特集 問いながら、
変わりつづける私たち

子どもたちと過ごす
「やまのこ」での日々を通して
自分の心も体も変化し続けていく。

おもしろそうだと思えば、どこへでも。ひょいっと体ひとつで移動してきた山崎莉穂さん。「やまのこ保育園(以下、やまのこ)」の保育スタッフとして働くまで、東京、釧路、京都と、興味があることを見つけては移動してきた。そのバイタリティとどこへでも行ける柔軟さが、莉穂さんの持ち味だ。

大学卒業後、就職した保育の現場から飛び出し、ゲストハウス運営やウェブデザイン、カフェスタッフなどの経験を通して、もう一度保育の現場へと戻りたいという思いが募っていった時、ふと見つけた「やまのこ」の求人にすぐさま応募したという莉穂さん。ここでならば、自分が本当にやりたい保育の仕事ができる気がする。そう強く思って飛び込んだ「やまのこ」で、やっと自分らしくいられる場所を見つけたようだった。

写真:志鎌康平 文:薮下佳代

東京から釧路へ
保育の現場から離れてみたかった

莉穂さんの生まれは、新潟県新潟市。進学を機に東京へ。保育系の短大を卒業して、東京で保育士として3年間働いた。転職し、東京を一度離れてみようと思っていた時、釧路にUターンするというWebデザイナーの友人が「一緒に来てみない?」と声をかけてくれたことで、釧路へ移住を決めた。今から3年前、23歳の時のことだった。

「都内の保育園で3年間、働いていました。保育士とか教育現場の人たちは専門的な人が多いこともあって、外とのつながりが少ないなと感じていたんです。だから、保育士として働きながら、ひとりで旅行に行ったり、もっと外の人たちと出会うことを始めてみたら、知らない世界がたくさんあるんだなと気がついて。一度、保育士を辞めて違う外の世界を見てみたくなったんです。そんな時にちょうど釧路へ来ない?と誘われて。半年間の期間限定だったので、ふらりと行ってみようと思いました」

東京と釧路を行き来しながらウェブデザイナーとして働く友人が釧路にゲストハウスを作ることになり、働いてくれる人を探していた。以前からウェブデザインに興味があった莉穂さんにとって、願ってもない誘いだった。釧路ではゲストハウスで働きながら、地域の方たちと関わる仕事も担当。地域の人の輪に入り、盆踊りを手伝ったり神輿を担いだり、地元の新潟でもしたことがない経験をすることができた。

釧路で働いていたゲストハウスにて。お手伝いをしていた農家さんのところで採れた大根に足がついていたので、みんなで大根になってみました。(本人提供)

釧路市にある「硫黄山」にて。釧路のお気に入りスポット巡りをしていたひと時。(本人提供)

地域に根ざした人たちとのつながりはもちろん、ゲストハウスを訪ねてくれる海外の方や日本中から来る旅人たちと出会える毎日はとても刺激的。保育園で働いていた時に欲していた“外の世界”がそこにはあった。多様な人との出会いを通して、知らない世界に触れたいという莉穂さんの願いが叶ったのだ。しかし半年後、ゲストハウスは冬季休業を迎え、釧路を離れることになる。

「知り合いが誰もいないところに移住する気はなくて。東京に戻るのもなんだか違う気がするし、実家も違う。どこにしようかと考えていた時、よく旅行で訪れていて、友人も多い京都へ行こうと決めました。西日本は知らない土地も多く、興味があったんです」

自分らしく子どもと関わりたい
そんな場所を探していた

京都では、友人の家に住まわせてもらいながら「D&DEPARTMENT KYOTO」のカフェスタッフとして働くことになった。ゲストハウスで働いていた時のように、いろいろなところからお客さんが遊びに来る京都という土地柄もあり、出会いも多く、忙しいながらもとても充実した日々だったという。

10ヶ月間ほど京都で働いた頃、偶然SNSで「やまのこ」の保育者(やまのこでは保育士として働くスタッフを資格名ではない名前で呼びたいという思いから「保育者」と呼んでいる)募集の記事と出会い、その記事に出ていた一枚の写真が莉穂さんの心を掴んだ。かえるを手に載せた保育者とその様子を真剣に見つめる子どもたち。その表情に保育者と子どもたちがどう過ごしているのか、その様子が垣間見え、一目惚れしたのだそうだ。

