特集 まちとアート
【募集中!】芸術祭サポーターとして、石川県珠洲市に“試住”しませんか?/地域との新しい関わり方@奥能登国際芸術祭(〜10月22日)

近年、日本の各地域で、さまざまなスタイルやコンセプトで開催されている芸術祭。その土地が持つ個性をアートのちからで浮かび上がらせ、新たな風景を見せてくれます。
そんな華やかな芸術祭を支える「サポーター」と呼ばれるボランティアスタッフの存在をご存知ですか? 作家さんと一緒に作品を制作したり、地元の人と受付をしたり、芸術祭を陰からサポートしている頼もしいメンバーです。
地域に中長期で滞在しながら、世界で活躍するアーティストや地域で暮らす人と直接交流できるサポーターシステムは、その土地と深く関わることができる貴重な機会。
今回取材した、石川県珠洲市を舞台に開催中の「奥能登国際芸術祭2017」では、サポーターとして活動する日数や日程は自分で決めることができ、滞在中の宿泊費は無料、郷土料理をはじめ地元の食材を使ったおいしいごはんも用意されています。
現在も募集中なので、興味のある方はこの機会にサポーターシステムを活用してみませんか?
文:兵藤育子
一歩踏み込んで、
芸術祭を楽しむ方法
能登半島の先端にある石川県・珠洲市は、三方を日本海に囲まれ、海と山の距離が近いダイナミックな地形が特徴的。その豊かな自然を舞台に開催されている「奥能登国際芸術祭2017」には、11の国と地域から39組のアーティストが参加しています。
海辺や断崖絶壁、廃線となった駅、古民家、かつて町の人たちが集った映画館やスナックなどに出現した作品は、存在感を放ちながらも、珠洲の歴史や文化に寄り添うように佇む姿が印象的。現在、日本全国から多くの人々がこの地に集まってきています。
(>>台湾ユニット「男子休日委員会」による「奥能登芸術祭2017」レポート記事はこちら。)

「いえの木」/金沢美術工芸大学のチーム「スズプロ」 作品の舞台は、網元だったという明治期に建てられた古民家。その蔵に残されていた膨大なモノを漁網で覆い、逆さに生えた巨木のように天井から吊り下げたダイナミックな作品。

「小さい忘れもの美術館」/河口龍夫 旧飯田駅に出現した、忘れものの美術館。駅や鉄道を含む、かつて人々に必要とされていたものが、やがて忘れ去られることの意味を問いかける。

「神話の続き」/深澤孝史 海辺に流れ着いた漂流物で作った鳥居。「寄神」という漂着神をまつった神社や祭礼が今も残る、海に囲まれた珠洲らしい作品だ。
芸術祭は数多くの協賛企業や団体、地元の人たちの協力のもとで成り立っていますが、縁の下の力持ちといえる「ボランティアサポーター」は、なくてはならない存在。
たとえば、瀬戸内国際芸術祭のサポーターは「こえび隊」、大地の芸術祭では「こへび隊」という愛称で親しまれていて、このサポーターシステムが今、芸術祭を一歩踏み込んで楽しむ方法として人気を集めているのです。

地元のお父さんたちと、海外から来ているサポーターのメンバーが一緒に受付や物販を担当。
芸術祭間を行き来するサポーターたち
奥能登国際芸術祭のサポーターの拠点となっているのが、「日置ハウス」という滞在交流施設。各地からやってきたサポーターはここで寝食をともにしているのですが、奥能登国際芸術祭のサポーターは国際色豊か。
これまでロシア、ベルギー、オーストラリア、中国、台湾、香港など10の国と地域から参加しているそう。芸術祭前夜に日置ハウスを訪れると、地域おこし協力隊の新谷健太さんが迎えてくれました。

以前から珠洲のまちが好きだったという、新谷健太さん。今年の春に移住してきたばかり。
「ここにはアーティストも数名滞在しているのですが、今日は今までで一番多い36名が宿泊することになっています」
今年の春に珠洲に移住してきた新谷さんは、北海道出身。金沢美術工芸大学で油絵を専攻していました。

