REPORT

堀部篤史(元恵文社一乗寺店店長)×辺口芳典(詩人)
トーク・イベント
「日記の魅力~日記文学と日記のことば~」

兵庫県
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日記は、自分という「ローカル」と
向き合うきっかけ

大阪発のカルチャーマガジン『IN/SECTS(インセクツ)』Vol.6の日記特集「OUR DIARIES-わたしたちの日常生活と冒険-」に端を発し、デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)と連動した企画展「OUR DIARIES KOBE-100人が日記で綴る、神戸の日常生活と冒険-」が、8月22日〜9月6日まで開催された。

神戸にゆかりのある100名が、ある1日を綴った日記を、時系列にそって会場に展示。淡々とその日の状況を綴ったもの、クスッと笑ってしまうもの、家族に向けられたメッセージ、間違えて昨日のことを書いてしまったもの……ただ日常を「言葉」にしているだけなのに、その人の生きざまが見えてくるような深みと、神戸という土地柄をより身近に感じられる。会場を訪れた人たちも、そんな日記をひとつひとつ、じっくりと読み込む姿が多く見られた。

展示のクロージングイベントとして開催された、「日記の魅力~日記文学と日記のことば~」では、ゲストスピーカーに、関西を代表する京都の本屋、恵文社一乗寺店の元店長・堀部篤史さんと詩人の辺口芳典さんを迎え、『IN/SECTS』編集部の中村悠介さんを聞き手にトークセッションが繰り広げられた。堀部さんは、『IN/SECTS』Vol.6でも寄稿した「日記文学」について、辺口さんは独特の視点で日記展から切りとった「言葉」を中心にトークを展開。「日記」というテーマを2つの切り口から捉えることで見えてきたものとは?

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100人分の日記が展示された、「OUR DIARIES KOBE-100人が日記で綴る、神戸の日常生活と冒険-」の会場。

 

SNSで発信される情報は
日記と呼べるのか

中村悠介(以下、中村) 今日のトークセッションの前半は、堀部篤史さんに日記文学のお話を中心にお聞きしたいと思います。『IN/SECTS』Vol.6では「日記を読む、という悪趣味な愉しみ」と題してコラムを書いていただきました。そのコラムにもあったように、まず日記は公開されることを前提としないものと、公開を前提として書かれた2種類に分類される、と。

堀部篤史(以下、堀部) そうですね。そこからさらに分類できるのですが、簡単に言うと、人に見られているかどうかという自意識があるかどうかと、淡々と記録されたものかどうかがポイント。私も日記と呼べるほどではありませんが、モレスキンのノートに記録をし続けています。

中村 記録をつけ始めた目的はあるんですか?

堀部 僕自身生活が荒れている時期があって……。村上春樹の小説には「混沌を整える」とでも呼べそうな、料理や日常生活の細々した描写が多いのですが、そういう感覚に近いものがあり、淡々と記録をし続けています。

中村 日記は、1日という単位で区切っているところがポイントですよね。それにくらべてインスタグラムなどのSNS上でその瞬間を切り取って発信される情報は、日記と呼べるのでしょうか。

堀部 SNSで発信されるものは、「公開されることを前提としない日記」ではないと思います。人の目を意識して発信されたものなので、日記というよりも婉曲した会話だと僕は捉えています。それにくらべて、個人的なものとしての日記には人の目を気にしないからこそにじみ出るおもしろさがある。たとえば、戦中戦後の暮らしを記録した古川ロッパの『昭和日記』は、淡々とした著述で、歴史に刻まれない細部を描写しているからこそ資料価値がある。

中村 たしかに。今回の日記展も、淡々と日常のことが綴られているけれど、1日ごと、その数が増えてくると、日記ならではのグルーヴ感が出てくるなと思ったんですよね。

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左から辺口さん、堀部さん、進行を担当した『IN/SECTS』編集部の中村さん。

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人の目に触れた瞬間に
「作品」になる日記

堀部 たとえば、都会の中心で餓死した母子の衝撃的な手記『池袋母子餓死日記』は、痩せ細りゆく日常を淡々と記録したものです。瑣末な記録にもかかわらず、神に語りかけるようなトーン故、このような雑記のワンフレーズからも意図せざる詩情を感じとれるんですよね。それから、内田百閒の『御馳走帖』のように食生活について書かれた日記文学も多いですね。

