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鳥取民芸の父・吉田璋也が愛した「一心焼」、その復活に込める思い。3月21日(祝)、展示会スタート

「民芸のプロデューサー」として伝統を生かしながら、新しくデザインした民芸品を数多く生み出し、地元のイカ墨を使って日本版セピアインクの発明もした、鳥取県出身の吉田璋也。

彼が愛した一心焼は、皆成学園という知的障害児施設の子どもたちが、文字通り、一心に土と向かい合ってつくりあげる焼き物で、手の動きまで伝わってきそうな躍動感に満ちている。

2000年に途絶えてしまっていたその一心焼を15年ぶりに復活させた、地元有志による「一心焼再窯プロジェクト」。そこには民芸と地域住民をつなぐ、吉田璋也の精神が脈々と受け継がれていた。

文:兵藤育子 写真:河原朝子

地域住民と子どもたちの交流を生んだ一心焼

 

豊かな自然資源を活用して、古くからさまざまな手工芸品が作られてきた鳥取県。この地の民芸の歴史を語るうえで避けて通ることができないのが、明治31(1898)年に鳥取市に生まれた吉田璋也の存在だ。医師、デザイナー、教育者、著述家、プロモーターなどいくつもの顔を持ち、陶芸、木工、染織、和紙など幅広いジャンルの職人を指導することで、新作民芸運動を展開。

たとえば吉田璋也が強く共鳴した民芸運動の創始者である柳宗悦や、陶芸家のバーナード・リーチなどが当時愛用していたセピアインク。セピアは古代ギリシャ語の「コウイカ」が語源で、西洋ではイカを食用にするとともに、イカ墨で作られたインクがよく使われていた。これに目をつけたのが吉田璋也で、友人の化学者とともに鳥取で大量に水揚げされるイカを使って研究開発。昭和11(1936)年には、日本初のイカ墨インクとして特許を取り、販売しているのだが、そこには廃棄していたイカ墨を使った商品開発という側面だけでなく、漁師の妻に仕事を創出する目的もあったようだ。

そんな吉田璋也が愛したもののひとつに、一心焼という焼き物があった。

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「昔は倉吉市や鳥取市のデパートで一心焼の展示販売をしていたそうで、存在自体を知っている人も多いのですが、僕自身は吉田璋也の功績を綴った本を読んで、7、8年前に初めて知りました。その後いろいろ調べてみたものの、一心焼に関する昔の資料はほとんど残っていないんですよね」

「一心焼再窯プロジェクト」のメンバーのひとりで、倉吉市で山陰地方の民芸品を扱うセレクトショップ「COCOROSTORE(ココロストア)」を営む田中信宏さんは、一心焼との出会いをこう語る。

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一心焼は終戦直後、倉吉市にある皆成学園という知的障害児施設で始まった焼き物で、一度におよそ700もの作品を焼くことのできる大きな登り窯で作られてきた。入所する児童・生徒たちが地元で取れた土をこねて、思い思いに作陶し、その一方で地元住民たちが窯に使う大量の薪を提供してくれたり、窯の火入れや火力の管理などの重労働を手伝うようになって、交流が生まれる。しかしながら、長きにわたって指導にあたっていた職員が2000年に異動してしまったのをきっかけに、登り窯は使われなくなり、子どもたちの作陶自体も途絶えてしまう。そんななか、最後の指導者だった元職員や、「くらよしミュージアム無心」の館長、田村さんなどが一心焼再窯プロジェクトを立ち上げ、2015年に復活している。

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いつか子どもたちにも仕事の場を

現在はサークルのような形態で、7月から3月の間に月1回活動しており、職員や皆成学園のOB、あるいは地元で活動している陶芸家などの指導のもと、子どもたちはのびのびと作陶。地元の複数の窯元で作品を焼いてもらっているのだが、一心焼再窯プロジェクトでは学園のそばにある長い間使われていなかった登り窯に再び火を入れることも、ひとつの目標にしていた。登り窯は電気やガス、灯油の窯と比べて温度調整が難しく、焼き上がりにもムラが出やすい。一方で自然の摂理に沿った、昔ながらの手法といえる登り窯で焼きたいという、若い陶工は鳥取県内にも少なくない。一心焼の登り窯を復活させれば、こうした若い陶工にも場を提供できるし、登り窯で使用する薪を地元の林業従事者からわけてもらうことで、鳥取県内の森林整備にもつながると考えたのだ。

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しかしながら、2016年10月の鳥取県中部地震で登り窯が崩れてしまい、修復不可能に。一心焼の指導に協力してくれている国造焼の四代目・山本佳靖さんや田中さんは、その代わりになるものとして穴窯に注目している。

「穴窯は登り窯に比べてコンパクトなんです。通常なら松など油分を含んだ材料で燃やさないと温度が上がらないのですが、杉や雑木、廃材や古材でも一定の温度まで上がる穴窯を作ることのできる窯師が、滋賀のほうにいるらしくて。今度みんなでその窯を見学に行ってみよう、と話している段階です」

吉田璋也が民芸を通して地域住民の仕事を生み出したように、田中さんも一心焼が子どもたちにとって、いつか仕事と結びつくきっかけになればいいと考えている。年度末の3月には毎年イベントを企画しているのだが、今年は作品展示会をするとともに、子どもたちが作ったカップやお皿などを使う「へんな昼食会」というランチ会を予定している。

「子どもたちも回を重ねるごとにだんだんうまくなっているので、これからも焦らずにやっていけたらと思っています。どんなイベントになるのか手探りですが、子どもたちも僕らも感じることがきっとあるでしょうし、穴窯の話がもっと具体的になってきたら、たぶんまたいいアイデアが出てくるんじゃないかと思うので」

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「一心焼展示会」
日程:3月21日(水)~3月25日(日)
時間:11:00~17:00
会場:くらよしアートミュージアム 無心
(鳥取県倉吉市魚町2540−2)
※皆成学園から車で10分

「へんな昼食会」(※定員に達したため受付終了)
日程:3月24日(土) 1部/10:30~12:00 2部/13:30~15:00
会場:皆成学園 生活実習棟(鳥取県倉吉市みどり町3564-1)
料金:1名1,500円(ランチ、ドリンク、お菓子付き)
各回定員15名
サポートメンバー:料理/寺地由香梨、本田淳子、空間デザイン/うかぶLLC+Hivern Ana

(更新日:2018.03.20)
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陶芸家、布作家、プロダクトデザイナー……日々の生活と地続きでものづくりに向き合い、手を動かす。強くてしなやかな暮らしの道具をつくる人々を訪ねて。
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