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[vol.1]暮らしの一部に、
お金に頼らない部分を持つ
コンパクトな生き方 -
山梨県竹内友一さん
タイニーハウス・ビルダー
居住地: 東京都→イギリス→オランダ→山梨県 -
“小さな家でシンプルに暮らす”運動「タイニーハウス・ムーブメント」や、小さいことに価値を見出してそれを選び取る暮らしを紹介する「くらしの良品研究所」のコラム「小さな家とキャンプ」と「『コンパクト』を考える」。暮らしを見つめ、ものごとの本質に向きあったこれらのコラムは、ものにあふれた現代社会に生きる人々にどんな気付きを与えてくれるのだろう。タイニーハウスを通じて、コンパクトでシンプルなライフスタイルを広める竹内友一さんの生き方からその答えを探っていきたい。
写真:加瀬健太郎 文:根岸達朗
近年日本でも、オルタナティブな暮らしとして注目を集めるようになった、“小さな家”という意味を持つ「タイニーハウス」。1999年にアイオワ大学の美術教師ジェイ・シェイファーさんが約6畳分の広さの「スモールハウス」を建てて、それが翌年に雑誌の賞を獲得したことが、全米にムーブメントを広めるきっかけになったと言われている。必要以上にものを持つことなく、小さな家でシンプルな生活を楽しむ。それは「大きな家に住むこと=豊か」としてきた従来の価値観に一石を投じるものだった。
今、全国でタイニーハウスづくりのワークショップを行っている竹内さんも、この思想に共感を覚えた一人。樹の上や原っぱ、車の上など、あらゆる場所に小屋を建てるタイニーハウスビルダーとして、旅をするように全国を駆け巡っている。
「タイニーハウスは、大きさや広さなど、ハードの部分に注目しがちなのですが、僕がいいと思うのはそこにある精神性です。例えば、ワンルームマンションに住んでいる多くの人は、できれば大きな部屋に住みたいけれどお金がないとか、移動時間を短くしたいとか、いろんな条件のなかで、仕方なく選択をしていると思います。でも、これでいいじゃん、これで十分だよっていう気持ちで住めたら、ワンルームでも卑屈になることなく、ポジティブに暮らすことができますよね」
竹内さんが昨年から行っているワークショップでは、10〜15人程度の参加者が集まって、約3か月間で実際に移動式のタイニーハウスをつくる。タイニーハウスの広さは一般的なワンルームマンションと同程度の10〜20平米。しかし、普通の部屋と違うのは、それが誰かに用意されたものではないということ。自分でつくる小屋には、自分の好きなように暮らしの構成要素を配置できるのだ。
「タイニーハウスの暮らしは、“選ぶ暮らし”です。トイレを流すにしても、どこからか引いてきた水を流すのか、貯水槽に貯めた水を流すのか。風呂をつくって沸かすとしたらガスを買ってきて給湯器をつけるのか、誰かから薪をもらうのか、そもそも風呂はつくらないのか。限られた暮らしのなかで何を選択するか、真剣に頭を働かせることになる。タイニーハウスは自分がどう暮らしたいか考えるきっかけを与えてくれるんです」
発達・知的障がい者の就労支援を行っている「NPO法人はぁもにぃ」(千葉県千葉市)の農園内に建てたタイニーハウス。室内の広さは畳4枚分ほど。「みんな違う窓がお気に入りになるといい」との思いから、それぞれに景色の異なる小窓を計6か所設置した。
竹内さんは20代のほとんどをヨーロッパで過ごし、クリエイターのもとでプロダクトデザインを学んだ後に帰国。日本でツリーハウスに関わる仕事に就いたことから本格的に小屋づくりに興味を持ち、会社を設立。タイニーハウスビルダーとして、全国各地で多くのタイニーハウスやツリーハウスをつくってきた。
最小限の持ち物と、最小限の機能を持った部屋さえあればいいという移動生活。消費社会へのカウンターとしてアメリカで同時多発的に広がったムーブメントの存在は、できるだけ“持たない”自身のライフスタイルに照らし合わせても、自然に受け入れられるものだった。
「僕はたくさんのものに愛情を注ぐことができないんです。鉛筆が10本あると、愛情が10分の1になってしまう。だから、自分が持つのは本当に大好きなものだけでいい」
しかし、竹内さんはこうした考え方も「すべての人に共感してもらえるものじゃない」と続ける。
「ものに囲まれた暮らしもひとつの文化。持つ人がいて、持たない人がいるという多様性のなかで、このムーブメントは生まれました。だから、この哲学もすべての人にフィットするかというと、そうじゃない。タイニーハウスは、持たない暮らしを楽しめる人にとって、一回自分のものをどれだけ減らせるか、減らしたなかでどういうことを考えられるか、というのを実験する場なんだと思っています。一生、住み続ける必要はないし、そこで得られたものを、次の暮らしに生かしていければいい」
設計図を描かず、その場にいる人とまるで音楽のセッションを奏でるように、材料を組み立てていく竹内さんのタイニーハウスづくり。小さくつくることにも、さまざまなこだわりを持って取り組んでいるという。
「アメリカのタイニーハウスのほとんどは2階にロフトが付いている。なぜかというと、彼らにはベッドルームが必要だから。でも、日本人ってひとつの部屋で食事をすることもあれば、寝ることもあるし、くつろぐこともある。狭い国土のなかでコンパクトを考えてきた日本の暮らしの知恵を、タイニーハウスにも取り入れることができたら面白いですよね」
現在、竹内さんはワークショップを手がける一方で、アメリカ西海岸を中心に広がるタイニーハウス・ムーブメントのパイオニアや、実践者の暮らしぶりを追ったロードームービーを制作している。いずれは海外に向けて、まだ情報が少ない日本のコンパクトな暮らしも掘り下げて発信していくつもりだ。
タイニーハウスでコンパクトを追求する上で、忘れてはならないこともある。それは“持たない暮らし”の一部をシェアすることによって、足りないものを補うということ。竹内さんは、ムーブメントのパイオニアの一人で、自身の心臓の病気をきっかけにタイニーハウスを建てたDee Williams(ディー・ウィリアムス)さんの例を挙げる。
「彼女は体を動かすのが好きだけど、家にはシャワーがない。だから、友達の家にビールを持っていき、一緒に飲んでシャワーを浴びて帰る。おたがいさまの関係性をつくっていければ、持っているものは少なくていいよねって、彼女は言っています」
友達にシャワーを借りられなければ、スポーツジムや公共施設のシャワーを使うこともできる。家に本棚がなければ、図書館やインターネットを使うこともできる。ないものを外に委ねることができる時代では、暮らしのすべてを自分だけで完結する必要はないのだ。
「僕は、お金がある循環もいいと思っている。ただ、全部お金で解決しない部分も、暮らしの一部に持っておきたい。それが自分の人生を支えてくれるから。暮らしの豊かさって人から授かるものじゃなくて、自分でつくりだしていくものなんだと思っています」
くりかえし原点、くりかえし未来”がコンセプトのウェブサイト「無印良品 くらしの良品研究所」。暮らしの中で埋もれてしまっている知恵や文化を掘り起こし、新しい時代の芽吹きをていねいに拾い上げる「コラム」ページでは、日常生活の新たな“視点”を提案しています。
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