INTERVIEW

誰もが自分のルーツに自信を持てるように。外国人とまちの人との接点を生み出す。

島根県
李在鎮さん、芝由紀子さん(うんなんグローカルセンター/多文化カフェSoban)
居住地: 島根県雲南市

最近、旅行者だけではなく生活者としての外国人の姿を見かけることが多くなったように感じませんか? それもそのはず、いまの日本の在留外国人数は282万人(2019年6月現在)。5年前と比べると、なんと70万人強増えています。

 

彼らはどんなルーツや背景を持っているのだろうか。
日本での暮らしを楽しめている?

気にはなっているけれど、知る機会や話しかけるきっかけを掴めずにいる、という人も少なくないのではないでしょうか。

 

人口3.8万人の島根県雲南市に暮らす外国人の数は、222人。人口比でいうと0.58%と、ほかのまちに比べると少ないほうです。しかし、このまちはいま、多文化共生の先進地として注目を集めています。さまざまな国籍の人たちが、大人も子どもも関係なく一緒に笑い合い、各国の料理や文化を楽しむという光景も見られはじめています。

「自分は雲南の人たちに受け入れられて幸せを感じて暮らしてきたけど、海外から来た人たちみんながそう言えるようになったら、もっと豊かで幸せなまちになると思ったんです」

そう話す李在鎮さんと芝由紀子さんは、雲南に住む外国人の暮らしや地域交流をサポートする団体「うんなんグローカルセンター」を運営しています。活動の背景を聞きました。

 

写真・文:飛田恵美子

雲南に恩返しをするため、
Iターンを決意した

雲南市の中心部・木次町(きすきちょう)の日登(ひのぼり)地区。十数段ほどの石段を登った先に佇む古民家が「うんなんグローカルセンター」の事務所兼「多文化カフェSoban」です。カフェは気まぐれ営業ですが、定期的に多文化に触れ交流できるイベントを開き、雲南で暮らす人々が気軽に立ち寄れるようにしています。

李さん・芝さんは国際結婚。李さんはソウルで生まれ育ち、移民女性をサポートする団体で働いていました。芝さんは横須賀出身で、2002年に日本語教師として韓国へ。ふたりは韓国で出会って結婚し、2012年、李さんが雲南市の国際交流員に採用されたのを機にこのまちへやってきました。

国際交流員とは、地域の国際化を進める地方公共団体が招聘する人材で、任期は最長5年。イベントの企画などを通してまちの人々にあたたかく受け入れられた李さんは、「雲南に恩返しがしたい」と思うようになり、そのまま雲南に残り、芝さんと市民団体を立ち上げました。

「雲南には、外国出身者が生活の情報を得たり地域の人たちと関係を築いたりできる場所がありませんでした。自分は国際交流員という立場だったのでさまざまなサポートが得られましたが、日本語が読めない、日本の制度がわからない、頼れる人がいないという外国人はたくさん困りごとがあるはず。彼らをサポートして、雲南がすごくいいまちだということを知ってもらえたらと思ったんです」(李さん)

20186月、ふたりは市民団体を発展させて「うんなんグローカルセンター」を設立。雲南市から多文化共生事業を受託し、さまざまな形で外国人市民の暮らしを支えています。

多文化カフェSobanでの食を通じた交流会の様子。

外国人が自分らしく活躍できたら、
地域に豊かさが広がる

では、雲南に住んでいる外国人って、どんな人たちなのでしょう?

「現在、雲南には18カ国222人の外国籍の人たちが住んでいます。多いのは中国人、フィリピン人、ベトナム人。そのうち半分は技能実習生、残り半分が私たちのように国際結婚した人たちですね」(芝さん)

技能実習生は縫製工場や酪農場などで働いていて、市内のあっちにひとり、こっちにふたりと点在しています。自家用車もなく、仕事も土日休みとは限らないので、地域との接点を持ちづらいのだそう。

「地域のお祭りがあっても自分たちが参加していいものかわからない、地域の人も気になっているけどなんて声をかけていいのかわからない。お互いに迷っているんですね。でも、一度接点ができると、“外国人と日本人”ではなく、“誰々さんと誰々さん”の関係になって、声をかけ合うようになるんです。雲南の人は仲良くなってしまえばすごく親切ですから」(李さん)

