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  • 心と体で学ぶ、人生にとって大切なこと vol.01|秋田の父さん・母さんから学ぶ、ぼくらの生き方

秋田県

心と体で学ぶ、人生にとって大切なこと

土地の歴史が根ざす、厳しくも豊かな自然で生きていくこと。農作業、地元のお祭り、おじいちゃん・おばあちゃんとのおしゃべり……のびのびとたくましい体と温かい心を育む、秋田の子どもたちの“ふつう”から見えてくるものとは。

心と体で学ぶ、人生にとって大切なこと
vol.01|秋田の父さん・母さんから学ぶ、ぼくらの生き方

秋田県
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小・中学生の学力が全国トップクラスといわれる秋田県。「秋田が、なぜ?」というトピックでは、さまざまな情報が伝えられているようですが、秋田の子どもたちが日々当たり前のように過ごしている日常にこそ、豊かな学びの場があることを知っている人が、どれだけいるでしょうか。

机に向かって勉強するだけが学びではない、ということは大人のほうがよく知っています。体を思い切り動かすこと、大きな声を出してみること、耳を澄ますこと、ときには泥んこになってみること、そしてお腹いっぱい食べること。そこから自然に湧き出る「なぜ?」「何?」「知りたい!」を追求することのほうが、よっぽど深い学びの体験になるということを。

農を通して自然の意味を知る。地元のお祭りを心待ちにしながら、毎日地道にお囃子や踊りの稽古を続ける。両親や祖父母よりも年上のおじいちゃん、おばあちゃんとのおしゃべりを通して、土地の歴史を知る。厳しくも豊かな自然のなかで、のびのびとたくましい体と温かい心を育む、秋田の子どもたちの“ふつう”から見えてくるものとは。

《前編》「歌う」「踊る」「働く」を体験する5日間の学習旅行

秋田県仙北市にある「劇団わらび座」が運営している「あきた芸術村」では、毎年150校2万人の子どもたちを受け入れ、伝統芸能体験や、周辺の協力農家での農作業などの体験の橋渡しとして5泊6日の「秋田学習旅行」を行っているという。

農業を通じて生徒たちがどんなことを感じ、学んでいるのか、また受け入れ農家の方々がどのように生徒たちと接しているのか。それを知るために、私たちは受け入れ農家である阿部忍さん、佐々木義実さんのお宅へ同行させていただいた。そして、毎年涙なくしては語れないという、生徒たちから農家の方々へ感謝の思いを伝える「お別れ感謝の会」にも密着した。秋田の豊かな環境の中で、心と体を使って、学んでいく姿を追った。

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何もないのが、秋田のいいところ。
それを子どもたちに伝えられるのは、地元にとっても元気の源になる。

「生徒さんたちは朝8時にはそれぞれの農家さんのところで農作業を始めていますので、直接畑に行ってください」
劇団わらび座の広報・角田紀子さんにそう教えられて最初に向かった先は、大仙市の農家、阿部忍さん・玉枝さんのお宅。

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「ちょうど今、おやつにしようって、大学芋と大学かぼちゃを作り始めたところだから、まあ上がって」と気さくに話しかけてくれる忍さんに導かれ、茶の間に上がると、生徒たちがちゃぶ台で忍さんの妻・玉枝さんから包丁の使い方を指導されているところだった。

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玉枝さん 「芋は硬いから、斜め上から切ると切りやすいよ。指、切らないように」

「家でこんなのやったことない!」

「え~、私はいつもやってるよ」


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和気あいあいとした雰囲気のなかで、忍さん自ら台所で仕上げた大学芋と大学かぼちゃが完成。

「あー、おいしい」

「芋がこんなにおいしいと思わなかった」

「ここでは何を食べてもおいしいね」

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生徒たちのそんな様子を、微笑みながら見守る忍さんと玉枝さん。

忍さん 「みんな一生懸命働いてくれたから、おいしいでしょう」

玉枝さん 「いっぱい食べてよー」

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もともとは東京の出身でという忍さん。玉枝さんの実家の稼業だった農業を継ぐことに。受け入れ農家を始めて、今年で24年目になった、と指折り数えて「自分でもこんなに長くつづけるとは最初は思わなかったかなぁ」と驚きながら、笑う。

