特集 歩きながら見えてくる

フーコの、セカンドハンドショップを歩く北欧旅行記〈フィンランド編〉

服と小物のちいさな店『フーコ』をはじめて、今年で4年目。

東京の浅草と上野の間、田原町にある4.5坪の小さな店で、オリジナルウエアから作家のバッグや帽子・アクセサリーなど、身につけて心が楽しくなる服と小物を紹介しています。

フーコでは、私自身の知覚センサー(フーコセンサー)に反応したモノがそのまま品揃えになっていきます。目の前に現れたものをその都度、視覚・触覚など感覚を通して吟味していく、その積み重ねによりフーコが出来上がっていきます。

中でも作家の作品はポリシーやコンセプトなどの言葉で表せないような部分、作り手が夢中になって作っているものや作っている時間が楽しい! そんな風に作られたものにフーコセンサーは反応し、見たり触れたりするたびに心が楽しくなる作品はフーコの要素に欠かせないものです。

そしてさまざまな国を旅して買ってくるものもフーコの品揃えの要素の一つ。買付け旅の醍醐味は、見慣れぬ海外の土地で、フーコセンサーがどこに反応するのかを知ること。行ってみたい、見てみたい、触れてみたいの願望が満ちてきて、不思議といいタイミングで旅の計画はやってくる。

今回の旅先は、北欧! “セカンドハンドショップ”と呼ばれる、リサイクルショップをめぐり、手編みのセーターや手袋・靴下などのニット小物を探す旅。初の北欧ということもあって思い描くそのセーターは見つかるのか、いや北国だから編み物はきっと盛んなはず、と妄想をいっぱい膨らませて〜〜いざ出発!


写真・文:森下富美子(フーコショップ店主)

〈スウェーデン編〉はこちら。

写真・文:森下富美子(フーコショップ店主)

〈フィンランド編〉

10月26日

12:55発のヘルシンキ行きの飛行機にのる。

ここが旅の最終目的地である。到着してみると、これまたこじんまりとした空港だった。ヨーロッパ国内線だからか入国審査などなくするりと外に出られる。

空港バスに乗って市内へ。ホテルで荷物を降ろした後、ハカニエミのマーケットへ向かう。学生時代から〈アキ・カリウスマキ〉の映画が好きだったものの、フィンランドへ旅をするのは今回が初めて。

グレーの曇った空気感と、少し物悲しい雰囲気と——そんなイメージを抱いていた。実際に来てみると、冬も間近だからか思い描いていた景色が目の前に広がる。北欧に来てから徐々に北上していることもあり空気もひんやり冷たい。駅前の温度計を見ると3℃くらい。「わぁ!真冬の寒さだぁ」と驚くものの、ひんやりした空気が心地よく感じる。

ヘルシンキの中央駅に寄って、滞在中よく使うであろうトラム(路面電車)やバス、メトロなどが乗り放題になるチケットを買いにいく。

夜はトナカイなど伝統的なフィンランド料理が食べられるレストランを予約していた。夕食までの時間に周りを散策しようと、近くのマーケットに出向いた。ハカニエミのマーケットには、旅を共にしているともしちゃんがリスペクトする、スープのお店がある場所だ。昔から使っていたレンガ造りの建物は修繕中ということで仮店舗を散歩する。すでに夕方過ぎの時間だからか、空いている店舗がまばら。

外に出て一番近いセカンドハンドショップへ下見に行った。

そこがもう宝の山!ちょっと下見程度の気持ちで覗いたものだから大興奮であわあわしてしまった。時間ぎりぎりまでじっくり宝の山を掘り起こし、目をつけたものを持てる分だけ購入。また明日、改めて来よう。

 

 

 


レストランは、ステンドガラスなどはめた窓がトラディショナルな雰囲気。庶民的な、でも上品ないいレストランだった。メニューを見たものの、ここはやはり伝統料理のトナカイを注文。マッシュポテトを輪にした土手の中にトナカイの煮物、ベリーのソースをかけて食べるというメニュー。独特の獣の匂いのするトナカイ肉。お腹いっぱいになってホテルに戻った。





10月27日

時差ぼけで5時台には目が覚める。8時くらいまでは日が昇らず暗いのもこの時差ぼけが長引く理由かしら。

今日は、ともしちゃんのお友達家族のお家にお邪魔する予定になっていた。バスで40分ほどの旅、低層アパートや林などが続く景色、お友達のお家は林の中にお家が並んでいるような場所だった。外は冷凍庫の中を歩いているかと思うほど寒く、何にも覆われていない顔が冷たい。

私たちの到着を暖かく迎え入れてくれた日本人ご家族。ともしちゃんの美大時代の同級生だったうらちゃんは、柔らかい雰囲気をまとった2児のお母さん。生まれて3ヶ月の赤ちゃんと3歳児の2人のお世話をしながら、テキスタイルデザイナーの仕事をしている。マリメッコのデザインもされていて、クレヨンを使って描いたテキスタイルはお家の中でカーテンになったりクッションカバーになったりしていた。

