特集 私と山形、それぞれの旅へ

都市から山形を探訪する。「内なる感覚の中へ」【山形ビエンナーレ2018】 ミロコマチコ×山フーズ・小桧山聡子対談〈前編〉

9月1日(土)から山形市で始まる地域密着型の現代アートのお祭り、「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018」。先日の記事でもお知らせした通り、「雛形」では開催に向けて主催者、アーティスト、スタッフ、それぞれの立場でこの芸術祭に携わる方々に話を聞き、三者三様の視点で山形ビエンナーレの魅力を紐解く連動企画をスタートします!

第一弾は、今回の参加アーティストより、画家で絵本作家のミロコマチコさんと、食とそのまわりのプレゼンテーションを行う「山フーズ」こと小桧山聡子さんによる対談。かねてよりプライベートでも仕事でも親交があるふたりは、現在共に東京在住。都市と山形を行き来して行った創作活動は、それぞれこれまで感じたことのなかった自分自身の中にある“動物的な感覚”を再確認する時間だったと話します。

写真:永峰拓也 文:木下美和

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山形ビエンナーレとふたりの出会い

——ミロコさんは前回(2016)から、小桧山さんは今回初参加ということですが、それぞれどういう経緯で山形ビエンナーレに参加することになったのでしょうか?

ミロコマチコ(以下、ミロコ):私は「山形ビエンナーレ2016」の時に、ディレクターの宮本武典さんから参加依頼の連絡をいただいたのがきっかけです。前身の「荒井良二の山形じゃあにぃ」から山形ビエンナーレの存在は知っていたので、「あ、あれや、やりたい!」と思って参加のお返事をしました。

山フーズ・小桧山聡子(以下、小桧山):私も山形ビエンナーレの存在は前から知っていました。初回のポスターを見て素敵だなーと思っていて。そしたら偶然、私が別の用事で山形に行っている時に2回目の「山形ビエンナーレ2016」のポスター撮影をしている現場にたまたま居合わせたんです。その現場の雰囲気がすごく良くて。いい緊張感があって、全員でつくり上げている感じが伝わってきて、とても印象的でした。ディレクターの宮本先生や撮影の志鎌康平さんにお会いしたのもその時が初めてで、それを機に山形に行く機会が増えて、おふたりに現地を案内してもらう中で宮本先生から「次のビエンナーレで一緒にやりましょう」と言っていただき、今回参加することになりました。

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——すごい偶然ですね! ちなみにふたりは山形に行ったことはありましたか?

ミロコ:私は「山形ビエンナーレ2016」のお誘いを受けてから、開催前の下見で芸工大(東北芸術工科大学)の関連ワークショップを見学に行ったのが初めて。やっぱり“山”。山が近い環境で暮らしたことがなかったので、生活する風景に山があるっていうのはすごく印象的でした。あと、その時に乗ったタクシーのおっちゃんがめっちゃ気さくやったのも印象に残っています(笑)。東北の人は無口な人が多いイメージがあったので、ギャップにびっくりした。私は大阪出身なので、「そうそうタクシーのおっちゃんはこのくらい喋るよな〜」って、人なつっこい感じがしました。たまたまそのおっちゃんだけかもしれないけど。

小桧山:(笑)。私はさっき話したポスター撮影の現場に居合わせたのが初めての山形。行った瞬間から、すごく肌に合う気がして好きになりました。山の存在は私もすごく大きく感じて、夜、窓から見ると黒い影がぬっとあって、何か大きな生き物に守られている感じが独特だなあって。私は東京生まれ東京育ちなので、それががすごく新鮮でした。あと、やっぱり人が良くて、すんなり馴染みやすかった。おいしいものもいっぱいあるし、おもしろい土地だなあという印象です。

——山形で食べたもので印象的だったものはありますか?

ミロコ:だいたい全部が印象的。食べるもの食べるもの全然違う。ひっぱりうどんとか、冷たい肉そばとか、ちょっと甘いラーメンとか、長〜いまんま切ってないワラビの醤油漬けとか。そして全部おいしい。食べるたびに驚きがあります。

