ある視点

行き先は、ともだちの地元。
遠くに暮らすともだちに、ひさしぶりに会いにいく。
地図も携帯電話も必要なし。
案内人のともだちの隣で、一緒に過ごした頃の話しをしながら、
ゲラゲラ笑って歩き回ろう。
はじめて訪れる土地。はじめて聞く話。相変わらずの性格。
あの子の生活がある街。
梅佳代、カメラを持ってともだちの地元に行きます。
イラスト:BIOMAN
vol.5 島根・大田事変
梅さん、出雲空港に上陸しました。
今回会いに行く友だちは、日野真希さん。大阪の専門学生時代からの仲で、7歳のかなこと1歳になるきいちゃん、ふたりの女の子のお母さんです。
空港から約1時間かけて向かう先は、真希さん一家が暮らす島根県・大田市。世界遺産の石見銀山があり、宮根アナウンサーの出身地でもあります。
真希さんと会うのは2年ぶり。次女のきいちゃんに会うのははじめて。会いたかったぞ! と早足で到着口に向かいました。
写真学校で友達になった真希ちゃんは語尾が「だが〜」と「が〜」。
私の寮の前でバトミントンしとったら隣の喫茶店に石田靖さんがい
こそこそ見とったら寮のおばちゃんが「口きいたるやん」ってゆって
石田靖さんを呼び出してくれました。うれしくて泣く真希ちゃんと、
芸能人らしい笑顔の石田靖さんの写真が撮れました。
いまとなっては「なんで泣いたかわからんが〜」と言い、
「あの写真発表したら絶交だが〜」と言っていました。
(梅 佳代)
梅「あー!真希ちゃん!かなこだ!」
真希「梅ー!ひさしぶりだね。もっと遅く出てくると思ってたから心の準備が……なんか緊張する〜」

真顔の親子に出迎えられる。
梅「かなこ背が伸びた!かわいい服着てるね」
真希「梅、空港のトイレ行った?」
梅「行ってないよ、なんで?」
真希「さっき、かなこと行ったんだけど、最高だったが〜! すごいキレイで広くて、雰囲気がいいんだよ」
梅「そうなん? 広報の人もなかなか話題にしない深い情報やね。帰りに行くわ」
真希「絶対行ってね。ねえごはん食べた?」
梅「お腹すいた!」
真希「よし!今、すごくはまっているところあってさ。近いから行こう」

自慢の「くら寿司」で記念撮影。
真希「梅!全部100円だよ!すごいよね。しかも注文システムに一切無駄がない。おいしいし、サビ抜きだし。子どもと来るには最高だよ。あ!梅が頼んだやつ来た」
梅「真希ちゃん、くら寿司大好きじゃん!ゴリ押し」
真希「え?ほめずぎ?でも本当にいいところだからさ」

かなこもご機嫌でパイナップルにかぶりつく。母の真希ちゃんは、くら寿司のカフェラテをほめまくっていた。
梅「かなこ!明日、七五三なんでしょ?」
真希「そうそう。朝早く美容室に行って、家で着付けしてから写真館。そのあと神社に行くよ。ほんと、いいタイミングで来てくれたよ、梅」
梅「ラッキーやね。楽しみにしとるよ!」

七五三に飽きたかなこ。

記念撮影。
梅「前、かなこと一緒にディズニーランドに行ったよね」
真希「行った行った!旦那おいてね。東京に2回は遊びに行ったかな」
梅「あの時、まだきいちゃんはいなかったからね」

右に映る頭は父。黒子に徹する。
梅「きいちゃん、真希ちゃんが産んだっていうのが一発でわかるね、なんか。めっちゃおもしろい!」
真希「そーかなあ?」
梅「ほら〜!きいこ〜!こっちこっち〜」
真希「梅、声がおばさんになったな」
真希「この先、かなこが登校拒否にでもなったら、梅のところに行かせようと思ってたんだ」
梅「なんで!(笑)」
真希「なんとなく」
梅「いつでもおいでよ」

晴れ姿で叔母さんと遊ぶ。
真希「お母さんに梅が遊びに来るって話したらね、友だちの職場の上司にすごい梅ファンがいるらしくて、ちょっと寄っていい?」
梅「なにそれ。めっちゃすごいな。ありがたい。行こう行こう!」

