REPORT

豊かな地域資源に着目した「NatureTokyoExperience」
成功事例を生かし、次の展開へ!

東京都
「東京」と「自然」というイメージは、最もかけ離れたところにあるかもしれませんが、東京都には緑あふれる山々や、エメラルドグリーンの海が広がる空間が“ひっそりと”存在しています。こうした貴重な自然資源を活用した事業を応援するのが、東京都の「Nature Tokyo Experience」というプロジェクト。1回目に参加し、各方面で話題を呼んだ奥多摩のグランピング施設「Circus Outdoor TOKYO」が事業運営に至るまで、そして事業がスタートしてからの舞台裏とは。制度を新たに(公財)東京観光財団が実施する第2弾に選定された4つの事業とともに紹介します。

理想の地を求めて辿り着いた奥多摩

多摩・島しょエリアの自然をはじめとする地域資源に注目し、新たなエンターテインメント空間を創出する「Nature Tokyo Experience」(以下、NTE)。2017年度にスタートしたこのプロジェクトについて、『雛形』でも何度か紹介してきましたが、今回、奥多摩に常設のグランピング施設「Circus Outdoor TOKYO」をオープンさせた、NOX Intervillage代表の石山学さんにお話を聞けることに。

奥多摩の自然の魅力や、プロジェクトを展開するうえでこだわったことや苦労したこと、NTEのような行政支援を受けることのメリット、そしてご自身のライフスタイルや価値観はどんなふうに変わったのか、などなど……。ローカルを舞台に新しいことを始めたいと思っている人にも、大いに参考になる事例といえそうです。

そもそもNOX Intervillageは「CIRCUS OUTDOOR」として、日本中の自然豊かなフィールドを巡って、不定期にグランピングを開催してきたのですが、常設型への転換にはこんな経緯がありました。

NOX Intervillage代表の石山学さん。

「テントや家具などの設備をトラックに一式積んで移動して、3日間営業したら撤収して、また新たなフィールドを探すということを繰り返していたのですが、実際のところ、かなり効率が悪い(笑)。逆にそれがおもしろくて、サーカス団のような感覚で続けていた部分もあったのですが、グランピングに適した場所を探すのが、いつも大変だったんです」

そのため定期的な開催が難しく、ようやく場所が決定してウェブサイトで参加者を募ると、30秒で完売するほどの“異常事態”に。うれしい悲鳴ともいえますが、予約を取るのが極端に困難だったり、リピーターがリピートできなくなってしまうのも、それはそれで問題。利用者から常設を熱望する声が次第に大きくなり、そのフィールドとして注目したのが「東京の自然」でした。

奥多摩湖/写真提供:(公財)東京観光財団

御岳山/写真提供:(公財)東京観光財団

御岳渓谷/写真提供:(公財)東京観光財団

グランピングに適した場所の条件は、景色が美しく、自然を身近に感じられること、アクセスにやや難があって、“わざわざ行った感”を味わえること、そしてテントを設営できること。最後に関しては運営側の視点ですが、テントを張りやすい広々とした場所があっても、土地の使用目的上、グランピングは不可能なケースが意外と多かったのだとか。そんな理想の地を求めて、伊豆諸島などにも通った末に辿り着いたのが、奥多摩でした。

「東京にこんなに自然豊かなところがあったんだ、と驚きました。40年くらい前、この辺りは奥多摩湖のおかげで栄えて、週末になるとかなりの数の観光バスが来ていたそうです。なので、だだっ広い駐車場スペースや宿泊施設の跡地がたくさんあるんです」

移動式のグランピングをやっていた頃から企画に携わってきた、副代表の田中シュナイダー茜さん。「台湾、香港、シンガポールなど、ここに泊まるために海外からわざわざ来てくださるお客様もいらっしゃいます。東京にこんな自然があることに、驚かれる方が多いですね」

Circus Outdoor TOKYOがあるのは、JR青梅線の終着駅・奥多摩駅からバスで25分ほど走ったところ。国道沿いの、ひな壇状になった土地にテントが組まれているので、四季折々の景色が美しい奥多摩湖の眺望も抜群。奥多摩町が所有するこの土地を借りることが可能になり、本格的に動き出したものの、資金調達という現実的な問題が重くのしかかってきました。

「いろんな投資家や企業などを回ったのですが、当時はグランピングという言葉もほとんど知られていなかったこともあり、ことごとく惨敗でした。それはそうですよね、お客さんが来るところに宿泊施設をつくるならまだしも、来づらいところにつくろうとする人なんていませんから。NTEの審査も並行して進んでいたので、焦る気持ちもありました。そんななかでも協力してくれる方がいらっしゃったおかげで、実行することができたわけですが」