小桧山:私は今回の作品制作で毎回強烈な食の体験をして……。

——そうですよね。東京のプレス発表会でも触れていましたが、あらためて今回の作品「ゆらぎのレシピ」の内容と制作過程について教えていただけますか。

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強烈な食の体験から生じた
“ゆらぎ”を見つめる

小桧山:私は去年から毎月2泊3日で山形に行き、いろんな生産者さんを訪ねて、食材が生きている現場に入りました。1日目は川で魚を獲ったり山で山菜をとったりするフィールドワーク、2日目に前日の体験で感じた“何か”をひと皿の料理にする、というプロジェクトです。毎回超ハードで、修行のようでした(笑)。私がいつもやっている仕事や展示の際は、大体事前準備をしっかりして当日を迎えるんですけど、それが一切できない。何の準備もできないし、何を感じられるかもわからないし、何が待っているかもわからない状況。それで毎回山を登ったり鶏を絞めたりという強烈な体験をして、咀嚼しきれていない状態で次の日に何かを作らなくちゃいけない。

——プレッシャーですね(笑)。毎回ライブのような体験をされてきたんですね。

小桧山:瞬発力が必要な、濃厚な23日でした。

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〈ゆらぎのレシピ#01 記憶をつなぐ勘次郎胡瓜のサラダ〉制作風景/写真:志鎌康平(山形ビエンナーレHPより)

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最上郡真室川町を拠点に、山形の自然と共に生きる生産者を訪ね、食を巡る生命の現場を取材。写真は伝承野菜農家の佐藤春樹さん/写真:志鎌康平(山形ビエンナーレHPより)

——なかでも印象的だったのは?

小桧山:うーん、やっぱり鶏を絞めたのは印象的でしたね。あと今年に入ってから行った山菜採りも。かなり崖を登って行くんですが、山に入る手前に立ててあった看板に、「山菜と命、どっちが大事?」って書いてあって(笑)。

——サバイバルすぎる(笑)。

小桧山:私、もともとまったくアウトドアも山登りもやらない“ザ・東京のもやし野郎”みたいな感じだったので(笑)、毎回山形で受けるものが本当に大きかった。今回発表する「ゆらぎのレシピ」は、おいしいレシピを開発しましょうというものではなくて、「生きものを食べる」っていう生々しさとか、体感的なことをテーマにしています。

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〈ゆらぎのレシピ#04 大地で焼く比内地鶏の丸焼き〉制作風景/写真:志鎌康平(山形ビエンナーレHPより)

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小桧山さんが山形で体験した「ゆらぎ」をもとに制作したレシピをフルコースに見立てて、写真、映像、テキストを織り交ぜたインスタレーションで表現する。(山形ビエンナーレHPより)

身体の中に響く“何か”に耳をかたむける
体験していく絵画空間

——ミロコさんは今回どんな作品を発表されるのですか?

ミロコ:2016年の山形ビエンナーレの時は何度か山形に通いながら、市民の方々と一緒につくることがテーマだったのですが、今回は“自由”と言われて……。

小桧山:(笑)

ミロコ:日々東京で作品を発表する時もそうなのですが、過去の体験を元に生まれてくるので、今回も、今感じていることと山形で感じたことを引きずりながら、そういう延長線上みたいなものを出したいなと思ってはいます。

——プレス発表会の時、ディレクターの宮本さんが、「ミロコさんが山形に来て一緒に山に入った時、おばちゃんの喋り声みたいなのが聞こえると言っていた」とお聞きしたのですが。

ミロコ:あぁ、そうそう。山伏の坂本大三郎さんの案内で龍山に登ったことがあって、山の途中で井戸端会議みたいな話し声が、そんな訳ないんやけど聞こえてきたんです。山を降りたあとで、「途中でおばちゃんの話し声みたいのしたやんな」って言ったら、「いや誰もそんな声は聞いてないよ」って(笑)。

——恐怖体験!(笑)。

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ミロコ:でも、そういう聞こえないものが聞こえるみたいなことは、山に入ると感じる人もいるよって大三郎さんが言っていて。実際、山に入る前は目を使うのかなと思っていたら、耳をすごく使った。鳥の鳴き声とか人の足音とかもそうやけど、山ではすごく耳が敏感になっているのを感じました。その時に、普段は耳をそんなに使ってないのかもしれないなと思って。私はいつも何かを感じた時に、なんていうか、こう、身体の中がふわ〜っとなるんです。ジューンって充満するみたいな。その山に入った時にも、耳から何かが入ってくるというか、耳がジーンってしたんです。その体験を元に、今年は「みみなり」っていうテーマにしていて、その延長線上で作品をつくろうかなと思ってるんです。直前につくるので、今はまだ何もないですが。

小桧山:え、そうなんだ! これからつくるんだね、知らなかった。

ミロコ:そう。ビエンナーレ直前に山形入りして、芸工大で1週間くらい制作して、会場の「文翔館」に運ぶ予定。

——かなり大きな作品になると聞いています。

ミロコ:はい。大きい絵です。みんなにも、自分の中に何かが入ってくる、みたいな体験をしてほしくて。頭の中とか身体の中に入ってくるものは見えないので、絵の中に入ってもらえるような展示をしようかなと。壁と床面を使って、絵に囲まれた空間をつくりたい。その絵の上にのって、歩いてもらって、耳から身体の中に入っていく……そんなイメージ。

