくは2012年に別海へお邪魔したとき、個人的なツテを駆使して、ウルリー牧場へ訪問する機会を得ることができました。東二さんの案内でサイロ小屋や、大竹さんの落書きが残る牛舎などを見学させてもらい、至福のひとときを過ごしました。ちなみに現在そのサイロ小屋は、東二さんの息子である北斗くん一家の住まいになっており、BRUTUS「居住空間学2016(5/15号)」特集で表紙を飾りました。また北斗くんは「19books」プロジェクトで本棚制作を担当してくれました。

写真:前田利彦(MAG. HOUSE)

 

───と、まあ、こんなエピソードは、こと別海町に関しては枚挙に暇がなく、はじめてそこを訪れて以来、その自然の豊かさに打たれ、人に刺激され、と同時にほっとするような……とにかく今までに訪れたどんな町ともちがう、強烈なインパクトを与えてくれたのです。そして昨年12月、ぼくの新刊(堀部篤史との共著『コテージのビッグ・ウェンズデー』)に関連したトークイヴェントのため、ひさびさに別海町を訪れることができました。

 

真冬の平日にもかかわらず、イヴェントが20時スタートと設定されたことにも驚かされましたが、会場の「PICKUP+oncafe」オーナー奥山さんに理由を訊くと「酪農をやってる連中はだいたい18時ごろに晩の搾乳作業をするんですよ。だから、あまり早く始めるとかえってみんな間に合わないんです」との答え。説明に納得しながら、ああ、なんて素敵なんだ、と、またも目がハートマークになってしまうぼく。

 

イヴェントが終わると、会場に来てくれていた長年の友人である山本圭一さんと、数ヶ月前に彼の伴侶となった唯ちゃんが声をかけてくれました。
山本くんの職業は漁師。毎朝、別海周辺の海へ漁船で繰り出し、ホッキ貝や鮭などを獲っています。その”本業”と並行して、彼は先輩である奥山さんたちから引き継いだDJイヴェント”HOLLYWOOD“(なんと来年20周年!)をDJ兼オーガナイザーとして主宰し、須永辰緒、沖野修也、MURO、grooveman Spot(以上、敬称略)といった豪華なゲストDJを別海に招聘。また得意のグラフィック・デザインや写真の腕を活かして、デザイン事務所「NAGI GRAPHICS」を今春に立ち上げたばかり。

 

「ミズモトさん、実はちょっと考えてることがありまして。折り入って相談に乗ってもらえませんか?」と山本くん。

「なんだよ、あらたまって。まさかもう離婚とか言うんじゃないだろうね」とぼく。

「縁起でもないこと言わないでください。じつは、来年の6月頃に新婚旅行を考えてるんです」

「あっ、そうなの。そりゃめでたいね。で、どこに行くの? 沖縄? それともハワイ?」

「いや、それが……松山に行こうかと思ってるんです」

 

つづく

写真、文・ミズモトアキラ
イースト・ミーツ・ウェスト! 〜北海道・別海町編〜

ミズモトアキラ
1969年、愛媛県松山市生まれ、松山市在住。エディター/DJ。2013年、関東からIターン。音楽、映像、写真、デザインなどを多角的に扱い、文、編集、デザインを手がける傍ら、トークイベントやワークショップの主催も精力的に行っている。
www.akiramizumoto.com

(更新日:2016.07.16)
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