忍さん 「秋田は何もないのがいいところ。それは僕自身がよそ者だからこそわかることかもしれない。僕も東京から秋田に来たとき、米や野菜のうまさ、採れたての味、水のきれいさ、そういうものにずいぶん感動しました。都会から来たばかりの頃は、そりゃ孤独な思いをしたこともありましたが、全体をみると、この辺りは優しい人が多いでしょう? そういうのって、場所の力だと思うんですよ。その不思議な力、土地の良さを伝えたいなっていうのが、受け入れ農家を始めた理由といえば理由かな」

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忍さん 「それにね、実際、自分で農作業をやってみて初めてわかったことも多かったから。14歳という年齢で、子どもたちが初めて親元を離れて、こうして働く体験をできるっていうのは、すごく多くの学びがあると思うんですよ。そういうことを若い世代に伝える役割を担うことができるのは、僕にとっても大きな喜びです。もう僕も67歳になりますから、正直いうと、しょぼくれているときもあるんですがね、毎年この時期が一番元気が出るんだ。さぁ、みんなが来るぞ! やるぞ! ってね」

 

働いて、食べて、ぐっすり眠る。「体をめいっぱい使うって、こんなに気持ちいいんだ」

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※編集部注 トラクターは動いていません。

阿部夫妻宅にお世話になったという、生徒たちに話を聞いた。

農作業も3日目となる今日。生徒たちは稲刈りや芋掘り、かぼちゃの収穫など、普段使わない筋肉を存分に使って、阿部さん夫婦の田畑を存分に楽しんでいた。

「今日で最後なんて!もっとここにいたい。時間が過ぎるのがあっという間で、1時間とか2時間が15分ぐらいに感じちゃう」と語る生徒も。稲刈りでは忍さんが運転するコンバインに同乗したり、鎌を使った稲の手刈りも初体験。

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「鎌を使うのも最初はうまくできなかったけど、父さん母さんが優しく教えてくれて、できるようになりました」と、できなかったことができるようになった喜びを素直に言葉にした。

忍さんも玉枝さんも、取り立てて農家の苦労を語るようなことはしていない。にもかかわらず、生徒たちは、忍さんや玉枝さんの背中や、米粒一つ一つを慈しむ姿勢、新鮮な野菜のおいしさを引き出した料理などから、食を支える現場の苦労や喜び、そして自然に対する敬意を、しっかりと学び、心に刻みつけているのだった。

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「父さんが、『四季で匂いが違うんだよ』って教えてくれたんです。『花鳥風月』とか、『風土』っていう言葉の意味も、秋田にいるとよくわかるでしょうって教えてくれました」体を使ったぶん、食事もいつもよりずっとおいしく感じるとか。昨夜、生徒たちは生まれて初めて食べたというきりたんぽ鍋の美味に驚いたと口々に語った。

「おばあちゃんが漬けたがっこ(漬物のこと)もおいしかった」「お米がおいしいからみんな何杯もおかわりしてたしね。体動かしてるから余計においしくて止まらない」と、食べ物の話は尽きない。

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生徒たちの笑顔の輝きが、ここで得たものの大きさを物語っているようだ。

大人の本気を、労働をとおして、体で伝える。それがずっと先の、子どもたちの糧になるから。


次に伺ったのは、佐々木義実さんの田んぼ。田んぼでは刈った稲を束ねて天日で干す「はさがけ」作業の最中だった。

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佐々木さん 「いい? 稲はここをこうやって、しっかり結ぶの。ここできっちり縛らないと、乾燥したときに稲がバラバラと抜けて、あとで困るからね。父さんは雑な仕事はイヤだよ。きれいな仕事をしてね」

