INTERVIEW

都市と里山が交わる場所。
小さな町で、人を迎える。
【石川県小松市・滝ケ原町】

石川県
小川 諒さん
NPO法人ファーマーズ・マーケット・アソシエーション所属/TAKIGAHARA FARM、TAKIGAHARA CAFE運営
居住地: 新潟県→東京都→千葉県→石川県

石川県小松市滝ケ原町。人口約200人、80軒ほどの家が建ち並ぶ小さな村に数十年ぶりに新しい住民が増えた。それは2016年、千葉から移住してきた小川諒さんが、この町で使われていなかった古民家で仲間とともに暮らしながら始めたプロジェクト「TAKIGAHARA FARM」から始まる。彼はそこで手探りながら畑を始め、続いて2017年にはカフェ「TAKIGAHARA CAFE」、2018年には民泊施設「TAKIGAHARA HOUSE」を、来年にはホステルもオープンする予定だ。

突如、小さな町で始まったこのプロジェクトは少しずつ町の人を巻き込みながら広がっていき、遠くからも人が集まる場所になった。この土地の先には山があるだけの終着地のような場所だが、遠くは海外、東京からもわざわざここを訪れる。人はなぜこの場所に集まるのだろう。その答えが知りたくて、2018年の終わりに「TAKIGAHARA CAFE」で開かれたイベントに足を運んだ。

写真:間部百合 文:薮下佳代


約35
年ぶりの新しい住民として
里山に暮らし始める

地方に移り住むには人それぞれに様々な理由があるけれど、「TAKIGAHARA FARM」のプロジェクトリーダー・小川諒さんが石川県小松市滝ケ原町に辿り着いたのは運命だったのか、それとも必然だったのか、そこには不思議な巡り合わせがあったとしか思えない。

今から3年前の2016年のこと。小川さんは東京の大学に在学中、ITの会社でインターン生として働いたものの、休学して千葉県富津市へと移住。卒業後もそこでコミュニティスペースを運営していた。そして仕事を辞めたのを機に、念願だったアメリカ・メキシコ周遊の旅へと出かけることに。

日本に帰って来てから何をするか、どこに住むかもまったく白紙で旅に出た。充実した旅から帰ってきてすぐ、滝ケ原へ遊びに行かないかと誘ってくれたのが、流石創造集団の黒崎輝男さんだった。黒崎さんは、東京・青山の国連大学前で開催されている「ファーマーズマーケット」などを運営。すでに小松市とも様々なプロジェクトを手がけており、滝ケ原の里山の美しさに惚れ込んでいたのだ。

小松市内では昔から石がよく採れた歴史があり、日本遺産にも登録されている。滝ケ原町にも採石場跡地がいくつも点在している。「TAKIGAHARA CAFE」に行く道中に見えるのは、滝ケ原町で三番目に古いという西山石切場。その存在感に圧倒される。

「友達が黒崎さんのところで働いていて、帰国して2日後に黒崎さんに会うことになったんです。初対面だったけど、すぐに仲良くなって。面接だと思ってなかったから普通に楽しく話をして。『暇だったら一緒に小松に行こうよ』って誘われて何度かついて行くうちに、『ここに住んでいいよ』って(笑)。家もないし、お金もないし、仕事もなかったけど、ここなら新しい生活の拠点を作れそうだなと。それもいいかなって」

そんな縁で滝ケ原町に辿り着いた小川さん。先のことを何も決めずに旅をしていた頃から、「東京ではなく、地方で何か活動したい」という思いだけはあった。その思い通り、滝ケ原でゼロから自分で暮らしを作っていくことになったわけだ。

長年使われずに残っていた古民家に住みながら、見よう見まねで畑を耕し始めた。先生は隣の畑のおばあちゃん。滝ケ原の住民は自家消費としての野菜や米を収穫し、兼業農家として暮らしきた歴史があり、ほとんどの家のすぐ近くに畑がある。