——前回の山形ビエンナーレでミロコさんが発表された、山車のような立体絵本「あっちの目、こっちの目」も、ミロコさんの世界の中に入っていくような感じがしましたが、今回はまた違ったアプローチですね。

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〈あっちの目 こっちの目〉山形ビエンナーレ2016出品作(山形ビエンナーレHPより)

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〈あっちの目 こっちの目〉山形ビエンナーレ2016での朗読ライブ風景(山形ビエンナーレHPより)


ミロコ
:そうですね。前回は東京でつくったものを車で山形に運び込んで展示したんですけど、今回は山形で制作するのでどんなものになるでしょうね。前回の作品も、私自身ああいうものが出来上がるとは! という感じで、自分でも驚いたんです。まあ何か、山形のいろんなことに引っ張られて、きっとあの作品になったんだと思います。いつも自分で発案してつくるけど、あとから思うと「ほんまに私が考えたんかな?」「私が描いたんかな?」と思うことがよくあります。私、割とおもろいやん、って(笑)。

小桧山:ははは(笑)。

ミロコ:でも本当に不思議な力が働いてるんだと思う。描いたことは覚えてるけど、時間を置いて見た時に、こんな風に描いたんやーって、不思議な気持ちになります。

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◎続く〈後編〉では、今回の山形ビエンナーレでふたりが絵と食でコラボレーションする公開セッション「山分け」や、 山形ビエンナーレでの経験が影響しているかもしれない暮らしの変化についてお話を伺いました。

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みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2018

東北芸術工科大学が主催し、山形市で2年に1度開かれるアートの祭典。山形市旅篭町にある国の重要文化財「文翔館」を中心に、市内各所で多彩なプログラムを展開。3回目となる今回は「山のような」をテーマに、9月1~24日までの週末、金・土・日曜、祝日の計13日間にわたって行われます。

会期:2018年9月1日(土)~24日(月・祝) ※期間中の金・土・日曜、祝日のみ開催
会場:山形県郷土館「文翔館」東北芸術工科大学とんがりビル郁文堂書店BOTA theatergura長門屋ひなた蔵・塗蔵
料金:無料(一部イベントプログラムは有料)
アクセス:https://biennale.tuad.ac.jp/access
問い合わせ:023-627-2091(東北芸術工科大学 山形ビエンナーレ事務局)
URL: https://biennale.tuad.ac.jp

 

都市から山形を探訪する。「内なる感覚の中へ」【山形ビエンナーレ2018】 ミロコマチコ×山フーズ・小桧山聡子対談〈前編〉
ミロコマチコさん(画家・絵本作家)、小桧山聡子さん(「山フーズ」主宰) みろこまちこ/画家・絵本作家。1981年大阪府生まれ。生きものの姿を伸びやかに描き、国内外で個展を開催。絵本『オオカミがとぶひ』(イースト・プレス)で第18回日本絵本賞大賞を受賞。『てつぞうはね』(ブロンズ新社)で第45回講談社出版文化賞絵本賞、『ぼくのふとんは うみでできている』(あかね書房)で第63回小学館児童出版文化賞をそれぞれ受賞。ブラティスラヴァ世界絵本原画ビエンナーレ(BIB)で、『オレときいろ』(WAVE出版)が金のりんご賞、『けもののにおいがしてきたぞ』(岩崎書店)で金牌を受賞。その他にも著書多数。本やCDジャケット、ポスターなどの装画も手がける。
http://www.mirocomachiko.com

こびやま・さとこ/「山フーズ」主宰。1980年東京生まれ。多摩美術大学卒業。素材としての勢い、料理としての勢い、美味しさ、を大切にしながら ”食べる” をカラダ全部で体感できるような仕掛けのあるケータリングやイベント企画、ワークショップ、レシピ提供、撮影コーディネート、執筆など、多様な角度から「食とそのまわり」の考察、提案を行っている。
http://yamafoods.jp
(更新日:2018.08.20)
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私と山形、それぞれの旅へ
主催者、アーティスト、スタッフの視点を交差させて「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」を深堀りする連載企画。それぞれが綴る、山形の旅へ。
都市から山形を探訪する。「内なる感覚の中へ」【山形ビエンナーレ2018】 ミロコマチコ×山フーズ・小桧山聡子対談〈前編〉

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