特集 地域で暮らしを
つくる人の声を聞く時間

暮らしかた冒険家・伊藤菜衣子さん、建築家・竹内昌義さん、ASIANKUNG-FUGENERATION・後藤正文さんの考える、これからの“オフグリッド”な暮らし方

地域の未来を見据え、働き、住まい、これからの暮らしを考える。

渋谷ヒカリエにある「d47 MUSEUM」で開催中の展覧会NIPPONの47人 2017 これからの暮らしかた —Off –Grid Life—(〜10月9日(月・祝))のキュレーターである、建築家の竹内昌義さん、暮らしかた冒険家の伊藤菜衣子さん、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんの3人が選んだ47都道府県のキーパーソンたちは、そんな「これからの暮らしかた」を実践している人たち。

過疎化、人口減少、エネルギー問題……これからの日本は問題が山積みだけど、悲観的な未来をただ待つのではなく、リアルな未来を、自分たちでつくっていく。そんな風に地域でしなやかに動く47人から、そのヒントが見つかるかもしれません。
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“暮らし”と“建築”って実は近い

展覧会のキュレーターのひとりである建築家の竹内昌義さんは震災後、エネルギーの約3分の1を、建築物内の空調などで消費しているという事実を知ったといいます。

「建物の性能を上げれば、原発はいらなくなるはずだと考えたんです。それで断熱性能を上げることで、太陽光発電の電気だけで一年間暮らしていける家(エコハウス)を山形に建ててみたんですが、省エネだけでなく、快適性も手に入れることができるとわかったんです。それ以来、エネルギーと建築を一緒に考えるようになりましたね」

建築家、東北芸術工科大学教授である竹内昌義さん。『図解エコハウス』『原発と建築家』『日本のカタチ2050』『あたらしい家づくりの教科書』など著書多数。

「みかんぐみ」共同主宰、建築家の竹内昌義さん。書籍『図解エコハウス』『原発と建築家』『日本のカタチ2050』『あたらしい家づくりの教科書』など著書多数。

そんな竹内さんの作ったエコハウスの快適さを体験し、札幌にある自宅を改修して、自らもエコハウスを工務店とのコラボで実現した伊藤菜衣子さんも、まさに“暮らしかた”そのものを根本から考えているひとり。夫婦で写真撮影、ウェブの編集や広告制作などの仕事をしながら、仕事の対価を貨幣以外の物や技で交換する「物技交換」などを実践し、「暮らしかた冒険家」としてさまざまな取り組みをしています。

広告制作を生業とする傍ら、暮らしにまつわる常識を再構築する冒険中の、伊藤菜衣子さん。2017年初監督作品映画「別れかた暮らしかた」や、自分たちで貯めたネタを自分たちで編集し売っていく本『暮らしかた冒険家「#heysapporo」』も発行している。

広告制作を生業とする傍ら、暮らしにまつわる常識を再構築する、伊藤菜衣子さん。2017年初監督作品映画「別れかた暮らしかた」や、最近では、自分たちで集めたネタを自分たちで編集し売っていく本『暮らしかた冒険家「#heysapporo」』(1300円)も発行。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文さんも、ミュージシャンでありながら、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞『THE FUTURE TIMES』を編集長として発行するなど、日本全国に自ら足を運んで、そこにある問題から目をそむけることなくメッセージを発信しています。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける、後藤正文さん。新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞『THE FUTURE TIMES』を編集長として発行するなど、 音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目されている。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギターであり、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける、後藤正文さん。音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目されている。

そんな新しい未来を考えて活動している3人が集まり選んだ、各都道府県で「これからの暮らしかた」を実践している47人の活動内容が、現在「d47 MUSEUM」で展示・紹介されています。今回は、三者三様の立場で考える「これからの暮らし」とは何なのか、3人によるトークのなかから探ってみます。

ご機嫌にイノベーティブに!