古民家をリノベーションした「TAKIGAHARA FARM」の拠点となる母屋。広々とした土間ではイベントも開催できるよう、DJブースも完備。古さを存分に活かしつつ、人が集まれる場所へと生まれ変わった。

「1年目はかぼちゃの苗を植えて、隣の畑のおばあちゃんにいろいろ教えてもらいながら育ててみたら、採れすぎるくらい育ちました。秋にはネギを植えて冬になってお鍋にして食べた時、あまりのおいしさにすごく感動したんです。自分で作った野菜ってこんなにおいしいんだ! 農的な暮らしってこういうことなのかなって。

おいしいネギを作る人なんてごまんといるわけですよ。でも自分で作ったものを食べるというのはそれとは次元が違う。自分で手間暇かけて愛情注いだものを自分の体に入れて、それを噛み砕いて消化して、それをエネルギーにして生きる。そのことそのものが僕の中では革命だったんです。

でも、自分で作ったものを自分で食べるなんて、この町では当たり前のこと。今まで自分がしてきた消費と違って、種や苗を買うことは生産のための消費です。それをどれだけ増やせるかということが、これからのお金の使い方だと思っていて。一次産業は生きていく上でのベースラインだから、これからもずっと続いていく欠かせない営みで。お金の価値は下がるかもしれないけど、お米の価値は下がらない。米本位の世の中をこれから作っていきたいし、農のある暮らしをもっとやってみたい。そういう思いが生まれてきました」

そこで小川さんは、移住してすぐに、滝ケ原の住民が作った野菜の余剰分を買い取り、青山のファーマーズマーケットに出店するという企画を、小松市と一緒にスタート。実際に町の人から野菜を譲ってもらうことことで関係性もより密になり、次第に町の中に溶け込んでいった。

「約35年ぶりの新しい住民だったので、町の人にはもっとびっくりされるかなと思っていたんです。でもみなさん快く受け入れてくれた。応援してくれる方々がちゃんといるのは本当にありがたいし、心強い。おじいちゃん、おばあちゃんぐらいの世代の方が多いから孫みたい可愛がってくれるんです」

滝ケ原町の人から見た
「TAKIGAHARA FARM」の存在

2017年5月には、念願の「TAKIGAHARA CAFE」をオープン。大阪から遊びに来てくれた由岐中みうるさんも滝ケ原を気に入って住み始め、店長として務めたあと、現在は育児休暇中だ。

海外からのゲストたちが、日本の里山暮らしを体験してみたいと、わざわざここを訪れてボランティアとしてお手伝いをしながら長期滞在したり、2018年夏に米蔵を改装した民泊施設にもゲストが訪れている。

米蔵を改装した一棟貸切のゲストハウス「TAKIGAHARA HOUSE」。

小川さんが、滝ヶ原にやって来たことで、この小さな町に国内外からやってくる人たちが急激に増えたわけだが、町の人々の暮らしは変わったのだろうか?

「町の人は、カフェがオープンしたらすぐに遊びに来てくれました。コーヒー好きな人が多いからお茶しに。近所のおばあちゃんは〈TAKIGAHARA CAFE〉の“CAFE”って単語が読めなかったぐらいだったけど、遊びに来てくれましたね。ここができたことで町の人も『自分の行動が変われば自分の世界が変わる』ということに気づいてもらえたのかなって。自らカフェに足を踏み入れることもそうだし、そこにはきっと新しい出会いもある。そこから僕らが主催するイベントでごはんを出すようになったおじちゃんもいるんですよ」

ゲストハウスから歩いてすぐの場所にあるカフェ。夕方に訪れると、東京で活動する〈タイ料理教室おいしみ研究所〉の料理家みもっとさんをゲストに、イベントに向けてスペシャルディナーの準備が始まっていた。

