REPORT

岡山県・真庭市の暮らし体験記
《後編》森の中のMOMO工房へ

岡山県
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大阪でギター・ベースの製作とリペア工房「Gombo bass guitars」を営む松原哲也さん(まっちゃん)と、奥さんのほんちゃんの岡山県真庭市暮らし体験記《後編》。

にぎやかな夜があけ、静かにはじまった久世の朝。今日は「MOMO工房」という岡山県産の木材を使い家具を創作している元井哲治さん・恵子さん夫妻のもとへと向かう。

まっちゃんも、日頃から楽器製作やリペアの仕事で“木”には触れているけれど、まだまだ木材については分からないこと・知りたいことがたくさんある。

26年前、兵庫県西宮市からこの真庭市に移り住んだことをきっかけに「MOMO工房」を立ち上げ、まったくの素人から家具作家になった元井夫妻。四六時中、森の中で木材に触れながら、夫婦一緒に働き生活をしている。夫婦漫才だっておてのものだ。

“家具づくり”を通して知る、地域とつながりながら働き、生活すること。いつも夫婦ふたりで笑って過ごすための、目には見えない秘訣のようなものも一緒にどうぞ。
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久世の中心地から湯原の二川地区に向かい、ナビ通りに進んでいく。どんどん道がワイルドになってくるにつれ「本当にこの道であっているのだろうか……」と募る不安もぐびっと飲み込み、山の中へ森の奥へ。

約1時間ほど走り、少し急な山道をのぼると突如「MOMO工房」が現れた。

「あったぁー!」

まず、無事に到着したことでひと安心。車を降りて、思わず空気を吸い込む。ああ気持ち良い。たった一軒佇む木の家は、周りの緑と一体になり、うしろに広がる森への入り口のように、二人を迎えてくれてくれた。

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笑顔で迎えてくれた元井夫妻。愛猫のカエデちゃんも一緒に。

笑顔で迎えてくれた元井夫妻。愛猫のカエデちゃんも一緒に。

「ようこそ、いらっしゃい! さあ入って入って」と出てきてくれたのは、元井哲治さん・恵子さん夫妻。自宅兼ギャラリーになっているログハウスの中へ通してくれた。

恵子さん 「1990年に兵庫県の西宮から移り住んできました。私が35歳で、彼が40歳。キリがええでしょ?(笑)」

哲治さん 「それまでは、某大手メーカーに勤めていたんです」

恵子さん 「忙しいどころじゃなくって、体を壊す寸前まで働いてたね。仕事を辞めて、ハローワークに行ったら、とんでもない労働時間が発覚して問題になったくらい。子どもの顔をみることもほぼなく、朝から晩まで働きまくっていましたね」

哲治さん 「そういう労働環境を変えたかったのもあったんやけど、とにかく自然の中に住みたかった。『元井さんこんな物件出てきたで!』と不動産屋さんに連絡をもらえばその度に行って。このあたりのいろいろなエリアを巡って、20回くらいは通いました。大根畑にもいったかな(笑)」

恵子さん 「そうやったね(笑)。『う〜ん!もうひとつやなあ!』ってな。ここの土地は、新聞に載っていた不動産の広告で見つけたんです。あたり一面ずぅーっと天然の松林が広がっていたのが印象的で」

哲治さん 「通り道を作るためにユンボで木を伐っていたら、松の根っこの強さに驚いて。木材のこともなんも知らんかったから、すべてタダやと思っていたんです。あとから、高さ1メートルくらいのヒノキが1本約6千円すると知ったり……。よその都市から来たから、なんもようわからんままここの集落に入ってきて」

恵子さん 「今は、行政の移住サポートもあるけれど、私らの頃はほとんどなくて。つないでくれる人がいるなら、たとえ悪徳業者だろうがつながらないといけないと思ってた。どこの馬の骨かわからん者がぽっと来ても、土地を売ってくれるはずがないって必死やったな」

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ギャラリーと一体になった工房には、歴代の作品たちがところせましと並んでいた。

ギャラリーと一体になった工房には、歴代の作品たちがところせましと並んでいた。

まっちゃん 「そうなんですね。ここに越してくる前から木工品の制作はやっていたのですか?」

哲治さん・恵子さん 「いやいやいやいやいや〜」

恵子さん 「不動産屋さんには『トマトでも育ててみたらどうや?』って言われてました(笑)。最初は別荘にするつもりだったから、仕事のことは考えてへんかった」

哲治さん 「以前、2年半かけて恵子と二人で山小屋を作ったことがあったんです。小さい区画に作ったので、もう少し広いところに作ってみたいという想いがあって、ここに出会ったから、もう一度作ってみようかなと軽い気持ちで」

恵子さん 「だいたい3時間くらいかけて、ここまで通ったな。毎週になってくるとその時間がしんどくなってきて。そうしているうちに『もう住んでもええかなあ』って気持ちになってきた。アバウトな流れやったな」