47都道府県で活動する人やプロジェクトや会社など、彼らのユニークで独自な取り組みを紹介するにあたり、まずはどういう基準で選ぶのかを決めたといいます。その選定の基準は以下の4つ。

1.その土地にあるものを活用している
2.しなやか、柔軟、イノベーティブである
3.活動が広まるほど地域経済が循環し、豊かになる
4.楽しそうに、ご機嫌にやっている

その土地で生まれた事業や活動であることは、その土地の資源を有効に活用していることが前提。また、「こうであるべき」「こうであるはずだ」という縛りから解き放たれ、柔軟な考えのもと、イノベーティブな活動をしていることも大事だと考えているそう。

そして、続けていくためには経済的な価値を求めることも必要だといいます。

今回の展覧会のメインビジュアルは、キュレーターの3人が双眼鏡を持って、未来を覗いてるイラストだ。この展覧会に登場する47人の活動がスタンダードなる未来になるようにとの思いを込めた。

今回の展覧会のメインビジュアルは、キュレーターの3人が双眼鏡を持って、未来を覗いてるイラストだ。この展覧会に登場する47人の活動がスタンダードなる未来になるようにとの思いを込めた。

「活動が広まるほど、地域の経済をまわしていくのは当たり前のこと。そうじゃないと資本主義経済のなかではうまくいかないし、広まれば広まるほど、みんなが豊かになることは悪いことじゃない。儲かっちゃいけないんじゃなくて、儲けた先に新たな提案があることのほうが大事だと思っています」(伊藤さん)

そして何よりユニークなのは「楽しくご機嫌にやっている」ことも基準のひとつだということ。

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「楽しそうにご機嫌にやってるのが一番かなと。社会にいいことしてるって言いながら、顔が暗くなってるのはちょっと違う。幸せな未来を目指してやってるんだから、活動する過程もそうであってほしいなと思っています。結局ものごとって、その人の背中とか、バイブスから伝わるものだから、『こうしなくちゃいけない』って縛られているよりも、『アイツたのしそうだな、おれもやってみようかな』と思えるような活動であってほしいなって」(伊藤さん)

 

規制から自由になる暮らしを目指す
“オフグリッド”という考え方

この展覧会のもうひとつ大きなテーマでもあるのが「オフグリッド」という考え方。そもそも「オフグリッド」とは、電力網を指す「パワーグリッド」から派生した言葉で、従来の電力網に頼らずに、電気を自給することを意味します。

そしてそこから、「電気」だけでなく、今の暮らしのなかにあるあらゆる“縛り”から解放され、自由に自立して生活するライフスタイルやムーブメントまでを含む言葉になりつつあります。

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社会のなかには、規制から外れて自由にできることが、電気以外にもたくさんある。たとえば、街の使い方もそう。使っちゃいけないといわれる場所、つまり公園などの公共のエリアにはいろいろな規制があるけれど、そこを外れていくと、いろんなことができるかもしれない。それは土地だけでなく、食や仕事など、暮らしにおけるいろんなものにも応用できる考え方だと思います」(竹内さん)

音楽にももちろん電気は欠かせません。楽器もスピーカーも照明も、あらゆるものに電気が必要。けれど、そのなかで後藤さんは、オフグリッドで楽器を鳴らそうとしているのだといいます。

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「僕もオフグリッドについては、音楽の現場でずっと考えてきました。パソコンで音楽を作ることもそうですが、音楽もグリッドに縛られていることが多くなっているんです。グリッドを指定すれば、音程もテンポも一発でそろう。でもそうすればするほど、音は堅苦しくなっていくんですよね。グリッドってきっと、生活中に張り巡らされているんだろうなって思いますね。だからこそ、そこからどうやって自由になるかという意識が今、だんだん高まってきているんだろうなって思います」(後藤さん)

 

47人のユニークな活動が
“普通になる未来”に

ユニークな活動で注目される47人が登場するこの展覧会では、彼らの働き方、暮らし方を紹介することで、これからの暮らしかたの見本を提示しています。そしてキュレーターの3人は、未来の暮らしを考えるには、まず自分の暮らしを起点に考えることを提案しています。

長野県の出展者である東野唯史さんが主宰する「リビルディングセンタージャパン」のコーナー。捨てられていた古材に新たな価値を見い出して販売。古材を次の世代につないでいく活動だ。