進む高齢化と過疎化で町の存続が危ぶまれる中、どうにかしなければと滝ケ原の人々も考えていただろう。そんな時、こうして若い人たちが訪れる場所ができたことに、町の人はとても喜んでいるように感じた。

町で唯一の専業農家を営む川端淳一さんは椎茸農家。小川さんが滝ケ原に移住してからも様々な場面で手助けしてくれた良き応援者だ。カフェにも肉厚な椎茸を提供してくれている。

オープン時間より少し早く来て楽しそうに過ごしていたのは、カフェ常連さんの下坂さん(左)川端さん(右)。

「〈TAKIGAHARA FARM〉ができた時からイベントやらでなんでも協力してるんや。ここのカフェで使っている食材はだいたい町の人が、自分のとこで余ってるものを持ってきよる。自分は椎茸作っとるし、ここで使って欲しいがために来てみたら、使ってくれるだけでなく東京のシェフやいろいろな人を紹介してもらえてすごく助かってる。自分としては東京のファーマーズマーケットで売ってくれる以上に、東京からこっちに人が来てくれることで、ここにいながらいろいろなつながりができるし、その方がものすごい魅力だと思う」(川端さん)

もう一人、東京のロシア料理店でシェフとして働き、今は実家の滝ケ原町に住む下坂順毅さんもここができたことを本当に喜んでいる様子だった。

「ここに来てからというもの、いい出会いがたくさんありました。イベントがあるたびに東京から様々な人が来てくれるので毎回とっても楽しみなんです。ここにいれば人が来てくれますから、外に出なくても良くなりましたね。外国の方は滅多に来なかったんですけど、今は本当にたくさんの人が来てくれる。アメリカのポートランドやイスラエルからも人が来たり、国際色豊かでね。他の町の人からは『滝ケ原の奥に東京がある』って言われたんですよ(笑)」(下坂さん)

「TAKIGAHARA CAFE」がある建物は、誰も住んでいなかった一軒家だった。ここ数年は町内から人が出ていくばかりで、誰かがここに住み、カフェまでオープンするなんて誰も思ってもいなかった。空き家がそのまま朽ち果てていくのを待つだけだと思っていた町の人はさぞ驚いたことだろう。カフェの隣の民家もこれから改装し、来年にはホステルがオープン予定。宿泊者もさらに増え、賑わいを見せることだろう。小さな町に起きた大きな変化を、町の人たちは柔軟に受け入れてくれている。

この場所ができたことで
集まって来た人々

2018年12月15日にカフェで開催されたイベントは、少し早いクリスマスパーティ。年内最後のイベントとあって、町の人はもちろん、このイベントに合わせて東京や名古屋から帰省したという人や金沢から遊びに来た人など、多種多様な人たちが集まった。わざわざこの場所を目指してやってくる人たちに、距離はもはや関係なさそうだ。


広瀬治佳さんは名古屋から遊びに来た大学4年生。実家は小松市だが進学のため名古屋に暮らす。このカフェの存在は母親が教えてくれた。2019年からは宿泊施設に就職が決まっているが、このカフェでの働き方に興味を持って来たと話す。

「私はいつか地元の人と都市部の人が交わる場を作りたいなとずっと思っていたんです。たまたまここを知って来てみたら、私のやりたいことに近いなと思って。オーストラリアに留学していた頃、ファームステイをしていたんですが、そこは各国から来た外国人と農家さんが交わる場所で、お酒を飲みながらいろいろな話をして、自分の知らないことを知ることができたんです。そういう場所があるってすごくいいなと思って、将来自分でも作ってみたいなと。そういう場所で働いてみたいなって」(広瀬さん)

「TAKIGAHARA CAFE」や「TAKIGAHARA HOUSE」などの改装を手がけた建築家の野尻順滋さんと、ジュエリー作家のさやかさん。野尻さんは、イベントが開催されると小松市内から遊びに来てくれる。にぎやかで温かな空間を見渡しながら、楽しそうにみんなと話していた。

