特集 歩きながら見えてくる

フーコの、セカンドハンドショップを歩く北欧旅行記 〈スウェーデン編〉

服と小物のちいさな店『フーコ』をはじめて、今年で4年目。

東京の浅草と上野の間、田原町にある4.5坪の小さな店で、オリジナルウエアから作家のバッグや帽子・アクセサリーなど、身につけて心が楽しくなる服と小物を紹介しています。

フーコでは、私自身の知覚センサー(フーコセンサー)に反応したモノがそのまま品揃えになっていきます。目の前に現れたものをその都度、視覚・触覚など感覚を通して吟味していく、その積み重ねによりフーコが出来上がっていきます。

中でも作家の作品はポリシーやコンセプトなどの言葉で表せないような部分、作り手が夢中になって作っているものや作っている時間が楽しい! そんな風に作られたものにフーコセンサーは反応し、見たり触れたりするたびに心が楽しくなる作品はフーコの要素に欠かせないものです。

そしてさまざまな国を旅して買ってくるものもフーコの品揃えの要素の一つ。買付け旅の醍醐味は、見慣れぬ海外の土地で、フーコセンサーがどこに反応するのかを知ること。行ってみたい、見てみたい、触れてみたいの願望が満ちてきて、不思議といいタイミングで旅の計画はやってくる。

今回の旅先は、北欧! “セカンドハンドショップ”と呼ばれる、リサイクルショップをめぐり、手編みのセーターや手袋・靴下などのニット小物を探す旅。初の北欧ということもあって思い描くそのセーターは見つかるのか、いや北国だから編み物はきっと盛んなはず、と妄想をいっぱい膨らませて〜〜いざ出発!


写真・文:森下富美子(フーコショップ店主)

写真・文:森下富美子(フーコショップ店主)

〈スウェーデン編〉

10月21日

今回の旅の仲間は、フーコでもご紹介している作家〈banryoku〉の中村万緑子さん、西荻窪で〈cafe ilo〉を営んでいる、ヘルシンキLOVEの店主・ともしちゃんと、ライターの天田泉さん

この旅のきっかけは、〈banryoku〉万緑子さんが留学していたスウェーデンのエーランド島にあるものづくりの学校「カペラゴーデン手工芸学校」の話を聞き、みんなで行ってみたい!ということから始まった。みんなでカペラへ数日滞在したのち、4人それぞれが行きたい国へ別行動をする予定で旅の計画を立てた。

11:10成田発、コペンハーゲン行き。10時間余りのフライトで『犬ヶ島』『ハンソロ』など映画を見て、眠れずに無事到着。先に旅立っていた万緑子さんとの待ち合わせをするため、電車でスウェーデン南部の都市、マルメに向かう。デンマークの国際空港から出ている電車に乗ってスムーズに移動。30分ほどで到着。


初めてのスウェーデン、10月も下旬だし北欧だしと寒さを覚悟していったものの、あまり東京と変わらぬ気候に拍子抜けした。ホテルへチェックインしたのち、無事に万緑子さんとの合流も果たし、万緑子さんのお友だちの家族のお家へ向かう。

お友だちと話したのは、異国の地で子育てをするということ、母国語をどの言語にするか、それによるものの考え方への影響や文化の違いなどについて。日本で暮らし、母国語で話すことが当たり前の中にいる私の考えは、脈々とつながっている日本の歴史や文化、ご先祖さまの血などに影響を受けて今があることに気づかされた。

まだ1歳になる頃のお嬢さんをみんなでかわいいかわいいと可愛がりながら、「これからどんな大人に育っていくか楽しみだねぇ」などと、他愛のない会話を続けて楽しい会を終えた。

明日は「カペラゴーデン」のあるエーランド島まで電車の旅である。


10月22日

マルメから万緑子さんの留学先「カペラゴーデン」があるエーランド島へ向かう。

電車の中から見える景色は、ほとんどが林や畑で黄色く紅葉した葉が低い太陽の光に輝いていた。日が短くなる冬のスウェーデンの光は、午前中でもまるで夕方のような柔らかくオレンジ色の光。

3時間半の長旅の途中、カルマルという地方都市でお昼ご飯。万緑子さんが学校のあるエーランド島から一番近い都会として時折訪れていたというアジア料理のビュッフェが美味しい。昼食後は当時よく通っていたというセカンドハンドショップへ。初の買い付けと鼻息荒くして覗いたが収穫は布小物のみ。夕飯の買い出しをして、バスでエーランド島へ向かう。



 

 


 

 

 