「こんな瞬間を作り出せる保育園ってすごく素敵だなと思って。私もこの瞬間に立ち会いたいなと思いました。保育者の仕事を辞めてからも、いつか子どもに関わる場所で働きたいという思いをずっと抱えていたんです。偶然記事を読んで、ここでだったら、自分らしく子どもと関わることができるかもしれない。そう思って応募しました。保育者として働いているスタッフたちも自分の生活を大切にしていることが書かれていて、ていねいに日々を営んでいるのがすごく素敵だなと思ったんです。前に働いていた園では身を削って働き、やりがいだけで生きていたけれど、それだけじゃ続かないというのはずっと感じていて。自分自身の生活を見直したいという思いもあったし、『やまのこ』ならば自分の体も心も変えれるかもしれない。そんな期待もありました」

「やまのこ」では、「やまのこ」に関心のある人たちと地域を限定せず広く出会いたいという思いから、随時オンライン説明会を実施している。そこでは、複数人で園長の遠藤綾さんとオンライン上で話をしたり、質問をすることができる。その後、書類選考を経て、鶴岡で行われる面接へと進む。莉穂さんの時は、海外からオンライン説明会に参加した方もいたという。2018年8月、面接のために夏真っ盛りの鶴岡へ来た莉穂さんは、青々とどこまでも広がる田んぼに心を奪われた。

「遠くに地平線が見える庄内平野を見て、あぁ、最高だなと思ったんです。当時は京都駅の近くに住んでいたので、人が多い環境で。広い土地に行きたくなってたんですかね(笑)。新潟出身なので、お米がおいしいところってやっぱりいいなって改めて思いました」

自分の意見を話すことで
自分自身と向き合うことができる

無事、「やまのこ」へ入社し、久しぶりに保育者として働き始めた莉穂さんだったが、スタッフ自ら考えて行動し、さまざまな意見が飛び交う「やまのこ」の現場で、なかなか自分の考えを言葉にすることができず、とまどいも多かったという

「年に4回、1泊2日でやまのこスタッフたちが集まって、その時々のテーマをもってとことん話し合う合宿があり、入社する前に参加させてもらうことができたんです。けれど、話の展開が早すぎて全然付いていけなくて。ひとつの議題でもいろんな意見が出てくるんですが、それについて意見を出すことがとても難しかった。『どう思う?』って話を振ってくださるんですけど、頭の中を整理して、自分の考えにまとめて言葉にするのにすごく時間がかかってしまう。もともと人前で自分の意見を言うことがとても苦手だったのもあって、全然スピードについていけなくて」

1~2歳のこごみ組を担当する莉穂さん。子ども一人ひとりの日々の変化に目を配り、「今を生きる子どもたちと向き合い続けることを大切にしたい」と話す。

けれど莉穂さんは、できないことをできないままにせず、「どうして自分は話をするのが苦手なんだろう?」と自身に問いかけた。自分が話したことを相手がどう受け止めるのかをあれこれ考えてしまうから話せなくなるのだと気がついた。「やまのこ」のスタッフは、保育経験の有無に関わらず働いているので、どんな意見でも、どんな言葉でも大事にし、決して否定することなく、受け止めてくれる。話をさえぎることなく、終わるまで待っていてくれる。そんな環境の中で、莉穂さんはだんだんと自分の意見を臆せず話せるようになった。躊躇せず言ってもいいのだと思えること、どんな意見でも真剣に耳を傾けてくれる場を「やまのこ」全体で作ってくれていたからだ。

「『やまのこ』で働いて、まだ一年しか経っていないんですが、日々、挑戦しているというか、冒険している感じです。入社してから3〜4回、合宿を重ねてきましたが、今ではその流れについていけている気がしています。ちょっと成長してるのかな(笑)。本当に毎日めまぐるしくて、もちろんいっぱいいっぱいの時もあるんですけど、自分の気持ちや体も変化し続けているというか。この一年、頭の中や心の中を必死にかき出して、自分自身と向き合い続けているような感じですね」

