INTERVIEW

まちの未来を照らす陽の光のように|ひのかげの、眩しいほどにいい話その③

宮崎県
岡田原史さん
旬果工房てらす
居住地: 千葉県市川市→宮崎県日之影町
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かいがいしい働きっぷり。誠実さが滲む笑顔。若者がたったひとりでも輝くと、まちの全部が活気づく。若い存在があることによる安心とか心強さとか希望の光が、まわりの人たちのこころにぽっと灯る。深刻な人口減少と高齢化が色濃い影を落としている小さいローカルなまちであれば、なおさらだ。ここでは若者の存在そのものがすでにすごい価値で、若者がいるということだけで圧倒的なプラスだ。そんな若者が、まちの未来を想っていろいろなチャレンジをしてくれたら、まちのみんなで応援したくなっちゃうのもわかるよなって思う。

他方、若者の側に立ってみたって、自分の存在価値を認めてくれている温かい人たちに囲まれて仕事できる、ということはすごく嬉しいことにちがいない。都会の大企業ではなかなかそんなふうにはいかないだろう。仕事がデキるとかスキルが高いってことは大切かもしれないけれど、小さな共同体で生きていくには優しいとか誠実であるかとかという人間性や信頼関係のほうがずっと大事だったりする。膝を突き合わせて、互いの顔を見ながら、人間らしく話を交わすところから仕事がはじまるというのは、あたりまえのようでいて意外と忘れられがちな、大切なことだと思う。

というようなことを、岡田原史さんの話を聞きながら、考えていた。

まったく未知の土地である宮崎県の県北にあるこの人口4,000人の小さなまち日之影にはじめて足を踏み入れてから丸6年。地域おこしのサポーターとしてやって来た岡田さんがどんなふうに地域に溶け込み、どんなふうに居着いていったのか。そして、「協力」や「支援」をする立場から卒業した今年から、地元特産の柚子や栗の加工品の開発と販売を自分の事業として立ち上げてしまったという岡田さんは、いまなにを想うのか。これは、今年29才になった岡田さんに、現在までの道のりを振り返ってもらって聞いた現在進行形のお話。

写真:小板橋基希 文:空豆みきお

偶然辿り着いた日之影を
だんだん好きになっていった

日之影に来たのは大学卒業後すぐ。東京のNPOの〈緑のふるさと協力隊〉という制度を利用してのことです。これは、活性化を望む自治体に若者が1年間住み込んで、町おこしの手伝いをさせてもらう、というもの。私は大学で農業土木を学んだこともあり農業に興味があったので、自然環境のいい地域に暮らしながら農業を学べたらと思って応募したのです。自分が希望した場所とはかけ離れた、宮崎県の山奥のまちを紹介されたわけですが、山が大好きでしたし趣味は登山でしたのでまあいいかな、と。初めてこの町に来たときに目にした、切り立つ山々の急な斜面や膨大な緑にはものすごく驚きましたね。

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最初の頃は、花の苗を育てるフラワーパークという施設のお手伝いでした。春にはパンジーやビオラの苗の世話や水やり、イベントの手伝い、夏には草刈りを。時の経過とともに、稲刈り、ゆずの収穫、しいたけ原木運びなど、お手伝いする場所も少しずつ増えていって、まちのいろんなものに触れて過ごした1年間でした。〈緑のふるさと協力隊〉の任期はその1年だけだったのですが、2年目からは日之影の町役場の方から「集落支援員という仕事があるからやってみないか」と声をかけて頂きました。町のなかでも特に過疎化が進んでいるような奥地の集落をまわり、住民の方々の暮らしぶりや要望を役場に伝えるという仕事です。最初はお互いさぐりさぐりという感じでしたけど、集落の方とだんだん仲良くなっていくうちに酒飲みに誘われたり、畑仕事を手伝うようになったり、地元の名物である「たけのこ寿司」の美味しさを教えてもらったり、農村歌舞伎に参加したり。美味しいものや素晴らしいものにいっぱい出会って「日之影って、いいなあ」と思うようになっていったんです。

地元の果実の有効活用をめざして
独立を決意

集落支援員としての仕事は5年ほど続きましたが、だんだんと自分の意識も活動の内容も変化していきました。きっかけは、柚子です。日之影とそのまわりの地域は山間農業が盛んで、世界農業遺産の認定も受けたほど。柚子や金柑といった柑橘系の果実や栗なども多く生産されています。ある年、柚子が豊作になったのですが、豊作すぎて値崩れの可能性があるため農協が買い取らないということになり、大量の柚子を山に捨てなければならなくなりました。もったいない、なんかやれないだろうか、と思って始めたのが、ジャムやシロップなどの柚子の加工品づくりだったのです。

