INTERVIEW

距離をエネルギーに変える。
東京と鶴岡、離れて暮らす、
2つの家族が選んだ別居と同居。

山形県
長尾朋子さん
「やまのこ保育園home」園長
居住地: 神奈川県→東京都→山形県鶴岡市

自分が選ぶ「働き方」と「暮らし方」について、迷いに迷った長尾朋子さん。どちらも同じくらい大事だし、どちらを優先させるかなんて決められるわけもない。だからこそ、アイデアを振り絞り、ひとつの解を見つけた。

 

「やまのこ保育園home(以下、やまのこ)」で園長として働く朋子さんは、夫の大地さんと、長女と長男の4人家族。山形県・鶴岡市に移住する前は東京都内に暮らしていた。ある縁をきっかけに「やまのこ」で一緒に働かないかと声がかかり、2ヶ月間悩みに悩み抜いた。家族で何度も話し合い、いま自分がやってみようと思える場所はここだと思えた時、子ども2人とともに鶴岡へ引っ越し、夫は東京で働くという、2拠点での暮らしを選んだ。

 

しかし、見知らぬ土地で、仕事と育児をひとりで担うのは大変ではと、もともと家族ぐるみで仲良くしていた大野歩さんも娘と東京から母子で鶴岡に引っ越し、朋子さん家族とともに5人で同じ家に暮らす。そして、さらに驚きなのが、朋子さんと歩さんの夫2人も東京で同じ家に住んでいるのだという。

 

鶴岡↔東京。

 

2世帯の家族がそれぞれ選択した、別居と同居。自分たちにとって今の最適解はこの暮らし。そんな拡大家族のあり方を知りたくて、朋子さんと歩さんたちが暮らす鶴岡の自宅へ伺った。

 

写真:志鎌康平 文:薮下佳代

結婚は一緒に生活を作っていく
アートプロジェクト

朋子さんが「やまのこ保育園」に参画したのは、2018年6月のこと。もともと、大学院でアートについて学び、卒業後は仙台にある文化財団に就職。2013年、東京藝術大学の社会連携事業として東京都美術館とタッグを組み、アートコミュニケーション事業の立ち上げから5年間働いた。その間に2人の子どもにも恵まれた。ちょうどその頃、児童養護施設の子どもたちと美術館で一緒に鑑賞するワークショップを企画。そこで初めて社会的養護が必要な子どもたち、社会の力で育てられている子どもたちに出会った。

「ちょうど、自分も子育てが始まったタイミングで、人ごととは思えなくて。そこから里親にも興味を持って、資料をもらって調べてみると、保育士の資格があったらもっと子どもの理解が進むかなと思って、第2子を産んだ後に保育士の資格を取りました。育休中には児童養護施設の子どもたちと美術館で鑑賞プログラムを行う市民団体の運営にも関わっていました」

そんな時、2017年9月「やまのこ保育園」ができた時、共通の知り合いを通じて、やまのこと母体の会社「Spiber」の挑戦と取り組みの話を聞いた。

「やまのこ」からすぐの場所にある2家族5人が暮らすマンションにて、朋子さんに話を聞いた。みんなが食卓を囲むダイニングルームには絵本がいっぱい。

「その時は、『やまのこ』の存在も知らないし、Spiberってどんな会社? 鶴岡ってどこにあるの?って感じでした。でも、実際に調べたり『やまのこ』を見て、 Spiberという企業にも魅了されて。社会のために何ができるかということを保育を通して考えることはとても挑戦的だと惹かれ、作り手として参加したいと思いました。けれど、子どもたちもいるし、夫は仕事の関係で東京を離れられないし。2ヶ月間ものすごく悩みました」

結婚したのは2011年、仙台で働いていた頃だった。夫の大地さんは当時、名古屋勤務。遠距離だった彼から「2カ所に分かれたまま、結婚するのはどうだろう?」と提案された。

