特集 自ら考える力。

伊豆大島・小学6年生による移住促進動画が完成!子どもたち、そして私たちが今できること。

伊豆大島にある大島町立さくら小学校の6年生が、移住者を増やすPR動画を作る取り組みを以前、紹介した。3月に晴れて卒業した30名が、自分たちが暮らす地域の魅力を客観視して、島をもっと元気にしたいという思いでつくった、唯一無二の置き土産だ。完成した動画とともに制作過程や子どもたちの様子、それによる大人の気付きなどを、担任を務めた鈴木正利先生と副担任の杉山愛弓先生に振り返ってもらった。

文:兵藤育子 写真:加瀬健太郎

島の人と対面して
顔つきが変わった子どもたち

前回、「雛形」が大島町立さくら小学校の6年生を取材(*)したのは、昨年11月末のこと。「総合的な学習の時間」の一環で「大島に移住者を増やそうプロジェクト」と題して、島の魅力を伝えるPR動画を制作することになり、その授業にお邪魔しつつ、我々取材スタッフが実際の取材方法やポイントなどをレクチャーさせてもらったのだ。その時点では、「自然」「仕事」「安全」「空き家」などのテーマ別に7グループに分かれて動画を制作することが決まっていて、どんな切り口で伝えるのがより効果的か、イメージを膨らませているところだった。
*記事:「PR動画を作って移住者を増やす!伊豆大島の小学6年生による、動画制作プロジェクト進行中」

「その後、いただいたアドバイスを参考にグループでさらに話し合いをして、絵コンテを描く人、ナレーションを考える人、編集作業をする人など役割を決め、取材交渉も自分たちで行いました」(鈴木先生)

そして3学期が始まって間もなく、校外学習として各グループがカメラを手に2日間かけて取材を行った。

「親御さんにも協力していただきながら、グループごとに島のあちこちに散らばって素材をたくさん集めました。その時間だけでは足りず、放課後も取材をしたいと申し出る子どもたちもいて、自主的に夕陽を撮りに行ったりなど取材自体はかなり楽しんでいましたね」(鈴木先生)

インタビュー内容やカット割りを明確に決めて撮影に臨んだ用意万端のチームや、その場でアイデアを出し合って撮影していくうちにどんどん盛り上がる現場主義のチームなど、進め方にも個性が見られたようだ。

大島は2度目の赴任となる鈴木先生。3人の子どもの父親でもあり、大島の子育てのしやすさを実感する日々。

「なかには方向性が定まらず、右往左往しているチームもあったのですが、取材しながら面と向かって島の人たちの思いを聞いていると、子どもたちの顔つきが変わってくるんです。学校や家庭以外の大人との触れ合いは、得がたい経験だと思いました」(杉山先生)

観光で遊びに来た人から逆に教えてもらった、島のおいしいものを“食レポ”したり、美しい自然をただ撮影するのでは味気がないからと、景色のなかに子どもたちがさりげなく(?)登場したりなど、演出にもさまざまなこだわりが。ただ、動画制作そのものに夢中になるほど、移住者を呼ぶという本来の目的が曖昧になってしまう場面も。

「動画を作っている自分たちは楽しくて笑えるのだけど、実際に誰が見るのか具体的に想像できなかったりして、相手意識を持つのが難しかったようです。それによってテーマがぼやけてしまうことが何度かあり、そのたびに我々が働きかけ、何のために作る動画なのか何度も確認して軌道修正をしたり、もう一回考えさせることを意識しました」(鈴木先生)

大島はやっぱり優しく
島全体が学校だった

撮影した素材の編集と並行して、動画を流してもらえそうな場所を探すなど、制作が佳境に入ろうとしていたとき、新型コロナウィルスの影響で臨時休校になってしまう。

「しかし卒業までになんとか完成させたいという子どもたちの希望もあり、各グループの代表の子がタブレットを学校から持ち帰り、自宅で編集作業を進めていきました」(鈴木先生)

本来であれば「ああでもないこうでもない」と言いながら、みんなで編集作業をしたかっただろう。そんななかでも、外国人も動画を見ることを想定して、翻訳サイトを駆使して英語字幕をつけるチームがあったりなど、最後の最後まで工夫が見られた。こうした努力の甲斐もあり、動画の完成は卒業式に間に合った。全員でじっくり鑑賞して意見を言い合う機会を持つことは残念ながら叶わなかったが、時短となった卒業式の合間に教室では動画を流し続けた。一連のプロジェクトを通して、子どもたちの様子を見続けてきた先生たちが感じたのは、社会とつながることの大切さだった。

