ある視点
行き先は、ともだちの地元。
遠くに暮らすともだちに、ひさしぶりに会いにいく。
地図も携帯電話も必要なし。
案内人のともだちの隣で、一緒に過ごした頃の話しをしながら、
ゲラゲラ笑って歩き回ろう。
はじめて訪れる土地。はじめて聞く話。相変わらずの性格。
あの子の生活がある街。
梅佳代、カメラを持ってともだちの地元に行きます。
イラスト:BIOMAN
vol.4 妖怪の福井旅行
大阪の専門学校時代の友だち・和田さんに会うために福井県に来た梅さん。老舗写真館の娘であり、3代目としてのびのび働く和田さんと、写真家として国内外で活躍する梅さんが、「イモ(田舎っぺ)で、ダサくて、妖怪」だったという青春時代。
その時代の友だちであり、ふたりが声をそろえて「ヤッバい子がいるんだって!」と興奮する、もうひとりの重要人物・前田さん。
この前田さんもまた、福井の土地で生まれ育ち、今再びこの地で暮らしているという。「せっかくなら(元)妖怪3人で、温泉でも行こう!」と盛り上がったものの、約束当日までイマイチ連絡が取れず、会えるかどうか……もはや前田さんは、まぼろしなんじゃないか。そんな不安に笑いころげながら、福井の地元旅・後編スタートです。
学校に入って最初の頃、大阪とゆう都会にあせる私は
同じ寮の前田に「前田さん、一緒に帰ろう」って誘ったら
「ええわ」と断られて衝撃をうけた。
友だちの西光くんが前田の部屋でたたんである布団によりかかって
布団の隙間に手を入れたらなにかが挟まっていて、
とりだしたら出刃包丁だった。(梅佳代)
梅「ねえ和田さん、前田は本当に来てくれるんかなあ?」
和田「来るやろ」
梅「そうだよね、昨日も電話出てくれたしね。それだけで感動やわ。めっちゃめんどくさそうやったけど。前田にとっては私と和田さんコンビなんて最悪やろうね(笑)」
和田「だね。あーー!あれ、前田じゃない?」
梅「ほんとだー前田ーーー!」
前田「おう」
和田「遠くから見て前田かなって思ったけど、いや違うやろって、近くに来るまでわからんかったよ。だって普通のおばさ……」
梅「ひっっどい!(笑)。私、前田の車に乗るわ」
和田「オッケー!じゃあ出発〜」
梅「前田、めっちゃ久々やな。LINE交換しよう」
前田「うーん、ああ、和田さんに聞いたらわかるよ」
梅「なにめんどくさがっとるん?(笑)」
前田「めんどくさいなと思って(笑)。明後日お姉ちゃんの結婚式なんよ」
梅「へ〜おめでとう!誰と結婚するん?」
前田「男の人」
梅「それはわかるけど〜!」
前田「お見合い」
梅「えーめっちゃいいやん、前田もお見合いしなよ」
前田「やだ、めんどくさい」
梅「でたーー」
前田「てか、梅さん、会いに来るのいつも突然やん。忘れとったわ」
梅「え、まって! これまで一回も思い出してないの? 私思い出したこと何回かあるんだけど!」
前田「忘れてたわ」
梅「ひどいな!(笑)。会いに来てよかったわ〜」
前田「ほら、海みえてきた」
梅「ほんま。きれいやなーでもなんかこわい……」
前田「これから行く雄島も昔から心霊系の噂はあるからね」
梅「うっ……幽霊出てきたらどうしよう」
前田「出たら出たで、しゃあないやん」
梅「そうやね。それに幽霊もこのメンバーのために出てくるのいやだよね、きっと。なんの意味もないでしょ」
前田「うん、丁重にお断りしようや。お、着いたー」
3人「かんぱ〜〜〜い!!」
梅「わー、わかめしゃぶしゃぶ!OLにぴったりやーん! 感動やね! 前田っ!」
前田「なんやねん!(笑)」
和田「私はいつも前田を探してたよ」
梅「そうらしいよ」
前田「めっちゃ気持ち悪いなあ(笑)」
