特集 手を動かす人たち

“旅の恥はかきすて”を信じて…… 2週間のつもりだった旅の道中に 移住を決意!

山形県 蔵王 パン屋 マルモ 岩間元孝

「のぞきみおっけい!」お店に入る前から楽しそうなにおいがする手書きの看板。山形県・蔵王の温泉街にあるパン屋さん「マルモ」の店主・もっさんは、愛知県から、2週間のつもりでやってきた旅の途中で、蔵王に移り住んだ人。自分の心がつき動かされる瞬間にリズミカルに反応していくもっさんの、たくさんの登場人物がにぎわす道中の話を伺いました。

写真:志鎌康平 文:森 若奈

2週間の旅のつもりが、そのまま帰らなかった

——いつ山形県・蔵王に来たんですか?
6年前ぐらいに、愛知県から自転車を飛行機につんで岩手県に行って、青森県と秋田県に行って、最後に山形県に行って、帰ろうかなと思って、帰らなかったんです。

最初の岩手県から後ろ髪引かれる感じ満点のまま、その道中で道先案内人がちょこちょこ現れて、最後に行った蔵王にもっといたいなと思って、2週間で帰るつもりが、“気が済むまで”に変わっていって。

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——なぜ東北を旅しようと?
前職の美容師を辞めた直後、縛られてたっていう感覚がすごく強かったみたいで、「今までやってこれなかったことをやってみたい」っていうのが一番にあって、旅に行こうって。

愛知県に住んでると、沖縄とか北海道は旅行先として容易に行くことができるけど、その他の地域って、親戚とかの関係がないと行く機会ってなかなかない。東北は縁もゆかりもなかったので、仕事をしていると、行こうとしないと行けないな、今だ!と思って。

 山形県 蔵王 パン屋 マルモ 岩間元孝

——帰るのをやめるきっかけになることがあったんですか?
いろんな出会いがあったけど、お店があるこの場所との出会いはミラクルだった。すぐ近くに「オトチャヤ」というカフェがあって、そこをやっている友達が、旅の道中で「ここを生かしてくれる人いないかな~」って言っていて。しかも、この場所は、居ぬき物件で。おおっ!てなりました。

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心も体も、食べているものからつくられる

——なんでパン屋さんをやろうと思ったんですか?
美容師時代に思っていたことが絡んでくるんですけど、仕事が大変なのもあるんだけど、同僚が、精神からか体からか体調を崩してお店に来れない状況になると、本当に大丈夫?って心配したいけど、こっちも仕事に追われているから、困るなー!ってなっちゃったりして、そういうのってすごく悲しいなって思ってたんです。

考えていくと、食べる物で体はできているから、心も体も食べているものが大事なんだなって感じていて。ちょうどそんな風に感じていた頃、佐藤初女さんのお話を聞きに行ったんです。人は食べ物の持つエネルギーをいただいているってこと、あと、初女さんが、これだ!っていう意識に従って続けてるってこととか、面倒っていわれることを面倒がらずに1個ずつやってるってことに影響を受けました。僕はじいちゃんとばあちゃんと一緒に暮らしていたから、畑から鮮度のいい野菜をいやでも食べていたので、自分の中で彼女の考え方がしっくりはまった。

それにその頃、しゃれた食事系を扱う雑誌とかが出はじめてきて、昔から“おしゃれに~”みたいな感じが好きで(笑)。僕も天然酵母のパンとか作れたらいいなとおぼろげながらに思ってた。

旅先でしゃれたパン屋さんってあったらよくない?蔵王にもあったらよくない?っていう話から、“えっそれやってみたい!!”みたいな感じで。初期衝動が単純すぎなんですけど。

 山形県 蔵王 パン屋 マルモ 岩間元孝

出会いから広がった、パン作り

——パン作りはどこで勉強したんですか?
鎌倉にある「パラダイス・アレイ」っていうパン屋さんで4か月間修行しました。

蔵王でパン屋をするためにパンの作り方を教えてもらいたいっていうことで、その日は挨拶のつもりでお店に行ったんだけど、30秒後には、パンをこねてる自分がいました(笑)。名前も中途半端な状態で、お手伝いの子、ここやってみたいな。

その日の仕事が全部終わったあとに、ゆっくり話しましょうって時間をもうけてもらった。その時、自分で思ってたけど、言葉にならなかったことを、店主にさらっと言われて。楽しいとかつらいとか悲しいとかっていう感情は、全部自分の中から生まれてくるものだから、自分が生んでいる感情を楽しいと思えれば、何がきても楽しいし、そう考えていたらいつも楽しいよねって。分かるー!ってなって。それにみんな気がつけばいいのになって。うぉー!いい人に会えた!よろしくお願いします!ってなってりました。僕は、端的に言うと、人とのつながりの中で生きている感じですね。