長野県の出展者である東野唯史さんが主宰する「リビルディングセンタージャパン」のコーナー。捨てられていた古材に新たな価値を見い出して販売。古材を次の世代につないでいく活動だ。

「47都道府県を網羅しているとはいえ、とても局地的なことで一般化できない取り組みだったりするかもしれません。でも、あくまでもひとつの例として、こんな活動もあるんだと知ってもらうことから始まると思っています。きっかけは、自分の暮らしの近くにあるんだということに気づいてほしい。たとえば、食べるものを変えてみる。自分の聞いてる音楽はどうやってできているのか考えてみる。そこからまずは始めてみてほしいですね」(後藤さん)

それはたとえば、自分のまわりにある耕作放棄地を使って小さな農園を始めてみることだったり、取り壊した建物からもらった古材を売るリサイクルショップだったり、行政で働きながら国有地を使って新たなコミュニティスペースを作ることだったり……。47人が取り組むさまざまな活動は、そこに暮らすからこそ見えてくる問題を解決する、ひとつの糸口になりそうです。

宮崎県の「渚の交番青島プロジェクト実行委員会」の事例。宮崎県青島の行政が管理している土地を利用し、海洋コンテナを使った飲食店などの、新しいコミュニティの拠点を作り、魅力的な施設に生まれ変わった。

宮崎県の「渚の交番青島プロジェクト実行委員会」の事例。宮崎県青島の行政が管理している土地を利用し、海洋コンテナを使った飲食店などの、新しいコミュニティの拠点を作り、魅力的な施設に生まれ変わった。

「エコハウスみたいに、これからの暮らしのなかで、普通になったらいいなと思う活動をしている人たちが日本全国にいるんです。そして、彼らはそれを楽しんでやっている。私は、これが普通になってほしいし、これが普通の未来になるといいなと思っています」(伊藤さん)

地域から始まる、これからの暮らし。それは、それぞれがアイデアを出し合って、一つひとつ実践していくことから始まります。未来は急に変わるものではなく、いまの延長線上にあるもの。未来のスタンダードは、今を生きる私たちがつくっていくものなのです。

近日開催される、
「これからの暮らしかた展」関連イベント

Off-Grid Life Lecture & Talk

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9月9日(土)

Lecture1 わざわざ行く店

時間:11:30-13:00(開場11:00)
講師:渡邉麻里子(タルマーリー)× 宮本篤(USHIO CHOCOLATL
聞き手:伊藤菜衣子 × 竹内昌義

Lecture2 ゴミをいかして未来をつくる

時間:15:00-16:30(開場14:30)
講師:東野唯史・華南子(ReBuilding Center JAPAN)× 野原健史(のはら農研塾
聞き手:伊藤菜衣子 × 竹内昌義

Lecture3 まちの空気をつくる小商い

時間:17:30-19:00(開場17:00)
講師:本郷紘一(SENDAI COFFEE STAND)× 立道嶺央(POMPON CAKES
聞き手:聞き手 伊藤菜衣子 × 竹内昌義

9月10日(日)

Lecture4 これからの暮らしかたって何だ?

時間:11:00-12:30(開場 10:30)
講師:田中辰幸(ツバメコーヒー)× 小倉ヒラク(発酵デザイナー)
聞き手:聞き手 伊藤菜衣子 × 竹内昌義

Lecture5 可能性を見つめ直して仕事をつくる

時間:14:30-16:00(開場14:00)
講師 森下静香(Good Job! Center KASHIBA)× 阿部裕志(巡の環
聞き手 伊藤菜衣子 × 竹内昌義

Lecture6 快適でかっこいい、家づくり最前線

時間:17:00-18:30(開場 16:30)
講師:佐藤欣裕(もるくす建築社)× 高岡文紀(アーキテクト工房Pure
聞き手:伊藤菜衣子 × 竹内昌義

10月7日(土)

