特集 まちの流れが動くとき
山口県萩市
「ヘアスタイルを変えると、 誰かに会いたくなる」 人の流れをつくり出す美容室
大きなハサミをかたどったドアノブ、洞窟のような入り口、廃材で作られた小屋……。言われなければ一見美容室だと分からない個性的な空間が広がる「kilico」は、萩市出身の内田直己さんが、Uターンしてオープンした美容室。開店したばかりにもかかわらず、すでに予約がとれない日が続く「kilico」の、人を惹きつける魅力とは?
写真:加瀬健太郎 文:薮下佳代
決意したのは15年前
地元・萩に美容室を開く
「kilico」のオーナー・内田直己さんが美容師を志したのは、中学校1年生の時。「ヘアスタイルを変えると印象も変わるし、そうすると服装にも気を配るようになる。そうやって萩の若い人たちの意識改革ができたら」と、美容師を一生の仕事にし、大好きな地元・萩で美容室を開くことを決意したのだそう。
「髪の毛を切ったら、誰かに見せたくなるし、誰かに会いたくなる。そうやって人の流れができたら、萩の街が活性化するんじゃないかと思っています」と、内田さん。
29歳で独立しようと決めていたが、1年早い、2015年3月に、地元・萩の街に自分のお店をオープンした。これから先も多店舗展開することなく、萩のこの場所でずっとお店をやり続ける覚悟だという。
そこかしこにちりばめられた
“めんどくささ”
元は古着屋だった場所をリノベーションした「kilico」の個性的な内装は、ゲストハウス「ruco(ルコ)」を手がけたアズノタダフミさんが担当。
「1人で店をやるということはすごく大変なこと。だから、めんどくさいことを丁寧にやっていくことが大事。」と、ある大工さんに言われたことから決定した「kilico」のコンセプトは、「めんどくさい店」。
たとえば、タオルひとつとっても、通常ならば見えないように隠しているものだが、「kilico」では、ふわっとしたタオルが1枚ずつきちんと畳んでトレイの上に置かれている。バックヤードの扉には、パタパタという開閉音がお客さんに聞こえないように、そして丁寧に開け閉めができるようにと、ドアノブがつけられている。ちょっとしたことだけど、そういうお店のつくりや内田さんの所作から、いい気持ちになれたり、仕事への姿勢や想いが感じとれる。「kilico」には、効率のよさや便利さよりも大事にしている、そんな「めんどくさい」ことがお店のいたるところにちりばめられているのだ。
ひとつの席でひとりのお客さんと
ひとりで向き合う
「kilico」は、シャンプー台もカット台もひとつだけ。シャンプーから、パーマ・カラー・ブローまで、内田さんがすべてひとりでこなしていく。もちろん、予約がとれるのもひとりずつ。
「今までの美容室は、たくさんのお客さんを獲得するために回転率を良くし、一つひとつの仕事に対してスピードが求められていました。そういう効率性よりも、美容室に来たお客さんに気持ちよく過ごしてもらい、そして目の前にいるお客さんに100%集中したいので、このスタイルにしました」と内田さん。その想いは、ロゴの中にある「Always carefully」にも込められているという。
誰でも遊びに行ける
ヘアサロン×図書館
入ってすぐの左の壁には、マンガや雑誌だけでなく、絵本がズラリ。
「僕が小さい頃、ゲームボーイが流行っていたんですけど、どんな内容だったか実はあまり覚えていなくて。でももっと小さい頃に読んだ本は、ストーリーや絵柄など、しっかりと記憶に残っているんです。絵本は、大人になって読み返してみても、なつかしくておもしろいんですよね」と、内田さん。子ども連れのお客さんの待ち時間に、絵本を読んでほしいという願いから置いているのだそう。
いずれはもっと本を増やし「髪を切る人以外も、誰でも来られる図書館のようにしたい」のだとか。
モテカットに
オーダー殺到中?!
オープン直後から、“「kilico」で髪を切るとモテる”と男性たちの中でたちまちウワサが広まり、萩市はもちろん他市や他県から訪れる人がいるという、内田さんのカット。以前勤めていた美容室でも、内田さんがカットすると、「面接に受かった」や「モテるようになった」という声が聞かれ、しあわせになれるカットと言われていたことがあったというから、納得です!
kilico
住所:山口県萩市萩市唐樋町87
電話:0838-21-7004
営業時間:9:00~19:00
定休日:月、第1火、第3日
Facebook
- 内田直己さん うちだ・なおき/1986年、山口県・萩市生まれ。愛称:うんちょ。大阪府の美容学校を卒業後、山口市内のサロンに就職。4年目には2号店の店長をまかされる。その後、地元の萩に戻り、美容室「kilico」をオープン。Facebook
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