中村 今回日記を書いていただく方々に対しては、特別な内容でなくて良いので、もし出掛けたら行ったところの地名、外食したのならレストランの名前をいれてほしいとリクエストをしました。仕事や家庭のことばかりなのかなと思っていたら、想像以上に食べ物中心の日記が多くて。文学でも変わらないのですね。

堀部 淡々と記しているようで、露悪的な表現が目立つものがあります。たとえば、横尾忠則の初期著作の多くは日記形式なのですが、『PUSH』という作品では、自慰行為のことが赤裸々に記録されていたりして……自意識が前面に出ているような作品があるんです。

中村 そこまでいくと、サービス精神を感じますよね。展示では、中学生の日記もあるんですけど、すごく味のある文章だった。どんな人が書いているかで、読み方も変わってくるところが日記のおもしろいところですよね。

堀部 日記は、人の目に触れた時点でひとつの「作品」になるんでしょうね。

トークの様子_

「ローカル」を突き詰めると
「個」に近づいていく

中村 後半は、大阪の詩人である辺口芳典さん独自の視点で日記の「言葉」を中心にトークを進めていきます。ちなみに辺口さんご自身は、日記を書かれていますか?

辺口芳典(以下、辺口) 日記は書かないけれど、常にメモはします。僕の場合、写真家でもあるので、見たものの中からヒントになるようなものは、その状況や言葉を切りとるような感覚でメモを取っています。

中村 いわば、創作ノートのようなものですね。展示を見ていただいて、いかがでしたか? あふれ出る詩情みたいなものがありましたか?

辺口 ありましたね。まず、ものすごく「神戸」を感じました。もうひとつ思ったのは、「みんな、内側にフィルターをかけているなぁ」ということ。「もっと本音を言ってええで!」と、個人的には思いましたね。

中村 (笑)そのさじ加減は書き手にゆだねられますよね。同じ日に2人の方にそれぞれ日記を書いていただいていますが、視点がまったくちがう。

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辺口 ところで『IN/SECTS』は「ローカル」というキーワードを掲げていますよね。

中村 はい。大阪の谷町六丁目に事務所があるので、「谷町六丁目発のローカルカルチャーマガジン」とうたっています。地域だけでなく、編集部員からつながる関係性を大事にして、発信していきたいなと。

辺口 僕は、「ローカル」というキーワードと「日記」は、密接に関係していていると考えていて。「日記は極端なローカルを考えたとき行く着く場所」なんじゃないかと思うんです。

中村 そう思うきっかけはあったんですか?

辺口 詩人として自信がついてきた2000年前後に、グローバルという言葉が出始めて、言語はものすごくローカルなものだなって意識したんですよね。というのも、あの頃、ITバブルが崩壊してアナログで発表できる場がどんどん減り、文芸誌などの書籍も少なくなってきて。世界に発信するならば、言葉を必要としない写真や画などの表現に力いれていたほうがよかったのではないかと、後悔したことすらあったんです。

中村 詩という分野では、外の世界とつながれなくなってしまったということですか?

辺口 そうなんですよ。でも、やっぱり詩がおもしろくて、ここまで続けてきた結果、最近ではドイツからお仕事をいただいたり、アメリカの出版社からバイリンガルの詩集が発売されたりして。だから、グローバルに活動するために必要なことって、ローカルを突き詰めることなのではないかと思うようになって。神戸という土地がローカルかどうかという次元ではなくて、もっともっと突き詰めると「個」に近づいていくのではないかと。今回の展示も、その一歩手前だなぁと感じたんです。

中村 ローカルを極める方法として、日記がひとつの手段になり得るということでしょうか?

辺口 そうです。日記には書いた人の個性が出るし、知らない人なのに、書き手の人となりがみえます。自分という「ローカル」と向き合うためにも、日記を書き続けるのはいいですよね。

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日記に綴られた言葉が写す
人間の本質

中村 辺口さんは、日記展の会場で、たくさんメモを取られていましが、何を書いていたんですか?

