INTERVIEW
  • 山形で山形を描く。「ふるさとは絵本のような」【山形ビエンナーレ2018】 荒井良二×宮本武典対談〈後編〉

山形ビエンナーレ2018×『雛形』

私と山形、それぞれの旅へ

主催者、アーティスト、スタッフ、それぞれの視点を交差させて「山形ビエンナーレ」を深堀りする連載企画。三者三様のジャーニーのおはなし。

山形で山形を描く。「ふるさとは絵本のような」【山形ビエンナーレ2018】
荒井良二×宮本武典対談〈後編〉

山形県
荒井良二さん(芸術家・絵本作家)、宮本武典さん(「山形ビエンナーレ」プログラムディレクター)

居住地: 東京都、山形県

現在開催中の「山形ビエンナーレ2018」と「雛形」の連動企画の最終回は、初回から芸術監督を務める荒井良二さんと、同じくプログラムディレクターの宮本武典さんの対談の後編です。

「ビエンナーレ」の始まりから、今回までのみちのりや変化を語っていただいた前半の続きは、東北で、日本で暮らす私たちにとって大きな出来事となった東日本大震災からうけた影響のお話しからはじめます。

歩みを止めずに創り続けてきたお二人の心境の変化、周りのスタッフ、参加アーティストと紡いできた関係、そして今ここからひらかれていく“山形”について。

 

〈前編〉はこちらから

 

写真:志鎌康平 文:菅原良美

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絵本は、
あらゆる表現の
ふるさとのような

宮本武典(以下、宮本):荒井さんは、震災のあとにお子さんが産まれたことで、作り手として価値観は変わりましたか?

荒井良二(以下、荒井):そうだなあ……作り手としてよりも人として、ふたつあるかな。“確認すること”と“気づかなかったこと”。確認というのは、生きることや生まれること、そういう当たり前を確認するってことだった。人ってこうだよな、生き物ってこうだよなと確認していくことで、“気づかなかったこと”を受け取る。子育てをしていると、産まれる、生きる、子どもの姿——それは知らなかったのではなくて、目がそこに届いていなかったんだと気づかされることが多くて。

宮本:そうなんですね。2回目の「じゃあにぃ」の時に息子さんが産まれて、それから荒井さんの作品に出てくる子どもは、それまで荒井さんが描いてきた子どもとはちょっと違うんですよね。

荒井:違うよね。震災はかなり大きく影響していると思う。今の感覚をそのまま描いていいのかってすごく考えたんだ。でも、描きたいなら描きなよって。時間が経てばあとから振り返ればいいから、って。「今こういうことをしていいのか?」ということではなくて、やりたいことをやって、それを積み上げていくだけだと。子どもについても、息子をモチーフとしてフィーチャーしているわけでなく、自然に出てしまっているんだよね。

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宮本:はい。“在る子ども”というのが、2回目の「じゃあにい」のキーワードになって。その子どもは、荒井さんのお子さんでもあるけれど、子どもという存在そのものに帯びている未来や時間、その象徴に感じました。

荒井:「じゃあにぃ」も「ビエンナーレ」もそうだけど、僕個人として“子ども”は、ずっとキーワードとしてあったんだ。普段から絵本を作っていることも関係するかもしれないけれど、だからと言って子ども用に何か表現するのではなくてね。絵本も「子ども用に作ったりしていない!」って強がったりしているけど(笑)。でも本当にね、子ども向けに、と思って作ったことはないんだよ。

宮本:当時、荒井さんがよく言っていたのは「絵本というのはあらゆる表現のふるさとのようなものだ、その根からいろいろな表現が産まれてきているんじゃないか」って。それはきっと子どもが見ている世界や感性のことだと思うのですが。だから、実際にお子さんが産まれたことで、自分自身が子どもだった時間とも出会い直していくんですよね。「ビエンナーレ」の初回で荒井さんは「門」をテーマにたくさん作品を作りました。おばあさんの名前は“荒井もん”さん。

