INTERVIEW

農家存続のため、牛肉店を起点に食の“流通”を変えていく

鳥取県
鳥飼賢吾さん
「あかまる牛肉店」代表
居住地: 鳥取県→広島県→鳥取県
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午前10時の開店ともに、次々と常連客が訪れる。調理方法をさりげなく添えてお客さんにお肉を手渡すのは、鳥取県倉吉市にある「あかまる牛肉店」の代表・鳥飼賢吾さん。鳥取県倉吉市に生まれ、広島県尾道市の短大で経済学を学んだ後、鳥取に戻ってきた。
地元のケーブルテレビ局に就職し、アナウンサー業と共に、自らカメラをまわし番組の企画制作に従事。鳥取と深く関わった9年間の勤務を経て2014年7月、倉吉市に「あかまる牛肉店」をオープンさせた。店頭には、和牛を中心とした新鮮なお肉と創作惣菜が並ぶ。そのすぐ横に貼られた、自身で制作している新聞や映画上映会のチラシから、未来を見据えた構想が静かに垣間見れる。牛肉店を起点に描く、彼の働き方について話を聞いた。

写真:得田 優 文:森 若奈

 

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着目したのは食の“流通”
農家が存続していくために

テレビ局を辞めて、お店をはじめようと思ったきっかけは、畜産農家の実家の弟が8年前に家業を継ぐことになったのが大きかったのかもしれません。うちはあまり裕福ではなかったので、幼い時から農家は大変だと思っていました。農家が今後存続していくためには、ある程度の収入がないといけない。

野菜だったら自分で値段をつけて売ることができますよね?だけど、お肉は衛生環境が整った施設で屠畜(とちく)・解体されないといけないという設備的な問題があるんです。加えて、値付けは“格付け”という全国一律の方法でおこなわれてしまう。一般的にあまり知られていない肉の流通ですが、値付けから販売まで、農家が思ったとおりにできれば健全な流通形態になるのではないか、という仮説からでした。でも農家には販売をする余力や営業力がなく、弟にやれやれと急き立てるのも違う気がしてきて、自分がするべきだと、だんだん思うようになっていったんです。

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お客さんの注文に合わせて、手際よくお肉をカットし小分けしていく。右胸の赤い丸いブローチは、店名の「あかまる」をイメージして地元の布アクセサリー作家・川和真紀さんが作ってくれたものだそう。

広島の短大を卒業した後、鳥取のテレビ局に受からなければ、東京か海外に行こうとしていたんですよ。東京は好きでちょくちょく行っていて。でも、地元テレビ局で働いたことで、出て行きたい一心だった鳥取のことを徐々に好きになっていったんです。経験がなくてへたくそなアナウンスを地域の人たちが聞いてくれて、さらに応援までしてくれたことが本当にありがたかったです。その恩返しをこれからしていきたいと思って、地元鳥取の倉吉でお店を開くことにしました。

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どのような世の中になっていくかを
見極めながら進めた起業の準備

まず、地域に密着している信用金庫からお金を借りました。信用金庫からこれに書いてくださいって事業計画書を渡されたんですが、それは履歴書に近い感じで、A3用紙1枚のものだったんです。でも、自分の中でもっと色々詰めて書きたかったし、融資を受けやすくするためにも、ネットでフリーの事業計画書のテンプレートの中から一番難しそうな15ページぐらいのものをダウンロードして書きはじめました。
この地域やまわりの郡部の人口や、地域別の肉の消費量を調べたり、あと売上計画の部分は、数年前から参加している経営塾で学んだことが参考になりました。

その経営塾では、月の売上と経費、人件費、光熱費などの固定費、仕入など、具体的な数字をとにかく1年分出すように、そうしたら次の年が見えてくると教えられていたので、1年間の数値目標をびっしりたてました。

小売りだから、1日の売上の差が激しいので、自店の商品の価格構成から客数と客単価を考えました。肉の部位は30以上あるので、それぞれにどのぐらいの評価をつけるか。まず、以前の職場の隣にあったお肉屋さんに何度も何度も通ってどう値段をつけているかをみていました。