芸術祭会期前に、アーティストとコミュニケーションをとりながら作品制作を手伝うサポーター。
「学生時代に奥能登国際芸術祭の計画を知って、ゆくゆくは珠洲に住みたいなと思うようになりました。大学のサークルのキャンプなどで珠洲にはよく来ていて、前から好きだったんですよね」
新谷さんは大学卒業後、2年間かけてお金を貯め、飯田という珠洲の中心地区に大学時代の友だちと思い切って一軒家を購入。
「もともと高校生の下宿もしていたような家で、部屋数が多くて広いので、自分自身の制作活動もゆっくりできますし、美大の知り合いもよく泊まりにきています」
この広い一軒家を利用して、ゆくゆくはゲストハウスをやりたいそうで、こちらは同居人が着々と準備中。
「珠洲に暮らしていると、隣家のおばちゃんから野菜をもらい、反対の隣のおばちゃんから魚をもらって、そのお礼に重いものを運んだり、草刈りを手伝うというようなことがよくあります。それぞれが生産して協力し合い、人間的な生活をしている感じがしますね」
新谷さんと話をしていると、今日から滞在するというサポーターが一日の作業を終えて、続々と日置ハウスに到着。なかには大地の芸術祭で、こへび隊をしていた人も。
「奥能登国際芸術祭の事務局スタッフが、こへび隊に参加してくれて、次は僕らが応援に行くよって2年前に約束をしたんです。ようやくそれを果たすことができました」

大学の授業の一環で10日間ほどサポーター活動をした、香港大学の4人組。
サポーター同士のこうした交流はよくあるらしく、再会を喜ぶ場面もちらほら。ここでの毎日の夕食は、地元のお母さんたちの手作り。この日のメニューはチキンカレー、かぼちゃサラダ、金時草のおひたし、きゅうりのこぶ和えとボリュームもバランスも申し分なし。
地元のお母さんたちは夕方の早い時間に食事の支度をするため、サポーターたちと顔を合わせるタイミングがなかなかありません。そこで、いつの日からか、食堂に1冊のノートが置かれるようになり、食事を作ってくれるお母さんたちとサポーターが、交換日記のようにメッセージを書く習慣が生まれたそうです。
なぜ、あなたはサポーターとして参加したの?
気になるのは、サポーターのみなさんがどんな思いで参加しているのかということ。
たとえば1カ月近い長期にわたって滞在を予定している、台湾から来た曽韻年(ソウ・インネン)さんは、これまで瀬戸内国際芸術祭や大地の芸術祭にも行ったことのある、芸術祭フリーク。
「芸術祭がどうやって成り立っているのか興味があって調べていたら、奥能登国際芸術祭のサポーターシステムを知りました」
台湾の人に日本の芸術祭は人気があるようで、その理由を尋ねてみると……。
「いわゆる観光地じゃないところに行けるのがいいのかもしれないですね。芸術祭は観光地とは違う目線で、日本を見ることができるから」

河口龍夫さんの作品「小さい忘れもの美術館」制作を手伝うサポーター。

写真左は、作品「最涯の漂着神」を制作した、小山真徳さん。世界で活躍するアーティストと直接触れ合うことができるのも、サポーターの特権。
会期前のサポーターの主な仕事は、作品制作のアシスタント。観客としてではなく、サポーターとして参加した芸術祭は、曽さんにとってこれまでとは異なる楽しさがあったようです。
「毎日違う作家さんのお手伝いをするのですが、サポーターだけでなく地元の人も一緒に作業するので、珠洲のことをいろいろ教えてもらっています。今日も地元のおじいさんと一緒に手伝っていたのですが、珠洲に来て久しぶりにお年寄りとたくさんお話ができて、温かい気持ちになりました」
欧米からのサポーターの通訳などを担当している林樹子さんは、こへび隊経験者。林さんも、アーティストや現地の人と一緒に作業することでより深く交流できるのが、サポーターの醍醐味だといいます。
「越後妻有では作業をしていると、『こへびさん、頑張ってね』と地元の方に声をかけられるのですが、こっちだと『何してるの?』とまず聞かれます(笑)。20年続いている大地の芸術祭と比べたら、第1回目の奥能登国際芸術祭が地元に浸透していないのは当然ですが、それでも説明すると応援してくれて、好意的に思ってくださっている方が多い印象を受けました」

「会期中にもう一度サポーターとして来たい」と話していて、実際に10月に再び訪れる予定だという、佐藤世梨花さん。
東京から来た大学生の佐藤世梨花さんは、芸術祭に興味があったというより、珠洲に来てみたかったという、先のふたりとは異なるアプローチ。
「最初に能登を知ったのはテレビドラマの『まれ』なのですが、大学の友だちで珠洲出身の子がいて、会うたびにキリコ祭りの動画を見せてくれて、輪島だけじゃなく珠洲にもおいで、とよく言われていて。珠洲のことをもっと知りたくて、渋谷ヒカリエで行われた芸術祭開幕前のイベントに行ってみたら、サポーターシステムがあることを教えてもらったんです」
滞在2日目にして「すでに期待以上です」と、目を輝かせる佐藤さん。
「珠洲のいい話をたくさん聞いていたから、自分のなかで美化しているかもしれないと思ったけど、全然そんなことはありませんでした。珠洲は人と人の距離が近くて、言葉にできない魅力があります」