佐々木さんの柔らかくも厳しい声が飛ぶなか、生徒たちはぐっと引き締まった表情で、次々に稲の束をはさ木にかけていく。

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このはさがけという作業、実は現在の秋田でもそう多く見られるものではない。コンバインという機械が普及した現代では、刈り取った稲を脱穀し、藁を細断して田んぼに撒くところまでが一気に行われ、その後乾燥機で米を乾燥させるのが一般的。佐々木さんの田んぼの周辺でも、はさがけの天日干しで米を仕上げる農家はかなり減ったそうだ。

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たわわに実った稲を天日干しでじっくりと甘みと旨みを凝縮させる。手間がかかるため、今ではめっきり少なくなった昔ながらの手法。

佐々木さん 「天日干しは、一つ目にお客さんにおいしいお米を食べてもらうため。2つ目にうちで飼っている牛の餌にするため。3つ目は『刈和野の大綱引き*』のため。うちではこういう理由があるから続けています。こうして手をかけると、落穂ももったいなくてね。ここに来る子どもたちには『落穂も拾って集めたらご飯茶碗一杯分になるんだぞ』って、そういうことも教えています」

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大仙市刈和野地区の伝統行事。上町(二日町)、下町(五日町)と町を二分し、太さ2.2mの大きさの綱を引き合う。引き合いに使われる大綱は、長さが雄綱64m(42尋)雌綱約50m(33尋)重さ10トンと国内最大級になる。

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佐々木さん 「私は厳しく教えるほうかもしれないね。ちゃんと理由も入れて教えますよ。最初はシュンとする子もいるけど、それでいいんです。大人が本気でやるのを見せてあげることが大事。大人の真剣さに触れて、それが数年後、数十年後に、体に残っているということが大事かなと思うんです」

そういって佐々木さんは笑うが、田んぼで黙々と作業をしている生徒たちの様子を細やかに見ながら、体と体で向き合う真摯さが、生徒たちに伝わっていないはずがない。

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生徒たちのこの笑顔を見れば、ここでの作業にいかにやりがいを感じているかがわかるというものだ。

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佐々木さんの「さあ、昼メシにするぞ!」の掛け声。弾かれるように走り出した生徒たちの足取りは、軽い。

「さようなら」ではなく、「行ってきます」と言って、東京に帰ろう。

日がとっぷりと暮れ、肌寒さが増した午後7時、入浴と夕食を終えた生徒たちと、受け入れ農家の面々がわらび座の小劇場に集まってくる。いよいよ生徒たちから受け入れ農家とわらび座の団員に向けての感謝の念を表す集い「お別れ感謝の会」が始まるのだ。

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まず、生徒たちは班ごとに、「私たちがお世話になった家族を紹介します」と、自分たちが3日間お世話になった家族のこと、その家族と過ごした時間に感じたことをグループ発表していく。

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「農作業ではイチから稲の刈り方を優しく、わかりやすく教えてくれました」

「お父さんはおもしろい人で、いつも笑っています。お母さんは料理が上手で、少し訛りが強いです」

「お母さんと一緒に作ったご飯は全部おいしくて、大変な作業も頑張れました。みんな何回もおかわりしていました」

「たまに怒られるんだけど、それは愛を感じる怒り方で、すごく成長しましたね」

「お父さんとお母さんはいつもラブラブです」

 

会場に笑いが起こることもしばしば。

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「お父さんは農業に誇りを持っている人で、いつも一生懸命に作業しています」

「こんなに大変な作業があるおかげで、私たちは毎日ご飯が食べられていることを知りました。お米の大切さや食べ物のありがたみを学べた、貴重な三日間でした」

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「幸せすぎる3日間は私たちの宝物になります」と声を詰まらせる生徒。「この家族の一員になれて、本当によかったです。ありがとうございました」と、晴れ晴れと語る生徒。そのストレートな言葉にじっと耳を傾けながら、思わず涙をこぼす農家の方も少なくない。

生徒の作文発表の最後は、この修学旅行の実行委員長を務めた男子生徒から。彼は佐々木義実さんの田んぼで黙々と作業をしていた班のメンバーだった。

その作文発表をここに全文掲載する。

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 「僕たちは秋田に来るのを楽しみにしていました。7月に実行委員を決め、それから秋田に来る準備をしていました。正直現地に着くまでこれからという実感はあまりありませんでした。けど、5日前に駅に着き、ビルもない静かなまちなのに、ついに来たなと感じました。

