特集 暮らし体験記

島と都市をつなぐリアルな暮らし方・働き方を体感。「島&都市デュアル暮らし体験ツアー」レポート

今年9月にスタートした、兵庫県神戸市・芦屋市・淡路市・洲本市の4市合同による新しい移住促進プロジェクト『島&都市デュアル』。海をはさんでほぼ隣接する4市をひとつの地域圏ととらえ、文化的要素が集まる都市エリアと、豊かな自然環境に囲まれた島エリア、両者を行き来しながら、それぞれの魅力を“いいどこどり”したライフスタイルが実現できる場所として、その魅力を東京や大阪などの大都市に発信しています。

同時にオープンしたWEBサイト「島&都市デュアル 暮らしツアーズ」では、“デュアル”な暮らしを実践している人を紹介したり、“いいとこどり”のライフスタイルを体感できる旅ツアーも企画。実際にツアー内容を考えるのは、この土地で暮らす市民が中心となり行われるということ。

このプロジェクトに参加する市民の方々が「暮らしナビゲーター」となり、地域の魅力、リアルな暮らしぶりを伝えるためのオリジナルツアーを作っていきます。

来年の本格始動に先立ち、モデルツアーとして12月9〜10日に行われた「デュアルな暮らし特別体験ツアー」に、雛形編集部も同行取材! 地方の暮らしに興味がある参加者と一緒に、〈子育て・スタートアップコース〉〈地域コミュニティ堪能コース〉〈こだわり島暮らしコース〉の3コースの中から、淡路島を中心に巡る〈こだわり島暮らしコース〉に参加しました。

写真・熊谷直子 文・木下美和

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島で暮らす人たちが口々に語る、

まっすぐな“淡路愛”

好天に恵まれた初日、〈こだわり島暮らしコース〉のバスは新神戸から淡路島へと出発。「海や山、森や畑など自然に恵まれた環境で、やりたいことに集中しながら心身ともに健康的に暮らしたい」「その土地ならではの仕事で地域に貢献したい」といった、島エリア(洲本市・淡路市)を生活拠点にして、週末は都市エリア(神戸市・芦屋市)で遊ぶ、というライフスタイルをモデルにしたこのコース。参加者は、関東から5名、関西から2名、計7名が集まりました。

出発後、まもなくして明石海峡大橋にさしかかると、目の前に広がる大パノラマの海の景色に全員釘付け! ついさっきまでいた都市のビル群がどんどん小さくなり、島の山々が見えてくると、いよいよ始まる旅の実感が湧いてきます。

島へと向かう道中のバスで行われた自己紹介では、参加者それぞれが、このツアーに参加したきっかけや楽しみにしていることを話す時間になりました。

20年前から移住に興味を持っていたという京都府在住の真鍋さんは「将来的に目指している農のある暮らしの参考にしたい」と、今回のツアーで訪ねる自然農園での収穫体験&座談会に惹かれて参加。一方、半数の人は、まだ具体的なイメージはできていないものの、いつかは都市以外の場所で暮らしたいという想いを持った人たち。そのうちの1人、埼玉出身の濱本さんは、「今年に入ってからさまざまな土地を訪ね、自分が住んでみたいと思う場所や暮らし方のイメージを広げています。“島”という響きに惹かれたのも参加のきっかけ。実際どんなふうに都市生活と違うのかを体感してみたい」と、島の各所を巡るツアー内容に期待を膨らませていました。

自然と共存する暮らし、島文化、働き方、地域貢献など、各々注目する視点は違えど、移住への関心が高い7名のメンバーが集まった〈こだわり島暮らしコース〉。いわゆる観光旅行では知り得ない、現地で暮らす人のリアルな暮らしぶりを見聞きできるのは、「暮らしツアーズ」の旅ならではの醍醐味です。

それぞれの思いを乗せたバスは、洲本市へ! 2日間の旅がはじまりました。

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まず最初に向かったのは、古民家を改装した趣のある「農Cafe 八十八屋」。店主の延原直樹さんが迎えてくれました。延原さんは奥さんとともにそれぞれ都市部で飲食店経験を積み、4年前に地元・洲本市にUターン。

「十数年ぶりに淡路に戻ってきた時、ここで採れる野菜のおいしさにあらためて感動して、このおいしさを広めていけるような店を持ちたいと、今の店を開業しました。淡路島はすばらしい食材の宝庫。地元農家さんと島内外の人をつなぐ店になれたらと思っています」

カフェの仕事の傍ら、淡路島の生産者や土地の魅力を発信するフリーペーパーも自主制作している延原さん。溢れんばかりの地元愛は、メニューの一品一品に色濃く映し出されていました。

洲本の農家からとれたての野菜を直接仕入れ、目と舌で楽しめる地産料理を作り出す延原さん。ぎゅっと味が凝縮した野菜は、スーパーに並ぶ野菜とはひと味もふた味も異なる逸品。