哲治さん 「でも、ここに住むんだったら会社辞めなあかんでって言うてな」

恵子さん 「労働環境がさっき話したような状態だったから、ほんならもう辞めようやって。するっとな」

哲治さん 「ここで、どんな仕事をするのかはまったく考えていなかった」

恵子さん 「トマト農家には、あんまりときめかんかったけど、山小屋を作っている時に、ちょこちょこ棚やら小さい家具を作っていたりして。ある時、雑誌を読んでたら、木工科がある岡山の職業訓練校のことが詳しく載っていたんです。すぐに問い合わせました。『木工がええ! 家具作りや!』って(笑)」

工房の隣にある材料置き場。大雪の時、雪の重みで屋根がつぶれてしまった。

工房の隣にある材料置き場。大雪の時、雪の重みで屋根がつぶれてしまった。

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哲治さん 「その学校に1年通って技術を学びました。木工科には20人ほどいたけど、卒業しても3人ほどしか工房をもつ人はいなかった。今はもっと縮小しているんじゃないかな」

まっちゃん 「僕が通っていた専門学校もどんどん生徒が減っているみたいです。働いていた佐渡の工場も今はなくなってしまったから」

恵子さん 「そのあたりの危機は感じてる。私らが伝承していかなあかんなあって」

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きちんと整理された道具は100種類をこえる。哲二さんは、ひとつひとつの道具に役割があると教えてくれた。

恵子さん 「家具作りのはじまりは“木材”からやから、作りながら木に近づいていったら、自然と林業にも関わるようになって。そういうつながりが、真庭市にはたくさんあった。私たちが作りたいもののために木を伐ってもらうのではなく、訳あって伐られてしまったものを分けていただいているんです。そうやって、地域、林業家、製材所とつながっていくうちに、木の種類やこの辺りの山のことも知っていった。そうすると『この木を使って作ってみたい!』と思ってくるんよね」

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恵子さんお手製のお昼ご飯。地元の素材たっぷりの豚汁やおこわなど、あたたかい真庭の味が体に染みわたる。

恵子さんお手製のお昼ご飯。地元の素材たっぷりの豚汁やおこわなど、あたたかい真庭の味が体に染みわたる。

哲治さん 「最初はああでもないこうでもないって失敗しながら試作を繰り返して。3年経った頃に、はじめてオーダーをいただいたんです。子どもが通っていた小学校の先生が家庭訪問に来てくれた時、ここの家具をみて頼んでくれて。テレビなどを置くキャビネットだったんですが、実際に設置に行ったら20㎝くらい壁と隙間があいてしまって……指定の寸法通りに作っていったけれど、やっぱり自分で計りにいかないとダメだと知って。それからは注文いただいたら、お客さんの家に行って寸法を測って、環境や湿度も調べる。そうして木の種類を決めて、細かい調整を繰り返して納めさせていただく。注文いただいて、かたちのないものを作るのだから、その人が愛情をもって使ってもらえるように仕上げたいんです」

まっちゃん 「そうですよね。佐渡の工場で働いている時は、塗装の担当やったんです。工場やったし、細かいパーツごとに担当分けされていて。楽器のボディができあがって、塗装まで仕上げたものを、そのまま東京に送って終わり……とか。ピックアップをつけたり、組み込んだりっていう最後の細かい調整をしてお客さんに届けることはできなくて。誰のために作っているのかよくわからなくなった時もあった。工程の一部だけで、同じものを何本も何本も作るのが仕事。最後までお客さんの顔をみて完成させることはできなかった」

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今回の宿泊先でいつものリペア仕事を。ナット交換という作業中。

今回の宿泊先でいつものリペア仕事を。ナット交換という作業中。

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恵子さん 「うちは、注文から納品まで2年以上かかるから“お客さん”というか“友だち”みたいな関係になっていくなあ。あと、大きな家具屋さんがやるようなコーティングはやっていないから、春夏秋冬それぞれの季節によって木が動いていく。楽器もそうだと思うけれど、『木は動いていくものなんです』ってきちっと説明することが大事だと思う。そうすればお客さんも安心して変化を受け入れられる。楽しんでもらえたりもする。納品が仕上がりじゃなくて、使ってもらって仕上げてもらう感じかな。手をかけると美しくなるから。みなさんの手です、仕上げてくれているのは」

哲治さん 「それを楽しんでもらいたいんよね。注文受けてぽっと作れるわけではないから。注文まで1年ほど、そのあと制作に1年ほどだから2年は待ってもらわないと届けられへん。それぞれ椅子を作る人、棚を作る人って役割も分けないで、ひとつの作品をふたりで作るようにしているんです」

恵子さん 「ほぼ毎日、夫婦で一緒に動いています。私たちは仕事のことだけでなくて、地域の行事にもいろんな場所に出かけていくんです。どちらか一人が作業している間に、もう一人が出かけるのではなく。2人で出かけて、2人で帰ってきたら『よっしゃやるか!』って始めるから。ぜんぜん違う場所に行っていても、作っている家具のこと思い出して『あそこ、ああせえへん?』『こういう形にしてもええな』って話しているんです。行き詰まっていたものに対して、いいアイデアに出合えたりする。だからどこに行っても四六時中ミーティングしているみたいなもんで。『二人いつも一緒で仲ええですねえ〜』って言われるけど、便利なだけ!(笑)ぽこっと思いついた話しもできるしね」