ヘルシンキに住んで11年になる旦那さまは、あの〈アキ・カリウスマキ〉の映画に、エキストラで出演した経験があることを、ともしちゃんから聞いていた。今は「ほしと」というレストランをヘルシンキで営んでいる。料理をしたり陶芸をされたり、ご自身の表現というものを探求し続けているようだった。チキンのオーブン焼きは香りの良いキノコのクスクス添え、人参とジャガイモのスープなどおいしいお昼ごはん、食卓を囲みながらおしゃべりを楽しんだ。

 

 

 


ヘルシンキ中心部へ戻り、また買付に専念するため19時頃までともしちゃんとはお別れしてセカンドハンドに繰り出した。昨日も訪れたハカニエミのマーケットから少し北側の地域を回る。クマの石像のある公園を発見。丸くてコロリとした親子の像。なんとも愛らしい。

あたりを回って店を出てみるとすでに外は暗い。待ち合わせ場所までトラムで移動する。

近くのカフェに入ってサーモンスープを頼んでみる。ちょっぴりしょっぱいけどそんな味付けもフィンランドを感じるチャームポイント。今日はスウェーデンからずっと一緒に旅をしてきたともしちゃんとの最後の晩餐。明日から一人旅のはじまり。


 

 

 

 

 


10月28日

ともしちゃんが東京へ帰る日。

私は別のホテルに移動する日。

一緒に旅をしてきたともしちゃんを見送って、一人になった。買い付けたものとバックパックを背負い、トランクをひっぱってトラムで移動。すぐにホテルにチェックインできず、一旦フロントに荷物を預かってもらう。

近くのヒエタラハリマーケットはどんな様子かと覗いてみるも全く店は出ておらず、ハカニエミは日曜でお休みだし、気を取り直して昨日行けなかったハカニエミの先のセカンドハンドまで足を伸ばしてみた。いくつか回って3点の収穫。ホテルにチェックインをして、今まで仕入れてきたものの整理をしてみる。今までの旅のかけらともいうべき買付品は陶器・木工製品・手編みニットなどなど。明日は郵便局で発送作業も待っているから記録も兼ねての記念撮影。

 

 

 


 


 

 

 


ホテルから近くの古着を多く扱っている店へ。

トラムにも乗りこなし、フィンランド語も挨拶くらいはするようになっている。何せ居心地が良い街である。

「こんにちは」=「moi(モイ)」「さようなら」=「moimoi(モイモイ)」「ありがとう」=「kiitos(キートス)」と響きの可愛さから使ってみたくて、挨拶しながらニコニコしている自分がいた。

コートなどかわいいニットも手に入って少しホッとしつつ今日の買い付けは終了。

初めてのひとり夜ゴハン。デパ地下で買ってホテルで食べようと思ったけど、時すでに遅し。ヘルシンキ、日曜は大抵15:00から遅くとも18:00にはしまってしまうようで、仕方なく近くのスーパーで惣菜を買って帰った。

寒い中歩き回ったから何か温かいものを体に入れたかったが、サラダとビールでおしまいとなったひとり夜ゴハン。


10月29日

雪のヘルシンキ。

風が強くて吹雪いている。もちろん気温は氷点下。

視界が白いけれど、みんな傘をささずにコートのフードなどを目深に被っている。日本の雪と違って、軽くて硬くて乾燥しているような雪。あられみたいにコロンと小さな塊で降ってくる。シナモンロールの上にまぶしてあるパールシュガーみたい。

私も地元民の真似っこをして、傘もささずに歩く。吹雪にさらされながらトラムを乗り降りしてセカンドハンドショップを巡った。

 

 

 


冷えた体を温めるべく、〈カフェイロ〉店主のともしちゃんがリスペクトしているスープ屋さんへ入った。カリフラワーとほうれん草のポタージュ。オリーブオイルを渡され席に着くと間もなく、器にたっぷりとよそわれたポタージュスープが運ばれてきた。テーブルにおいているパンは食べ放題。
嗚呼、芯から温まる。ここのところ夜はパンと紅茶みたいな生活をしているから身に沁みておいしく感じる。お腹を満たして午後の買い付けに向かった。

 

 

 


午後はヘルシンキの南側を回る。行きたかったアンティークショップがとても素敵で、ちょっとしたデザインミュージアムのよう。お洋服や雑貨はあまりなかったが、家具の種類が豊富でショーケースに入った陶磁器やガラスものなどは見応え満点だった。

夜8時まで営業しているという郵便局の時間に合わせてホテルに戻り、荷造りする。

10kgの荷物を郵便局まで運ぶ。郵便局がまた整理されていてわかりやすい。用意されていたブルーのダンボールに入れて日本まで送り届けることができた。

明日は滞在最後の日。買付がてら先日お邪魔したレストラン「ほしと」にお邪魔する予定。


10月30日

お天気は相変わらず良くはないけど、雨がシトシトと降っている程度でホッとする。今日の目的地、「ほしと」のあるヘルシンキ北側のセカンドハンドを回る。アールト大学トーローキャンパスの先までバスで向かう。大学の建物のレリーフがとても素敵だったから、少し寄り道してみる。

