特集 地域で暮らしを
つくる人の声を聞く時間
地域暮らしのススメ これから移住を考える人にむけた「移住・交流&地域おこしフェア」に行ってきました!

今年はじめの週末2日間、移住希望者に向けた「移住・交流&地域おこしフェア」が東京ビッグサイトにて開催されました。各都道府県の魅力を味わえるように、地域の特産商品を販売する飲食スペースがあったり、地域で暮らすことについて先輩移住者が対談したり、漆描きなどの体験ができるスペースがあったり……と、盛りだくさんの内容。昨年に比べ、地域からの出店ブースも増え、2日間で1万人を超える来場者を集めたそう。それは、きっと地域へ移り住むことへ興味を持つ人が増えているということ。
若い人たちの活気のある声と笑顔が溢れていた「地域の魅力発信エリア」には、たくさんの人だかり。ブースの中心にいた人に話を聞くと「地域おこし協力隊」の方々でした。「地域おこし協力隊」とは、都市部に住んでいる若等者が地方へ移住し、最長3年間の任期の中で、地域の手助けとなる仕事をしながら暮らす制度です。
静岡県島田市
地域の“あたりまえ”を再発見する
静岡県島田市の地域おこし協力隊員の道川綿未さんは、島田市で行われる「国際陶芸フェスティバル」の運営を手伝っています。道川さんのお父さんは陶芸家ということもあり、「国際陶芸フェスティバル」はもともと身近な存在だったため、出身地の愛知県から隣の静岡県で、地域おこし協力隊として活動するようになったそうです。地域のアートイベントを盛り上げる一方で、道川さんは島田市そのものの魅力をあらためて東京に向けて発信しようと動いていました。
「地域の人は、この葉っぱを嗅ぐと『おばあちゃんち』を思い出すらしいんです。でもすっごくいい香りですよね? 調べてみたら、なかなか採れなくて貴重な『クロモジ』っていう葉っぱだということを知りました。しかも、昔は煎じて薬にしていたらしくて、これは大切にしなきゃいけないなと思って」
その地域で生まれ育つと当たり前のものが、東京では当たり前じゃない。そういった再発見が商品開発へつながり、これからの島田市の支えになるかもしれないモノを生み出していました。