洲本の農家からとれたての野菜を直接仕入れ、目と舌で楽しめる地産料理を作り出す延原さん。ぎゅっと味が凝縮した野菜は、スーパーに並ぶ野菜とはひと味もふた味も異なる逸品。

「花岡農恵園」の代表・花岡明宏さんは、各地で農業研修を積んだ後、2004年に生まれ育った淡路島の実家に戻り、有機農業で田畑を一から開墾。毎年研修生を受け入れ、淡路島での農業や農のある暮らしの豊かさを伝えています。

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右が代表の花岡明宏さん、左は研修生の神山さん。神山さんは今年4月に洲本市に移住し、花岡さんのもとで有機農業を勉強中。

「私たちのように有機農業での専業農家は、利益や収入のことを考えると正直しんどい部分もある。でも、自然と人が循環して生きていく本質的な豊かさを築いていけるのが、ここの魅力。自然の恵みを生かして、家族や子どもが安心して食べられるものを自分で作り、おいしくいただく。こうした農業を通じて地域の人と繋がり、それぞれができることを補い合いながら、地域で循環する仕事を生み出していきたい」

淡路島には大学がないため、高校を卒業すると多くの若者が島外に出て行ってしまうそう。一旦島を離れた若者たちが、故郷で暮らしたい、農をなりわいにしたいと思える土地の姿を目指し、実直に取り組む花岡さんの生き方に、私たちは深く心を打たれました。

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神戸市出身の陶芸家、西村昌晃さんは、5年前に祖母の家があった淡路島に移住。工房と共に、自身の作品を販売するギャラリー&カフェを併設した「樂久登窯(らくとがま)」を構え、淡路の土を使い、顔の見える身近な人に向けた器づくりに励んでいます。

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「淡路に来てから、器をつくる量は増えたのに働く時間は半分で済むようになった。自然の多い淡路は身近なところで陶土や釉薬の木灰などが豊富に手に入るし、売り方も都市部の百貨店やギャラリーではなく、窯の横に建てたギャラリーで自分で売る形に変えたから。残った時間で工房を訪ねて来てくれる人と話しができたり、作陶以外の畑仕事や地域の活動に参加したり。地域に暮らす人全員が大きな家族のように、お互いを自然と助け合える風通しの良さもここの魅力。毎日がとてもおだやかで、幸せです」

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工房に併設したカフェは、西村さんのお姉さん(右)とお母さん(中央)が切り盛りしている。

夜も更け、1日目の〆は洲本のディープな飲み屋巡りへ! 案内してくれたのは「島&都市デュアル暮らしツアーズ」の編集長、通称“トミー”こと富田祐介さん。7年前に神戸市から淡路島に移住し、淡路の衣・食・住、人のネットワークを活かした企画やコーディネートを行っています。洲本市に暮らし始めてから、ほぼ毎晩飲み屋をはしごしては、そこで出会う地域の人とのコミュニケーションを楽しんでいるそう。

この日は、いずれも富田さん行きつけの居酒屋、立ち飲み屋、隠れ家バーの3軒をはしご。酔っ払いながらも、「淡路島には、まわりの人を幸せにしてくれる人がたくさんいるんです〜」と、素敵なコメントを話してくれました。

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飲み屋巡りの1軒目に訪れた居酒屋「ほのか」の大将。旬の地魚を使った一品料理が豊富で、地元の常連さんが仕事帰りに集う憩いの場。

飲み屋巡りの1軒目に訪れた居酒屋「ほのか」の大将。旬の地魚を使った一品料理が豊富で、地元の常連さんが仕事帰りに集う憩いの場。

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洲本の素敵な飲み屋巡りを案内してくれた富田さん(中央)。ツアーメンバーとも次第に打ち解けて会話が弾み、あっという間に夜は更けていった。

洲本の素敵な飲み屋巡りを案内してくれた富田さん(中央)。ツアーメンバーとも次第に打ち解けて会話が弾み、あっという間に夜は更けていった。

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あっという間に過ぎた1日を振り返り、「すでにもう1度会いに行きたい人や場所ばかり!」と、再訪を心に誓うメンバーも。“地方暮らし”の将来像があこがれから現実的な姿へと一歩近づいた人、今の都市での暮らしとのギャップにモヤモヤする気持ちが生じた人、参加メンバー全員が、“地方暮らし”の形について思いを巡らせる日でした。

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2日目は、宿泊先の目の前に広がる大浜海岸で散策を楽しんでから、バスに乗り込み、洲本市から淡路市へと出発。まず訪ねたのは、「NPO法人 淡路島活性化推進委員会」です。

話しを聞かせてくれたのは、﨏竜太さん。淡路島の生産者と都市部の流通をつなぐ活動を行なっている同会に、立ち上げメンバーとして参加するため、7年前に東京から淡路島へと移り住んだ方です。

「仕事のご縁でたまたま住むことになったのですが、あまりにも食べるものがおいしくて、そのうえ親切な人が多く、すっかり離れられなくなりました。仕事は忙しいけれど、東京で働いていたころとは全然違う。通勤や残業の余計なストレスがないし、オンオフがはっきりしているんです。自分が淡路島に惚れ込んだように、島の豊かな資源を、都市部の人に広く知ってもらいたいですね」