会期前は、アーティストとだけでなく、地元の人と一緒に創作活動ができる。
土地のことを知るきっかけ。
芸術祭初日の9月3日。朝6時に再び日置ハウスを訪れると、朝ごはんを担当している志保石薫さんが食堂で手際よく作業をしていました。志保石さんは学生時代に訪れた珠洲に見せられ、卒業後、東京から移住。珠洲の体験宿泊施設「木ノ浦ビレッジ」で今年の3月まで働いていました。志保石さんも、珠洲で宿やお店をオープンすることを描いており、サポーターの朝食作りは経験を積むという意味でも学ぶところが多いよう。

芸術祭初日、朝5時から約40人分の朝食をつくる、志保石薫さん。
「朝食の習慣は国だけでなく人によっても違うので、朝からしょっぱいものは食べられないと言われたり、パンとスムージーにしてほしいと言われることもあるけれど、私が作る意味も考えて和食にしています。外国人だと、台湾の人が一番喜んでくれますね」

この日の朝ごはんは、おにぎり二種(五目、えごまの葉の醤油漬け)、秋かますの塩焼き、うの花、みそ汁、漬け物。純和食の朝から元気になりそうなメニュー。
限られた予算内で、栄養バランスが取れて、毎日飽きることなく食べられて、しかも珠洲らしさを感じられるメニューを考えるのは、簡単なことではないはず。この日は、滞在最終日の外国人サポーターが、毎日朝食を作ってくれた感謝の気持ちを込めて志保石さんにプレゼントを渡す場面も。
「やる前はこんなに楽しいと思わなかったです。『私の国でも、これと似た料理があるよ』などといろんなことを教えてくれるので、勉強になりますね」
芸術祭を盛り上げながら、地元の人と交流でき、試住という意味でも画期的なサポーターシステム。こんなふうに地域を知る方法もあるので、興味のある人はぜひ参加してみてはいかがでしょう。
10月22日(日)までの会期中、そして会期後もまだまだ募集中です。特に最終週となる10月21日(土)、22日(日)は人手が足りないとのことなので、ご興味のある方はぜひ!
奥能登国際芸術祭2017
会期:〜10月22日(日)までの50日間
会場:石川県珠洲市全域(珠洲市内へのアクセス)
公式HP:http://oku-noto.jp/
奥能登国際芸術祭2017サポーターウェブ:https://sites.google.com/view/okunototriennale/
移動手段:集合場所までの交通費は自己負担です。集合場所〜活動現場までの移動は事務局が送迎します。
活動時の服装:動きやすい服装、帽子、タオル、軽い上着(日差しや雨や寒さをしのぐ用)、雨天時カッパなど
滞在先:サポーター活動をする方は、サポーター宿舎「日置ハウス」に無料で宿泊可能。(朝・夕食付き、男女別の相部屋)サポーター宿舎「日置ハウス」のお申込みはこちらから。
*宿泊日の3日前までに必ず予約をしてください。宿泊者は18:00に奥能登国際芸術祭実行委員会事務局に来てください。
*お風呂あり。4名用のため順番に入ってください。(シャンプー、ボディーソープ、ドライヤー有り)
*洗濯機・乾燥機あり。台数が少ないので順番にお使いください。(洗濯洗剤有り)
【特にサポーターが必要な日程】
10月7日(土)・8日(日)・9日(月) 各日10名
10月21日(土)・最終日22日(日) 各日20名以上
◎珠洲までのアクセス
■【飛行機】東京から珠洲へ (約2時間)
(1)羽田空港→能登空港(愛称:のと里山空港)
[午前便]8:55発—9:50着 /[午後便]14:55発—15:50着
(2)能登空港→奥能登国際芸術祭事務局
スズ交通ふるさとタクシー
(要事前予約 0768−82−1221・料金1,300円・相乗りタクシー)
行き先は「珠洲市の旧消防署の芸術祭事務局まで」とお伝えください。前日17時までにご予約ください。
*午前便利用者の方へ
奥能登国際芸術祭事務局へ到着後、 お昼を食べてから半日サポーター活動に参加できます。
13時に奥能登国際芸術祭事務局へ集合ください。荷物を預かります。
申込時に午前便利用の旨、ご連絡ください。
■ 【バス】金沢→珠洲へ( 約3時間)
金沢駅から、北陸鉄道・珠洲特急線にご乗車ください。
北陸鉄道・珠洲特急線 平成29年9月1日~10月22日の時刻表
道の駅「すずなり」で下車、奥能登国際芸術祭事務局まで徒歩10分です。
■おすすめの前泊コース
金沢駅に到着後、珠洲特急線14:50金沢発ー17:46すずなり着⇒ 18:00に事務局へ。
奥能登国際芸術祭事務局(サポーター事務局)
石川県珠洲市飯田町13-120-1
TEL:0768-82-7720 FAX:0768-82-7727
mail:supporter@oku-noto.jp

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