それからは発見と学びの日々でした。最初に取り組んだ祭り作りでは、正直クラスがまとまるか、不安もありましたがやってみると案外まとまって、いいクラスになりました。それはインストラクターの人たちの力が大きかったです。

すぐに遊び始める人たちに、怒ることなく、何度も声をかけ、やる人が増えていきました。私は諦めずに声をかけ続けることが大切だと発見しました」

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「次の日からは農家に行きました。僕は佐々木義実さんの家に行きました。この3日間で稲刈り、そら豆の収穫、芋掘り、栗拾いをしました。そのなかで父さんには米の大切さ、稲の置き方、縛り方などを学びました。

今までは稲の置き方、縛り方なんてどうでもいいと思っていたけれど、父さんに教わった置き方、縛り方にはそうする理由があることを知りました。いろんな物事のやり方にはひとつひとつそうするべき理由があって、そうすることで物事がうまく行くことを学びました。母さんには鎌の扱い方を教わり、夕食には美味しいご飯を作ってくれました。母さんが作ってくれたご飯は僕たちに元気とやる気をくれました。

この3日間、農家で過ごした日々のなかで、みんなもそれぞれの農家でいろんな発見・学びがあったと思います。農業の苦労、大変さ、自分たちで収穫した野菜のおいしさ、栗拾いのとき、手袋をしていても感じるイガの痛さ、あらためて自分たちでやってみて気づいたことがたくさんありました。秋田から帰っても食事をするときには作っているときの苦労、収穫したときの喜びがあって、ここに食べ物があるということを忘れずにいただきたいと思います。楽しく充実した5日間でしたが、もうすぐ終わろうとしています。でもこの5日間のことをきっとみんな、忘れません。わらび座の方々、農家の方々、たくさんの学びの機会を作ってくれてありがとうございました。私たちは明日帰ります」

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声を詰まらせる様子に、会場から「頑張れ!」と声が上がる。

佐々木さんもその姿をじっと見守る。

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「その時はさよならではなく、行ってきますと言って、秋田を出ようと思います。ありがとうございました」

 

会場が大きな拍手に包まれたことはいうまでもない。

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生徒の有志による三宅島太鼓、ニューソーラン節の披露。これはわらび座の俳優陣の指導によるワークショップの賜物だ。

 

そして生徒たちから、お世話になった農家の方々と、わらび座団員に向けて、お礼の合唱へ。曲目は「大地讃頌」「花の名(BUMP OF CHICKEN)」「遥か(GReeeeN)」「故郷」の4曲。皆が真剣に歌っている様子を、農家の方々とわらび座団員の面々が見守る。歌う姿に感動して涙がこらえられない人が続出。濃密な日々を振り返りながら、歌いながら泣き出す生徒も多い。

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フィナーレの「故郷」は農家の皆さんも一緒に合唱し、会場全体が大きな感動に包まれるのだった。

散会となってから生徒たちは改めてお世話になった「秋田の父さん、母さん」の元へ。

別れを惜しみながら、父さん母さんに教えてもらったこと、温かく迎えてもらったことなどを反芻しているようだった。

 

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《後編》「劇団わらび座」が地域を通して伝えていくこと 

 

編集協力:秋田県

写真:高橋 希 文:石倉葵(See Visions)

劇団わらび座
1951年創立、秋田県・仙北市を拠点におく劇団教育に対する取り組みとして、ミュージカル観劇と踊り教室、農業体験の2つを柱にした「わらび座修学旅行」を約30年前から実施。なお、今回、ご紹介した「わらび座修学旅行」と同じ内容の体験メニューは、一般の方でも小グループ単位でお申込できますので、ご興味のある方は、わらび座までお問い合わせください。 http://www.warabi.jp/education/index.html

 

問い合わせ先
住所:〒014-1192 秋田県仙北市田沢湖卒田字早稲田430
わらび劇場
電話:0187-44-3915

(更新日:2017.03.03)
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