1994年に発売された『ウッディライフ』(山と渓谷社)より、元井さん夫妻の記事。その笑顔は今と変わらない。これまでずっとふたり一緒に歩んできたのだ。

1994年に発売された『ウッディライフ』(山と渓谷社)より、元井さん夫妻の記事。その笑顔は今と変わらない。これまでずっとふたり一緒に歩んできたのだ。

ほんちゃん 「いいですねえ。私は何もできないから、まっちゃんの工房にもほとんど行ったことなくて」

恵子さん 「行ってみるだけでもいいし、掃除でもなんでも手伝うともっと楽しいはず」

ほんちゃん 「ゼロから始めんとな! 専門的なことはまったくわからないけれど、作ることに興味はあるし、家具や木工も好きだから、こういう現場に触れてみると楽しいですね」

恵子さん 「そのうち、旦那さんより腕が上がるかもよ。私みたいにな。ははははは〜!  真庭の木でも楽器を作ってほしいなあ」

まっちゃん 「僕はエレキギターやエレキベースを作っていますが、使っている木材はアルダーとかアッシュとか。外国のものが多いですね」

哲治さん 「国産の木材だと、硬さがまた違うもんな」

まっちゃん 「アッシュ素材の上に、クロガキとか木目が美しく出る木材を貼って作るのが最近ふえてきていて。でも、そういう木材を仕入れるルートがなかなかむずかしくて。価格も高いし」

哲治さん 「このあたりの約2割がサクラやケヤキなどの広葉樹で、『雑木(ざつぼく)』と言われるものなんです。あとの8割がスギやヒノキの針葉樹で収入林になる。最初は針葉樹を買うて使っていたけど、僕ら広葉樹が好きやからゆうて、木を自分たちで仕入れるようになってからネットワークが広がってきたかな」

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元井夫妻がいつもお世話になっているという、藤井製材所へ。農家も営む藤井さんは「これは趣味のようなものだから」と笑っていた。

元井夫妻がいつもお世話になっているという、藤井製材所へ。農家も営む藤井さんは「これは趣味のようなものだから」と笑っていた。

_dsc4992恵子さん 「松原さんは、きっとこれから周りとの関係を作っていくのでしょう?」

まっちゃん 「そうですね。工房にこもって仕事しているだけだと、新しいつながりはもてないから」

恵子さん 「地元にあるものや暮らしている人たちと、自分たちが“できること”でつながっていったから、今の『MOMO工房』があるんやないかな。大きな家具屋ではできないことが、小さいからこそできる。これもひとつ、地方であることのメリットやね。冬になったらごっそり雪ふるし、大変なことも多いんやけどね」

哲治さん 「でも、家の周りに10センチでも積もったら除雪車がきてくれます。ぎょうさん朝から晩まで降る日は、1日に4回くらい来てくれたりしますよ。この一軒のために。小さくても自分たちなりにこの地域で動いているから、それを見ててくれているのかなって。応えてくれてはる」

恵子さん 「外に出ていったら、いろんな人がいるし、うまくいかないこともあるけれど、それを“うっとうしいなあ”と思うんやなくて、楽しめる人はこういう暮らしがあっていると思います。情報もたくさん入ってくるし。おもしろいですよ。雪道はやっぱり怖いけど!」

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まっちゃん 「ここに来るまでは、自分の周りにある製材所とか調べてもみなかった。でもお二人の話聞いていると、探せばあるやろうし、どんどん調べて自分で行ってみたい。近所に家具とか作っている木工所があって、同世代の人がやっていると思うんやけど、チラって見て素通りするだけ(笑)。今は特に交流がないけど、木材の仕入れとか『こんなことできませんか?』って相談にいくだけでもおもしろそうやな。時間はかかるかもしれないけど、自分なりにやっていきたいと思います。MOMO工房さんにもまた近々遊びに来ていいですか?」

哲治さん・恵子さん 「もちろん。いつでも遊びにきて! まっだまだ見せたいもの話したいこといっぱいあるからな」

まっちゃん・ほんちゃん 「おお〜! ありがとうございました!」

 

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MOMO工房 
1991年に設立された創作家具工房。木工作家の元井哲治さん、元井恵子さんが手がける地元の木を使った家具は、すべてオーダーメイドで作られている。また、廃校になった学校の体育館を使い「家具づくり塾」も行い、木に触れること、家具づくりの魅力を伝えている。http://www.d1.dion.ne.jp/~kagumomo/

 


編集協力:岡山県真庭市
真庭市移住・定住推進サイト http://i-maniwa.com/

写真・加瀬健太郎 文・菅原良美
岡山県・真庭市の暮らし体験記 《後編》森の中のMOMO工房へ

松原哲也さん
1984年、大阪府生まれ。ギタークラフト職人。楽器の製作やリペアを行う、工房「Gombo bass guitars」代表。大学卒業後、ギタークラフトの学校へ入学。卒業後大手エレキギター・ベースの製造工場へ入社。退社後、会社員とリペアマンの兼業期間を経て、2014年6月に独立した。

(更新日:2016.12.14)
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