猛烈に歓迎してくれた森井さん。ほかの人は、まあまあきょとんとしていた。
森井さん「あああああああ!梅佳代さん?本物?大ファンなんです!ベストファイブに入りますー!みなさーーーん!!」
ようこそーーーーー!! (一同拍手)
梅「ありがとうございまーす。すごい盛り上がってますね、なんかのパーティですか?」
森井さん「梅佳代さん有名人だから、職場で言えば何人か反応してくれるだろうと思ったら、全然知ってる人がいなくて。あ、ごめんなさい!いや、僕はそれが消化不良で、誰かいるだろうが!と思っていて。その日の夜、妻に『娘に話したら?』って言われて。京都にいるんで電話してみたら、娘が『えええー!梅佳代!』って驚いて、今日の朝の新幹線に乗って帰ってきました」

ずっとはしゃいでる森井さん。
森井さん「僕はぁ、写真集『男子』の、鼻にスルメを入れている写真が一番好きでっ!」
梅「めっちゃ見てくれてる!」
森井さん「それとぉ〜!コインロッカーに集まる人たちのやつ!あっれが大好きでねえ!僕も海外に行って、ストリート写真撮っていたんです」
梅「そうなんですね」
森井さん「やっぱりストリートってドラマがあるじゃないですかあ!あれが一番ですよね」
梅「ストリートにはドラマがある!メモ!」
森井さん「日野さん、今日は本当にありがとうございます。3日前に知り合ったばかりなのに。ところでおふたりの関係は?」
真希「写真専門学校時代の友だちなんです」
森井さん「え!そうなんですか?……そう言われると写真集に写っていたような……」
真希「すごい(笑)!そうです。結婚式の写真とか」
梅「真希ちゃん、けっこう出てくるからね」
森井さん「でーすーよーねー!!いやあすごいな。まさかこんなことが大田で、この空間で起こるなんて。いやあ、出会いってすごいなあ。大田事変ですよ!」
真希&梅「大田事変!メモ!」

はしゃぎすぎて、娘(フキちゃん)にはずかしいと言われる森井さん。
真希「森井さん、大田では貴重な方ですね。ではまた〜」
森井さん「あーちょっと待ってください!せっかくなので、記念写真を!おーい、みんなあああ……」

森井さんに教わり、Wikipediaで梅佳代を調べるみなさん。
梅「どえらい騒ぎやったね! めっちゃおもしろかったけど。かなこは?」
真希「うん、すごかったね。かなこはyoutube見てたよ。向こうの海に行ってみよう」
梅 「真希ちゃんは、全然変わらんよね。落ち着いとる」
真希 「ほんとにー?なんかそう言われると恥ずかしいわ。全然違うけどなあー。まあ、梅に対してはテンパらないけど。今、梅が東京でどんな仕事っぷりなのか気になるわ〜」
梅 「そう?」
真希 「こんだけ好きなことやってきてさ、ここまでようやってこれたよね。周りの人に恵まれすぎだよ、ほんと。信じられない!学生の時からずっと恵まれてる。梅はがむしゃらに自分から積極的に動くタイプじゃないから。ぜんぶ人とのつながりだもんね」
梅 「ありがたや〜。いつも誰かに助けてもらっている」
真希 「前に大殺界だった時あったじゃん? 仕事なくならないかと思って心配だったんだよ。大丈夫だったけど」
梅 「そうそう(笑)、真希ちゃんに言われるまで知らなくて。大殺界と厄年が重なっていてね。『梅、大殺界だが〜!』って言われて初めて知った。それから、ちょっと気になってきてさ」

きいちゃんが、唐揚げにしゃぶりつく前。
真希 「梅の写真は、性格がそのまんま出てるよね」
梅 「真希ちゃんは、写真がどうとかよりも、学生の時ふつうの会話してるだけで、私の性格をいち早く分析してくれていた」
真希 「もう!ちゃんとしてよ!ってね(笑)」
梅 「学校の行事で『ライオンキング』観に行ったじゃん」
真希 「ああ、すっごくおもしろかったよね」
梅 「私、初めてミュージカル観て、終わったあと引いてたら『もおー!!梅は、観に来なくていいがー!』って怒られた」
真希 「たぶん、私は、すっごくおもしろかったんだろうね(笑)。そうなの、だから今も誰かに叱られてないか心配しちゃうの」
ふたり うひゃひゃひゃひゃ〜〜〜
「島根・大田事変」おわり
次回も引き続き、島根編。真希さんのお父さんは、なんと石見銀山のガイドさん!ということで、親娘に世界の遺産を案内していただきます。おたのしみに。
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梅佳代
梅佳代/写真家。1981年、石川県生まれ。2007年、写真集『うめめ』で第32回木村伊兵衛写真賞受賞。以降主な写真集に『男子』、『じいちゃんさま』、『ウメップ』、『のと』、最新刊に『名人』を刊行。共著に新明解国語辞典×梅佳代『うめ版』などがある。日常に溢れる様々な光景を独特の観察眼で捉えた作品が国内外で高い評価を得ている。
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