「これはアートプロジェクトだなと思いました。生活も結婚もプロジェクトとしてやってみようかと、離れたまま結婚したんです。“距離”をポジティブに、自分たちのエネルギーに転換していこうと。生活そのものをかたちから一緒に作っていく。そんなパートナーに出会えたなと思いました」

仙台と名古屋の遠距離結婚を経て、2013年は東京で同居をスタート。けれど、建築設計の仕事をしている夫の大地さんは中国に赴任したり、その後も出張や激務が多かったという。そんな中、想定を超えた大きな変化を伴う鶴岡への転職の話に朋子さんはとまどった。

朋子さんの4人家族と歩さんの3人家族、それぞれの家族写真が飾られていた。

やりたい仕事と家族のこと。
家族が“2つ”になるという選択

「夫と何度も話し合いました。夫は今、会社を辞める時期ではないから、行かない。でも、私が挑戦したいと思える魅力が『やまのこ』にあるのなら、思考と一致する場で挑戦できるのはいいことだからやってみたら?と応援してくれて。でもその当時は、不安しかなかった。

応援すると言うけれど、自分は行かないのに?とも思ったし、子どもと過ごす貴重な時間がなくなることで彼が父親として成長していく機会を奪ってしまうんじゃないか、いつか東京に戻ってきた時に子どもたちがなじめなくなっちゃうんじゃないか……いろんな推論のはしごを登る感じで、何ひとつポジティブに考えられなくて。初めてカウンセリングも受けました。不安で不安で怖かったんです。現実問題、ひとりで子ども2人を育てられるのか?とも考えました。東京にいる時もパツパツな生活だったんです。ふたつの保育園に送迎してフルタイムで働いて。仕事はすごく楽しいけれど、核家族でほぼワンオペ育児で。家事代行を入れたり消費型で解決したり。

考え続けていくうちに、どうせ髪振り乱してがんばるなら“冒険してる”って思えるほうがいいなと思って。実際に家族4人で鶴岡に来てみたあと、行くことを決めました。決めたら最後、それを正解にしていくしかない。選択ってそういうことだと思うので」

2人は結婚する時「FISH PROJECT」と名づけた冊子を作り、親戚に配ったという。

朋子さんの結婚後の苗字が「魚本」なことから名付けられた「FISH PROJECT」。披露宴の代わりに各地の親戚や友人が住む土地を巡りながら挨拶してまわり、結婚までの過程を1冊にまとめた。

その中に、大地さんが書いたこんな文章があった。

「距離があること。その隔たりを超えて価値あるものへと転換し、そして創造的な行為への契機とすること。それがこのFISH PROJECTのテーマでした」と。

このことをすっかり忘れていたという朋子さん。鶴岡に行くと決めた後にこれを読み、「やられた」と思ったそう。「もとから私たち、こうだったんですよね」と朋子さんは笑った。

離れ離れになった家族が、
もうひとつの家族と同居

朋子さんと子どもたちが暮らす2LDKのマンションは「やまのこ」から歩いてすぐの場所にある。目の前にはスーパーもあり、生活するのはとても便利だろう。

「鶴岡の冬は、雪が降るのでとても厳しくて。母子で暮らすには『やまのこ』からの近さとか自分たちのキャパシティを考えてここにしました。引っ越してきて3ヶ月、3人で暮らして、その後、大野家が引っ越して来て一緒に暮らすことになりました」

左から大野歩さん、歩さんの長女(3歳)、朋子さんの長女(4歳)、長尾朋子さん、朋子さんの長男(2歳)。5人みんなで食卓を囲み、夕飯の時間。

朋子さんと夫の大地さん、大野歩さんと夫の達也さんの4人は高校が同じ。そして、大地さんと歩さんは親友だった。家も近所で、子育てを始めたのも同じ時期だったこともあり、頻繁に互いの家族と過ごす関係だった。朋子さんが鶴岡へ母子だけで移住することを歩さんへ伝えると、「じゃ、私たちも行こうかな」と歩さんも鶴岡に来ることに。すごく悩んだ朋子さんと対照的なほどあっさりと歩さんは決めた。

