REPORT
  • 移住への“入り口”となる場所 山村と都会を結ぶ 「オフィスキャンプ・東吉野」

山村に移り住み、灯りをともす人たち

奈良県・東吉野村

奈良市内から車で約1時間以上、大阪市内から約2時間。奈良の山村にあらわれた、シェアオフィス「OFFICE CAMP」に集う人や、この村に移り住んだ人たちは、不便だ大変そうだとマイナスな想像に止まらず、自身が楽しめる今日を迎えるために動いた。山々に見守られながら、その暮らし・仕事について聞いた。

移住への“入り口”となる場所
山村と都会を結ぶ
「オフィスキャンプ・東吉野」

奈良県
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1つの場所が人の流れを変えた
山のなかのシェアオフィス
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地域に人が来るための“仕掛けづくり”が今、日本各地で行われている。地域に合わせた“仕掛け”こそ、その土地の魅力を伝え、人を惹きつける。けれど、大きな商業施設をつくったり、イベントやキャンペーンを行ったり……何か“大きな”力で人を動かすプロジェクトも少なくない。

そんな中、たった1人のアイデアから生まれたプロジェクトが、次から次へと人を呼び、村を大きく変えるきっかけとなった場所がある。人口2,500人に満たない奈良県・東吉野村に2015年3月に生まれたシェアオフィス「OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO」には、オープンしてからのべ1,000人もが訪れている。その大半は20〜30代の都会から来た若者たち。しかもここを訪れたことをきっかけに、次々と移住希望者が増え、現在までに3組が移住を実現した。

「OFFICE CAMP」は、さまざまなメディアで“クリエイターたちが集まる場所”として取り上げられ、地域活性の新たなモデルとして注目されている。その大半は、「山あいの村にクリエイターや若者が集まるシェアオフィスが誕生した」という物珍しさを取り上げられることが多いけれど、「OFFICE CAMP」がユニークなのは、全体の企画・運営を担っているのが、役場などの行政主体でも、コンサルティング会社などの企業が主体でもなく、どこにも属していないフリーランスのクリエイターだということ。

発案者のデザイナー・坂本大祐さんは、今から9年前に東吉野村へひと足先に移住していた“先輩”でもある。その坂本さんのアイデアを後押しし、実現に向けて大きなサポートをしたのが、奈良県庁の移住・交流推進室室長の福野博昭さんだ。とある雑誌の取材をきっかけにこの2人が出会い、東吉野の未来を話しあい、構想をふくらませ、時には一緒に温泉に入りながら「OFFICE CAMP」という場所を創り出した。

立派な吉野檜のテーブルがワークスペース。このテーブルで仕事したり、打ち合わせをしたり、夜はみんなで囲む食卓になることも。

樹齢350年のケヤキを使用したテーブルがワークスペース。このテーブルで仕事したり、打ち合わせをしたり、夜はみんなで囲む食卓になることも。

「今から3年前、まだ村の移住者は坂本さん1人だけでね。ちょうど、もう一人デザイナーの菅野大門くんも移住することが決まったタイミングで、デザイナーが2人も村にいるなんて、これはえらいことになったぞと。もっと増えて10人くらいになったら、東吉野村が『デザイナーズ・ヴィレッジ』になってかっこええな!と話したら、坂本くんがデザイナーだけじゃなく、いろいろなクリエイターが集まったらおもしろいんじゃないかと言うんで、それはいい!と。すぐに企画書を書いてくれとお願いしました。これから東吉野がなりたい姿はそこやなと思ってね」(福野さん)

「兄貴!」と誰もが慕う、奈良県庁職員の福野博昭さん。人をつなぐ場所が「OFFICE CAMP」なら、福野さんも同じく媒介となり、地元の人と移住したクリエイターたちをつなげている。

「兄貴!」と誰もが慕う、奈良県庁職員の福野博昭さん。人をつなぐ場所が「OFFICE CAMP」なら、福野さんも同じく媒介となり、地元の人と移住したクリエイターたちをつなげている。