サーカス団が泊まるテントをコンセプトにした客室は、全5種類。価格設定が幅広いため、利用する層もさまざま。

グランピングは目的ではなく手段

NTE事業のように行政と連携するのも初めてだったため、それに関するさまざまな気づきも。

「一番のメリットは、人脈が広がったことですね。プロモーターである広告代理店の方などさまざまな業種の方と知り合えたし、何よりも今まで我々がビジネスで関与することのなかった行政の人と話をする機会が生まれたのは、非常に大きかったです。NTEに限らず、いろんな行政支援がありますけど、今まではそういうシステムがあること自体を知らなかったし、積極的に知ろうともしなかった。でもNTEの支援を受けたことをきっかけに、自分たちからいろんな制度をリサーチするようになりましたね」

行政支援により、広告宣伝を打つことができたメリットも大きく、想定していたターゲットに的確に届いていると実感しています。

「奥多摩には、登山や渓流釣りなどのアウトドアを目的に来る人が多いと思いますが、私たちはアウトドアに興味がないような、本来であれば奥多摩に来るはずのなかった人たちを呼びたかった。もっと人を呼ぼうとするのであれば、奥多摩らしさは一旦脇に置いて、足を運んでもらう仕掛けをつくることが大事だと考えました。興味のなかった人でも実際に来てみたら、いかにここが素晴らしいところなのかわかるはずなので」

テント内やレセプションなどの調度品はアンティークショップとのコラボで、すべて購入が可能。内装が随時変わるため、リピーターにも好評だ。

Circus Outdoor TOKYOを始めたことで、石山さんの働き方にも変化が。現在も都心と奥多摩の二拠点生活を送ってはいるものの、奥多摩にいる時間のほうがだんだん長くなってきたのです。

「打ち合わせなどのために、週1回ぐらいのペースで都心へ行くのですが、最近はそれすら少なくなってきました。“会議は顔を合わせてやるもの”という考え方もありますが、会わなくても可能な打ち合わせが大半で、メールやウェブで済ませたほうが、効率がよかったりするんですよね。奥多摩がベースになったことで、今の時代、どこにいても仕事ができることがわかりましたし、こうしたテレワークはこれからどんどん増えてくると思います。出勤や打ち合わせに出向くための移動がなくなったぶん、使える時間が単純に増えたというのもありますが、ここにいると体感時間が長くて、一日が本当にゆっくり流れていく。人生を得した気分になれますね(笑)」

奥多摩駅から徒歩10分ほどのところにある井登屋商店の泉敦さんは、Circus Outdoor TOKYOスタッフの頼れる存在。「彼らが外から連れてきてくれる人と、地域をつなげてくれることを期待してます!」

そもそもグランピングをやろうと思ったのも、自然のなかでゆっくり過ごす時間をもってほしかったから。

「グランピングはゴージャスとかラグジュアリーという言葉で表現されがちですが、そういった時間を過ごすことこそが贅沢であり、醍醐味なんですよ。“何もしないことをする”のって、都会の人は難しいですよね。ぼんやり携帯電話を触っているのは、何もしていないことにはならない。本当に何もしないと、これほどのんびり過ごせるんだっていうことを知ってほしいんです」

自然のある環境は、遊びに行くだけの場所ではなく、働いたり、暮らしたりする場所としても適していることを、ゆくゆくはより多くの人に感じてほしい。石山さんにとってグランピングは目的ではなく、人を自然のある場所に連れてくるための手段であり、自然とライフスタイルを結びつけるための壮大な構想だったのです。

石山さんいわく、現在の完成度は30%くらい。「まだまだ余白があるので、将来的にはテント以外の施設も増やして、さらに夢のような空間にしていきたいですね」

東京の自然を舞台に
さらなるエンターテインメント空間が

東京の自然の魅力は、「こんな近くに、こんな場所が!」という驚きを味わえること。第2弾として新たに選出された4つのNTE事業も、都心に近いという地の利を生かしながら、今までにない体験ができるものになるはず。まだかたちになっていないので、実物をお見せすることはできませんが、その概要と事業者及び関係者のコメントを紹介しましょう。

◎「NIIJIMA 菜宿物語」/Niijima Farmers

最大4名が宿泊できるキャンピングトレーラー。

「Niijima Farmers」で行った陸稲の苗植え体験の様子。


農業体験とキャンピングトレーラーでの宿泊を「菜宿」と銘打ち、伊豆諸島では珍しいアグリツーリズムを実施。農産物の生産・加工・販売を行うNiijima Farmersのノウハウを生かした農業体験では、新島でも栽培が初チャレンジというマンゴーをはじめとする、ミニトマト、あめりか芋、玉ねぎなどを栽培。東京の島のブランドづくりにイチから取り組む過程に参加できます。非日常感を味わえるキャンピングトレーラーは、周囲を緑に囲まれた場所に設置し、新島の自然を直に感じながら滞在することが可能なスタイルに。