「知らない土地だし、朋子さん1人だと絶対大変だろうと思ったんです。その時、私はまだ育休中で、娘は保育園が全然決まらなくて。このまま決まらなかったら、仕事を辞めなきゃいけない状態でした。どうしようかなと思っていた時に朋子さんから鶴岡に行くという話を聞いて。夫も出張が多くてほとんど家にいなかったこともあって、最初は『暇だから数ヶ月くらい朋子さんの家に行って家事をしようかな』と、軽い感じでした。夫に話をしたら、今は東京にいることにこだわる必要はないし、いいんじゃない?って」

大野歩さんは正月に引いたおみくじが大吉。「勢いに乗れ」、方角は「東北、西」と書いてあり、「もういくしかない」と鶴岡への移住を決めたそう。「ノリと勢いで朋子さんの波に乗ってきちゃいました」と笑う。

歩さんは大学で写真を専攻し、卒業後は出版社やカメラの修理会社などずっと写真に関係した仕事をしてきた。写真を撮ることは好きだったが、写真を撮ることを仕事にするのは半ばあきらめていたという。そんな歩さんが、朋子さんと一緒に「やまのこ」で働くことになった理由は、あきらめていた「写真を撮る」ことがきっかけだった。

「子どもたちの日々を記録したいから、写真を撮る人がいるというのは園にとって必要だという話を園長の綾さんからしてくださって。保育園ならずっと同じ対象を撮り続けられるし、追いかけていける。それは私が写真を撮る上ですごく理想的な環境だなと思ったんです。自分のやりたいこともできるし、東京では保育園に入れなかったけれど、のびのびといられる『やまのこ』に子どもを入れることもできる。いいことしかないと思って、すぐに保育士試験に申し込んで、4月の試験を受け、9月に鶴岡に引っ越しました」

家族のかたちはいろいろ。
移住して、7人家族になった

朋子さんは歩さんが来る前まで、子どもを部屋に残してゴミ出しに行くようなちょっとした時も緊張していたという。歩さんと一緒に暮らすようになってからは「ようやく肩の力が抜けました」と話す。

1歳と3歳(当時)の子どもたちとの3人暮らしは大変で、持続可能ではなかった。大野家と合流したことで、やっと持続可能な暮らしの兆しを感じられた。そう思った。けれど、一緒に住んで3〜4ヶ月くらい経った頃、互いにギャップを感じるようになっていた。

「私は鶴岡での暮らしを、歩さんと彼女の子を入れて平日は5人家族だと思ってたんですよね。夫たちが週末ここへ来ると7人家族みたいな、“ひとつの”拡大家族だと思っていたんです。拡大家族といっても、2つの家族があって同居しているんですが、私は我が子のように大野家の子を思っていたんですね。なかば責任を感じていた。もともと里親にも興味があったから自分の子じゃない子を育てるということは学びだなとも思っていて。けれど、歩さんは自分がケアすべきはまず自分の子で、自分の家族は2人であると考えていた。それはどっちが正解とかではなくて、感覚そのものが違っていたんだとわかったんです」

朋子さんの娘は、家族の絵を描く時、父母弟自分の4人家族だったり、大野家を含む7人家族を描いたりと変化するそう。「家族という枠を今超えていこうとしているのが私たちの世代だとしたら、こういう環境で育った彼女たちの将来の家族観てどういうふうになっているんでしょうね」と朋子さん。