あとは西と東とで肉の評価が違いますし、流行などもあるので、今後どのような世の中になっていくかを考えながら値段を決めていきました。値付けは、色んなことがまったく分からない状態で一番最初に決めなきゃいけない、その時すごく大事なことをこれから決めなきゃいけないんだなと思いました。
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対面販売でしかできないこと
価値を伝え、調理方法を提案する

うちは和牛が中心なので、スーパーマーケットなどよりも値段が少し高い肉を扱っているんですね。お客さんにそれなりのお金を使っていただくので、価値を伝えていくことが必要だと感じています。自分自身、料理をするのが好きというのもあって、調理方法も提案しています。対面販売でしかできないことですし、この店の強みだと思っています。

それは、うちで作っている惣菜なんかもそうで、これだけでひとつの商品でありながら、食べ方の提案でもあるんです。同じように、飲食店さんともたびたび連絡を取って提案しています。いい部位がありますよとか、こうして使うといいですよと提案していく、そういう信頼関係が必要ですね。今、自分が提案した調理のやり方を喜んでくださって、2店の飲食店さんが「和牛の炭火焼き」を提供してくれているんです。

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流通への問題意識を根底に、
農家とお客さんをつなげていく

どこに問題があって、どうやって流通を変えていくのかという問題意識は常に根底にありますが、まず今は、お客さんと農家さんをつなげていくことが大事だと思っています。

お店のオープン時に開催したレセプションパーティでは、来てくださった方々に農家さんを紹介したり、『ある精肉店のはなし』という生産者を紹介している映画上映会をやったり。また、自分で新聞も作っています。1号目は私の実家である和牛農家の記事ですが、これは徐々に豚、鳥、野菜などの他の農家さんのものも作っていこうと思っています。この規模では大きいことはできないけれど、お店がこの地域のどういう存在になっていくかが大事で、イベントや上映会で、お客さんとのつながりを強めていき、一方で農家さんたちともつながりを深めていけたらと思っています。

そんな思いもあって、昨年(2014年11月)、お店の隣に飲食スペースをオープンしました。お客さんの滞在時間が長くなることで、店の顔でもあるショーケースを見ていただく機会が増えるというのが大きな狙いです。それによって肉のこと、農家のこと、店の姿勢など、トータルでお客さんの理解を得ていけたらいいなと思っています。みんなが素通りしていたこの場所にお店ができると、役割が生まれるんですね。今はその役割に徹することが大事だと思っています。

真ん中に貼られているのは、鳥飼さんが制作している新聞。一緒に、愛情がこもったたくさんの手書きのお知らせも。

中央に貼られているのは、鳥飼さんが制作している新聞。一緒にたくさんの手書きのお知らせも。

大きな課題解決のために、
“事業”として取り組む

僕が店をやろうと思ったきっかけは、農業や畜産業の流通を変えていかなきゃいけないと思ったことがはじまりなので、自分だけ儲けたいとか自分だけ食べられればいいという感覚ではなくて、事業なんです。自分の実家の畜産だけよくなっても問題は全然解決されない。もっともっと大きな問題のはずなんです。

だからこの地域に限らず、もっと広い単位で考えていて、今後は商圏も都心や海外に目を向けてやっていきます。でもまずは、食べる側の人が分かってくれないと意味がないので、飲食展開も必要と考えています。お肉をもっと違うアプローチでおもしろがってもらって、おいしく食べてもらえたらいいなと。お肉はもともと西洋文化だから、日本人が知らないことは多いんですね。惣菜料理も徐々に増やしていって、お客さんにどんどん提案していきたいですね。031

農家存続のため、牛肉店を起点に食の“流通”を変えていく

あかまる牛肉店
住所:鳥取県倉吉市旭田町69
電話:0858-23-2929
営業時間:10:00~19:00
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農家存続のため、牛肉店を起点に食の“流通”を変えていく
鳥飼賢吾さん とりかい・けんご/1982年、鳥取県倉吉市生まれ。実家は、畜産農家「鳥飼畜産」。男ばっかり三人兄弟の真ん中。広島県尾道市の短大で経済を学び、在学中は広島の情報誌で外部ライターを経験。卒業後、中国と香港に放浪の旅へ。帰国後、鳥取県のテレビ局で9年間アナウンサー業、番組制作に従事する。2014年7月、倉吉市に「あかまる牛肉店」を開業。
(更新日:2015.01.04)
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