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まだまだPRされていない日之影産の農作物に光を当てて「照らす」のが、岡田さん仕事のテーマ。取材日だったこの日は、商品開発のパートナーでもある戸髙ひろみさんの仕事場で、できたばかりのヤマモモのシロップ漬けをみんなで試飲した。初夏の陽射しのような、爽やかな味がした。

また、日之影産の栗だって、味わいや品質の評価は全国有数と言われるくらいに高いのに、その割には世の中にうまく知れ渡っていないなあ、と疑問に思うようになりました。これも、栗の加工品を作って通年で売ることができれば「日之影といえば栗」っていうイメージをもっと定着させられるんじゃないか、と考えるようになりました。

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そこで、よし、本気で食品加工をやろう、と思って、福岡から食品加工の専門の先生を呼んで、日之影のまちでセミナーを企画して勉強して、ジャム等の加工品を自分で作るようになったのです。作ってみたらまわりからは意外と好評だったので「いける」と思って。2014年頃にはもう独立の計画を立てて〈旬果工房てらす〉という名前を決めました。2015年は、起業のための下準備を進めて、加工場を整備したり、機材を揃えたり、新しい素材の研究をしたり、日之影産の柚子、栗、金柑、梅、ヤマモモでジャムやシロップ漬けを作って販売しようと年間スケジュールを立てたりしました。そして2016年3月をもって集落支援員を卒業し、日之影で起業独立して頑張っていくことにしたのです。

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山の斜面に広がる、日之影の栗畑。おそらく全国一なのでは、と噂されるほどにも広大なこの畑から、全国有数とも言われる品質の栗の実が成る。収穫間近の季節になると、木々の枝の下にネットが張られる。このネットが、枝から落ちた栗をぜんぶ拾い集めてくれ、さらに斜面の下の方まで転がしてくれるので、回収は一網打尽。山の農業の知恵が凝縮された、実に合理的な仕掛けなのだ。

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日之影を照らすような、
成功モデルをつくろう

起業からまだ3ヶ月くらいしか経っていませんが、単品ごとの商品はすごく評価してもらっていますし、「ウチのお店に置いていっていいよ」と応援してくださる方も多いので、これから販路をもっともっと開拓して安定させていくことが課題だと思っています。この先は、この〈旬果工房てらす〉をビジネスとしてちゃんと軌道に乗せていくってことが当面の目標になるでしょう。

「旬果工房てらす」の商品たち。果実の美しい色がぱっと目に入る。このほかにも、和栗やゆずなど、季節ごとに変化する品揃えも楽しみのひとつ。パッケージデザインはakaoni。

「旬果工房てらす」の商品たち。果実の美しい色がぱっと目に入る。このほかにも、和栗やゆずなど、季節ごとに変化する品揃えも楽しみのひとつ。パッケージデザインはakaoni。

やっぱり、自分としては、日之影の町の人口がどんどん減っているという現状の歯止めになるようなことがしたいですね。最近は、こういう田舎が注目されてきているなっていうことを肌で感じますし、同世代の人たちがこれからこの町に移住してくる可能性はすごくあるんじゃないかなって思っています。

だから、移住してもらえるように、移住希望者の受入れ体制を整備することにも関わりたいし、自分がこうして起業して仕事をしていくということがひとつの成功事例として取り上げられるようになれば、また次の人が現れて、こういうことをやりたいとか、そういう人とか事例がどんどん生まれてくるんじゃないかなって。

まちの人たちにも協力してもらいながら、そういうふうになればいいなあって、そういう想像を毎日しているんです。

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旬果工房てらす
栗、金柑、梅、ヤマモモなど日之影産の旬の素材を原料としたジャムやシロップ漬けを製造・販売する、岡田原史さんによるあたらしい食品ブランド。着色料や保存料などの添加物は一切使用せず、日之影の自然の美味しさをそのままにひとつひとつ丁寧に手づくりしている。日之影町の道の駅「青雲橋」などで好評販売中。
https://www.facebook.com/syunkakobo/

まちの未来を照らす陽の光のように|ひのかげの、眩しいほどにいい話その③
岡田原史さん おかだ・もとし/1987年千葉県生まれ。東京農業大学卒業後、「緑のふるさと協力隊」メンバーとして日之影町に移り住む。1年の契約期間終了後も同町に残り、「集落支援員」として過疎化の進む集落のサポートを行いながら、農村歌舞伎等の祭りへの参加や、勉強会の企画運営などを通して町の住人との交流を深める。未利用果実を原料にしたジャムやシロップ漬け等の加工食品を製造する「旬果工房てらす」を立ち上げ、2016年4月より独立。仕入から加工、販売までのあらゆる業務をすべて一人で行いながら、日之影産農作物の価値向上とブランド化をめざし日々奮闘中。
(更新日:2016.10.14)
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