坂本さんは福野さんに「クリエイティブ・ヴィレッジ構想」として、村に呼びたい人をクリエイターに限定し、まず彼らが仕事をする環境に最適なハードの整備を提案。そこからシェアオフィスをつくることに。福野さんはその構想を実現すべく、奈良県庁から東吉野の村役場に話をもちかけると、村長や役場も賛同。プロジェクト実現に向けて、すごいスピードで話を進めていった。「おもろい!」と思うことをどんどん現実にする福野さんの豪腕っぷりに坂本さんは驚きつつも、その姿をリアルタイムで追いながらワクワクしていたという。

「福野さんは、すべての責任は俺が取るというスタンスでやってくれましたし、なんかあったらいつでも言ってくれと。仕事の範疇を超えて、僕らにつきあってくれてるのがわかるから、僕らもこのプロジェクトに真剣になれる。僕らに投げっぱなしじゃなく、ちゃんと最後まで責任を持ってくれていながら、自由にやらせてくれる懐の深さがあるんですよね」(坂本さん)

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そうして、シェアオフィス設立の話までは順調に進んだものの、役場がある小川地区周辺での物件探しに難航。村の人に協力してもらって探すものの、なかなか見つからず……。そんな時、「OFFICE CAMP」の共同運営者でもある菅野さんが、偶然にもあの一軒家と出会う。

「たまたま前を通ったら、家から荷物を運び出していたんです。その中にいい机を見つけて、家主にもらえないかと話をしてみたら、ほかにもいろいろあるから見てみて、と中に入れてくれました。入ってみたらすごく立派な家で。でも、誰も継ぐ人がいないから取り壊そうとしていたんです」(菅野さん)

菅野大門さんが移住してきたことで、「クリエイティブビレッジ構想」が生まれた。坂本さんとともに「OFFICE CAMP」の共同運営者でもある。

菅野大門さんが移住してきたことで、「クリエイティブビレッジ構想」が生まれた。坂本さんとともに「OFFICE CAMP」の共同運営者でもある。

理想的な家と出会い、さっそく福野さんに相談すると、なんと家主さんが村に無償で寄贈してくれることに!  改修費用は国、県、村で出しあい、坂本さんが構想やデザインを担当、地元の建築家や設計士さんともにリノベーションすることになった。役場からも近く、大きな川の目の前の一軒家。村の中、どこに行くにしても必ず通る道に面し、とても便利な場所で申し分ない条件だった。1階は壁をすべて取っ払い、明るくするためにガラスを入れて外からも様子がうかがえるようオープンな造りに。素材には吉野の杉を使用し、工事も東吉野村の業者に依頼して完成までこぎつけた。

1階には、シェアオフィスとコーヒースタンドのほかに、菅野さんの手がけたプロダクトや、地域の移住に関するリトルプレスなどが置かれたスペースも。

1階には、シェアオフィスとコーヒースタンドのほかに、菅野さんの手がけたプロダクトや、地域の移住に関するリトルプレスなどが置かれたスペースも。

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「“シェアオフィス”というとそこで働く人しか来られないと思われるから、そうじゃない人も入れるようにしたくて。オフィスの機能だけじゃなくて、コーヒースタンドも併設しました。コーヒーが飲める場所って誰でも入りやすいかなと思って。もちろんコーヒーを出すには許可も必要だし、誰が担当するのかなどハードルはあったけれど、移住に関係する人だけじゃなく、地元の人や旅に来た人にもふらりと寄れるようにしたくて。人が集まってつながりが可視化される場所をつくりたかったんです。コンセプトから、デザイン、運営まで一貫してやらせてもらえるのは特別なこと。こういうプロジェクトって、役場が主導になり、コンサル会社が企画。制作はデザイン会社に発注して、運営は村の誰かにまかせて……というようなパターンだと思うんです。だけど、今回、福野さんはほぼ僕にまかせてくれた。それはすごくありがたかったですね」(坂本さん)

坂本さんが大切にするコーヒースタンドには、いろんな人が毎日ふらりと訪れる。この日は、隣の宇陀市に住む大工さんがコーヒーを飲みに来てくれた。

 “移住”を接点にして
さまざまな人が集まる場所へ

今年3月にオープンして以来、クリエイターのためのシェアオフィスとして認知が広がりつつも、全国各地からここに訪れる人の多くは、その先に“移住”という目的をもって来る。運営者である坂本さん、菅野さんがこれから移住を考える人にとって先輩なこともあり、人が集まれば自然と移住の話がはじまる。そうしていくうちに「OFFICE CAMP」が、東吉野村への“移住への入り口”として機能し始めるようになった。