エーランド島は起伏もない平らな島。本土からバスで30分、今日から2日間お世話になるお家まで向かう。目的のバス停からは林と畑しかないその場所から徒歩で向かう。

バス停からの道のりは遠くてトランクを引きづりながらはヘトヘト。ただただまっすぐに伸びた道は歩いても歩いても辿り着かない気がする。2キロは歩いたであろう道のりの先にそのお家はあった。家の鍵を借りに先にカペラへ立ち寄る。紅葉した木々に囲まれた場所、ベンガラ色のような壁の平屋の小屋がいくつも並ぶ。別荘地として使われることも多いそうだ。

万緑子さんの友人が別荘として使っているお家がお宿。かわいい平屋建てのお家で眺めも良い。

荷物を置いて早速お散歩がてら学校へ。

 

 

 


学校は人も景色も暖かい空気が流れていて居心地の良い場所だった。みんな暖かく歓迎してくださる。学校の食堂も見学させてもらう。教会のような素敵な空間。ガーデンの生徒が育てたお花や木の実の装飾、眼に映るもの全てが心地よい。血の通ったもの、愛された空間がそのように感じさせるのか。

散歩しながら家へ戻る。

今日の夕飯作りは、ともしちゃんが担当。ネギのオイル煮、茹でたジャガイモとケイパー、ミックスリーフと人参のサラダ、きのことトマトのグルテンフリーパスタ。どれもあまりに美味しくってご飯が進む。

来年は何やっていたいとか、将来はどうありたいとかそんな話をした。


10月23日

朝起きてみるとちょうど昨日食事をしたダイニングルームからの眺めに、虹が出ていた。

スウェーデンの南東部バルト海に浮かぶ島エーランド島。非日常感、まだ自分がそこにいる感覚が曖昧だけど虹の出現、幸先がいいような気がした。

 

 



今日はお散歩&学校見学。先生のご厚意で学校でお昼ご飯をいただく約束をしていた。滞在先のお家から少し歩いて散歩したのち、学校の食堂を覗くとビュッフェスタイルでランチタイムが始まっていた。ビーフシチューのような煮物とライスにサラダ。日照時間不足でビタミンが足りなくなりやすいのを補完するためにベリーのソースが添えられることが多いそう。これがなんだかおしゃれでおいしく感じてしまう。セラミックのクラスに通う日本人の男の子に声をかけ一緒にランチを食べた。


 

 

 

 

 

 

 


昼食後、男の子に誘われて学校内の見学をさせてもらう。「カペラゴーデン」は手工芸の学校である。

テキスタイル・木工・セラミック・ガーデンからなるクラスは少人数制で製作に打ち込める環境が充実している。

織り機も一人一台あり、デスクもそれぞれ自分の部屋のように割り当てられていて各々使いやすくレイアウトされていた。案内してくれた男の子が所属しているセラミッククラスは生徒16人に対して、薪がまがあったり電気釜があったりすごい設備。釉薬もすべて整っている。壁の色やドアの色が淡い空とつながるような色に塗られていていた。

スーパーへ夜ごはんの買い出しに行き、楽しみにしていた地元の救世軍のバザーで仕入れ。布・木製品・ガラスや陶器などありとあらゆる年代を経た日用品が揃う。鼻息も荒くしながら布ものやら木製品やらを掘り出す。

今日の夜は万緑子さん旧友かえさんと一緒にごはんを食べる予定だった。

エーランド島に住んで4年、パートナーとに家づくりの話は大変面白く、お家で電気が来ていないときは暗い中ヘッドライトをしながら料理をしていたお話やキノコ教室で見つけたバスケットボールほどの大きさのキノコの話などカルチャーショックも受けつつ、面白すぎて笑いが止まらなかった。楽しい話もありつつ、やはり異国で暮らすということの難しさも伺えた。

スウェーデンで日本人が住む、生きて行くことはどういうことなのかと考えさせられるようなエピソードが興味深く、外国人という疎外感をどううまく乗り越えていくかというお話は、母国に住んで不自由なく暮らす私の刺激になった。


10月24日


早朝、
5:30

ストックホルムへ向けて暗い中出発。ここからはcafe iloのともしちゃんとの二人旅のはじまり。

昨日晩御飯をご一緒した日本人のかえさんから、暗くて車に轢かれる危険性があるから反射板の付いたベストとヘッドライトを借りる。ヘッドライトなんて生まれて初めての経験だったけどバックパックにヘッドライトは完全に登山者の格好であり、あまりにおかしくて笑ってしまった。