辺口 自分が心を打たれたことです。この人たちが、どんな1日を送り、どんな世界を見ていたのか。これらのフレーズをもっと研ぎ澄ましていくと、詩になるのではないかと思いながらメモを取っていました。

中村 なるほど。どんな言葉を拾い上げたのか、気になりますね。メモを取った言葉をご紹介いただけますか。

辺口 普段から文章を書き慣れていると、丁寧になりすぎたり、こだわりが強くなるけれど、そうでない人が放つ言葉が意外に印象的でおもしろいなと。たとえば、
“6月21日/今日はダンスの発表会。ヒップホップをずっとしているけれど。”
このフレーズだけでも詩として完成しそうな可能性を秘めていて。
“6月29日/6時起床。” なんて、僕、6時とかに起きないんで、「僕が寝ているときに、こんなことしているのか!」と、僕とは違う世界に生きてるんやな、って思うんですよ。

中村 想像力がすごいですね(笑)。言葉のフォーカスが、読み手の辺口さんを中心になされているところがおもしろい。

辺口 続きを読みますね。“朝6時起床。7時半にポートアイランドの某パイナップル工場に到着。”「某」という表現が、想像力をかきたててくれていいですよね。

中村 先ほどの堀部さんのお話で言うと、これこそ「自意識の表れ」なんでしょうか。

堀部 そうですね。きちんと、言葉の取捨選択がなされていますよね。

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辺口 “7月1日/加古川で当時好きだった女の子にふられてバスの中で途方にくれたことなど。”これは、人生あるあるですよね。

中村 たしかに、そういう途方に暮れるような経験はよくありますが、たまたまその日に、そういう出来事があったから日記として綴られたところがポイントですよね。

辺口 日付が特定されていて、さらに「加古川」という場所が限定されているからこそ、「その人がそこにいた」という事実がすごくリアルに伝わってくるのでしょう。

堀部 たしかに、全国レベルで発信されているJ-POPの歌詞に「加古川」というワードは出てこないですよね。

辺口 ローカルな場所である「加古川」を舞台にしたJ-POPがあったら、画期的に感じたりすると思うんですよね。土地や季節を限定するからこそ出る、おもしろさがあります。

中村 言葉をなりわいにしている辺口さんが、そういった日常的な言葉を選ぶのは意外でした。

辺口 普段自分では選ばない言葉に触れるほうが、視野が拡がることがあって。だから、びびっときたのかもしれません。

中村 たったひとつのフレーズを切り口に、辺口さんご自身のご経験と想像力だけでここまで話がふくらむとは思いませんでした(笑)。

辺口 ただ言葉を選択するだけなく、それぞれの日記をカットアップしていくと、文脈がつながってしまうこともあるんですよ。たとえば……“7月1日/加古川で当時好きだった女の子にふられてバスの中で途方にくれたことなど。” “でもなぜか、昨日フランス語をネットで見て2、3個覚えてなんて話で盛り上がったんだよね。” こう続けると、「なんや、その話!その精神状態すごいな!」って。人って落ち込んでいても、ふっと気を抜いた瞬間に「おはぎ食いたい……」とか思うものですよね。そういう、人間の本質的な部分がこの2行に表れているなぁ、と。ここに創作を加えると、詩の一歩手前の世界を感じていただけると思います。

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中村 では最後に、単に日記を読み上げるだけでなくて、辺口さんの創作を織り交ぜた詩の朗読で締めていただきましょう。本日はありがとうございました!