「朋子さんと大地くんが思っていた家族の捉え方と、私と夫が思っている家族の捉え方がもともと違っていて、それがいつしかギャップになっていました。朋子さんたちは家族みんなでプロジェクトを作っていく、そのパートナーが家族であるという考え方だと思うんですけど、私たちはひとつの家の中に別々の個がいるっていう感覚なんです。共にいるけれど、各々が好きなことをするのを許してくれるのが家族という認識でした。朋子さんは朋子さん、私は私でいても、それでも共に暮らせるのが家族であるという思いだったんです。朋子さんが私と娘に対して、そんなに気を負わなくてもいいんだよって話したら、朋子さんも少し気持ちが楽になったんじゃないかな」

2つの家族が、2つのまま同居しつつ、互いにケアしケアされるというかたちに変えてみたのだ。

仕事は今、リモートワークやフリーランスというかたちで流動的になりつつあるし、住まいも二拠点居住や移住という選択肢がある。けれど、家族というある種固定された関係性が、こんなにも流動的になるのだと驚く。

毎朝、朝食の時は鶴岡と東京をネットでつなぎ、ビデオ通話で顔を見て会話しながら、家族7人でごはんを食べる。会えない時間をマイナスのままにしておきたくないと朋子さんは考えている。会えないからこそ、会える時間が愛おしい。大人4人で子ども3人を育てていける安心が育まれていく。

「離れて住まうことは正直なところマイナスかもしれません。でもおもしろくはしていけるし、マイナスだからこそ挑戦しがいがある。実の親以外にも親しい大人がいて、場所が2つあって、子どもたちにとっても東京と鶴岡で暮らすということはマルチカルチャーというか、彼らのアイデンティティ形成において多様であるということがおもしろい時代がくるんじゃないかなと思うんです。

こういう家族のかたちを持続可能な暮らしの探求として、周りに協力をいただきながら、チャレンジしていっています」

家族の新しいかたちを模索する朋子さんのそばには大地さんや大野家がいて、「やまのこ」のスタッフもいる。そうやって助け合える関係性や、常に考えて作り続ける態度があれば、家族のかたちが変化していっても、大丈夫。仲間・家族・パートナーと一緒に生活を作っていくプロジェクトは、これからもずっとずっと続いていくのだ。

 

●採用情報●

やまのこ保育園
、仲間を募集しています!


詳細はこちらをご確認ください。

距離をエネルギーに変える。 東京と鶴岡、離れて暮らす、 2つの家族が選んだ別居と同居。
長尾朋子さん 長尾朋子さん
「やまのこ保育園home」園長
1985年生まれ。大学院では表現教育を学び、2011年、仙台の文化財団へ就職。その後、東京藝術大学の社会連携事業として、東京都美術館とともにアートコミュニケーション事業を担当。2018年6月よりSpiberへ入社し、子ども2人とともに東京から鶴岡へ移住。同じく移住した家族ぐるみの友人とその子どもと合流し、5人での新たな暮らしをスタート。互いの夫も東京で一緒に2人暮らしをし、鶴岡と東京を行ったり来たりしながら、2拠点拡大家族を実践中。

大野 歩さん
「やまの保育園」スタッフ
大学卒業後、写真集などを主に扱う出版社に就職。ギャラリーを担当し、退職後は美術作家やカメラマンのアシスタントをしたり、沖縄で写真を撮ったり。結婚後は、カメラの修理会社に就職。娘が生まれ、育休を取るも保育園が決まらず、仕事を辞めることを考えていた時、朋子さんの山形県・鶴岡市への移住の話を聞いて、子どもと一緒に鶴岡へ。現在は「やまのこ保育園」の保育者でもあり、カメラマンとしても子どもたちの日々の成長の記録を撮る。

 
(更新日:2019.09.30)
LATEST ENTRIES 新しい記事

RECOMMENDS

TAGS

INSTAGRAM

  • » 企業・行政の方へ
  • » 雛形編集部について
    田舎暮らし・移住・Uターン/Iターンに特化したローカルメディア「雛形」は、移住を実現したみなさまの田舎暮らしの体験や地方創世の仕事やライフスタイルを随時更新しています。移住に興味がある方やローカルライフに憧れる方むけに参考になるコンテンツを配信します。