「前年度に新島で行われたNTE事業『TOKYOガストロノミーツーリズム』をお手伝いしたことで、この制度を知りました。島全域が国立公園なので、宿泊施設としてのキャンピングトレーラーの設置許可にはかなり苦労しました。その甲斐あって、この秋にはキャンピングトレーラーが到着予定。キッチン・バス・トイレ付き、冷暖房完備で、自宅でくつろぐように過ごせるこだわりの仕様です。初めてチャレンジするマンゴーの栽培も、来てくださる皆さんと一緒に楽しみながら育てていきたいです」(Niijima Farmers・内藤八重子さん)


◎「TRUE FUSSA PROJECT」(仮称)/カーライフサービス多摩車両

国際色豊かな店が立ち並ぶ、横田基地沿いを走る国道16号。

タイニーハウスの内装イメージ。今回の事業はアメリカ・ポートランドの街並みやサスティナブルなライフスタイルがアイデアの源になっているそう。


トレーラーつながりで、もうひとつ。米軍横田基地があり異国情調の漂う福生で始まるのが、タイニーハウス(1990年代後半にアメリカで提唱されたコンパクトな住居。移動が可能なタイプも)に宿泊し、日本にいながらアメリカンな気分を味わうことができるプロジェクト。事業者は、トレーラーやアメリカンヴィンテージカーなどの輸入販売をしている、カーライフサービス多摩車両

NTE事業のキックオフイベントに参加して、福生のまちづくりの一環として何かできるかもしれないと思い、まちづくり提案の経験値がある我々が、カーライフサービス多摩車両さんをお手伝いするかたちで応募しました。もともとこの事業を知る前から、分散型でまち全体を宿として捉えるような観光事業ができないかを多摩車両さんと考えていたんです。福生は来訪する方の滞在時間が短く、観光コンテンツが弱いのですが、インバウンドニーズも獲得できるような事業にしていきたいと思います」(NPO法人FLAG・佐藤竜馬さん)

 

◎「幸福に人が暮らせる里『へんぼり』のツリーハウス型宿泊施設開発事業」/井上店

檜原村の人里(へんぼり)地区。

「都心から2時間で行ける村」として、日帰り観光客が増えている多摩地域の檜原村で初めてとなるツリーハウス型施設の宿泊事業です。秘密基地的ムードたっぷりのツリーハウスは、子どものときに誰もが一度は夢見た憧れの空間。事業者の井上店は林業も行っているため、多摩産材を活用したツリーハウス型施設の建築が可能。あえて食事を提供しない素泊まりスタイルにすることで、宿泊者には食事や買い物、遊びなどで周辺施設の利用を促し、地域への波及効果も期待できます。

「もともとツリーハウスに興味があり、檜原村にある資材で建てたらおもしろそうだなと思っていました。ある時、スタッフからNTEという事業があることを聞き、これはあたためていたツリーハウス型施設をつくるチャンスかもしれない!と応募しました。私たちの会社は灯油やガス資材の販売業がメインですが、パン屋をつくったり、モミジやツツジの植林を行う活動に参加したりと、村内のまちづくりに関わってきました。檜原村は宿泊施設が減り、日帰り観光がメインになっているので、滞在することが目的になる施設ができれば、地域の魅力をもっと伝えられると思っています」(井上店・井上佳洋さん)

◎「八丈太鼓を核とした夜のエンターテインメント開発事業」/リードホテル&リゾート

「八丈海亀屋」の外観完成イメージ。

八丈島に伝わる伝統芸能、八丈太鼓の奏者、奥山善男さん。


年内開業に向けて進行中なのが、八丈島の郷土料理店「八丈海亀屋」。ここにミニステージをつくり、伝統芸能である八丈太鼓の演奏をディナータイムに行うことで、八丈島観光を盛り上げます。事業者は、島内でリゾートホテルを運営する、リードホテル&リゾート。島の暮らしに根づいていて愛好家が多いものの、聴ける場所や機会が限られている八丈太鼓。この事業を機にプロの奏者を生み出すことで、若い人にも伝統文化に対する馴染みや興味を持ってもらうことも狙っています。

「飲食施設『八丈海亀屋』は前々から計画していたことですが、島の観光に夜のエンターテインメントが足りないという課題を解決したい思いで、飲食と八丈太鼓をかけ合わせてみることに。NTE事業には、昨年、アカツキライブエンターテインメントさんに協力するかたちで関わったのですが、PR効果があることをメリットと感じています。観光協会や東京都の方の意見を聞いて、ディスカッションすることで、よりよいニーズに沿ったものができることを期待しています」(リードホテル&リゾート・歌川真哉さん)

写真:小宮山桂 文:兵藤育子

Nature Tokyo Experience


豊かな山々に囲まれた多摩、青空と海が広がる島。日本の中心都市の顔とは違った「東京の自然」という今までにない魅力を感じることができる多摩・島しょエリアに注目し、体験型・交流型の新たなツーリズムを開発するプロジェクト。NTE第3弾事業の募集は2019年秋を予定しています。お問い合わせは、(公財)東京観光財団(03-5579-2682)まで。
https://www.naturetokyoexperience.com/

(更新日:2019.03.27)
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