自分の暮らしを作っていく
鶴岡での新鮮な毎日

「やまのこ」から徒歩でいける場所に、小さな畑付きの一軒家を借り始めた莉穂さんは、「やまのこ」で栄養士として働く後藤緑さんと一緒にシェアをしている。互いに一人暮らしだった2人は、前回紹介した朋子さん&歩さんのように共同生活を楽しむ暮らしに憧れていたそうだ。自宅に帰ってきてからも、今日あったことや子どもたちの話をする時間が楽しいと2人は口をそろえる。

今夏、平家の一軒家で共同生活を始めたという莉穂さんと緑さん。職場も家も同じ2人だからこそ、仕事での悩みもおもしろかったことも気兼ねなくシェアできる。緑さんは隣の酒田市出身。移住したての莉穂さんにとっても、地元出身の緑さんがいることはきっと心強いだろう。

「園では、子どもたちの発達や年齢に合わせて、どういう保育をしていったらいいのかを常に考えているのですが、先ばかりを見ていると、今、発しているメッセージを取り逃してしまうこともあって。子どもたちの視点をもっと拾えるようになりたいから、全神経を集中している感じなんです。毎日毎日、変化が起きているすごい現場にいるんだなと改めて感じています。緑さんは緑さんの持ち場でどうしていったらいいかと考えているし、それをみんなが持ち寄ってより良くなっていく。立ち止まらず、常に動き続けているのが『やまのこ』なんだと思います」

この日の給食は、具だくさんのカレーとおみそ汁、野菜のごま和え。地元で採れた有機の野菜を農家さんから直接仕入れ、毎日献立を考えて調理している緑さん。子どもたちは好き嫌いせず、この日もおかわり続出!

「大人であるということ忘れたいんですよね」と話してくれた莉穂さん。もうその頃には決して戻れないけれど、そういう思いで子どもたちとともに時間を過ごしている。子どもたちにはどんな世界が見えているんだろうと想像する莉穂さんのやさしい視線は「やまのこ」へと通う何気ない日々の中にも表れていた。

「車を持っていないので、歩いて『やまのこ』に通っているんです。帰り道、夏は夕日がすごくきれいで、歩きながら空一面、どんどん色が変わっていくのが見えて。田んぼの横には雑草が生い茂っているんですけど、ひとつ草が枯れたら今度は違う雑草が生えてきて、季節がどんどん変わっているんだなっていうのを毎日感じながら歩いています。都会では見落としてしまう小さな変化に触れられることもここで暮らす喜びかもしれません。東京で保育士をしていたときは、バッタ一匹を必死で探していたのが、いまではあちこちでぴょんぴょん飛んでるし、トンボもたくさん飛んでいる。本当に豊かな環境で過ごせているんだなと実感して、のびのびと自分らしく生きていられる気がします」

「やまのこ」で働きながら、自分たちの手で生活を作っている真っ最中の莉穂さん。迷いながらも冒険し続ける保育の仕事とひと続きになった鶴岡での日々を、存分に楽しんでいる様子がひしひしと伝わってきた。

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子どもたちと過ごす 「やまのこ」での日々を通して 自分の心も体も変化し続けていく。
山崎莉穂さん 「やまのこ保育園」スタッフ
1992年、新潟県新潟市生まれ。保育系の短大へ進学し東京へ。保育士として3年間働いた後、転職して釧路へ。ゲストハウスのスタッフとして半年間勤務し、友人のいる京都へ移住。カフェスタッフとして働ている時、偶然「やまのこ」の求人をみつけて応募。「やまのこ」への入社を機に、山形県鶴岡市へ移住。「やまのこ」では1〜2歳のこごみ組を担当する。
(更新日:2019.10.11)
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問いながら、
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あなたはどう思う?私はどう思う?日々生まれては変化するそれぞれの「問い」から生まれる、山形県「やまのこ保育園」の保育のかたち。
子どもたちと過ごす 「やまのこ」での日々を通して 自分の心も体も変化し続けていく。

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