島田市にある川根温泉のミネラルでつくる天然の塩
道川さんの地域おこし協力隊の任期は今年度をもって終了。その後の予定について尋ねてみました。
「東京へなにかを勉強しに行こうとすると、周りから一度東京へ行ったらもう戻ってこないんでしょ、って思われるのが嫌で……。島田市に残りたいけど、ここでどんな仕事ができるか悩んでいる途中です。ありがちだけど、地域の人たちに『ここで旦那さん見つけて結婚しちゃいなさいよ!』って言われたりもして。でも自分では、そうじゃないんだよなあって思うんですよね」
山口県柳井市
地元の中に入りこみ、サポートすること
また、山口県柳井市の平郡島で昨年の4月から地域おこし協力隊員になった吉本歩美さんは、地元の人と協力したまちづくりを行おうと奮闘中。もともと山口県出身の吉本さんは、東京で仕事をしている時この「移住フェア」に参加し、山口県の地域おこし協力隊の存在を知ったそうです。タイミングよく、地元に戻る方法を探していた時でした。
「平郡島で『地域の夢プラン』を行っていることを知りました。外から来た人が何かをつくりだすよりも、地元の人が動いている中に入ってサポートする。地元の人と一緒に何かをする、というところに魅力を感じました。でも実際には、どうやって地元の人を巻き込んでいけばいいのか試行錯誤しているところなんです」
そんななかでも、島のサツマイモの美味しさに惚れ込んだ地元企業が素材の味を活かした商品作りに協力し、さつまいものスナックを生産。吉本さんと島民の方々でいっしょに育てているさつまいもが商品になるという、嬉しいできごともありました。ほかにも、新しい取り組みをはじめています。
「最近、お試し住宅の管理をはじめたんです。空き家を住めるようにして、申込用紙をつくったり、チラシをつくったりしています。滞在する家は、台所から海が見えるところが魅力なんです。応募を開始したら、さっそく2組から申し込みがありました」
若い人たちに利用してもらいたくてはじめた、お試し住宅への取り組み。しかし、思うようにはいかずまだまだ手探り状態だそう。
「2組申し込みは、年配のご夫婦ですね。仕事をやめて、お金と時間に余裕のある方が利用されているのかな。若い人とか、仕事をしている人に利用してもらうためにもっと工夫をしていきたいと思います」
吉本さんは地域おこし協力隊になって1年目。どうすれば平郡島を盛り上げていけるのか、これからもいろんなことにチャレンジしていくそうです。
愛媛県西予市
冬でも人が訪れる海にするために
さらに、愛媛県西予市で地域おこし協力隊の“隊長”を務める松本仁紀さんは、西予市の盛り上げに成功し「地域おこし協力隊 日本を元気にする60人の挑戦」(著・地域活性化センター、他/学芸出版社)に掲載されました。
「西予市の明浜は、夏はマリンスポーツが盛んで地元の海水浴場として超人気スポット。でも冬になると、さびれてしまうので近くの宿場も困っていたんですよね。そこで冬に何ができるか考えて、イルミネーションをはじめました」
松本さんは簡単なことのように話してくれましたが、地元の青年団を取りまとめ、地元の企業のスポンサーをつけて、たった2ヶ月半で明浜に訪れる人が1,000人も増えたそう! 人望があつく地域の人を巻き込むリーダーシップ力が感じられました。
「もともと東京に住んでいたのですが、奥さんの実家が愛媛のみかん農家なんです。だから“孫ターン”として愛媛に来たんです」
孫ターンは、「Iターン」「Uターン」にちなんでつくられた言葉で、自分のふるさとではなく両親のふるさと、つまり祖父母の暮らす地域に移住すること。テレビでのニュースに孫ターンが取り上げられるようにもなり、最近増えてきています。
いま、若い人たちが考える新しい暮らし方
隣のホールで開催されていた「就活フェア」の帰り道、何人かの女子大生が、こちらの会場へ寄っていく姿をみていると、今、2,30代の中で「移住」や「地域で暮らすこと」が注目されていることがわかります。
しかし、地域で暮らし働くリアルな声を聞くと、その土地に暮らし続けるためには「どんな働き方をしていくのか」「何をして働くのか」を、探しながら動いている印象が強く残りました。地域おこし協力隊のOGの中には任期終了後、市役所に就職することで、そのまま地域に根ざしているという例も。地域おこし協力隊の任期が終了するまでの間に、その地域で暮らしていく道への支援がさらに強化されていくことで、これまでにない地域での働き方や、より心地よく暮らすことにつながっていくのでは、と感じました。
◇移住・交流&地域おこしフェア 地域の魅力発信編
http://chihou-iju.jp/
◇JOIN 移住・交流&地域おこしフェア
https://www.iju-join.jp/feature/file/021/
■静岡県
国際陶芸フェスティバルinささま
http://icaf.jp/
島田市
https://www.city.shimada.shizuoka.jp/
■山口県
平郡島 夢プラン
https://www.facebook.com/heigunstory/?fref=nf
柳井市
https://www.city-yanai.jp/
■愛媛県
西予市
http://www.city.seiyo.ehime.jp/
つくる人の声を聞く時間
特集
つくる人の声を聞く時間

最新の記事
-
ニュース【ウェブマガジン「雛形」更新停止のお知らせ(2022年4月30日)】ウェブマガジン「雛形」は、2022年4月30日をもって、記事の更新を停止いたしました。 (「ウェ […]
-
特集迷いながら、編む。 ーメディアの現在地どんな人にも、暮らしはある。すぐには役に立たないようなことも、いつかの誰かの暮らしを変えるかもしれない。/雑誌『暮しの手帖』編集長・北川史織さん北川史織さん(雑誌『暮しの手帖』編集長)
-
特集迷いながら、編む。 ーメディアの現在地立場をわきまえながら、どう出しゃばるか。「困っている人文編集者の会」3名が語る、本が生まれる喜び。柴山浩紀さん(筑摩書房)、麻田江里子さん(KADOKAWA)、竹田純さん(晶文社)
特集
ある視点
-
それぞれのダイニングテーブル事情から浮かび上がってくる、今日の家族のかたち。
-
一番知っているようで、一番知らない親のこと。 昔の写真をたよりにはじまる、親子の記録。
-
「縁側」店主河野理子どんなものにもある、“ふち”。真ん中じゃない場所にあるものを見つめます。
-
「読まれるつもりのない」言葉を眺めるために、“誰かのノート”採集、はじめます。
-
不確かな今を、私の日々を生きていくために。まちの書店さんが選ぶ、手触りのあるもの。
-
美術作家関川航平ほんのわずかな目の動きだって「移動」なのかもしれない。風景と文章を追うことばの世界へ。
-
徳島県・神山町に移り住んだ女性たちの目に映る、日々の仕事や暮らしの話。