特集 地域で暮らしを
つくる人の声を聞く時間
地域の“差”を掘り起こす、「地域資本主義」とは? 「R不動産サミット」イベントレポート/面白法人カヤック&R不動産
2003年に生まれて以降、“改装自由”、“倉庫っぽい”など、今までにない価値で東京のユニークな物件だけをセレクトし、キュレーションしてきた「東京R不動産」。今では全国10都市で展開し、各エリアならではの物件を紹介しています。今年4月には、鎌倉や逗子、葉山などの湘南エリアを手がける「稲村ヶ崎R不動産」が、鎌倉に本社を置く面白法人カヤックの子会社となり、新しく「鎌倉R不動産」へとリニューアル。さらに協力して鎌倉の魅力を発信していこうとしています。
2017年10月12日、全国のR不動産の代表が一同に介する「R不動産サミット」が鎌倉で開催されました。本来ならばR不動産の運営メンバーのみが参加するこのサミットを、今年はトークイベントとして一般公開。第1部では、面白法人カヤック代表の柳澤大輔さんと東京R不動産創業者の馬場正尊さんが、“地域資本主義”をテーマに公開討論。また第2部では、全国のR不動産代表メンバーも加わり、各地域の魅力について白熱したトークが展開されました。そんな「R不動産サミット」の模様をお伝えします!
写真:松永 勉 文:薮下佳代
いままでとは違うベクトルの
豊かさを求める
トークイベントのタイトルは「鎌倉から、地域資本主義の話をしよう」。“地域資本主義”とは聞き慣れない言葉ですが、これは、面白法人カヤック代表取締役の柳澤大輔さんが提唱する新しい概念。従来の資本主義に対抗する“新しい資本主義”をテーマに据え、これから追求していこうと考えているとのこと。東京R不動産代表の馬場正尊さんも、その言葉のおもしろさに即座に反応し、2人で公開討論する運びとなりました。第1部はまず、柳澤さんによる「地域資本主義」についてのプレゼンからスタートです。
カヤック・柳澤大輔さん:なぜ資本主義社会が限界にきているのかといえば、『GDP(国内総生産)』という指標だけでは、人の幸せや本当の豊かさは計りきれないということがわかってきたからですよね。GDPを上げることで国も豊かになるし、国民の幸せにもつながると考えてきたけれど、それは量の問題であって、質を計るものではなし、幸せかどうかを計る術は、まだないんですね。富の格差が広がってることも大きな問題です。勝ち続けている人がいるゲームって、全然おもしろくないんですよね。勝ったり負けたりするからおもしろいのであって、勝ち続ける人がいるということは、負け続けている人がいるということ。それでは平和にならない。あとは、アパレルや製造業が深刻な問題として直面していることに、資源の限界もあります。つまり、世界全体で採用してきたこの資本主義のシステムに、みんなが疑問を持ち始めているわけです。それは結局、豊かさを再定義しないとダメだということに行き着く。ならば、次の新しい資本主義のかたちを考えてみたいなと思ったのが『地域資本主義』の構想にたどり着くきっかけなんです。
東京R不動産・馬場正尊さん:『地域資本主義』って柳澤さんに切り出された時、なんて力強い言葉なんだろうって思ったんですね。『地域』ってどこでも使われる言葉だし、『資本主義』も誰もが聞いたことのある言葉なのに、それらがくっついた瞬間、初めて聞く言葉になった。たとえば、『鎌倉資本主義』って聞いたら、それは鎌倉らしさをうまく活かしながら、新しい資本主義を生み出そうとしているんだろうし、『神戸資本主義』も『鹿児島資本主義』も地域のイメージが湧いてきて、その土地ならではの資本主義がおぼろげにも想像できるような気がするんです。これは我々がやっているR不動産のシステムにとても似ているなと。
いま全国10都市で拠点があるんですが、それぞれの地域で方法論も稼ぐ方法もバラバラなんですよ。地域の規模とか人材によって収益構造がまったく違う。なにかひとつのパターンを当てはめて展開しているわけではないんです。