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ツアーで訪れた各所で、UターンやIターンで淡路島に移り住み、島でのなりわいをつくっている人々と交流。さまざまな島暮らしの形を見たメンバーが口を揃えて印象的だったと語るのは、出会った人それぞれの地域に対する誇りと、地に足のついた暮らしぶり。少しの気負いもなく「今が幸せ」と語る自然体のライフスタイルに、強い憧れを抱きました。

自分ならどう暮らすか——。
ツアーを通して見えてきた、
地方暮らしの輪郭

2日間の行程を終え、ツアー参加者のみなさんには初日とは異なる心境の変化が現れていました。特に都市部からの参加者が多かったこともあり、自然や人との繋がりがしっかりと生活のベースになっている島での暮らし方・働き方は、慌ただしい都市での生活に疑問を抱くきっかけになったようです。

「島暮らしはどこか浮世離れした気がしていたけれど、現実感がわいた。本来生活を営む場所は、島で見た方があるべき姿だという気がしてきた」「自分がこれまでやってきたことを島で生かせるかもしれない」「都市と島との行き来のしやすさが体感できた。自分は都市に通って仕事をするスタイルが合っているかも」など、それぞれ“自分ならここでどう暮らすか”という具体的なイメージを描き、将来の暮らし方のヒントを見出していました。

ツアーの最後は、3コースの参加者と、今後旅を企画する暮らしナビゲーターのみなさん、4市の市役所の方々が一堂に介し、シェアリングパーティーが開催されました。ツアー中に撮影した写真をスライドで映しながら、各コースの旅の思い出や気づきを振り返り、共有。さらに、暮らしナビゲーターのみなさんからは、今後行われるツアーの一部も発表されました。

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〈子育て・スタートアップコース〉の一部をアテンドした暮らしナビゲーターのひとり、保育士起業家・小笠原舞さんは3年前に東京から神戸市に移住。都市と自然の両方をコンパクトな距離感で楽しめる神戸の暮らしにすっかり魅了されているそう。

「神戸市は都会的なイメージが強いですが、下町のような人と人の繋がりが濃い一面があります。子どもからお年寄りまで世代を超えて交流できるコミュニティスポットがあったり、地域全体であたり前のように手を差しのべる環境があったり。車やバスを使えば、数十分で自然豊かな淡路島でレジャーを楽しむこともできます。子育て中のご家族にぜひおすすめしたい場所。来年のツアーでは、小さなお子さん連れでも気兼ねなく参加して楽しんでもらえるプログラムを計画しています」

暮らしナビゲーターの小笠原舞さん(左)と、〈子育て・スタートアップコース〉に参加した高島さとなさんと、5ヶ月になる娘のさとこちゃん。高島さんは小笠原さんが東京にいた頃からの友人。小笠原さんから神戸の住みやすさの話を聞き、ツアーに参加したそう。

暮らしナビゲーターの小笠原舞さん(左)と、〈子育て・スタートアップコース〉に参加した高島さとなさんと、5ヶ月になる娘のさとこちゃん。高島さんは小笠原さんが東京にいた頃からの友人。小笠原さんから神戸の住みやすさの話を聞き、ツアーに参加したそう。

3年前に淡路市に移り住んだ暮らしナビゲーターの高木さん。淡路島に滞在する外国人との交流を楽しむツアーを企画中とのこと。

3年前に淡路市に移り住んだ暮らしナビゲーターの高木さん。淡路島に滞在する外国人との交流を楽しむツアーを企画中とのこと。

ツアー1日目の飲み屋巡りをアテンドしてくれた富田さんは、「淡路島で出会った人との縁が、今の生活や仕事と深く繋がっています。僕が伝えたいのは島で暮らす人の魅力。地元の人や、自分のように移り住んできた移住者の仲間たちと、ざっくばらんにじっくり話ができる呑み会ツアーを企画しています」と話してくれました。

まだまだ会わせたい人、行ってほしいお店や場所がたくさんある!と語る富田さん。心底惚れ込んでいる淡路島の魅力を今後も発信していきます。

まだまだ会わせたい人、行ってほしいお店や場所がたくさんある!と語る富田さん。心底惚れ込んでいる淡路島の魅力を今後も発信していきます。

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今回のモデルツアーを踏まえ、来年1月からはいよいよ4市の暮らしナビゲーターのみなさんによる旅企画がスタート!

地域の人の視点で編集された暮らすように巡る旅は、これから移住を考えている人にも、そうでない人にとっても、新しい暮らしの形を考えるヒントが見つかるはず。ぜひこれからはじまる「島&都市デュアル 暮らしツアーズ」をお見逃しなく!

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(更新日:2017.12.29)
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気になるあの街で、試しに暮らす、行き来してみる。自分の体で土地の空気を感じ、地元の人と触れあえば、移住のイメージはもっと膨らむはず。
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