和田「毎晩ウォーキングしながら、前田はどこにいるのかな〜って」
前田「あ、そう。ご苦労さんやな。梅さんは忘れた頃にやってくるな」
梅「忘れとったのが本当にびっくりするわ!」
前田「学校卒業してから、1回東京に遊びに行ったよな。うちが大阪を離れる前に」
梅「そうそう、どこ行ったんやっけ?」
前田「寄生虫博物館」
前田「学生時代、梅さんとごはんに行った事なんてなかったな」
梅「うん。っていうか、あの頃みんな何を食べてたんだろう……」
前田「梅さんはお菓子と、菓子パンと……」
梅「うっわ……」
前田「和田さんも人の部屋に来て、『ごはん食べさせて〜』ってよく言っとったな」
和田「なんか一緒に買い物に行ったりしてたよな……そうだ! 梅さんの料理で好きなのはねえ」
前田・梅「えっ!料理!?」
和田「シチュー! ごはんぶっかけバージョン!」
前田・梅 (笑)
前田「和田さん自分の部屋に帰ってなかったやん」
和田「前田の居留守は気づいてたよ」
梅「(笑)、もうひとりあっちゃんっていう鹿児島出身の子がおって。寮の同期はその4人だったよね。それしかおらんのに、学校入ったばっかりの4月に前田に放課後『一緒に帰ろうや』っていったら『ええわ』って断られて。衝撃すぎ! すっごいびっくりしたわ。でも、だからって意地悪じゃないし。もうなんなんそれ! って(笑)」
前田「あんた、しょっちゅう電話かけてきたな。寮の前に犬がいて入れんとか言って」
梅「そうや〜〜(笑)」
前田「迎えに行った記憶あるわ」
和田「憶えてるーー!」
梅「放し飼いされていて、怖かってん(笑)。小さい犬から大きい犬まで、ざっくばらんにおったよね」
梅「今、この状況の写真を専門学校時代の友だちに送ったら『妖怪屋敷』ってメールきた(笑)。私らのこと妖怪って言ってる(笑)」
和田「ひどいな!(笑)」
前田「あんたも妖怪や!って言うといて」
梅「でも、前田にとって私と和田は最悪な組み合わせやから(笑)」
前田「ほんと危険なツーショット。この2人が揃うと恐ろしいことになる。悪魔降臨。10年に1回くらいでええわ」
梅「ええー! 10年に1回だけでいいのーうそやろうー」
和田「次会うのは45歳」
前田「その時は、音信不通になってるかも」
梅「でた! なりそう(笑)」
和田「前田失踪」
梅「そしたら、前田の実家のまんじゅうや行く」
和田「だな、そこから紐解いていくわ」
梅「前田探検隊」
和田「ぜったい見つける!」
梅「絶対に探すよね、突き止めるよね、前田を。どこに行っても私たち探しに行くからね!」
前田「10年後ね」
「福井の妖怪旅行」おわり
久々の再会におしゃべりは止まらず、眠る時まで笑いころげていた3人。 人間でも妖怪でもどっちでもいいけれど、改めて、友だちっていいものですね。さあ、梅さん次は誰の地元に突撃するのでしょうか。おたのしみに!
撮影:編集部
和田写真館
住所:福井県坂井市丸岡町西瓜屋15-4
電話番号:0776-66-1681
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梅佳代
梅佳代/写真家。1981年、石川県生まれ。2007年、写真集『うめめ』で第32回木村伊兵衛写真賞受賞。以降主な写真集に『男子』、『じいちゃんさま』、『ウメップ』、『のと』、最新刊に『名人』を刊行。共著に新明解国語辞典×梅佳代『うめ版』などがある。日常に溢れる様々な光景を独特の観察眼で捉えた作品が国内外で高い評価を得ている。
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