最初はそうなるといいなと思っていたんですけど、土地に紐付いた事業だからどうしても地域ごとに変えざるをえなかった。だから『鎌倉資本主義』とすることで、漠然とした『地域資本主義』よりも、もっといろんなことを具体的に考えられると思うんですよね。地域が持つ資産をどう組み合わせて資本としていくのか。その枠組みを柳澤さんはつくろうとしているのかなと。
カヤック・柳澤大輔さん:量ではなく質が大事だけれど、ではどういう質がいいのかというのは、地域ごとに違うと思っています。古いお寺がたくさんある地域であれば文化遺産に対して投資していくとか、風景が美しいならばそれを守るために投資することもあるでしょう。その対象は地域ごとに違うはずなんです。それがひとつの『○○R不動産』みたいに、『○○資本主義』として特徴を出して、それをまずは鎌倉で新しい資本主義をつくっていこうとしています。
東京R不動産・馬場正尊さん:これは地方でよく見る風景なんですが、どこなのかまったくわからない。日本の地方都市はどこもこういう風になりつつあって、地方都市が均質化してしまっているんです。それは建築も同じで、新しさや便利さ、機能性を求めた結果、均質な町ができてしまった。それがいままでの資本主義が生んだ幸せのかたちだったかもしれないけど、どうも違うんじゃないかということが、若い人ほど本能的に感じているようなんですね。でもいまのところ、幸せや豊かさを計るには経済指標しかないのは、柳澤さんの言う通りなんですよ。
カヤック・柳澤大輔さん:企業は、豊かさを増やして、人を幸せにしたり、社会に貢献するために活動しているもの。そこからずれてしまうと意味がない。だからこそ、豊かさとか幸せを再定義していきたいんです。地域資源は地域によって違うので、鎌倉ならではの資本をどう指定して、どうすれば地域資本が増えて質が高まっていくのか、それを考えていきたいですね。
東京R不動産・馬場正尊さん:『社会関係資本』っていう考え方があるんですが、つまり、人とのつながりですね。それはすごい資産なんですよ。たとえば僕と柳澤さんの関係性を『社会関係資本』として定量化できたら、それは貨幣に匹敵する価値になるかもしれませんよね。
ほかにも『風景資本』という考え方があって、日本は風景資本をひたすら消費、もしくは破壊してきたんですね。鎌倉にはまだ美しい風景が残っています。その美しい風景を資本に、どれだけの対価を稼いでいるかということは計れるかもしれない。すてきな人たちが住んでいることも、鎌倉の資産だろうし、そうやって一つひとつ『鎌倉資本主義』の資本が何なのかということを探り当てていけば、なんらかの定量化はできるかもしれない。
カヤック・柳澤大輔さん:今後、何十年かかけて見つけていくことができればいいなと思っています。馬場さんにも『地域資本主義』という言葉を気に入ってもらえたみたいで、どうやら取り組んでもいいテーマなのかなと思えました。今日は自信が持てたし、勇気をもらいました。どうもありがとうございました。
物件の特徴を表す
アイコンから見えるもの。
続いて第2部では、全国のR不動産のメンバーが大集合し、トークセッションへ。第1部の話を受けて、各地域における「地域資本とは何か」をみんなで考えていきます。資本とは、経済的なものだけではなく、そこに暮らす人たちの豊かさや資産になるものであり、地域ごとに違うもの。そのひとつのヒントが、R不動産のサイトで物件の特徴を表す“アイコン”にありました。
京都R不動産・水口貴之さん:サイトの左にあるアイコンは各R不動産で全部違っていて、地域ごとの特徴を語るのにとてもわかりやすい視点になっています。だからこそ、このアイコンを決めるのにものすごく時間をかけましたし、京都という地域全体を見直すことにもなりました。『五山/眺望』というアイコンは、山が見えるということは眺望がいいということでもありますが、京都に暮らす人にとって、五山の送り火の『大』の文字が見えることはそれとは違う価値を持つんですよ。