Lecture8 宿がつくる、まちのグルーヴ

時間:16:00-17:30(開場 15:30)
講師:宮本吾一(Chus)× 塩満直弘(萩ゲストハウスruco)× 遠矢弘毅(Tanga Table
聞き手:伊藤菜衣子 × 竹内昌義

10月8日(日)

Lecture9 水辺を考えると、暮らしが豊かになる

時間:11:30-13:00(開場 11:00)
講師:泉英明(水都大阪有志チーム)× 臼本隼也(渚の交番青島プロジェクト実行委員会)
聞き手:聞き手 伊藤菜衣子 × 竹内昌義

Lecture10 食べものと流通

時間:14:30-16:00(開場 14:00)
講師:野口勲(野口種苗研究所)× 藤田和芳(大地を守る会
聞き手:伊藤菜衣子 × 後藤正文 × 竹内昌義


キュレータープロフィール

SaikoIto伊藤菜衣子 (暮らしかた冒険家)

広告制作を生業とする傍ら、暮らしにまつわる常識を再構築する冒険中。築100年空き家期間17年の熊本市の廃墟をセルフリノベーションした「弊町家」、ギャランティの支払いに通貨以外の選択肢をつくる「物技交換」などを試みる。「君たちの暮らしはアートだ」と坂本龍一ゲストディレクターに指名を受け、札幌国際芸術祭2014にて札幌に引っ越して暮らす「hey,sapporo」を発表。2017年初監督作品映画「別れかた暮らしかた」を発表。編集と一部執筆を手がけた『あたらしい家づくりの教科書』など。

 

MasafumiGotoh後藤正文 (ASIAN KUNG-FU GENERATION/『THE FUTURE TIMES』編集長)

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル&ギター。これまでにキューンミュージック(ソニー)から8枚のオリジナル・アルバムを発表。2010年にはレーベル「only in dreams」を発足させ、webサイトも同時に開設。また、新聞『THE FUTURE TIMES』を編集長として発行。ソロアルバムに『Can’t Be Forever Young』やプロデューサーに元Death Cab for CutieのChris Wallaを迎えバンド録音を行った2ndソロアルバム『Good New Times』を発表。また著書に『何度でもオールライトと歌え』(ミシマ社)『YOROZU〜妄想の民俗史〜』(ロッキング・オン)他 。

 

MasayoshiTakeuchi竹内昌義 (建築家/東北芸術工科大学教授)

1962年 神奈川県生まれ。1995年みかんぐみ共同設立。 現在、東北芸術工科大学教授。大学でプラスエネルギーハウスの山形エコハウスを設計。作品に山形エコハウス、House-M(2013年JIA環境建築賞最優秀賞)、House-Hなど。岩手県紫波町で57区画のエコタウンの監修。2017年エネルギーを少なくして、豊かなまちを作るために、エネルギーまちづくり社設立。著書に『未来の住宅/カーボンニュートラルハウスの教科書』『図解エコハウス』『原発と建築家』『日本のカタチ2050』『あたらしい家づくりの教科書』など。

NIPPONの47人 2017 これからの暮らしかた −Off-Grid Life− 
住まい・食べもの・エネルギー・働きかた・流通・まちづくりなどに関わる多種多様な暮らしかたを実践している方を、各都道府県から1人ずつ紹介。未来の暮らしのスタンダードを探る展覧会。

日程:〜2017年10月9日(月・祝) ※9月11日、12日 は休館
時間:11:00〜20:00(入館は19:30まで)
場所:d47 MUSEUM(東京都渋谷区 渋谷2丁目21-1 渋谷ヒカリエ8F)
入場料:無料
お問い合わせ:D&DEPARTMENT PROJECT  03-6427-2301
http://www.d-department.com/jp/47-off-grid-life

暮らしかた冒険家・伊藤菜衣子さん、建築家・竹内昌義さん、ASIANKUNG-FUGENERATION・後藤正文さんの考える、これからの“オフグリッド”な暮らし方
(更新日:2017.09.08)
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「地域で暮らす・地域とつながるってどういうこと?」各地で行われた注目の取り組みやイベント、現地で活動する人たちのリアルな声をレポートします。
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