荒井:ははは(笑)。ひらがなだから、その“門”なのかは知らないけれどね。

宮本:そうして「じゃあにぃ」が続いているというか、自分自身の東北を旅するという。震災直後に復興支援で沿岸部を周ったのもそうだし、生まれ育った山形に旅をし直していくことも。そして「ビエンナーレ」では、自分以外のもっとたくさんの人に東北を旅してほしい、その入り口として山門を作りたいとおっしゃっていて。キャンバスにいろんな門を描いて、ふるさとに帰る門、赤ん坊が生まれてくる門、閉ざされる門、門の中に音が通れば闇になる、などなど。

荒井:そうだね。山形には鳥居とか、山に入る門がいくつかあるけれど、ここに住んでいる人は「そういえばあったね」って感じなんだよね(笑)

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宮本:実際に「ビエンナーレ」が始まると、たくさんのアーティストが参加してくれました。それぞれの発見から山形を旅をしてくれて。

荒井:アーティストのみんなが喜んで制作してくれたような気がして、嬉しかったなあ。

宮本:みんな基本的には荒井さんと同じようなスタンスで、事前にあまり決めずに現地に来て、そこで感じたものを地元の協力者と一緒に作っていくという流れで。僕らスタッフも、この土地に来たアーティスト自身の中からどういうものが生まれるのかに興味がある。そういった意味で、少しずつ荒井さんが作ってきたチームで、アーティストと向き合いながらこれまでやってきたという意識です。
前回のビエンナーレは「山の神様」がテーマになっていて、そこに“母”のイメージがありました。荒井さんはあまり話しませんが(笑)、「山形っていうとおふくろなんだよなあ」って。去年お亡くなりになられましたが、荒井さんが描く土偶、祭り、祭壇のインスタレーションの裏側のストーリーの中に、最後の母子の時間があったんだと思います。情報として誰かに伝えるものではなかったのですが。

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荒井:説明していないもんね。でもわからなくてもいいと思っているの。そういう“わからない”というコミュニケーションをしたことを大事に思っているし、次に自分にどんな影響が出るかなって楽しみもあって。日常から“わからない”ということが何度も浮上してきて、それでいいんじゃないかなと思うことの繰り返しで。

それでも、ものを作るベースに絵本はなんとなくあるので、今回の「ビエンナーレ」では、そのベースを使ったらこれまでと違う「わかる」に近づけるのかなって。

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宮本:
今回のビエンナーレは「山のような」という具体的な……それでも曖昧ですが(笑)、テーマをもって作っています。荒井さんのこれまでの作品は、山形にいるイメージそのままが、生々しくベタベタッと張り出されたようなもので。でも今回はまず「山のヨーナ」というひとりの架空の女性を描いて、荒井さん主体ではなく客体化していますよね。

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荒井:15年前に出版する予定だった本のタイトルが「山のヨーナ」で。当時、出版はなくなったけど、今回、ビエンナーレに合わせて絵本を出版するという予定もあって。僕としては15年前のものをやっと出せる喜びもありつつ、半分どこかで「いやだなあ」って思うところもあったのね(笑)。もちろん作れないことではなかったんだけど、今回展示するものを想像した時に、絵本と相当かけ離れているような気がしちゃったんだよね。だから、「ちょっと待って!」って(笑)。

宮本:今回は最初に絵本を作り、そこから派生させていこうとしたのですが、本当にこれでいいのかという疑問が生まれて。さっと作れたかもしれないけれど、決して簡単に作ったりしないですね。

荒井:うん、なんか違うなあって。悔やんではいないよ。

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宮本:その“何か違う”という違和感を僕たちとしても大事にしています。地域で表現することって、デザインにしても“ローカルっぽさ”っていうのはイメージとして出しやすいから。「ビエンナーレ」も「おしゃれにしすぎて山形らしくない」って言われたりもしますね。山形はおしゃれじゃダメなんだなって(笑)

荒井:そうそうそう(笑)