辺口 7月6日/ハーバーランドのH&Mで海パン購入。7月12日/キーワードはがっくし感。7月12日/午後から水鉄砲づくり。竹を切り、そうめんを流し、水鉄砲では大人も子どももびしょ濡れに。7月14日/少しセンチメンタルになった。7月15日。台風から身を守るために移動。7月15日/18時までベビーベッドをつくりました。7月15日/チキンヌードルをつくって食べました。7月16日/家に帰る途中のある小道に羊のようなかたちをした不思議なお地蔵さんがある。7月19日/日陰を探しながら、なんともさびれた大好きな商店街を下り、三ノ宮駅にむかう。今日は実家に帰るのだ。7月21日/4時45分起床。ドーナツと牛乳だけの軽い早朝食。自宅を出て、夏らしい青空をながめながら。7月22日/お母さんありがとう。私もぼちぼち出産する。7月25日/帰りにワインを求め。白ワインは22度の地下室へ。7月26日/やっぱり温泉から焼肉はまちがってたよね。7月27日/ピーマンが7つ届く。7月31日/山から風が吹いてくるので朝は心地よい。8月1日/人生はあっという間。子ども心を忘れず。8月2日/満月の下、盆踊りの音が聞こえる。8月4日/いやだなぁ、日常って。今一番欲しいもの。暑さに負けないこころとからだ。8月6日/ボディチェックをうけからっぽの財布をすみずみまで確認されていた。8月7日/木馬でバナナジュース。8月7日/アビョーンでカルピス。8月8日/こちらはくそ暑いまま、アイスパックを首にまいて作業。もう脳みそは煮えくり返っています。帰りのラジオで阪神も横浜に勝ったことやし、まぁええか。ケーキ、ケーキ、ケーキ。ほうれい線にファンデーションがたまる。ケーキ、ケーキ、ケーキ。ピザが公園の未来を変えるかもしれない。ケーキ、ケーキ、ケーキ。猛暑、最幸。ケーキ、ケーキ、ケーキ。兵庫県立大学緑環境研究科教授会。ケーキ、ケーキ、ケーキ。自転車を漕ぎながら泡を吐く。ケーキ、ケーキ、ケーキ。参加賞が玉ねぎだったので。ケーキ、ケーキ、ケーキ。参加賞が玉ねぎだったので。ケーキ、ケーキ、ケーキ。参加賞が玉ねぎだったので。ケーキ、ケーキ、ケーキ。意図しない日記。意図した日記。ケーキ、ケーキ、ケーキ。9月5日4時40分神戸KIITOにて。ディアーキティ。ケーキ、ケーキ、ケーキ。執念。ケーキ、ケーキ、ケーキ。現代詩。コンセプチュアルアートとみると他人から価値が出る。ケーキ、ケーキ…………

 

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写真:飯川雄大 文:山森  彩

profile
辺口芳典/へんぐち・よしのり
詩人、写真家。Wasteland誌にて作家デビュー。2006年 写真新世紀優秀賞を受賞。2015年 美術家の水内義人と共に最もシャープなアーティスト イン レジデンス プラン「Double Good Artist in Residence」を企画し、10月16日〜30日の2週間、シアトルを拠点とし、アメリカの西海岸の都市で「Double Good Artist in Residence」の実践、パフォーマンスが予定されている。 http://kuromegarou.jp/

堀部篤史/ほりべ・あつし
1977年生まれ、京都府出身。立命館大学文学部在学中から恵文社一乗寺店でアルバイトを始め、2000年より店長を務める。2015年恵文社を退社、同年11月オープンに向け自身の店舗誠光社を準備中。また、『本を開いてあの頃へ』、『本屋の窓からのぞいた京都』、『街を変える小さな店』などの著書のほか、雑誌への寄稿など執筆活動も行っている。http://www.seikosha-books.com

IN/SECTS/インセクツ
大阪・谷町六丁目を拠点に、2009年よりローカル・カルチャー・マガジン『IN/SECTS』を制作・発行する。2013年には国立国際美術館でのコンサート「Music Today on Fluxus 蓮沼執太 vs 塩見允枝子」、2014年にはアートエリアB1での「アパートメントワンワンワン」展企画(grafと共同)等、雑誌を主軸にその延長として展覧会なども手掛けている。http://www.insec2.com/





「OUR DIARIES KOBE -100人が日記で綴る、神戸の日常生活と冒険-」

日時:2015年8月22日(土)〜9月6日(日)
場所:デザイン・クリエイティブセンター神戸(KIITO)2F ライブラリ
主催:デザイン・クリエイティブセンター神戸、LLCインセクツ
会場構成:NO ARCHITECTS

(更新日:2015.09.29)
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