ある視点

“森を食べる”原木しいたけ栽培

vol.2 “森を食べる”原木しいたけ栽培

「原木」と「菌床」って聞いたことがありますか?

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しいたけの栽培方法は2種類あります。スーパーなどで200〜300円台で購入できるものは、主に菌床しいたけ。圧縮したチップなどを使い、ハウス栽培をして効率よく、年中栽培できる方法です。原木しいたけは、山から切り出した原木にしいたけ菌を植菌して育てる方法。でも、実は原木しいたけと呼ばれるものも、ハウス栽培が多かったりします。ですが、ここ対馬では、全国でもめずらしい原木しいたけを屋外で育てる「露地栽培」が主流。個人的には松茸以上のおいしさだと確信しているのですが、webでは香りと味覚までお届けできないのが残念です!今回はそんな対馬の森を食べるしいたけをご紹介します。

 

しいたけメディア論

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対馬のしいたけは、農家さんの持っている森の中や平地に「ホダ場」とよばれるしいたけの畑を用意して、雨風や気温の変化を受けさせて栽培します。そもそも平地の少ない対馬では、もちろんやむを得ず森の中で、いうところもありますが、森で育てたしいたけが一番おいしい、と自信を持っているんですね。しいたけはひとつの原木から4〜5年間にわたって収穫可能。木の栄養を吸って大きくなっています。それがよくわかるのが何度かの収穫を経たホダ木を持った時。子どもでも片手で持てるほどに軽くなっています。しいたけが木の栄養を吸収しきっているんです。大学院でメディアアートを専攻していたので、ついついこう考えてしまいます。対馬では、しいたけをメディアにして、森を食べることができる。ひいては、対馬の原木しいたけを食べることは、島を食べているんだ、と。

 

“森林のあわび”とは

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東京にいると、スーパーで年中手に取ることができるしいたけですが、原木しいたけの旬は11月〜3月まで。対馬の森の中で育つしいたけは、冬の大陸から吹き寄せる季節風と、適度な乾燥が、しいたけの美しい模様をつくり出し、食感を引き立たせます。時間をかけて育てているので「どんこ」とよばれる肉厚なしいたけが多く育つことも特徴。そのおいしさは“森林(もり)のあわび”と呼ばれるほど。そんな特徴的な食感と味わいを持つ対馬のしいたけ農家さんの中でも、「しいたけマイスター」という称号もお持ちなのが、永尾賢一さんです。永尾さんは日本のしいたけ界のトップランナー。若い頃は島外に働きに出ていましたが、Uターンで対馬に戻り、しいたけ栽培をはじめました。35年を超える栽培経験で培われたノウハウを存分に活かし、今では農林水産大臣賞など日本で一番の賞を受賞するほどの腕前になりました。

 

 

しいたけに気持ちのいい環境

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永尾さんに、しいたけづくりで大事にしていることはなんですか、と尋ねたことがあります。「しいたけが気持ちよく育ってくれるように、木漏れ日を調整したり、原木の立て方に気を使っています。人間もしいたけもおんなじだよ」。永尾さんのお宅にお邪魔すると、その意味がなんだかわかる気がします。永尾さんのご趣味は、コーヒーと音楽。特にコーヒーは、豆にこだわって、ご自身で焙煎もしてしまうほど。おうちも、ご自身で育てられた木を使って建てたそうで、なんだかここだけ時間の進み方が違うみたい。何から何まで心地のいいことを実践されている様子を拝見すると、いつのまにかわたしたちまで清々しい気持ちになるのです。こんな気持ちのいい方がつくるしいたけですもん、おいしくないわけがない。おいしいって、抽象的な評価ではありますが、実際に感度の高いシェフからは、140戸を超えるという対馬のしいたけ農家の中でも、永尾さんに名指しで購入希望が入るほどです。でも、対馬のしいたけ農家さんの作るものすべて、ひと味違う滋味深さにあふれています。これを読んでいるみなさんにも、いつか対馬のしいたけをお届けしたいなと、切に思います。

 

しいたけを通じた、対馬のPRをしています

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対馬では、永尾さんをはじめ、しいたけ栽培をしている農家さんを、JAの営農部が、流通支援や販路開拓、また栽培のサポートをしています。農協が、生産者が収穫して乾燥させたものを集荷。その後は生産者にかわって、各種商品へと加工し、一年中島内の収入が途切れないように、島が一丸となって取り組んでいます。その中でもがんばっている若手が、わたしたちのNPO法人フードデザイナーズネットワークの活動のパートナーでもある池田龍介くん。自分のホダ場を持つ若手生産者でもあります。池田くんとは、若い人のしいたけ離れをなんとかしようと、昨年から無印良品さんとコラボであたらしい乾しいたけの販売の方法を模索したり、地元の女性たちを巻き込んで、対馬の海の幸と組み合わせた「森と海のアヒージョ」という商品もつくっています。順風満帆に見える永尾さんですら、後継者は不在。他聞にもれず、対馬のしいたけ農家は年々高齢化していますが、JA職員はじめ、若手は危機感を持って動いています。そんな中生まれているさまざまな対馬を伝える商品開発。みなさまも対馬のしいたけをお店等で見つけたら、ぜひ応援おねがいします!

対馬 中山晴奈 しいたけ 無印良品

次回は、リアスを活用した真珠養殖の紹介をします!

 

写真:志鎌康平

INFORMATION

JA対馬(潮菜館本店)

厳原町中村606-19
電話番号 0920-52-0237

 

対馬のはなし
中山晴奈

中山 晴奈/1980年、千葉県生まれ。フードデザイナー。筑波大学、東京芸術大学先端芸術表現専攻修了。美術館でのワークショップやパーティーのスタイリングをはじめ、日本各地の行政と資源発掘や商品開発などの食を通じたコミュニケーションデザインを行う。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、NPO法人フードデザイナーズネットワーク理事長。
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(更新日:2015.03.23)

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