山形のイメージを
“印象”ではなく“体感”で描く

宮本:最近は、ローカルやアートフェスに対して「こういうものだよね?」って思うイメージが固まっている気がします。会場も廃校や空き家をベースにしないとリアルじゃないと言われたり、色彩も山形というと古民家に降り積もる雪景色のモノクロームな印象があるそうで。

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荒井:それ、僕が学生の頃から言われてるからね(笑)。地域性はどんな土地にもあると思うけど、個人にとってはあまり関係ないよなって。実際に、自分たちの周りには色がたくさんあるんだから。「山形の人のわりに使う色が明るいね!」って言われても「どういうことだ?」ってね(笑)。

宮本:そういう荒井さんのイメージを押し出してくことが山形の既存のイメージを変えていくことになると思っています。山形、東北、みちのく、と大枠で括って見てしまうとステレオタイプになってしまうけれど、実際に訪れてみると四季の色彩が豊かで多様な世界があることを知れるはずです。
今回のテーマ「山のような」の“ような”という部分を繰り返していると、世の中がこうだ、と決めた固定的なイメージをずらしていくことはすごくラジカルなことでもあるのかなと思っていて。地域における終わりの風景ではなくて、はじまりの景色を見せたいと思っています。だからこそ色彩を打ち出していきたいし、山形ビエンナーレに来てくれた人が、山形のことだけを見るのではなく、ほかの地域だったらこういうことがやりたいなとか、いろんなヒントを持って帰ってもらいたいんです。

荒井:それはあるねえ。山形に対して、みんなが抱いているだろうイメージを演出することは、容易いことかもしれないけど、閉じてしまうことにもなる。もっと開いていくことに意識を向けたいんだ。やっぱり、今から、これからの山形を見て持って帰ってもらいたいという気持ちがあるな。

宮本:はい。関わっているスタッフ自身も、定型のビエンナーレにするのではなく、新しく始めること、変えていくことに躊躇しないで向かっていけたらいいなと思っています。

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みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018


東北芸術工科大学が主催し、山形市で2年に1度開かれるアートの祭典。山形市旅篭町にある国の重要文化財「文翔館」を中心に、市内各所で多彩なプログラムを展開。3回目となる今回は「山のような」をテーマに、9月1~24日までの週末、金・土・日曜、祝日の計13日間にわたって行われます。

会期:2018年9月1日(土)~24日(月・祝) ※期間中の金・土・日曜、祝日のみ開催
会場:山形県郷土館「文翔館」東北芸術工科大学とんがりビル郁文堂書店BOTA theatergura長門屋ひなた蔵・塗蔵
料金:無料(一部イベントプログラムは有料)
アクセス:https://biennale.tuad.ac.jp/access
問い合わせ:023-627-2091(東北芸術工科大学 山形ビエンナーレ事務局)
URL: https://biennale.tuad.ac.jp

 

山形で山形を描く。「ふるさとは絵本のような」【山形ビエンナーレ2018】 荒井良二×宮本武典対談〈後編〉
荒井良二さん(芸術家・絵本作家)、宮本武典さん(「山形ビエンナーレ」プログラムディレクター) あらい・りょうじ/1956年山形県生まれ。1990年に処女作『MELODY』を発表以来、数々の絵本、挿画を手掛ける。2005年には児童文学賞の最高峰アストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞、日本を代表する絵本作家として国内外で活躍。絵本『あさになったので まどをあけますよ』で2012年に第59回産経児童出版文化賞大賞を受賞。2010年と2012年に郷里の山形市で個展『荒井良二の山形じゃあにぃ』を開催。「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」芸術監督。

みやもと・たけのり/東北芸術工科大学美術館大学センター教授・主任学芸員。1974年奈良県奈良市生まれ。展覧会やアートフェスのキュレーションの他、地域振興や社会貢献のためのCSRや教育プログラム、出版企画をプロデュースしている。とんがりビル「KUGURU」キュレーター、東根市公益文化施設「まなびあテラス」芸術監督。akaoniとの企画・編集ユニット「kanabou」としても活動中。
(更新日:2018.09.16)
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