うんなんグローカルセンターでは、技能実習生を受け入れている事業所に外国人向けの防災訓練を提案したり、島根県が行う日本語学習プログラムを提案したりしながら、事業所と実習生、さらに地域の人との関係性をつないでいます。

地域の人を巻き込んで、Sobanの奥に多文化図書室をつくっているところ。

地域自主組織で行われた外国人技能実習生との防災交流会。

また、国際結婚の場合、見た目の違いから配偶者や子どもが奇異な目で見られることがあります。そこで、うんなんグローカルセンターに集う外国出身者8人で多文化チームを組み、市内の小中学校で「多文化教室がやってきた!」という出張授業を行っています。チームのメンバーや保護者が自分の国の文化を紹介したり、給食にその国の料理を取り入れてもらったりしながら、多文化共生の大切さを伝えるという内容です。

「生徒たちからも好評で、アンケートに『外国人が怖い、英語は嫌い』と書いていた子が、『みんな同じ人なんだとわかった。これから街中ですれ違ったら挨拶しようと思う』『いろんな国のことばを覚えたい』と変化するんです。実際、積極的に挨拶してくれていますね。外国にルーツを持つ生徒も、お友達が自分の国に関する授業や料理を喜んでくれると、自分のルーツに自信を持つことができるんですよ」(芝さん)

「楽しい」や「おいしい」を起点に、クラスメイトや同じまちで暮らす外国人の背景への興味や親しみが生まれていく。自然な形で“違う”ことは悪いことでなく、むしろ楽しいことという意識が育ちそうです。

市内の小中学校で定期的に実施している多文化給食の様子。大人にも提供してほしい……!

学校以外でも、外国人同士がつながる場、地域の人もU・Iターン者も外国人も関係なく一緒に楽しめる場など、多様な交流の機会をつくっています。

その一例として、多文化チームのメンバーのひとりで、タイ人のダルニーさんに母国の伝統芸能であるタイ舞踊を踊ってもらう・教えてもらう会を開いたことも。普段は介護施設で働いているダルニーさんですが、実はプロのタイ舞踊家。そのしなやかで美しい踊りには喝采が上がり、小学生の息子さんが「タイの楽器をやりたい」と言いはじめたそう。

「母国以外の国に行くとどうしても職業選択の幅が狭くなるから、母国では専門的な職業に就いていた人、すごいスキルを持った人が埋もれていたりするんです。そういう人が自分の特技を発揮できる機会をつくれば、地域に豊かさが広がるでしょう。ダルニーさんも、まちの人が喜ぶ姿を見て『本当に嬉しいことだ』と話していました」(李さん)

地域の人にタイ舞踊を教えるダルニーさん。

 

子どもが授業についていけず
人知れず悩む状況を無くしたい

言葉のサポートも大事な仕事のひとつです。うんなんグローカルセンターでは、日本語が苦手な外国人に向けて、病院や市役所への同行・通訳、訪問型日本語教室へのマッチングのお手伝いなど、幅広い支援を行っています。後者は日本語学習を希望する人の元にボランティア講師を派遣するという島根県の事業で、運転免許を持っていない人や技能実習生はとても助かっているそうです。

子どもに対しては、教育委員会が幼稚園・小学校と連携し、就学前に外国にルーツのある子を把握。保護者と意思疎通を図りながら、必要に応じてうんなんグローカルセンターが日本語指導員を派遣しています。こうすることで、「小学校の授業についていけない」「友達と意思疎通ができない」という状況を未然に防いでいるのです。

「家庭で日本語を使っていないと、小学3、4年生になってから語彙力に大きな差が現れます。そうなってから追いつくのはとても大変。外国籍の生徒には先生も気をつけてくれますが、日本で生まれ育っているけれど親が日本語を苦手としている生徒は見落とされがちです。ある程度のコミュニケーションはできるし、生徒もわかっているふりをしてしまうから。担任の先生だけで対応するのは限界があるので、日本語指導支援員がサポートするんです。

また、保護者にも日本の教育システムや習慣を伝え、学校で配布される資料を読むお手伝いなどをしています。家族の都合優先で1カ月学校を休ませたり、遠足などのときにお弁当をつくってこなかったり、ということが往々にしてあるんです。文化や考え方が違うだけなので保護者に悪気はないのですが、困るのは子どもです。多方面からのアプローチが必要ですね」(芝さん)