ストレッチロードと呼ばれる約1キロの真直ぐな長い農道は風を遮ることもなく、吹きっさらしで寒くて早くバス停の場所までたどり着きたいという一心で歩いた。月がくっきり丸くてこの光がなかったらもっと真っ暗かと思うとありがたい気持ちにもなった。

バス停につき、6:12発のバスを待っていると、なんと暗くて私たちの存在に気付かれず通り過ぎて行ってしまった。えー!と驚きつつ、自己主張しなかった自分たちが悔やまれた。ともしちゃんと次のバスを待つことにする。30分ほどまってバスが来て無事にカルマルへ。氷点下の真冬だったら凍死してたかもね、とか冗談をいいながら駅の喫茶でお茶をすることになった。

カフェでカフェオレとおやつを注文。お盆を席に持っていこうとしたところでなぜかバランスを崩し、見事なまでにお盆をひっくり返してしまった。店のお姉さんがとても親切で新しくカフェオレを持って来てくれたり、あたりを拭いてくれたり、お菓子はカフェオレ味になっちゃったわねとか冗談を言ってくれたり。あまりの失態にショックを受ける私だったけど優しいお姉さんのおかげで身も心も温まった。

カルマル8:00発、ストックホルムへは12:40着の電車の旅。約4時間40分の長旅。

すっかりヘトヘトになったがホテルまで辿り着いた。時差ぼけもありこのままベッドで横になれたら幸せだなぁとも思ったが、ストックホルム滞在は今日と明日の二日間。時間もないし、行きたかった 「ローゼンダール・ガーデン」へ行こうということになった。

 

 

 


トラムに乗って行った先にある、温室にあるレストランがすてきな場所。想像以上にすてきですっかり癒される。ジャガイモのポタージュと食べ放題のパン。お土産ショップでお買い物も楽しんでホクホクしながら「北方民族博物館」へ移動した。


 

 

 

 


たまたま行った日が20:00までで無料の日だったこともあり、先住民サーミのトナカイの革小物やスウェーデンのフォークアートの展示などみる。素晴らしい手工芸のコレクション。引き出しには数々の織物や編み物が収蔵されている。別の部屋には木工品をはじめ、暮らしにまつわるカゴや刺繍のものなど展示していた。生活道具や教会のものなどそれぞれの豊かな色合い、生活の中で息づくなんとも大らかなペインティングがとてもすてきだった。

博物館からホテルまで歩いて帰る。

町歩きはどの国も楽しい。スウェーデン人はスマートな雰囲気で美男美女が多い。

歩いて見つけたマーケットでサーモンとサバのお惣菜を買ってビールを買ってホテルにもどった。


10月25日

今日は買付に専念する日だから、ともしちゃんとは別行動。

下調べしてマップにチェックしていた店に向かう。セカンドハンドといってスウェーデンにはリサイクルショップがたくさんある。洋服から器、家具など家庭にあるものがなんでも揃っている。ここからめぼしいものを掘り起こすのが買付の醍醐味。いろんな店をハシゴして掘りまくったけど、あまりのたくさん収穫はなかった。残念だったけど調べたところを制覇できたことが満足だった。

店のハシゴと同時に街歩きが付いてくる。これがまた楽しい。公園には花屋が露店を構えていてハロウィンの準備や一足早くクリスマスのリースなどが売られていた。小さなかぼちゃや木の実がついたクリスマスリースは持って帰りたいほど可愛かった。

 

 

 


午後7時、ともしちゃんとの合流地点はストックホルム市図書館。スウェーデンの巨匠建築家のグンナール・アスプルンドの代表作である。360度本で埋め尽くされた円形の建物は圧巻。あまり長居せずに昨日から目をつけていた中華屋へ向かった。ともしちゃんは高校生の頃から憧れていた場所でもあるアスプルンドの「森の墓地」へ行ったそうだ。本当に教会では葬儀が執り行われていて中には入れなかったらしい。今でも実際にセレモニーが行われている場所であることに驚く。

あっという間のストックホルムの滞在。明日はいよいよ旅の最終地フィンランドへ出発である。

 

 

 

 

 


〈フィンランド編につづく〉

PROFILE
もりした・ふみこ/アパレル メーカー、ギャラリー&カ フェ「スターネット」の東京 店・店長を経て独立。台東 区で服と小物のちいさな店 「フーコ」を営む。 fu-koshop.com

(更新日:2019.04.19)
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見慣れた地元も、知らない街も、視点を変えて歩いてみれば新しい何かが見えてくるかもしれない。浦安からフィンランドまで、あの人と巡るまちの観察記録。
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