北欧は、セカンドハンドショップの他に“委託フリマ”といって、棚やブースを借し出し、借りた人は好きなものを出品し販売するスタイルの店もある。ゴチャゴチャしている中から探し出すのはもはや発掘に近く、これがまた買い付けの醍醐味となるのである。

今日はここでお人形やデュラレックスの小さなマグカップなど雑貨をゲット。

お昼は「ほしと」に伺った。ドアを開けてみてびっくりあまりの洗練された空間に感激……! サーモン丼を頂くと、これまた感動の美味しさ。ピリリとショウガが効いていて久しぶりのお醤油の味と温かいごはんに唸った。ご挨拶をして再び買付へと繰り出す。  ※残念ながら現在「ほしと」は、閉店。

 

 

 


 

 

 


7時ごろまでには荷物をまとめて郵便局へ向かわなくてはならない。

買いそびれているものなど、今まで通った店を周り買い足して行く。もうそろそろ時間切れかぁとホテルに戻って荷造りする。IKEAのブルーのショッピングバッグにパンパンに詰めて郵便局へ。秤に乗せてみたら15キロ以上! どうりで重いはずだ。ギリギリ15キロまで入るダンボールに詰めて出荷完了。肩の荷が下りたとはまさにこのこと!

夜ホテルで帰りの準備をしていると、オランダに滞在していて同じく明日帰国のbanryoku〉の万緑子さんから連絡。「明日はコペンハーゲンから日本へ帰国だが、乗り換えで約5時間ほど時間が空くので一度コペンハーゲンで外に出られますね」という知らせだった。

荷造りで頭がいっぱいだったが、せっかくだから教えてもらったおすすめスポットに行ってみよう!コペンハーゲンの空気も吸ってこようと決めた。


10月31日

帰国の日、荷物をまとめて空港へ。

ヘルシンキ→コペンハーゲン→成田のフライト。

ヘルシンキ→コペンハーゲンのヨーロッパ国内線の飛行機が、あまりに小さくて驚く。観光バスに羽が生えているレベルである。天井も低く男性客は、みなさん屈んで乗り込んでいた。それでも無事、時間通りにコペンハーゲン到着。

先にチェックインして外へ出てみると、0℃近い気温の毎日だったヘルシンキに比べて南に位置するコペンハーゲンはとても暖かく感じる。

デザインミュージアムとコペンハーゲン植物園のどちらへ行くか迷って、植物園へ。1870年代に建てられた温室が見どころの植物園。ゆっくり見る時間はなかったけれど、入り口近くの可愛いショップに入ってみる。

図鑑の植物のように、詳細がわかるような絵をモチーフにしたハガキやら、ティーナプキンやら、植物園ならではのグッズが揃う。天井から下のカゴまで所狭しと並ぶ小さなショップにワクワクした。フーコショップでも木とか天井から吊るしたいなぁとか、妄想を膨らませながら店を後にして空港へ向かう。

 

 

 


 

 

 


ゲートまで進むと、すでに同じフライトで帰国する万緑子さんと天田さんが座って待っていた。オランダから無事に乗り換えを経て空港内で時間を潰していたとのこと。近況報告などして成田へ向かう飛行機に乗り込んだ。


11月1日

“次の使い手に渡す場”としてのセカンドハンドショップは、北欧のあちこちの街に存在していた。老若男女、いろんな世代の人たちがお店に買い物に来て、品選びを楽しんでいる。売る人も買いに来る人もリサイクルが特別なことだと思っていないようだった。
欲しいものを買うための手段のひとつとして存在しているようだった。日常に溶け込んだ、このリサイクル文化を好ましく感じた。

今回は、セカンドハンドショップを通して、たくさんのハンドメイドのものに触れる旅になった。そして手づくりされたモノからその国の人たちの暮らしぶりを垣間見る体験でもあった。

1970年代、私が幼い頃、普段着は母の手作りが当たり前という時代。日常に使うモノは自分好みのものをお店で探すというより、好きなものを自分で作ることの方が身近なことだったのだ。
家族のために編んだセーターやソファでくつろぐときに使うクッション、手作りの人形などセカンドハンドショップをめぐって買い付けてきたモノたちは、フーコで紹介している作家の作品と同じく、モノを作る喜びやそれを使う充実した時間、時を経て染み込んていった愛情をそのままを包み込んでいる気がする。

そんなものに出会えたことが今回の旅での収穫。

次のフーコセンサーはどこに反応するのだろう。新たな国への旅は続く。


 

PROFILE
もりした・ふみこ/アパレル メーカー、ギャラリー&カ フェ「スターネット」の東京 店・店長を経て独立。台東 区で服と小物のちいさな店 「フーコ」を営む。 fu-koshop.com

(更新日:2019.05.17)
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見慣れた地元も、知らない街も、視点を変えて歩いてみれば新しい何かが見えてくるかもしれない。浦安からフィンランドまで、あの人と巡るまちの観察記録。
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