私たちの挑戦を、
行政や地域の人たちが後押ししてくれる

それにしても、雲南にIターンをして数年のふたりが、こんなにも幅広く手厚い支援の数々を担っていることに驚きました。そう伝えると、李さん・芝さんは「行政や地域の人たちの力添えがあったおかげです」と口を揃えました。

「就学前支援については、最初私たちが3カ月ほど幼稚園にボランティアとして入り、日本語指導をしたんです。小学校入学前に着実に日本語力を積み上げることができたので、その効果と必要性を幼稚園と小学校から教育委員会に伝えてもらいました。市職員のみなさんも、外国にルーツのある子どもたちがそれまで見えない困難を抱えていたことを知って、『雲南は子どもにやさしいまちを目指しているのに、いまのままじゃだめだ』と、翌年には就学前支援を市の事業にしてくれました。本当に、心ある方々ばかりなんですよ。小学校では、ひとりの生徒のために教育委員会の方や先生など何人もの大人が集まって、『どうしたらこの生徒が健やかに学べるか』を真剣に考えてくれるんです。こんなまち、なかなかないと思います」(芝さん)

雲南市役所で開催した外国人市民の声をきく意見交換会の様子。

うんなんグローカルセンターの拠点は、雲南市が行う「スペチャレ」制度から200万円の融資を得て改装・整備しました。

ほかにも、この特集内で紹介してきた地域自主組織が技能実習生と交流会を開いたり、中高生が認定NPOカタリバや教育委員会のサポートを得ながら、多文化共生をテーマにした学習をしたりと、雲南市では多くの人が「外国にルーツのある人たちも幸せに暮らせるまちにしよう」という意識を持って動いています。

「私たちがこうして活動できているのも、コミュニティナースの矢田明子さんをはじめ、さまざまな方がチャレンジの渦をつくり、あるべき姿を示してくださったからです。だから私たちは、その背中を追いかけることができました」(芝さん)

挑戦する人がいて、それを力強く応援する人たちがいる。雲南でチャレンジの連鎖が起きる一番の理由なのかもしれません。

今回、うんなんグローカルセンターの取り組みを知って、こんな場所がどのまちにもあったらいいのに、と思いました。同じような困りごとを抱えている外国人や外国にルーツのある子どもたちは、全国にたくさんいるはずです。何よりも、開催されているイベントがどれもとても楽しそう。日本人同士でも、考え方や趣味嗜好、大事にしていることは人それぞれ異なるもの。お互いの違いを受け入れ、楽しむ文化が浸透したら、誰にとっても暮らしやすいまちになるのではないでしょうか。

※この記事は、一般財団法人澄和によるジャーナリスト支援プログラムの採択を受けて取材しました。


《特集:島根県・雲南市「誰かのはじまりを支えあうまち」》
●住民が考え、動き、変わっていく。雲南で起きている“チャレンジの連鎖”とは。
●暮らしに寄り添い、まちの人々と元気をつくる「コミュニティナース」
●地域を生きた教材として、子どもが学び成長していく。雲南から始まる新しい教育のかたち
●さまざまな人が混ざり合い、助け合うまちを目指して。耕作放棄地を再生した茶畑で障害者が働く「尺の内農園」

 

誰もが自分のルーツに自信を持てるように。外国人とまちの人との接点を生み出す。
李 在鎮さん、芝 由紀子さん

イ・ジェジン/1974年韓国ソウル生まれ。大学院で韓国語教育を専攻し、韓国の大学や移民女性をサポートする団体で働く。2012年に雲南市国際交流員として来日。5年間の任期期間中に雲南の魅力と多文化共生に関する課題を感じ、これまでの恩返しをしようと永住を決意。幸雲南塾7期生。

しば・ゆきこ/1974年神奈川県横須賀市生まれ。大学で日本語教育を専攻し、2002年から韓国で日本語教育に従事。そこで李さんと出会い、2012年に雲南市へ。うんなんグローカルセンターでは、日本語支援を中心に行っている。幸雲南塾3期・7期生。
(更新日:2020.03.24)
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