金沢R不動産・小津誠一さん:『まちなか』というのは金沢らしい城下町エリアにある物件のこと。つまり市街中心部に位置しているということですね。『百万石の景色』はそういう景観が楽しめる物件という、実はあいまいで編集する人間の主観的な基準になっています。『用水』は街中に用水がたくさん流れているので、それは海や川と同じ水辺だろうと。
鹿児島R不動産・冨ヶ原陽介さん:家から桜島が見えるというのは平坦な鹿児島の市街地におけるひとつのステイタスなんです。ほかの物件よりも付加価値があるので、『桜島』をつくりました。『市電』というのはアクセスがいい物件のこと。JRは効率が良くないので、市電沿線のほうが人気なんです。『島/宇宙』というのは種子島があるのでロケットが見えるのと、奄美大島や屋久島など鹿児島には島が多いので。
鎌倉R不動産・小松啓さん:アイコンの説明コラムがあるので、そちらもぜひ見ていただきたいのですが、鎌倉は相模湾に面して国道134号線が走っているんですね。一番海に近い物件となると、134号線沿いになる。そこから一列目にある建物が『一列目』です。海が見えるかどうか、一列目か二列目かどうかで値段が全然違ってきます。あとおもしろいのは『影』ですね。住所に『影』がつく地域が結構あるんですが、そこは山と山の間の谷なんですね。そこには人が長く住んでいた形跡があって、深い文化が残っている。日陰なので陽当たりが良いとはいえませんが、それを条件に外されちゃうのはもったいないなと。
働き方が変われば、住む場所も変わる。
働き方が変われば、暮らし方、生き方そのものも変わっていきます。そのバリエーションがもっと増えれば、それも地域の課題解決になるのではないかという会場からの質問をふまえて、大阪R不動産の中谷ノボルさんからは働き方についての話がありました。
大阪R不動産・中谷ノボルさん:大阪が本社なんですが、沖縄にも支店がありまして、一年のうち10カ月は沖縄に住んでいます。最近は沖縄でさえ冬が寒くなってしまって、2月は東南アジアに1カ月行っています。大阪とはオンラインでやりとりしているので、スタッフからすれば、僕が沖縄でも東南アジアにいても同じことなんですね。今年からは全社員、出社義務をなくして、どこで仕事してもいいということにしました。そうすると引っ越しする人たちが出てきて、通勤圏がだんだん変わってきたんです。兵庫県にある淡路島に引っ越した人は、フェリーも夜の23時くらいまであるし、現場にいくのは月に2〜3回だから意外とやっていけるみたいで。いままさに実践中ですね。都市から出ることで、都市周辺部の値打ちが今までとは変わりつつあるのかなと。
東京R不動産・林 厚見さん:ほかの地域の仲間たちのやっていることを見ていると、東京R不動産というのは“箱”を担当しているんだなということ。僕たちは家がかっこいいか、おもしろいか、気持ちいいか、いじれるかという視点で選んでいて、彼らは住み方や暮らし方、ひいては生き方を提案しているんですね。
R不動産としては、どういう生き方や働き方があるのか、それを発信しつつ、きちんとサービスも生み出していくようなプラットフォームである、というのがこれからのあるべき姿なんだろうなと思っています。それが地域の“差”を生み出していくんじゃないかなと。
今日話に出たこれらのアイコンが、まさに地域資本の要素だったわけです。たとえば『鹿児島がなんだか気持ち良さそうだぞ』とか、『福岡良さげだな』っていう感覚ってやっぱり定量化できないわけですよ。R不動産としては、その感覚をアイコンで見せているんだけど、定量化する必要はいまのところないと思っていて。ただ、その地域の良さがうまく伝わるかどうか、そのためのアイコンであり、メッセージがあるんじゃないかとは考えています。
つくる人の声を聞く時間
特集
つくる人の声を聞く時間