「私の経験上、今までの『総合的な学習の時間』は学校のなかで完結することが多かったのですが、今回のプロジェクトは学校を飛び越えて社会とつながり、発信するところまでできました。小学生でも何かしらアクションを起こせば、こんなふうに広がるのだという達成感があったと思います」(鈴木先生)

「自分たちが考えたことが大人に届いた経験は、きっと大きいですよね。私たちの一番の不安材料は、動画をSNSなどで発信するというゴールを決めたものの、学校の中でそれが本当に実現できるのか、ということでした。子どもは頑張ったのに、大人の事情で『残念だけどダメでした』とはしたくなかったので」(杉山先生)

というのも、学校として動画を発信するのは、アカウントの取得やセキュリティの問題など容易なことではなかったらしい。そんななか、取材先のひとつでもあった大島と移住希望者をつなぐマッチングサイト「シマラボ」が、アドレスを提供してくれることに。こうしたひとつひとつの過程で、島の人たちの協力がなければ実現できないプロジェクトだったと、子どもたちも実感したようだ。

「学校内で限界があったとしても、学校の外側とつながれば可能になるのだと、子どもたちとともに私たちも学ばせてもらいました。一年の歩みをまとめる学校の掲示板に『大島まるごと学校』という言葉があるのですが、本当にその通りでしたね」(杉山先生)

「子どもたちが口々に言っていたのは『大島はやっぱり優しい』。社会とつながることで改めて認識したようです」(鈴木先生)

 

今できる小さなことを積み重ねていく

1年を通して自分たちが暮らす地域と向き合い、客観的に島をとらえた経験は、これからの人生でどんな糧となっていくのだろう。

「10年後、20年後、この経験を覚えているかどうかはわからないけれども、自分たちのふるさとを思って、その都度いろんなアクションにつなげることができたら嬉しいですね。大人になって大島に住んでいなかったとしても、島のためにできることはきっとあって、そうしたいと思う気持ちはやっぱり子ども時代の経験によって育まれる気がします」(杉山先生)

社会人経験がある杉山先生は、地域での教育に興味を持ち2年前から伊豆大島へ。

事実、このプロジェクトは島民だけでなく、現在は島外に暮らす島出身者や、大島を愛する多くの人たちを巻き込むかたちとなった。自分たちのまいた種が予期せぬかたちで広がり、縁が縁をつないでいったのだ。最後に中学生になった子どもたちへ、先生からこんなメッセージをいただいた。

「自律という言葉を学級目標に、1年を過ごしてきました。自分で考えて判断して、行動できる人になってほしいと私も常々言ってきましたし、子どもたちもそうなりたいという思いから掲げた学級目標です。その点、このプロジェクトは主体的にならなければ、何も始まらないものでした。ふるさとのことを思って行動した経験を生かして、これからの人生も主体的に楽しんでほしいと思っています」(鈴木先生)

「コロナウイルスの影響もあり、予測不能な未来が待っていることを今は誰もが痛感していると思います。人口減少もそうですが、社会の課題に対して自分は何ができるのかといったら、それぞれが小さなことを積み重ねていくしかない。そのことを知るうえでも、とても意味のある時間だったのではないかと思います」(杉山先生)

 

以前の紹介記事
「PR動画を作って移住者を増やす!伊豆大島の小学6年生による、動画制作プロジェクト進行中。」
伊豆大島・さくら小学校の6年生が、島へ移住してきてもらうための動画を制作していると聞きつけた。「人口減少に歯止めをかけるには、移住者を呼び込む必要がある」と考えたのは、子どもたち自身だったという。生まれ育った地域の魅力を、第三者に伝えるための子どもたちの奮闘が始まった。>>

 

前回の「雛形」の記事をきっかけに、TBSさんで伊豆大島・さくら小学校の子どもたちの活動が取材されました。

伊豆大島・小学6年生による移住促進動画


大島町立さくら小学校の元6年生(3月に卒業)が、「総合的な学習の時間」の一環で昨年度
行った「大島に移住者を増やそうプロジェクト」。島で深刻化している人口減少や少子高齢化
は、移住者を増やすことが解決策になるのではという考えのもと、若い世代に見てもらえるよ
うな島のPR動画を作り、SNSで発信することに。「自然」「仕事」「安全」「空き家」など
テーマ別に7グループに分かれ、構成、取材、編集もすべて自分たちで行い、動画を制作した。

(更新日:2020.04.27)
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地域の人・文化・自然に触れて、子どもたちが自ら興味を持ち、探求し、考える。学校や教科書だけでは学べない、これからの社会を生きる力を育む活動を追う。
伊豆大島・小学6年生による移住促進動画が完成!子どもたち、そして私たちが今できること。

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