山形県 蔵王 パン屋 マルモ 岩間元孝

“旅先”だと思って、思い切り

——お店をオープンしてから5年。振り返ってみるとどうですか?
流れに身をまかせてきた感じです。“旅の恥はかきすて”って言葉があるじゃないですか。それって、旅人は、先へ先へと行くから、その場その場で、かきすていけばいいから、思い切りいけばいいじゃんって意味なのかなと自分なりに思ってて。次、次って。

僕は派手なタイプじゃないので、どうしても売る!というのが、いやらしいかなとか思っちゃう。もうこの人とは会わないかなとか思わないと、自分からいけないタイプで……。そういうところがあって、だから“旅の恥はかきすて”って言葉を信じて、自分からパンいかがすっかー!って、ここまでなんとかやってきています。

 

“村八分”が持つ別の意味

——地域で働く中で意識していることはありますか?
何もかも思い通りにいくわけじゃないけど、こういう地域で、ご近所づきあいとかで難しいなと思うときもあるけど、“来るもの拒まず去るもの追わず”と思ってやっています。

2週間で愛知県に帰ろうと思ってたのを、気が済むまでにしようと切り替えるきっかけになった人がいて。
彼が、「“村八分”っていいイメージの言葉として受け止められないけど、考え方によってはいいよ。人に邪魔されないで、自分のやりたいことをやれるから、悪い方だけじゃないよ」って。そういう発想を聞いて、ものはいいようだし、とりようだなと思いました。

あまりにヘコヘコするのも気持ち悪いし、仲良くなれる人は仲良くなれるし、彼のおかげでそこらへんの感情がさらっとした感じになれた。
だから、僕はあまり外に求めないようにして働いています。求めている自分がいるから、つらくなる。そういう風な考えです。気楽!ははは。

山形県 蔵王 パン屋 マルモ 岩間元孝

やってみたいから、やってみる!

——今後やってみようと思っていることはありますか?
ゴールデンウィーク明けから、週末のみ営業で、月に1回の週末はイベントに出店するスタイルにして、平日はパン屋さんをやらずに、農家さんをやってみようと思っています!

ここ2・3年、平日の人がくるタイミングじゃない時期に、山の方を見ながら、この時間を何にまわしたらいいかな、時間があるんだったら、もっと違うことを覚えたいなって。それで、支出の少ない、豊かな暮らしにしようって思って。
やってみたいから、やってみようと! やれるかな?やってけるかな?と思ってたらやっていけないけど、やりたい!って思ってたらやれるから。

新鮮なものを食べられるようにして、この先も生きやすくなるために、パン作り、土いじり、つくれるものはつくるようにしていきたいなと思っています。土があるところでは生きていける、それって強いじゃんって。ただそれだけ。人が生きて行くための必要最低限を、みんなが持てればいいなぁと思っています。

 

 

マルモ ーPIZZA&BREADー
石窯で一つひとつ丁寧に焼かれる天然酵母パンとピザのお店。お持ち帰りもOK。シャキシャキ野菜のピザ、ごましょうゆのベーグルなど、もっさん特製のパンやピザの香りが目印。
住所:山形県山形市蔵王温泉955ー10
営業日:不定休 (電話番号非公開)
営業時間:twitterで要確認

今後は、6月に「ののの市」(山形県寒河江市)、7月に「道具屋 青空商店」(岩手県盛岡市)、8月に「蔵王龍岩祭」(山形県蔵王温泉)に出店予定。

“旅の恥はかきすて”を信じて…… 2週間のつもりだった旅の道中に 移住を決意!
“旅の恥はかきすて”を信じて…… 2週間のつもりだった旅の道中に 移住を決意!
岩間元孝さん いわま・もとたか/1978年、愛知県生まれ。岡崎市の美容室を退職後、九州、東北の旅に出る。神奈川県・鎌倉のパン屋「パラダイス・アレイ」で修行した後、2010年1月1日、山形県・蔵王温泉街に「マルモ ーPIZZA&BREADー」をオープン。過去に「お薬師さんの手づくり市」、「新寺こみち市」(宮城県仙台市)、kitokitoマルシェ(山形県新庄市)などにも出店。
(更新日:2015.04.15)
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壮大な自然と色濃い文化が暮らしに根付く、東北の地、山形県。ここに移り住み、自ら手を動かして「暮らし」と「仕事」をつくる人たちに会い、話を聞いた。
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