特集 奈良県・東吉野村
山村に灯りをともす人たち
移住は、ないものをねだるのではなく自分の暮らしをつくるためのプロセス

デザイナーの坂本大祐さんは、奈良県・東吉野村に移り住んでもう9年目になる。和歌山に住みながら、多忙を極めた都市生活から身体を壊したことをきっかけに東吉野村に移住。ここは、子どもの頃、山村留学で1年過ごした思い出のある場所だった。以来、県内のさまざまなプロジェクトのデザインを手がけるようになり、2015年春からはシェアオフィス「OFFICE CAMPHIGASHIYOSHINO」も運営する。
デザイナーは「住む場所を選ばない仕事」とよくいわれるけれど、坂本さんが携わっている仕事は「東吉野に住んでいるからこそ可能な仕事」ばかりだ。ここで求められている役割は、“何でもこなせるタフなデザイナー”。「OFFICE CAMP」の企画・立ち上げを経てからは、デザインをするだけではなく、企画から携わるプロジェクトも増えた。
求められていることに対して「できない」と言いたくないという坂本さん。地域に暮らす自分に何ができるのか。ここでしかできないことを通して、その答えを探そうとしている。
写真: 松木宏祐 文:薮下佳代
地域を足場に
“ここ”から生まれる仕事をする
僕の場合、積極的、能動的な移住じゃないんですよ。身体を壊してしまったので、働き方を変えざるを得なかった。和歌山から東吉野に移住してからは、仕事が激減してしまって、数カ月間ほぼ何にもしていませんでした。ずいぶん経ってから、もともと仕事をしていた人たちから「いまどうしてるの?」と、連絡が来るようになって。いまでは、地方に住んで仕事しているデザイナーはめずらしくないかもしれませんが、当時は少数でした。だから「東吉野に住んでいるんです」と話すと驚かれましたね。でも、そのなかには東吉野まで遊びに来てくれる人がいたり、僕がどこにいようと仕事をくれる人もいた。仕事は減ってしまったけれど、もう一度受け入れてもらえて、何とか食っていけるようになりました。
東吉野での仕事も少しずつ増えていったけれど、その頃はまだ県外の仕事がメインで、大阪に行ってやる仕事のほうが多かったんです。だんだんと「東吉野にいるからこそできる仕事」が増えてきたのは、友人の菅野くんが移住することが決まった2013年から。その時に奈良県庁の福野さんと知り合ったことで一気に県内の仕事が増えたんです。
福野さんは「地域の仕事は地域の人でまかないたい」とずっと思っていたそうで、地元のクリエイターに仕事をまかせたいと考えていた。奈良県内の印刷会社や知り合いに頼んでは、次々と仕事を紹介してくれました。そうやってつないでくれたり、さらにはクリエイターがよりよい仕事ができる環境としてシェアオフィス「OFFICE CAMP」も生まれることになりました。
いま手がけている仕事のひとつは、奈良県と三重県にまたがる大台ケ原・大峯山が「ユネスコエコパーク」に認定されることが決まっているんですが、それをPRする仕事のアートディディクレションを担当していて、パンフレットやホームページをつくっています。ほかにも東吉野村のそうめん屋さんや、近くの山添村で耕作放棄茶畑を活用してつくられている「
仕事はひとつづき
すべては自分に返ってくる
地方で働くデザイナーは、何でもやらないと食えないというか(笑)。もともと和歌山にいてこの仕事を始めた時も何でもやっていました。 ディレクターがいて、ライターがコピーや文章を書いて、カメラマンがいて、デザイナーがいて、と普通は分業ですよね。でも、ここでは全部やらないといけないんです。
実際、地域からいただく仕事も「いい感じにしてほしい」みたいなざっくりとしたオーダーがあって、予算がふんだんにあるわけではないから、各部門ごとコピーライターやカメラマンに仕事を頼めるほどじゃない。そうなると、全部自分でやらざるを得ないんです。写真も撮ればコピーも書くし、デザインもする。売り上げをあげたいというオーダーがあれば、必然的にブランディングや企画から携わることになる。地方を拠点にするということは、何でもやらないとダメなんです。でもよく考えてみると、作るものは1つで、すべてはひとつづきの仕事。自分がどこのパートをやるとしても、全体を見る必要があって。いろんなポジションの仕事をするから、それぞれの立場わかる。そういう意味で全体的にやっていたことが、結果として自分のスキルになってるし、自分の仕事の幅も広げることになりました。
僕らみたいに“何でも屋”として仕事をしていたら、たとえ都会でも仕事はできると思うんですけど、逆は難しいかもしれないですね。そもそも、そんな予算じゃ無理ですよってなるだろうし(笑)。決まった予算のなかでできることをやらないとダメなのが前提なんです。そういう仕事の仕方だからこそ、どこにいってもやれるって思っています。
山奥からダイレクトに海外へ
ボーダレスに在るおもしろさ
田舎とか都会とか、もっと言えば日本という垣根そのものがボーダレスになってきているように思います。たとえば、最近はインターネットを通じて、こんな山奥にある東吉野にも海外から人が来てくれるようになりました。海外と東吉野が、東京を介さなくてもつながっていく。いま全国各地に「OFFICE CAMP」のような人が集まる場所が生まれていて、そういうところとつながって、互いに行ったり来たりできるようになっています。兵庫県の丹波篠山や加古川とか岡山の梶並や大原、長崎の小浜も。おもろい人がいるということをきっかけにしてどんどんつながっていっていますね。
この間、僕の家に、中国の建築家の人が遊びに来ていたんですが、中国も日本と同じ社会状況らしくて。資本主義が入ってきて、都会にどんどん若い人が出て行ってしまっている。みんな名声を得るためとかお金を得るために働いているんだけど、若い世代はだんだんとおかしいと感じているらしいんです。だから、いまの東吉野のような地域でのライフスタイルを知りたいと。いまの社会の流れから“スローダウン”するというか、世界的にそういうライフスタイルになりつつある。資本主義だとか競争主義のシステムの行き詰まりに気づき始めた人たちが、何らかのかたちで抗うために、別のオルタナティブな方向に向かおうとしている。そういう流れが世界中で生まれていることが、東吉野にいながらにしてわかるっていうのがおもしろいなって。

