特集 “創造的過疎地”
神山町で暮らす

築100年の古民家で自給的な暮らしを目指し、 土地の恵みでピザをつくる

神山の人たちがつくってくれた
自分たちらしい店

それから1年くらいの間に5〜6回は神山に行きました。グリーンバレーさんからはずっと「空きがない」と言われていたんですけどね……。クルマで町内を回って、良さそうな物件が見つかったら「空いてたけど、あそこは?」なんて聞いてみたりして。

そうして過ごしていたら、町内で昔からお店をやっている方に「今日いいのあるでー!」と、たまたま今の物件を紹介してもらえたんです。平屋の一軒家で築100年は経っている未修繕の物件。でも、昔の“おくどさん”(かまど)があって、そこには煙突の跡も残っていて。しかも、周りに家がないところだから、ピザを焼くときに出る煙でご近所さんにも迷惑がかからない。住まいと仕事場を一緒にできそうな、自分たちにはぴったりの家だと思って、すぐにその家に決めたんです。

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僕たちにはお金もなかったし、子どもも3人いるから、仕事も失敗できないし、すごく不安でした。もちろん頼る人もいない。だけど、神山の人たちって大体みんな大らかで「やったらええんちゃう?」って言ってくれる。「そんなんしたら失敗するでー」と言われたら、怖がって来てなかったかもしれないけど、ここだったらなんとかなりそうな気がしたんです。まあ、あんまり大らかなもんで、「失敗したら何か仕事でも紹介してくれるんかな?」と思ってしまうようなところもありましたけど(笑)。

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店内には夫婦の人柄が現れるように穏やかな空気が漂う。暮らしの延長に生み出される、居心地のいい空間。

グリーンバレーの大南さんもいろんな人とつなげてくれました。そうやって応援してもらえたことがうれしくて。子どもたちが神山を気に入ったというのもあったけれど、こういう風に思ってくれる人がいるとこなら、僕はやっていけるような気がしたんです。

修繕しているときも、地元の大工さんや神山町で仕事づくりを勉強している「神山塾」の方々、地元の高校生まで、毎日のようにたくさんの方々がお手伝いに来てくれましてね。サッシを探してくれたり、漆喰塗りをしてくれたり、駐車場まで作っていただいて……。今でも朝起きてパッと自分の店を見ると、何だか不思議な気持ちになるんですよ。自分の店だけど自分の店の気がしないというか。この店は本当に町の皆さんの力でつくっていただいたものだから。

“意外と忙しい”田舎暮らし。
楽しみながら、町にも恩返しを

僕は子どもの頃鍵っ子だったから、自分の子どもたちにはいつでも親の姿をそばに感じられるようにしてあげたかったんですよ。だから、今の暮らしでそれができるようになったのは、一つの夢が叶ったと言ってもいいくらいで。

僕らはこの店で3人の子どもを育てるために最低限必要のお金を稼ぐことができればいいんです。だから営業時間も短いですし、つくれる生地の枚数にも限りがあるので予約をすすめさせてもらっていて。ただ、たくさんの人に提供できない分、一つひとつの素材にはこだわっているんですよ。わざわざ僕たちのお店まで来てくれるお客さんたちには、その土地でとれるものをできるだけおいしく食べてもらいたいと思っていますから。

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その日にとれた野菜など旬の食材をたっぷりと使った期間限定の「おすすめピッツァ」。 写真前:自然農法かぶらと木次チーズのピッツァ(1,580円) 写真奥:無茶々園の無添加ちりめんとオーガニックオリーブのピッツァ(1,480円)

「ここに生えている野草は食べられるものばかり」と塩田さん。店のすぐ近くにある畑で 子どもたちと一緒に野草を詰み、それを前菜のかざりやピザの材料にすることもある。

今はお店が忙しくて、畑仕事が思っていたよりもできていないんですけど、いずれは自分たちで育てたものをもっともっと取り入れる暮らしをしたいなって。でも、田舎暮らしってのんびりしてそうに見えて、意外と時間がないんですよね。子どもがまだ小さいというのもあるんですけど、朝から晩までやることこんなに多いんやっていうか(笑)。

田舎暮らしもピザ屋も全部初めてのことで大変でしたが、この町でいろんな人が支えてくれたから、求めていた暮らしに近づくことができました。いつかは自給的な暮らしができるようにしたいので、子どもたちが大きくなったら、今とは生活のバランスを少し変えて、畑仕事にももっと力をいれていきたいですね。僕たちが理想の暮らしを求めていくなかで、自然と町にも人にも恩返しができたらいいなと思っています。

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ユサンピザ(Yusan Pizza)
徳島県名西郡神山町神領字西青井夫359-1
☎︎050-2024-4927
営業時間:11:30~売切次第終了
※手捏ね生地のため、枚数が限られているので来店の際は予約がおすすめ。
定休日:日曜(ほか、臨時休業あり)
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_NMC1968店名・「ユサンピザ」の由来は、「遊山」という徳島に古くから伝わる風習から。家の仕事を手伝うのが当たり前だった子どもたちが、「遊山」の日は「遊山箱」と呼ばれる弁当箱に好きなものをたくさん詰めて、野山に遊びに出かけることが許されていたそう。日常から解放される特別な一日。

築100年の古民家で自給的な暮らしを目指し、 土地の恵みでピザをつくる
築100年の古民家で自給的な暮らしを目指し、 土地の恵みでピザをつくる
塩田ルカさん しおた・るか/1980年、大阪府生まれ。自然食品のバイヤーをしながら、和歌山県で自給的生活をしていた高橋洋平さんのもとでピザ修行。NPO法人グリーンバレーを入口に2013年、徳島県・神山町に家族で移住。築100年の古民家を改装して開いたピザ店「yusan pizza」が町内外で人気を集める。3児の父。Facebook
(更新日:2015.06.04)
特集 ー “創造的過疎地”
神山町で暮らす

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“創造的過疎地”
神山町で暮らす
靴職人、自給自足のピザ職人、宿で働き始めた人、起業を目指す人……新たな暮らしや働き方を模索する人たちが、徳島県・神山町に導かれる理由とは。
築100年の古民家で自給的な暮らしを目指し、 土地の恵みでピザをつくる

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