小松市が地元のさやかさんは、東京・表参道のCOMMUNE 2ndの「TOBACCO STAND」で働きながら、ジュエリー作家としても活躍。この日は、イベントに出店する作家として、また、イベントの準備段階からみんなをサポートするスタッフとしても参加。拠点は東京だけど、小川さんたちと一緒に遊んだり、イベントを企画したりと欠かせない存在。実際に、「TAKIGAHARA FARM」ができてから実家に帰ってくる回数が増えたという。

こうした都市から地域へと拠点を移して暮らす若者たちにとって、同じ感性の人々が集まれる場所があることはとても貴重なことだ。地元に帰った時には、ここに行けば誰かに会える、そんな安心できる場所にもなる。町の人にとっては外の人と出会える場所にもなる。人が集まれば、自然とゆるやかなつながりが生まれていく。小川さんがやっていることは、“ただ居心地のいい場所を作るだけ”と、とてもシンプルだ。彼が「地域おこし」という言葉を好まないのは、このプロジェクトは、地域おこしのためではないから、だ。

東京を拠点に活動するシンガーソングライターの〈BUOY〉のライブ。特別なクリスマスプレゼント。

「〈TAKIGAHARA FARM〉は、僕らのこれからのライフスタイルを根本から見つめ直そうというプロジェクトなんです。それが結果的に地域のためになるのかもしれない。カフェができてコーヒーを飲める場所ができたり、いろんな出会いがあったり。それが地域活性に“なっていた”というのが自然なことであって、それはあくまでも僕らにとって目的ではなく結果なんです。そこはいつも意識しています。
僕らは未来のためにやっている。もちろん、この町の未来にとっても、日本だけでなく世界にとっても、次の世代にとっても。いま日本の各地域が様々な問題を抱えている中で、この町だけが盛り上がればいいということではないですから」

カフェは誰でも来られる場所で常にオープンな場だからこそ、様々な人が多目的に訪れることができる。家族みんなで遊びに来たり、おばちゃんグループがお茶をしに来たり、同窓会などの集まりにも使ってくれる。小川さんが妻のしょうこさんと出会ったのも、このカフェだった。2019年1月に待望の第一子も誕生した。滝ケ原にはスタッフを含め、いきなり5人もの人口増となり、今では町民たちも大喜びだ。

「まさか滝ケ原に来て結婚するとは。海外を気ままに周っていた時はからこんな人生、想像していなかった。いや想像以上ですね(笑)」

流れに身を任せているようだが、常に自分の思いで動いて来た小川さん。時には黒崎さんのように導いてくれる人もいるし、祖父母のような世代の町の人が温かく見守ってくれている。地域に暮らす若者たちが小川さんを慕い、様々な人が集まってくる。だからこそ、小川さんはもっと自由に、さらに思いのまま、この滝ケ原という町で暮らせているのではないだろうか。

「このエリアをもっとおもしろく循環させて変化させていく」ことが、いまの小川さんの役割だ。「住む人が少しずつ増えて人口が減っていかないように。170人をキープしていきたい」と小川さん。彼一人の生き方が、町を少しずつ変え、きっとこれからも変えていくのだろう。

後編「土地に根ざして生まれる、人と人の、新たな関係」

都市と里山が交わる場所。 小さな町で、人を迎える。 【石川県小松市・滝ケ原町】
小川 諒さん おがわ・りょう/1990年、新潟県生まれ。立教大学に在学中、ITの会社にインターンとして勤務したが、大学を休学し千葉県富津市に移住。卒業後は富津市でコミュニティスペースを運営。仕事を辞めたことを機に、アメリカ・メキシコ周遊の旅へ。帰国後、石川県小松市滝ケ原町に移住。NPO法人ファーマーズ・マーケット・アソシエーションに所属しながら、TAKIGAHARA FARM、TAKIGAHARA CAFEを運営する。
(更新日:2019.01.31)
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