坂本さんのご両親が東吉野に移住して建てたアトリエ兼自宅。大きな川を見下ろすアトリエには国内外からさまざまな人が訪れる。
移住は、ないものをねだるのではなく
自分の暮らしをつくるためのプロセス
たとえば、「OFFICE CAMP」という場所も、単純に移住者が増えることだけを目的でやってるわけじゃなくて。シンプルに「おもろいやつが来てくれたらいいな〜」と思ってやっています。今日もこうやって雛形編集部が取材に来てくれて、一緒に温泉に入って、飯食って。そういう人との出会いがここにいながら日々ある。場所にとらわれず、おもしろいことがありそうだという嗅覚で動く人にとって、場所は関係ないんですよね。
前のめり気味に移住したい!という人に対しては、「そんなにいいもんじゃないかもよ」と言うし、移住にすごく不安を感じている人には、「そんなにこわくないよ」って話します。移住とか地域暮らしって、合う人には合うけど、やってみないと結局はわからないことも多いんです。どこで暮らすかよりも、誰と暮らすかで変わってくるとも思いますし。移住はあくまでもプロセス。都会じゃなくて、こっちに何かあるんじゃないかと、求めるのは違うと思う。

青木真兵さんとともに東吉野を案内してくれた坂本さん。一緒に温泉に入り、地元の中華屋でみんなで夜ごはんは、彼らの日常の一片。
都会と田舎、両方に住んでみて思うのは、どっちにも偏らない中庸の部分が一番居心地がいい場所なんじゃないかなって思ってて。両方を知ってるから“真ん中”がわかるんです。都会と地方どっちも良くて、どっちもしんどい。どっちの良さが合うか、どっちのしんどさだったら耐えられるかというのを自分なりにわかったほうがいい。両方見ることで初めて見えてくる新しい生き方だったり、自分らしく暮らしをつくる方法があるんちゃうかなと。移動した結果、それに気づき始めた人が今、地域にいるんじゃないですかね。
OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO
住所:奈良県吉野郡東吉野村小川610-2
電話:0746-48-9005 (受付時間:10:00-17:00)
営業時間:10:00〜17:00
休業日:火・水曜日
http://officecamp.jp/
移住サイト「奈良に暮らす」
『OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO』とつながりがあるスポット
兵庫:丹波篠山 / colissimo/rizm
http://colissimo.jp/
兵庫:加古川/ランバージャックス加古川
http://www.lumberjacks.jp/
岡山:梶並/山村アカデミー
http://sanson-share-house.com/
岡山:大原/難波邸
http://nambatei.com/
長崎:小浜/刈水庵
https://www.facebook.com/
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- 坂本大祐さん さかもと・だいすけ/1975年、大阪府生まれ。和歌山県でデザイナーとして活動をスタート。身体を壊したのを機に、2006年、両親が移住していた奈良県・東吉野村へと拠点を移す。移住後は県外の仕事を受けながら、今までの働き方や生活を見直し、自分にとって居心地のいい新たなライフスタイルを模索。奈良県庁職員の福野博昭さんとの出会いをきっかけに、奈良県内の仕事が増え、商品やプロジェクトなどの企画立案からディレクションまで手がけるデザイナーとしてさまざまな案件に携わる。2015年3月にオープンした「OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO」設立時にも企画からデザイン、運営までを担当。村と外をつなぐパイプ役として、東吉野村になくてはならない存在になっている。
山村に灯りをともす人たち
特集
山村に灯りをともす人たち

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- プロダクトを開発して作って売る。 拠点を定めずに動きながら 奈良の山奥で、今現在を営む
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菅野大門さん (
プロダクト・デザイナー
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- どこにいても学び続けること 文化的拠点の“ない”場所で 「知」をどう生み出すか考える。
- 青木真兵さん (古代地中海史研究者・関西大学博物館学芸員)
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- 奈良の山村と東京。 二拠点で生活を作りながら 土地と深く関わる写真を撮る
- 西岡 潔さん、愛さん夫妻 (写真家、会社員)
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- 移住は、ないものをねだるのではなく自分の暮らしをつくるためのプロセス
- 坂本大祐さん (デザイナー)
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- 多様な“個”を小さな村で継いでいく 今この土地を選んだ僕らの役割
- 坂本大祐さん(デザイナー)・和之さん・邦子さん
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