「ここで出会った人で、村へ移住したいという希望があれば話を聞き、役場とつなげたり、物件を見に行く時に俺か菅野くんが同行するようにしています。僕らが一緒に行くことで、初対面の家主の方とも話が通じやすいから。そんな風に移住希望者と村のをつなぐ役目をいつのまにか僕らが担うようになりましたね。ここを始める前はただ単純にオフィスがあったらいいなという気持ちだったから、そういう副次的な効果もあるとは想像していませんでしたね」(坂本さん)

これから移住を考えている人を一番最初に受け入れる場所であり、実際に移り住んでからはいつでも気軽に集まれる場所。そんな施設があれば、都会に住む人や初めて訪れる人も、地域に入りやすくなり、暮らす場所を変えるという移住のハードルを下げることになるかもしれない。そして何より、そこにはいつ行っても坂本さん、菅野さんがいるという安心感もある。

「坂本くん、菅野くんがいるおかげで、都会から通う人もいるし、移住者も増えました。しかも近所のおばちゃんもコーヒーをふらりと飲みに来てくれるようになった。移住してすぐは地域の人との接点がないのは当たり前で、最初は特にお互いに気を使い合ってるところがあって、地域の人もなかなか声をかけられないんですね。でも、地元の人と移住した人が自然と会える場所ができたことで、話ができるようになった。県としてもそういう場所をもっと増やしていきたい。土地へ来るリピーターも増やしたいし、お試し移住もしてほしい。最終的に移住してもらえたらうれしいけれど、まずは来てもらったり、興味を持ってもらうことが大事だから、通って慣れてある程度ネットワークできてから移住すればスムーズじゃないですか。そういう意味でも『OFFICE CAMP』ができたことで、移住のステップが構築できましたね」(福野さん)

福野さんのような人こそ、地域を動かすキーパーソン。「“移住”をブームで終わらせたらあかんって思ってます」

福野さんのような人こそ、地域を動かすキーパーソン。「“移住”をブームで終わらせたらあかんって思ってます」

「OFFICE CAMP」によって移住希望者が増えたこともあり、次第に東吉野村の役場も変わっていった。さまざまな問い合せに対応する移住の窓口をワンストップで一本化。空き家バンクも始まってすでに10軒くらいストックがあるため、物件探しもラクになった。そうして東吉野には移住へのステップをスムーズにする環境が整いつつある。

「どうやって支援するかを考えるのが僕らの仕事ですからね。人口の5%でも地域に移動し始めたら絶対におもしろくなる。その時に行政に何ができるのかを今から考えないといけない。今後もこの奥大和エリアで、さまざまな移住体験施設の整備を提案していこうと思っています」(福野さん)

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常に先を見据えて、あちこち動き回りなが人と人をつなぐ福野さんと、移住という“入り口”を開き、道を広げた坂本さん。東吉野村の人の流れを変えたこの2人に共通するのは、壮大なビジョンや確固たるコンセプトの主張ではなく、ノリの良さとユーモア。日常の中でポンポンとはずむ会話からさまざまなアイデアを生み出し、行動力をもってそれを形にする。さらに、まわりをも巻き込んでいく求心力! 取材中にも2人のそんなパワフルさをひしひしと感じた。自分たちが暮らす地域に、ともに過ごす人々に、それぞれの役割と愛情をもって、内と外を結ぶ彼ら。その熱量はさまざまな人を呼び寄せ、地域を少しずつ、確かに変えていく。

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写真:松木宏祐 文:薮下佳代

OFFICE CAMP HIGASHIYOSHINO
住所:奈良県吉野郡東吉野村小川610-2
電話:0746-48-9005 (受付時間:10:00-17:00)
営業時間:10:00〜17:00
休業日:火・水曜日
http://officecamp.jp/
移住サイト「奈良に暮らす」




◊福野さんが関わったプロジェクト◊
下市町/家具職人を育てる「下市木工舎 市」
五條市/飲食店オーナーを体験できるレストラン「大野屋」
十津川村/廃校となった教職員住宅を改修したゲストハウス 「大森の郷」

(更新日:2015.11.30)
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